闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
伊58(ゴーヤ)と出会った。
「すみません司令官、取り乱してしまって・・・。」
ゴーヤが居なくなってから朝潮が謝ってきた。雰囲気はとても暗く、反省するのと同時に自分の言動に困惑しているように見えた。
朝潮があそこまで怒るのは正直驚いた。それだけストレスが溜まっているのか。それともなにか別の原因があるのか。
「わっ、ちょっ、司令官!?」
俺はそんな朝潮を見て無言で頭を撫でた。この出来事を忘れるくらい、ちょっと激しめに。
「気にしすぎ。なんとなくわかるよ。・・・大変だったでしょ。」
撫でるのをやめて手を離すと、朝潮の頭がボサボサになっていた。ちょっとやりすぎたか?今度はそっと撫でて髪を整える。
「朝潮は頑張りすぎたんだ。もっと周りに頼ってもいいんだよ。そのためにも、今後は朝潮ももう少し皆と関わりを持とう。仲間を作っておくのは大事だぞ。あんまり人の事言えないけど、俺もやっていくから。」
「・・・はい。」
いつまでも一人でいるわけにはいかない事はわかっているはずだ。ただそれを分かっていても、過去の記憶が邪魔をする。
「辛いことがあっても俺がいる。頼りにしてくれ。」
親指を立て、ニカッと笑って見せた。朝潮にはいつも頼りにさせてもらってるからな。何があっても、朝潮が一人にならないように、朝潮が必ず帰る場所になろう。
「ほら、暗いのは終わり。俺は明るい朝潮の方が良いと思うよ。」
すると朝潮が大きく深呼吸をして、両頬を叩いた。
「え、大丈夫?」
突然の事にちょっと驚いた。
「はいっ。大丈夫です。ありがとうございます。」
両頬が赤くなっていたが、いつもの明るい朝潮に戻っていた。
「じゃあ俺はゴーヤが言っていた通信の件を確認してくるよ。他の鎮守府に行ってる皆に帰還するよう言わないとだし。」
そう言って俺は改めて放送室に向かおうとした。ちなみに艦娘との通信や外部との連絡等の通信関係も、放送室で行われている。
「ところで司令官。大淀さんとはもう顔を会わせましたか?」
「いや。扉越しに声だけは聞いたけどね。」
大淀との会話を思い出しながら答えた。彼女の名前だけは知っている。昔の記憶でも大本営と連絡を取ったり、出撃中の艦隊と通信をしたりしていた。忙しそうだったし、ほとんど俺と関わったことはなかった。勿論、どこかですでに顔を見ている可能性はあるが、憶えていない。
「大淀さんはあまり顔を出さないんです。私ですらたまに扉の隙間から顔を見る程度なので。」
俺以外にも顔を出さないなんて。朝潮が苦手なのだろうか。
「それは朝潮以外にも?」
「私以外はわかりませんが、ずっと放送室に籠ってますよ。」
よっぽど忙しいのだろうか。ゴーヤの話を聞いた後だと色々疑ってしまうな。
「せっかくなので話すだけではなく、直接顔を会わせに行きましょう。通信関係は彼女の担当なので、今後も関わると思いますから。」
そう言って朝潮は歩き出した。俺もおいていかれないようにすぐ後について行く。
「司令官、扉が開くまで静かにしててください。」
放送室の前にたどり着くと、朝潮が小声で言った。理由はよく分からなかったが、それに黙って頷くと扉をノックした。
「朝潮です。大淀さんいらっしゃいますか?」
朝潮が呼び掛けると、少し慌ただしい物音がした後、ゆっくり扉が開いた。
「はい、どうしまし・・・。」
その開いた扉の隙間から見えた大淀と目があった。その瞬間すぐに扉が閉まりかけたが、朝潮が隙間に足を挟み込む。
「だいじ「何閉めようとしてるんですかっ、司令官がいるんですよっ。」
朝潮に心配の声をかけようとしたが、タイミングが被ってしまった。朝潮は力を込めた声で喋りながら、そのまま扉をこじ開けようとする。・・・この様子なら足は問題無さそうだ。
「えっと、少し話をしたら帰るから。」
そう言うとゆっくり開きつつあった扉が急に開き、朝潮がバランスを崩し転びそうになる。
「そういえばまだ顔見てなかったなぁと思って。それと通信について確認したくてね。」
