闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
悪夢見て 海を渡って 鎮守府へ 埃っぽくて 掃除始める
掃除を始めたは良いものの、いろんな事情もあり上手く進めることもできずに6時になった。総員起こしがまだ聞こえないのだが、もっと後なのだろうか?それともここではやらないのか?とりあえず、皆との挨拶はもう少しゆっくりしてからでいいだろうか。
そんなことを考えていると扉をノックする音が聞こえてきた。
「叢雲よ。」
「あぁ、どうぞ。」
そう言うと叢雲が入ってきた。
「あら、意外とここは埃が少ない?」
「いやさすがに掃除してた。」
「にしては汚い・・・」
「まあ理由はあるけど、それより用件は何?」
説明は面倒だからと思って無理矢理話を進める。すると少し不機嫌な顔をしたあとすぐに話し始めた。
「皆に挨拶とかしないの?」
「まあそうだな、皆の朝食が終わったらいくかな。」
「そう、わかったわ。」
そう言うと叢雲はあっさり帰ってしまった。それだけ聞きに来たのだろうか?正直よくわからなかった。
そのまま食事もせずこれからどうするかを考えつつ時間が過ぎるのを待った。
そろそろかな。
そう思って放送室に向かう。鎮守府内に放送をするにはここしかない。ここのマイクで喋れば鎮守府全体に連絡することが可能だ。また、通信などもここで対応している。
執務室へ報告しやすいよう、また、執務室から緊急の放送がしやすいよう、近くにある。そんなことを考えているうちについた。やはり近い。とりあえず、ノックをしてみた。
「はい?誰ですか?」
「昨日からここに着任した黒鋼 光夢です。」
「・・・何のようで?」
急に声のトーンが変わった。明らかに嫌がっているのがわかる。
「放送したいことが、伝えて貰えるならそれでも。」
「わかりました。内容は?」
「総員、ロビーに集まるように。艦娘も人間も全員だ。」
「人間はここにはいませんよ。」
「そうか、では艦娘を。」
「了解です。」
結局顔を見るどころか扉を開けることもなく話が終わってしまった。それにしても人間は全員追い返したのか。よかった、
しばらくたつと全員が集まった。とりあえずここは自己紹介をするつもりでいる。皆の前に置いた箱の上に立つ。
「初めまして、昨日からここに着任した黒鋼 光夢です。」
やっぱり良い反応は帰ってこない。それでもとりあえず一番片付けたいことを話す。
「悪いが早速全員で掃除に取り掛かります。」
皆驚いた顔をしていた。そして何か言われる前に次を伝える。
「とりあえずすべての窓、扉を開け、自室から掃除を始める。皆のそれぞれの部屋の掃除が終わり次第、埃が入らないよう扉を閉めて廊下や他の部屋に当たってもらう。」
そこまで言うと、一人が手をあげた。
「司令官はどこを掃除するのですか?」
吹雪が聞いてきた。恐らくこれは皆、黒鋼が掃除をしないと思っているかもしれない。それが違うことを知らせるために聞いたのだろう。
「俺はまず自室、執務室を掃除する。そこでひとつ皆に聞くが、両方の部屋の家具はすべて廃棄するつもりだが、意見はあるか?」
誰からも返答はない。おそらくだが、皆この家具には嫌な記憶しか無いと思う。掃除しながら色々探ったが、初代元帥の用意していた家具はすべて廃棄されていたようだった。
「意見がないのであれば廃棄する。他に質問等は無いか?」
皆喋らなかった。なんか返事がないのに喋るのは寂しいな。
「では今日は丸一日掃除だ。解散。」
そう言うと皆部屋へ戻り言われた通りに始めた。
それからはひたすら掃除。妖精さんに手伝ってもらって家具を全部廃棄、掃除は一人でした。皆も流石に汚いと思ったのか、案外文句を言われることもなく積極的に掃除をしてくれた。
昼になった。皆昼飯を食べていた。何故か間宮さんと言う食事を管理している艦娘に食べに来るよう言われ、とりあえず行くことにした。掃除は順調、このままいけばおやつの時間には終わるだろうか。
食堂についた。皆は黒鋼を見てさっさと移動しようとした。そして間宮さんに料理を渡された。
「召し上がってください。」
いきなりですごく怪しいが食べるしかないだろう。なんだかほんの少しだけ変な臭いがするが、気にしないでおこう。
「ではありがたく、いただきます。」
目の前の料理、カレーを食べる。ほんのり変な味がするがそれを言っては女性の心が傷つくと思い、黙って食べた。
「美味しいです。」
そう言って大半を食べたところで、間宮さんと周りで見ていた皆が首をかしげ始めた。あまりにも怪しい。だからもう言うことにした。
「失礼かもしれませんが、この変な味と臭いは仕掛けたものですか?」
皆驚いた顔をして目をそらし、冷や汗をかいていた。
「この臭いと味は、
皆何も答えない。恐らくそうなのだろう。
「実は俺は半分人間ですが、半分は人間ではないので食べても何もなりませんよ。」
そう言うと、間宮さんは震えていた。恐らく処罰を受けると思っているのだろうか。
「まあこの件は別にどうでも良い。むしろこの俺に料理を用意してくれた。感謝します。それより、調理場の掃除は進んでますか?」
何も怒らなかったことに驚いているのか、目を見開き少し黒鋼を見つめたあと、答えた。
「ええと、なかなか汚れが落ちなくて、少しは掃除していたのですが、簡単なことしかしてなくて。」
そこで黒鋼はすぐに必要なことを聞いた。
「人数はどれ程いれば良いですか?」
「ええと、結構時間がかかりそうなので5人ほどいれば。」
「わかりました。」
そう言ってカレーを平らげると、そのままある5人に頼みに行った。
「それでなんで私たちに?」
叢雲が少し不機嫌に聞いてくる。
「ちょうど5人で頼れる人もいないからさ・・・」
苦笑いしながらそう言うと、黒鋼がつれてきた初期艦は皆仕方がないと受け入れてくれた。
「ありがとう、お礼に間宮アイス券用意するよ。」
「言いましたね?絶対ですよ!」
知識にあった艦娘が喜ぶものを用意すると言うと、五月雨がそんなことを言って皆で行ってしまった。
「そんなに、嬉しいのか。」
結局皆しっかりと掃除をしてくれたお陰で、1500に掃除が終わった。黒鋼の自室は妖精さんに頼んで運んでもらった自分の家具でなんとかなるが、執務室は空っぽになってしまった。
「こりゃ不味いなぁ。」
「家具作ろうか~?」
妖精さんが突然そんなことを言って来た。
「え?作れるの!?」
「今回は特別~!無料で作りま~す!」
「ありがとう、お願いするね。」
「張り切っちゃうよ~!」
そう言うと妖精さんは何処かへ行ってしまった。
ようやく落ち着く。自分の家具と綺麗に掃除した部屋。結局掃除が終わってから眠い。とりあえず今日は食事なども済ませてさっさと寝ることにした。と言っても課題はまだまだある。
食事はあまり美味しいものが出てきているとは言いがたい。皆あまり楽しそうな食事はしていなかった。この部分は士気にかなり関わってくる。早急にどうにかしよう。
それとまだ艦娘との友好関係が築けていない。これから共に生活するんだ。こちらも早めに信頼できる仲になりたい。
そんなことを考えているうちに眠りについた。だが、この鎮守府はそういう部分だけでなく、施設に関しても問題があり、こちらの方が急がなければならないことを黒鋼はまだ知らなかった。