闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話   作:はやぶさ雷電

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前回のあらすじ

目を覚ました黒鋼光夢は資材を補給した。


第27話 朝潮の過去

司令官のお父さん、優志司令官が居なくなってから、状況は大きく変わっていきました。新しい司令官が来て、優志司令官程の技量はありませんでしたが、少しでもそれに近付こうと頑張っていました。

 

それから暫くは問題なかったのですが、次第に深海棲艦の活動が活発になり、私達の休む暇がない程の出撃が命じられるようになりました。疲労でミスが出てくるようになると、それを理由に大本営から大本営の司令官がやって来て、元の司令官は姿を消しました。

 

そこからが地獄でした。補給は最低限、入渠もほとんどさせて貰えず、休みもありません。この状況では流石に、最高練度の艦隊と言われていた私達でも轟沈艦が出始めました。

 

最初は主力艦隊から少しずつ轟沈艦が、遠征艦隊からは行方不明が。そして少しずつ、警備任務についた艦隊から自殺者が出始めました。

 

それからしばらくして、高練度艦が残りわずかになったある日の出撃で、私は轟沈寸前になりました。でも一緒だった皆が守ってくれたんです。私だけでも生き延びるようにと。必死に戦いに戻ろうとしたんですが、一緒だった不知火に無理矢理牽引されて、戦線を離脱してしまいました。でもその後すぐ敵の空襲を受けて、気が付いたら瑞鶴さんのところ(飛行場)にいました。海で私が一人だけ気絶して流されていたそうです。

 

期間はわかりませんが、引き上げられた後も私は、かなりの時間寝ていたらしいです。なんだか瑞鶴さんに違和感がしましたが、鎮守府が心配だったので少し燃料を分けてもらってすぐに帰りました。

 

「でもここには私の知らない艦娘しか居ませんでした。」

 

そこで話は止まった。気が付けば朝潮は俯いていて、表情は分からなかった。

 

「っ・・・。」

 

俺にはかけてあげる言葉が見つからなかった。聞けば聞く程悔しいとは思う。力になれたらと思う。だから口を開いた。でも何も出てこない。それが余計に悔しかった。力になれず、声をかけてあげることもできないのかと。

 

ここが工廠であることを忘れそうな程静まり返る。朝潮はそれ以上話さない。いや、話さないのではなく、話せなくなっていた。朝潮を見ていてようやく気付いた。むしろ今まで何故気付けなかったのか。朝潮は必死に涙を堪えようとしていた。それでも止められなかったのか、もう既に朝潮の握っている手の甲にはいくつか涙が落ちていた。

 

ここに来てから朝潮が、今まで誰かと必要以上に話しているところを見ていない。今まで提督代理だったから忙しくて、なのだと思っていた。だとしても関わることが少なすぎる。恐らくわざと関わらないようにしている。皆の顔を見ると、失った仲間を思い出してしまうからなんだと思う。

 

朝潮は今まで我慢していたはずだ。でも仲間の事を思って泣き出してしまえば、自分では止められない。この鎮守府は朝潮が軸になっている。朝潮が折れてしまえばまともに機能しなくなる。それがわかっているから、抑えているんだと思う。

 

でもそれは本来艦娘が背負う必要のないものだ。きちんとした提督が居れば、そんなことにはならなかったはずだからだ。

 

「えっ、司令官!?」

 

俺はあまり顔を見ないようにしてそっと抱き締め、頭を撫でた。こうするとストレスが軽減すると、どこかで聞いたことがある。艦娘に効果があるかはわからないけど。

 

「おかえり、朝潮。よく無事に帰ってきてくれたね。」

 

朝潮の話にあった日の帰還を迎えてくれた人はいない。朝潮にとっては、まだ帰還できていない。皆の元に帰れていないから。ならばせめて、俺が代わりに迎えてあげたい。これでも当時の生き残りで、朝潮の事を知っている、今では数少ない存在だから。そうすれば多少は楽になれるかもしれない。

 

「でも、もう私は、死んでいるかも知れないですよ。」

 

涙声で朝潮が喋りだす。俺はそれを黙って聞く。

 

「周りにいた仲間が皆次々死んでいくんです。でも同じ見た目の皆が帰ってきて、何も変わってないように見えて。でも私は皆とのやり取りを覚えているのに、皆と過ごした日々を覚えているのに、誰も私の事を覚えていなくて。なんだか私だけ元から居なかったみたいで、この記憶が別の私の記憶なんじゃないかってわからなくなって・・・。」