そう言った瞬間大淀が再び素早く扉を閉めようとする。閉まりそうになった扉の隙間に今度は俺が足を挟み込む。
「だいじ「まだ話の途中なんだけどっ。」
朝潮の声が一瞬聞こえたが、また被ってしまった。とりあえず、力を込めて扉をこじ開けようとした。だが扉はあっさり開いた。あまりにも勢い良く開いたため、開いたところから大淀が飛んできて慌てて受け止めた。
「えっ、ご、ごめん?大丈夫?」
突然の出来事に、ここにいる三人は皆何が起こったのかよくわからなかった。
「えっと、それで話なんだけど、潜水艦のゴーヤに聞いてね。通信が出来なかったらしいんだけど、何か知ってるかな?」
ひとまず落ち着いたところで本題に入る。
「何も知りませんが、深海棲艦の仕業ではないですか?」
大淀がそう言った瞬間、俺の勘がはっきりと断言した。大淀は嘘をついている。
「うん、そっか。」
今までこんなにはっきりと嘘だと感じたことはなかった。こんな時何と言えば良いのか、言葉が何も出てこない。
黙っていたら怪しまれる。早く何か言わないと。焦れば焦る程何を話せば良いのか、どんな顔をすれば良いのかも分からなくなった。ここで変に問い詰めようとしても、証拠があるわけでも無い。下手なことをすれば証拠が消されるかもしれない。考えれば考える程わからなくなっていく。
大淀は顔をそらして言った。だから今こっちを見ていない。こちらを向いたら、今の俺にうまくやり過ごす術が思い浮かばない。そのままこちらを見ないでくれと必死に願う。
「司令官?」
俺がそれ以上何も言わないのを見て、朝潮が声をかける。俺はその声をきっかけに何とか動き出した。
「それと、他の鎮守府に行ってる皆に帰還命令を出しておいてほしい。それだけ。」
「えっ、司令官?」
大淀がこちらを向く前に俺はその場を足早に立ち去った。朝潮も急いであとを追ってくる。
もっと話を続ければ何か手がかりが掴めたかもしれない。もし本当に犯人ならボロを出したかもしれない。今冷静に考えると、あそこで話を終わらせたのは良くなかったのかもしれない。でも今更考えてももう遅かった。
「司令官?司令官!」
黙って歩き続ける俺を朝潮が無理矢理止める。
「いきなりどうしたんですか。」
朝潮には話しておいた方が良いだろうか。ちらっと後ろを振り返るが、既に大淀の姿はなかった。部屋からも離れているので、ここなら聞かれないだろう。
「・・・多分、ゴーヤの言っていた通信の件は大淀が犯人だ。大淀は嘘をついていた。少なくとも何か知っているはずだ。」
周りに聞かれないように少し小さい声で話した。
「何故嘘だとわかったんですか?」
朝潮も俺に合わせて小さい声になる。
「それは・・・。」
朝潮の問いに答えようとしたが、言葉が詰まってしまう。説明をしようとしたが、はっきりとした理由が無い。
「正直、俺も良くわからない。でも勘が、何故か間違いなく嘘だと感じた。」
我ながら酷い理由だと思う。怪しいから犯人だと言っているのだから、最低なやつだ。
「そう、ですか。」
流石に朝潮も難しそうな顔になる。やっぱりこんな理由で犯人扱いは駄目だと思う。もう少しまともな理由を見つけてから話すべきだった。
「ごめん、やっぱり聞かなかったことにしてくれ。」
これでは朝潮も今後の関わり方に影響が出てしまう。何をしているんだ、俺は。
「いえ、きっと何か訳があるんだと思いますし。」
朝潮も何とか俺の発言をフォローしようとしてくれる。でも朝潮がそうやって気を遣ってくれると、尚更発言を後悔してしまう。自分が惨めに感じてしまう。
「いや、確証もないし、やっぱり今は気にしないでくれ。」
「いいえ、気にします。」
朝潮の力強い返答に思わず驚いてしまう。
「私も彼女が通信関係を担当している以上、無関係だとは思えません。それに、あの対応は怪しかったですから疑われて当然です。」
朝潮の言う通りだ。俺もそれを確かめるために大淀に会いに行った筈だった。本当に、何をしているんだろうな。
「司令官。きちんと調べて、白か黒かはっきりさせましょう。」
「・・・そうだな。」
仲間に疑いがある状態はすぐに対処しなければならない。今後の作戦に大きく関わってくる危険性がある。