闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話   作:はやぶさ雷電

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前回のあらすじ

元元帥の黒鋼強が急いで鎮守府を出ていった。


第26話 補給

ゆっくりと目を覚ます。

 

なんだか夢の中にいるみたいだ。

 

ぼんやりする中、周りを見る。

 

ここは、工廠か?でも何故ここにいるのか。

 

考えるのもめんどくさい。

 

「良かった!気が付いたんですね。」

 

声が聞こえる。朝潮か。

 

「大丈夫ですか?」

 

また聞こえる。

 

大丈夫だよ。

 

「司令官?」

 

声が聞こえてないのか?

 

朝潮が心配そうに見つめてくる。

 

あ、俺は声を出してないのか。

 

「・・・少し待っていてください。すぐ戻ります。」

 

あれ、朝潮が何処かに行った。どうしたんだ?

 

・・・。

 

何かを持って帰ってきた。それを俺の口に流し込む。

 

・・・。

 

次第に頭がはっきりしてくる。

 

流し込まれたのは液体みたいだ。水、いや、油と変わらないように感じる。ただ飲み込んだ後、液体が通ったところに必死にへばりつく感じがする。暖かいような冷たいような変な感覚。でも不思議と不快感はない。

 

「どうですか?」

 

朝潮が再び話し掛けてくる。

 

「大丈夫そう。」

 

声も問題なく出ている。身体に異常は感じない。

 

「良かった。必要なものを持ってくるので、待っていて下さい。」

 

コップのようなものに、黒っぽいようなオレンジっぽいような液体の入ったものを渡され、何処かに行ってしまう。これはさっき飲んだものだ。こんな見た目のものを飲みたいとは思えず、そっと置いておく。

 

少し落ち着いてきた。状況を整理したい。記憶が正しければ、艤装が展開されていた。見間違いであってほしかったが、背後では今も展開されたままのようだ。鎖で固定されてるけど。

 

体もしっかり動くようだ。艤装を固定しているからか、床に座っているけど。意識もはっきりしている。それとあの時、朝潮がいた。この様子だと特に何かすることもなく、そのまま気絶してしまったみたいだ。怪我とかさせてたら会わせる顔がない。

 

「これをどうぞ。」

 

朝潮がカレーを持って戻ってきた。夕飯の残りだろうか。

 

「何でカレー?」

 

「今の司令官には必要なものです。」

 

何故なのかは分からなかったけど、朝潮の手にいくつか絆創膏が貼られているのを見て、とりあえず食べることにした。どうやら俺の作ったものとは別物らしい。お世辞にも美味しいとは言えない味だった。正直不味い。変な味を無理矢理隠しているような。その筈だが、何故か美味しい気がする。口に運ぶスプーンだって休むこと無く動いていた。

 

そして不思議なことに、少しずつなにかが満たされる感じがした。腹が減っていたから、と言うわけでもない。意識がはっきりしてから空腹感はあまり無い。

 

しばらく食べ続けていると、後ろの鎖が軋む音がする。何事かと思って振り返ると、艤装が大きくなっていた。無かったはずの装備が次第に増えていく。鎖が切れそうなのを見て、朝潮がそれを外す。

 

結局朝潮が用意していたカレーを食べきると、昔見た大和型と同等かそれ以上の立派な艤装になっていた。黒鋼が言っていた事は本当なのかもしれない。それを呆然と見ていると、突然格納されていく。自分の背中のものだからすぐに見えなくなってしまったが、そこに何も無かったかのように消えた。

 

「格納されるとは思いませんでしたけど、気分はどうですか?体調に問題は?」

 

「大丈夫そうだけど、何が何やら。」

 

そう言いながら、ふとさっきの液体を手に取る。

 

「それは司令官の症状が私たち艦娘の燃料切れに似ていたので、燃料を補給してみようかと。昔少しだけ資材を補給していたのを見たことがあって。だから害はないかと思うんですが。体調に変化はありませんか?」

 

「うん。大丈夫。」

 

資材の補給については記憶に無いので、おそらく本当に小さい時なのだろう。あとはたまに燃料を舐めていただろうか。あまり覚えていないのだが。

 

「あのカレーにも資材を混ぜてあるんです。私たち艦娘もそのまま補給するのは、辛いですから。」

 

艦娘も人間と同じようなものを食べていると言うことは、味覚は人間に近いはずだ。そのままだととんでもなく酷い味なんだろう。それを少しでも和らげるために料理にする。それでも美味しくはならないようだ。

 

燃料を一口飲み込む。すぐに口を手で押さえた。とてつもなく臭い。そして気持ち悪い。視界が歪んで、いや揺れて見えている?わからない。さっきはなんともなかったはずなのに。朝潮が何か言ってるがそれどころじゃない。必死に吐き気を押さえる。だが飲み込んだ後のへばりつく感じが、吐き気をより一層強くする。おまけに喉が焼けるように熱い。

 

・・・吐く寸前までいったが、段々と落ち着いてきた。黒鋼が何とかしてくれたのだろうか。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

朝潮の声を聞き取る余裕も出てきた。これに答える前にもう一度、残りの燃料を一気に飲む。朝潮は慌てるが、俺は冷静を装う。

 

「うん。もう大丈夫。」

 