 

俺の上着を朝潮が掴む。その手は小さく、改めて小さな少女であると実感する。なのに俺は無意識に頼りすぎていた。その小さな体に艤装や、他のものまで背負っているのに、心配までさせてしまった。更に重荷を背負わせてしまった。朝潮の事をまだわかっていなかった。朝潮が今までどういう気持ちで過ごしてきたか、考えてもいなかった。

 

仲間を失うのはすごく辛いことだ。それも目の前で居なくなっていくのは。俺も家族を失ったからその辛さはよく分かる。それと周りが自分の事を覚えていない、と言うのは思ったより恐ろしいことみたいだ。自分が生きているのかすら不安になってしまう程に。

 

「頭では分かっているんです。皆は前の皆とは違う別人、彼女達が悪いわけでもない、これからのためにも仲良くしなきゃって。でも皆と一緒だと前の皆が、混ざりそうで、消えてしまいそうで、忘れてしまいそうで、それが怖くて・・・。」

 

朝潮の手に力が入り、小さく震えていた。艦娘は記憶を引き継いでいても、自分がその記憶を持っていた当時の人である、とは主張しないのだろう。きっとその人ではないと分かっているから、自分は自分だと強く思っているから、他人の記憶を勝手に話すことはないのだろうと思う。

 

「皆私を知っている風に装ったり、話しかけたりして、気遣ってくれました。でも皆違う。私の知ってる仲間じゃない。見た目が同じだけで、少し記憶を持っているだけで!仲間なンカジャ!!「俺には分かるよ。」

 

これ以上はまずい気がして止める。深海棲艦のような雰囲気を一瞬感じた。なるほど、負の感情が大きくなりすぎると深海棲艦になる。艦娘と深海棲艦の作りがほぼ同じとは、そういうことだったのか。いや、だとしたら朝潮以外は何故大丈夫なのだろう。

 

記憶を引き継いだだけでは足りないのか?少なくとも長門からは感じたことがない。きっと記憶を持っているからこそ、次はなんとしてでも皆を守りたい、そういう思いが強くなった結果、ああいう行動をするようになっただけだと思う。他の鎮守府も扱いは悪いはずだが、そんな話は聞いたこともないし。他に何かトリガーがあるのか?

 

「大丈夫、朝潮は朝潮だ。」

 

具体的に言葉で説明したかったが、どう説明すればいいのかわからない。直感的な、勘みたいなものだ。恐らく、艦娘の能力か何かだとは思うのだが。

 

「朝潮だって、すぐ気が付いてくれただろ?」

 

自分でも説得力が無いなと思う。こんなので伝えたいことが伝わっているだろうか。

 

「はいっ・・・。」

 

とても小さくて、消えてしまいそうな声だった。そのまましばらく朝潮は泣いているようだった。まあ今まで一人で抱えていて、吐き出す相手も相談する仲間も居なかったんだ。無理もないだろう。

 

俺は朝潮の事を支えられるだろうか。現状、昔から朝潮を知っていて、親しくて、側に居てあげれるのは俺だけ。他にも居てくれれば良いが、もしいなかったら俺が支えるしかない。いや、俺が支えるんだ。()が支えるんだ。司令官として。家族として。他の誰でもない、この()が。

 

偽善と言われたって構わない。善も悪も人間が考えたことだ。善が善であるとは限らない。逆も同じだ。この世界は偽善と偽悪しかない。なら偽善だって構わないだろう。

 

冷静になると、今誰かが来たら言い逃れられないなと思いつつ、しばらくすると朝潮がスッと離れる。

 

「すみません、もう大丈夫です。ありがとうございます。」

 

「急にごめん。嫌じゃなかった?」

 

今さら自分の行動が不安になる。

 

「驚きはしましたけど、嫌じゃなかったです。」

 

「そっか、それなら良かった。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

改めて二人きりになると、急に何を話したらいいか分からなくなった。しばらく会っていなかった分、話すことはありそうなのだが、お互いに黙ってしまった。そのせいで気まずい空気のまま時間が流れる。

 

「・・・ごめん。遅くなったけど、ただいま。」

 

自分でも変なタイミングだと思う。でもこうやってゆっくり話せるのは今だけかもしれない。そう思って俺は言った。

 

