闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
朝潮の抱えているものを知った。
朝潮と鎮守府内を歩く。あれだけ瓦礫や割れたガラスが散乱していたはずなのに、どこを見回しても綺麗に片付いていた。
「凄いな、何事もなかったみたいだ。」
「電気はもう問題なく使えるそうですよ。」
隣を歩く朝潮が教えてくれる。しばらくして執務室にたどり着き、中に入る。やっぱり。元通りだ。ここに来るまでに通ったところが全て直っているから、なんとなくそんな気がしていた。少し部屋を眺めているとノックする音が聞こえる。
「どうぞ。」
バアン!
「提督!どこ行ってたかも!?探したかも!」
勢い良く開いた扉から大きな声で入ってきた秋津洲と、それを見て一瞬驚いた表情をした後、顔を青くして慌ててる明石だった。
「ごめん、いきなり居なくなって。」
「本当かも!明石さんの手伝いをしてみた感想とか、修理の経過報告とかしようとして探したのに、全っ然いないかも。」
正直、ここまで秋津洲が怒ってくるとは思っていなかった。その勢いに思わず押されてしまう。
「てっきり、帰らなくなったのかと・・・。」
特に怒ったりしない俺を見てか、明石も一旦落ち着いて口を開いた。明石の言う帰らないとは、死んでしまうことを指しているのだろう。だが秋津洲の様子を見ると、違う意味で捉えているらしい。本当の意味が分かっていないなら、そのまま知らない方が良いだろう。
「やっと会えたのに。」
秋津洲がぼそっと呟いたのが耳に入る。
「やっと会えた?」
なんとなく反応してしまったが、これは反応しない方が良かった気がする。
「え、えっと、優しい提督に?って意味かも。前の提督は、戦闘で役立たずは要らないって言ってたからかも。」
秋津洲も聞こえていると思っていなかったのか、言葉が途切れ途切れだった。
「でも!この鎮守府に来て、ずっとやらせてもらえなかった後方支援をやらせてもらえて、提督も優しくしてくれて。だからここでは皆の役に立ちたいと思ったかも。じゃなくて、思ったの。」
わざわざ言い直してまで言ったそれは相当本気なのだろう。真っ直ぐ見てくる目は嘘に見えない。それだけ本気なのに、俺は何をしているのだろうか。まともに提督ができているのだろうか。
「そっか。教えてくれてありがとう。でも無理はしないでね。」
「そっちこそかも!もっと皆に頼るべきかも。」
確かに、自分で何とかしようと考えていることが多い。これだけ人数がいるのだから、きちんと役割を分担すれば自分だけでなく、皆の負担も減らせるのかもしれない。
「・・・そうだね。頑張るよ。」
「それじゃあ本末転倒かも。」
笑って返してくる秋津洲。更に頑張ってしまっては意味が無い。自分でもそれを理解した瞬間、思わず笑ってしまった。
「確かにそうだね。」
秋津洲のお陰で肩の力が抜けた気がする。
「次からは、長時間出かける時はちゃんと言っておいて欲しいかも。」
きっと朝潮からは、外に出掛けていると説明されたのだろう。いや、でも俺は工廠にいた。工廠での作業が主な二人が気づかないはずはない。明石は知っていたのか?秋津洲だけ知らないのか。まああまり気にしなくても大丈夫か。
「そうだね。次からは気を付けるよ。」
こんなに心配してくれる人が朝潮以外にもいたことが嬉しくて、思わず顔がにやけそうになる。
「ところで、何か用があったんじゃないのか?」
てっきり居なかった理由等を聞かれるかと思って間を空けたが、何も聞かれなかった。変な間が空いてしまったのですぐに話を進めた。
「あっ、そうだったかも、報告しにきたかも。鎮守府の修理が完了したかも。妖精さん達も手伝ってくれて、あっという間だったかも!」
「もう?随分早いね。」
大分綺麗になっていたのは終わっていたからか。
「秋津洲さんも呑み込みが早くて、作業が捗りました。」
もう捗ったなんていうレベルでもない気はするけど。
「明石さんのお手伝いなら、あたしでも上手くやれるかも!」