それでも朝潮は心配してくる。こんなことになっていれば心配するのは当たり前だ。でも、流石にそろそろ話を進めないと。朝潮には悪いけど、話を変えさせてもらう。

 

「艦娘は燃料切れとか、弾薬切れになるとどうなるんだ?」

 

強引な話題転換に朝潮は戸惑うが、大丈夫だと判断したのか、頭がおかしくなったと諦めたのか、一呼吸置いてから答えた。

 

「弾薬切れはただ弾が出せなくなるだけです。鋼材とボーキサイトは、消耗した分を補給する形になります。鋼材は修理に、ボーキサイトは航空機の補充に使います。ただ、燃料切れには気を付けた方がいいです。海上での移動も難しくなり、力も出なくなるので、立っているのも困難になります。更に思考も鈍くなり、全てに対する気力も失います。」

 

なるほど。おおよそ、さっきの自分と同じ状態だ。

 

「基本的に艦娘の力を使わなければ、資材を消耗せずに溜めておけるのですが。さっきの司令官の様子だと、最低限だけ補給されていたみたいですね。燃料は力を使う度に消耗され、弾薬も自衛用の1~2発分をこの前使い切りましたし。鋼材も本当に最低限で、艤装を構築する分すら無かったみたいですね。」

 

「ちょっと待って、なんで弾薬が無い事が分かったんだ?」

 

一瞬、朝潮は話すかどうか少し考えたようだが、気絶していた時の事を話してくれた。

 

結局俺は朝潮に攻撃をしようとしていた。結果的には何も起こらなかったが、そうしようとした時点で駄目だ。なんだか怖くて、朝潮の顔を見続けられなくなってきた。

 

そして俺も今後の事を考えて、というより罪悪感で、あの夢の中での出来事を話した。

 

何となくわかってはいたが、朝潮は真面目に聞いてくれていた。それが余計に辛かった。何故こんな夢での話をしてしまったのだろう。もっと現実味のある話をすれば良かったかもしれない。もっと他に話さなければならないことがあったのではないだろうか。

 

「自分で言うのもなんだけど、こんなこと信じるの?」

 

さっさとこの話を終わらせてしまえば良いのに、更に余計なことを言ってしまったと後悔する。でも朝潮は優しいから信じると言ってくれる。俺はここから逃げ出したくなった。

 

「司令官。大切な話があります。少し待っててください。」

 

少し静かな間を挟んで朝潮が言った。何か覚悟を決めたように見えた。そして再び工廠を出ていく。扉が閉まると少し静寂が訪れる。

 

「妖精さん、空母の建造、お願いできる?」

 

近くに隠れていた妖精さん。昔、母さんと一緒にいた妖精さんに声をかける。妖精さんは陰からゆっくり出てくる。

 

「騙すつもりはなかったんだけどね。」

 

母さんがいなくなっても、一緒に居てくれていた妖精さんだった。俺が深海棲艦だったと知って怯えているのだと思った。

 

「ごめんー。」

 

一言だけ言って、その小さな体でそっと抱き締めてくれる。どうして謝られたのかわからない。妖精だからか、小さいからか、暖かみも何も感じない。それでも気を抜くと涙が出そうになる。

 

「建造、まかせろー!」

 

そう言って妖精さんは建造に向かった。そのタイミングで朝潮が戻ってきた。朝潮は持ってきた資料をそっと俺に渡した。その手は震えていた。俺は資料をゆっくりと受け取り、中を見た。

 

ぱらぱらと捲ってすぐに閉じた。そこには艦娘の名前、顔写真、最期等が書かれていた。要するにこれは、轟沈艦(死亡者)リストだ。そしてもうひとつ資料がある。中は沈んだ艦娘を建造し、記憶を引き継いだ者を訓練して元に戻す計画についての内容だった。それがわかった時点でそれ以上読む気にはなれなかった。

 

だが記憶を持っていない艦娘も、勘違いでなければ残っている。その事を考えると、この計画は皆で阻止したのかもしれない。その結果提督がいなくなり、建造も出来なくなったのかもしれないけど。

 

もう一度リストを開く。行方不明や自沈(自殺)、味方を庇って、修理しないまま出撃して、補給せず再出撃して・・・最期が皆こんなのばかりだ。そんな中一人だけ最期が書かれていない艦娘がいた。他の情報は書いてあるし、他の艦娘は最期まで全員書かれているから、この一人だけ忘れるなんて事はないだろう。

 

艦名は朝潮。

 

「これがこの鎮守府の現状です。」

 

気が付けば朝潮も俺と目線を合わせるためか、床に座っていた。そして震える声で朝潮はゆっくり話す。

 

「この鎮守府は事実上、全滅しました。」

 

全滅。まさかそこまでだったとは。一瞬時が止まったように感じた。僕の記憶にいる艦娘達は、もういないのか。ここに来た時は少しくらい残っていると思っていた。だが誰の顔を見てもいまいち思い出せなかった。名前を聞いてようやく、誰だったかを思い出していた。でも資料を見て、なんとなく確信に変わってしまった。

 

「でもこのリストによれば、朝潮はまだ生きてるんじゃないのか?」

 

「わかりません。」

 

予想外の返答だった。でも正直、それは俺にも心当たりがあった。

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