闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話   作:はやぶさ雷電

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前回のあらすじ

光夢の暴走を朝潮が止めてくれていた。


第25話 下手な嘘

今日も退屈な警備任務を終える。憲兵にとって退屈であることはとても良いことではあるのだが、それでも退屈は辛い。それに一人では24時間活動できないし、退屈をしのぐことも難しい。早めにもう一人呼ばなければ。

 

とは言え、そもそもこんなところに来る人はいないし、現状深海棲艦への対抗手段がないので、憲兵と言うものもただの形だけなのだが。

 

その後もやることがないため、気が付けば寝る準備まで案外早く終わってしまった。今日は早めに寝てしまおう。そう思って布団に入り、だんだん意識が遠くなっていた時だった。

 

突然耳が痛み、耳鳴りがして目が覚めてしまう。この感じはただの耳鳴りではない。

 

「爆発でもあったのか?」

 

特にそれらしい音は聞こえていなかったのだが。割れたままの窓から外を見る。暗くて何も見えない。しばらくすると、確か長門と呼ばれていた艦娘が、灯りを持って出て行った。本当なら俺も行くべきなのだろうが、あれだけ艦娘が集まっている。今の彼女達の中に混ざるのはお互い良くないだろう。

 

気にはなるが、深海棲艦の仕業でもなさそうだし、耳鳴りも痛みもひいたので、再び眠ることにする。眠りにつくと、少し懐かしく、思い出したくない夢を見た。

 

 

 

 

 

「ただいま、良い子にしてたか?守、堅人(けんと)。」

 

「おかえりとーちゃん!」

 

これは俺が父ちゃん、心良(たける)が好きだった(・・・)時の記憶だ。ちなみに堅人とは、俺の弟だ。

 

母ちゃんは俺が生まれて翌年、堅人が生まれてすぐに亡くなった。だからほぼ母ちゃんの記憶がない。

 

そして俺達兄弟よりもずっと悲しんでいたであろう父ちゃんは、俺達には決して涙を見せることは無く、憲兵の仕事をこなしながら育ててくれた。いつか深海棲艦と戦えるようになってやると言いながら、どんどん強くなっていき、気が付けば憲兵の中で最強と言われ、少なくとも憲兵の中では知らない人はいない程になっていた。

 

これだけ強くなっても、強さを誇示することはなく、誰にでも優しかった。仲間にも、町の人にも、艦娘にも。結局その力は誰にも向けることはなかった。深海棲艦にも。今思えば、深海棲艦からしたら何も変わっていなかったのかもしれないけど。

 

母ちゃんの死を大してなんとも思っていないのかとも考えたが、毎年母ちゃんの誕生日になると、少しの間母ちゃんの部屋に籠り、目を赤くして出てきていたのを覚えている。

 

そんな人を嫌いになるはずがない。だから俺も堅人も好きだった。尊敬し、憧れていた。よく銃の扱い方や、体術等色々なことを教えて貰っていた。いつか父ちゃんと同等以上の憲兵になり、共に日本を守っていこうと考えていた。

 

だがそんな人がある日。

 

「俺は、仲間を殺してしまった。」

 

場面は突然変わり、父ちゃんを嫌いになった時の記憶だ。

 

とある地域で深海棲艦の襲撃が起こったと、報道され始めた頃だった。この時の父ちゃんは涙を初めて見せ、震える声で僕らに話していた。当時はショックで話がよくわからず、それ以降父ちゃんといることが気まずいからと避けていた。気が付けば父ちゃんは家から出て行ったまま、帰って来なくなってしまっていた。

 

「父ちゃんはもう帰ってこないの?」

 

堅人が聞いてくる。俺は記憶の通りに堅人をそっと抱き締め、励ます。

 

「帰ってくるよ。きっと、帰ってくる。」

 

父ちゃんのことを信じているなら、嘘であると疑うべきなのだろう。だが俺は父ちゃんを信じているからこそ、嘘は言っていないんだと思った。

 

いずれ帰ってくる。そう信じて待ったが、結局帰ってくることはなかった。俺は信じていたのに、帰ってこなかった。子供の考えだ。だが嫌いになるにはその程度で十分だった。

 

 

 

 

 

そっと目を覚ます。どうやら朝になったようだ。

 

「そうだ、堅人でも呼ぶか。」

 