「っ!・・・はい!お帰りなさい。」

 

涙目だが、笑顔で返してくれた。それに、ここに来て初めて朝潮の本当の笑顔を見られたような気がする。俺もその表情をみて、ずっと張っていた気が緩んだのか、無意識に微笑んだ。

 

なんだか懐かしい気分になる。俺もこういう家族でよくやるような、普通のやり取りなんて何時ぶりだろうか。俺は家族を失ってからそんなやり取りをすることはなかった。

 

それにしても、朝潮の話にはなんだか違和感を感じる。大本営から来る人は皆、戦果を挙げて出世しようとして来る。だが話を聞いた限りでは、戦果を挙げることよりも、艦娘を全員殺そうとしているような気がする。

 

深海棲艦の動きもおかしい。朝潮達が無理を重ね続けて無駄死にに行くとは考えにくい。となると、出撃せざるを得ない状況になっていた。つまり、深海棲艦はすぐそこまで侵攻して来ていた。

 

話を聞いた感じでは、特に強力な個体が現れたわけではないだろう。相当な物量で攻めてきて、総力戦をすることになった。しかし、大本営の奴等がまともに艦隊を指揮せず、艦娘を使い潰したのだとしたら。

 

指揮が悪くても、彼女達は高練度艦だ。そう簡単にはやられない。ひたすら戦って大量に撃沈したにも関わらず、休む暇がない程の敵がいた。更にこの鎮守府では、今でも定期的に警備任務を遂行している。敵がいたら対処するのがこの仕事だ。だから近くの海域にはほとんどいない。それだけの数に気付かないはずがないのだ。

 

それに警備任務に就いていた艦娘は、撃沈されたのではなく、自沈している。だから、近海には敵が居なかったと考えていいだろう。となると、それだけの数をどこから集めたのか。考えられるのは、離れた海域の深海棲艦を、わざわざここまで来させ、戦力を集めた可能性。でも、もしそうだとしたら何故?世界中で同時に戦っている深海棲艦に、そんな余裕はあるのだろうか。

 

それなのに、目の前の鎮守府には何もしなかった。戦闘海域はここからそう遠くないはずだ。ここまでの事をしてなにもしないのか?資源を使い尽くしたのか。意図的なのか。それとも朝潮が離脱したあと、戦っていた艦娘が最後の最後に一矢報いたのか。

 

それともう一つ。これはあまり関係ないが、自分がひどく冷静である。

 

「そろそろ戻りますか。流石に皆怪しんでますし。」

 

朝潮の声で我に返ると、俺が黙ってしまったせいでまた気まずい空気が流れつつあった。

 

「ああ、そうだな。戻ろう。」

 

ゆっくりと立ち上がって、体に力を入れたり、ストレッチをしてみる。特に違和感もない。大丈夫そうだな。

 

「朝潮。」

 

扉に手を掛けた朝潮に声をかける。朝潮はそのまま振り向く。

 

「はい、何ですか?」

 

「少し落ち着いたら、皆に俺は深海棲艦の血が混ざっていることを言おうと思う。」

 

ここから先、皆を騙しながら行動するのは難しいと思う。それに、これ以上朝潮にまで嘘をつかせたくない。こういう真っ直ぐな性格の子が嘘をついているのは、本人にも、見ているこっちにも辛い。

 

「わかりました。でも、朝潮は何があっても光夢君の味方です。」

 

その時の朝潮はとても心強く見えた。何があっても朝潮だけはついてきてくれる、そう思ってしまう程に。

 

 

 

 

 

工廠を出て、久し振りに日を浴びた気がする。明るさに慣れていない目には太陽が眩しく、手を陽にかざす。少しするとようやく目が慣れてきた。ある程度見えるようになると、まず鎮守府が目に入った。

 

「あれ?もう鎮守府直ってる?」

 

爆撃でボロボロだったはずの鎮守府は、すっかり元通りになっていた。

 

「司令官は三日程眠っていましたから。」

 

「え、三日も?」

 

まさかそんなに眠っていたなんて。それは流石に皆が怪しむに決まってる。・・・いや待て、三日?

 

「というか、三日で直るものなのか・・・?」

 

「明石さんが、秋津洲さんと妖精さん達が手伝ってくれて凄い捗る、とは言っていましたけど、私もここまで早く終わるとは思っていなかったです。」

 

流石の朝潮も、これには苦笑いしていた。

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