それだけ自信があるなら安心だな。
「そっか、それならこれからも明石のところで頑張ってもらおうかな。明石はそれで良い?」
「大丈夫です。秋津洲さんがいると作業が捗るのでむしろ助かります。」
間を空けること無く答えたということは、本当に助かっているんだろうな。
「そっか、じゃあそれで行こう。それと、二人ともありがとう。鎮守府を直してくれて。おかげで皆ゆっくりできるよ。」
「えへへ、もっと誉めるかも!」
もっと誉める・・・。どうしたら良いのだろう。とりあえず昔の記憶を思い出す。父さんはいつもどうやって誉めていたのか、母さんが喜んでいたのは・・・。一つ思い浮かんだ。
「これからも期待してるよ。」
腰に手を当て、えっへん!と聞こえてきそうな秋津洲の目の前にいく。秋津洲は驚いた表情だったが、頭にそっと手をのばす。殴られるとでも思ったのか、目をぎゅっと瞑る秋津洲の頭をそっと撫でてみた。暫く撫でていると、表情もゆっくり緩んでいった。
「別に本当に誉めて欲しい訳じゃないかもだけど・・・。」
「っ、もしかして嫌だったか?」
「全然!嫌では、ないかも・・・。」
これで良いのか不安だったが、どうやらこれで良かったようだ。
「明石にもやろうか?」
これくらいならいくらでもやってあげられる。念のため、他二人の反応を見ると、羨ましそうにしているように見えた気がした。
「い、いえ、遠慮しておきます。」
明石はそう言って顔を背けるが、視線はチラチラとこちらを見ていた。朝潮は何も言わずに自分の作業に向かっていった。
「そっか。二人とも無理しないようにね。」
秋津洲から離れる。もの足りなさそうに見えたが、この空気に耐えられそうにない。
「じゃあ、これからも頑張ってね。」
「さて、いい加減書類仕事をしようと思うんだけど、教えてもらっても良いかな。」
「私がやるので問題ないですよ。」
「いつまでもそういうわけにはいかないよ。戦闘は皆に任せる以上、こういうのは俺がやりたいんだ。」
朝潮は今まで提督代理で書類仕事もこなしていた。ただでさえ負担が多いんだ。少しでも減らしていきたい。
その後も朝潮は止めようとするが、なんとか説得して作業を始める。まだ昼だからたくさんできるかとも思ったが、今日の分はすでに大体が終わっていた。
夕方ごろに書類が片付いた。初めてだからスムーズだったわけではないけど、量が少なかったからすぐに終わった。
「朝潮。今ちょっと良い?」
「何でしょうか?司令官。」
作業中だった朝潮に声をかけると、すぐに中断してきてくれる。
「作業を止めちゃって申し訳ないんだけどさ、赤城さんや加賀さんみたいに、他の鎮守府に行ってる
「まだ居ますよ。こちらから帰還命令を出せば帰ってくるはずです。」
「そっか、そしたら皆に帰ってきてもらうか。」
皆バラバラよりも、一緒にいた方が良いだろう。それに、そろそろ戦力を整えたい。あれだけのことがあったんだ。今の戦力では心許ない。朝潮からそれぞれが行った鎮守府の書類を貰い、それぞれに電話を掛けたのだが、
残念だが無理だな
誰がお前の言うことなんか!
そんなもん知らん
そんなものばかりで、中には途中で黙って切る奴もいる。
「どいつもこいつもっ!」
すでに誰とも繋がっていない電話に向けて、苛立ちを込めてそんなことを呟いた。こちらの気も知らずにツーツーと鳴り続ける電話。深呼吸のような大きなため息を一つ吐いて、ゆっくりと受話器を下ろす。怒りが静まってきたところで朝潮に聞いた。
「他の鎮守府に行ってる皆ってうちの所属だよね?」
「はい。なのでこちらからの命令が最優先です。」
多分、俺の反応を見てなんとなく察しているのだろう。朝潮は苦笑いしていた。
「よし、勝手に帰らせるか。」
あっちがまともにやり取りしてくれないなら、勝手にやるしかない。そもそもこの鎮守府達は十分な戦力を持っている。あくまで、終焉鎮守府所属艦娘の練度向上が目的である。
「とりあえず、それぞれに通信してみるか・・・。」