実は堅人も憲兵になっていた。すっかり忘れてしまっていた。後で連絡しておこう。

 

夢の内容を振り返る。父ちゃんの言っていたことを思い出す。一言一句覚えているわけではないけど、何を言いたかったのかは覚えている。

 

父ちゃんは指示を受けて行動していた。誰から何の指示だったのかは言っていなかったが、かなり重要な事だったみたいだ。そして計画がばれそうになった。だからばれる前に計画を実行することにした。その結果、とある地域が深海棲艦の襲撃にあい、被害が出てしまった。

 

犠牲者が出なければ良かったのだが。父ちゃんはそれが耐えられずに俺達に話をしたようだった。しかもその被害者が父ちゃんの親友だったらしく、家族で過ごしていた家に砲撃が直撃。親友とその妻は死に、子供は助からない程の重傷だったらしい。

 

すまない、信濃。

 

父ちゃんが何度も呟いていた。憲兵になってから、それが誰なのか気になって調べたものの、それらしき人物も、艦娘も存在しなかった。信濃とは結局何の事だったのだろうか。

 

そんなことをぼんやり考えながら弓道場につく。最近のルーティンだ。ここには射撃場は無いが、この弓道場でなら撃っても良いと許可は得ている。

 

少し銃を点検してから、安全装置を外して構えて引き金を引く。勿論、弓道用の的を撃つわけにはいかない。きちんと別に用意しているものを撃っている。

 

結局これは何に備えているのか。今日も分からないまま訓練する。さんざん父ちゃんに教わったものだ。狙った位置に誤差なく当てる。これを朝、数発撃てば十分だ。あまり時間をかけると艦娘が来るし。これでも射撃の腕は、憲兵の中でもトップだった。今は腕を磨くより、感覚が鈍らないように維持している。

 

射撃の精度が高ければ、自分の身を守ることも、誰かを守ることもできるし、誤射の心配も減る。射撃の精度は高いことに越したことはない。だが今の自分はこれ以上、良くなることは無いと思う。

 

引き金を引くと空砲だった。どうやら色々考えていたら、今日の訓練は終わっていたようだ。誰かが来る前に、薬莢を片付ける。そして今日も的に穴を増やすこと無く(・・・・・・・)、弓道場を出る。

 

 

 

 

 

結局いつも通りの退屈な警備につく。堅人には既に連絡をしたが、返事には時間がかかるだろう。そう思っていたが、一隻の船が近付いてくる。流石にそんな早いわけが無い。その船を見ていると、強さんが声をかけてきた。

 

「すまん、あれは俺が呼んだんだ。一旦あれでここを離れるから。」

 

それだけ言うと、俺の返事も聞かずに何かから逃げるように去っていった。そのまま来た船に乗り込んですぐに出港していった。

 

しばらくして朝潮さんが来た。何かあったのだろうか。息が上がっていたが、落ち着いたところで強さんの事を聞いてきた。

 

「強さんを見てませんか?」

 

「先刻、出て行かれました。」

 

船の進んでいった方角に指を指す。朝潮さんはその方角を見ながら答えた。

 

「そうですか。」

 

「ところで、提督殿はどちらに?」

 

後で堅人から連絡があった時に報告がしたい、そのために居場所と予定を聞いておこう。

 

「・・・えっと、少し強さんの実験の続きを引き継いでいて。」

 

答えるまでに少し間があった。何かを隠しているのだろうか。

 

「それはどのようなもので?」

 

「それは・・・司令官から報告される予定ですので。」

 

明らかに何かを隠している。こちらを見ないから表情も見えない。昨晩の出来事と何か関係があるのだろうか。

 

「そうですか。では、何かあったら朝潮さんに報告させていただきます。」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

俺はそれ以上探らないことにした。彼女の事を少し見ていればわかるが、少なくとも黒鋼や艦娘達に危害を加える様なことをする娘ではない。そして嘘をつくのが苦手そうだった。それでもそうしたのだから、きっと何か理由がある。

 

それと真面目な性格だろうから、こちらが何かをするより、何もしないで信じて待っていた方が、罪悪感で本当の事を後で話してくれるはずだ。酷いやり方ではあるだろうが。

 

別に信じていないわけではない。むしろ現状艦娘の中で唯一信じている娘だ。だからこそ、この方法にしたんだ。もしかしたら、本当に黒鋼が何か言ってくるかもしれないし。

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