STRONEST   作:螢司教

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来たるべき時

次の日の昼頃

建物の屋上にシーカは佇んでいた。

風に吹かれ、結んでない髪はたびないている。

「ふぁぁ……ねみぃ」

シーカの目下にはクマが出来ていた。

昨晩、シーカは眠れずにいた。

あまりにも突然訪れた訃報に、涙を流さずにはいられなかったのだ。

それもあるが、今の今までシーカを悩ませていたのは。

 

「私がSTRONEST、かぁ……」

恐れているわけではない。だが、父の意思を自分が継いでいけるのか、父の願いを叶えることができるのであろうか。

そう考えるだけで決心が鈍る。

「急にあんなこと言われても、すぐに決めれねぇよ…」

 

そうぼやきながら下を見下ろすと、誰かが市場の方向から歩いてくる。

2,3人はいるだろうか、だがスラムに足を踏み入れるのは普通の奴らじゃない。

きっと、"訳あり"なのだろう。

シーカはそう思っていたが、彼らの服装、顔ぶれを見て顔を青ざめる。

直ぐ様シーカは他の皆に呼び掛けをしに行った。

警察が来たぞ、と。

 

 

 

 

警察とは本来、一般市民を守る存在である。

 

だがシーカ達は無法の地、スラムに住んでいる。

そのためか、彼らは普通の人とは見られておらず、その"一般市民"から侮蔑されている。

 

シーカも話を聞いただけだが、やんちゃな若者が人の目を盗んでは子供を含むスラムの住民を痛め付けたり、最悪殺してしまうことも多くあったそうだ。

 

だからといってスラムの人達は抵抗はするものの、反撃まではしない。

だが市場に住む人々は揃って言う。

 

"スラムの奴らは我らに害を与えてくる、痛め付けてくる"と。

 

確かにシーカは市場から食料を盗んだりはするが、危害を加えたことは一度としてない。

また他の住人は、主に市場からの廃棄物で生計を立てているため、市場には出ていったこともない。

 

だが警察は市場に住む人達の言葉を鵜呑みにし、スラムの人々を迫害しているのだ。

以前も"善良な市民を守るため"と称されたスラムへの放火が行われたりもした。

 

 

 

 

だからこそ、シーカは皆にすぐ建物内に隠れるように伝えた。

するとその場にいた全員が建物内の安全な場所に向かった。

 

放火事件があって以来、スラムの人々は各建物に安全地帯を作っておいたのだ。

だが運よく皆同じ建物にいたので、全員の安全が保証されたと言っても過言ではない。

しかもシーカが、偶然とは言えど早めに発見してくれたおかげで全員が避難できていた。

 

だが、その安心も空しく散っていった。

シーカと老人が皆を安全地帯に誘導している最中、一人の女性が彼女に問いかけた。

 

「シーカちゃん、私の娘はどこ!?

さっきから見当たらないの…!」

 

それを聞いたシーカは老人に後を任せ、女性の娘を探しにいった。

建物内を走り回り、子供がいないかを確認する。

だが、どの部屋ももぬけの殻であった。

 

(くそっ、いったいどこに!?

奴らもさすがに近くまで来ているはずだ…!)

 

そしてシーカは窓から警察の姿を確認しようとした。

その時目に映ったのは、道のど真ん中で人形遊びをしている少女の姿とそれに向かってくる警察の姿だった。

シーカは直ぐ様駆けつけようとするが、警察からも視認できる距離から少女を連れて逃げるのは難しいと考え、ひとまず隠れて様子を見る。

 

「うさぎさん、おちゃのじかんよ。はいどうぞ!

ありがとう、くまさん!」

前方から迫る危険に気づくことなく、少女は動物たちとのお茶会を楽しんでいる。

 

そして警察達が少女の前に立った。

ついに少女は誰かが歩いてきたのに気付いた。

先頭に立つのはとても大柄な男性だったので、少女は今にも泣き出しそうな顔をしている。

 

そして大柄な男性警官は少女の前にしゃがみこむ。

このままではまずいと考えたシーカはすぐに飛び出せるように構える。

だが、その男性警官は意外な行動を取った。

 

「可愛い動物さん達ねぇ、アタシもそのお茶会に混ざっていいかしら?」

その体格とは見会わぬ口調で、警官は少女に友好的な態度を取る。

色んな意味で意外だった。

 

少女もその態度に心を許したのか、うんうんと首をふる。

それに対応するように男性警官も笑顔になる。

そして少女と目線を合わせ、話を始めた。

シーカには何が起こっているかさっぱり分からなかった。

 

そのまま楽しそうに会話をする少女と警官をしばらく観察していると、警官は話題を変えた。

その話題とは。

 

「ここに泥棒がいるって聞いたんだけど、お嬢ちゃんは知らないかしら?」

 

紛れもなくシーカのことであった。

さしずめこの警官らはシーカを捕まえにきた、ということだろう。

だが、少女は知らないと言わんばかりに首を横に振った。

泥棒が誰の事か分かっているのかどうかは不明だが、自然とシーカを庇っているのだろう。

 

「……本当に、知らない?」

笑顔のままであったが、若干警官の雰囲気が変わった。

だが少女はそれに気づくことなく、うんと首を振った。

 

 

 

 

 

 

「嘘ね」

少女の答えを聞いた瞬間、警官は顔をしかめると同時に少女に張り手を食らわす。

警官の力が強かったのか、少女の体が少し後ろに飛んでいく。

少女は何が起こったか分かっていない様子だ。

 

「やっぱり、スラムの子も汚らわしいのね…残念だわ」

そうぼやきながら警官は新たにできた少女との距離をつめる。

そして今度はあきれた顔をしながら少女と目線をあわせ、問いかける。

 

「いい?もう一度聞くわ

泥棒はどこにいるか、知らないかしら?」

少女は恐怖と痛みのあまり涙をボロボロと溢す。

だが少女はまだ首を横に振っていた。

 

このままでは少女が危ないと踏み、シーカは飛び出そうとする。

だがいつの間にか足がガクガクと震えている。

子供でさえも容赦なく暴力を振りかざす彼に恐怖していたのだろう。

動かない足を説得しながら、シーカは状況観察をした。

 

警官も苛ついたのか、少女の胸ぐらを掴み激しくゆする。

「次嘘を言ったら、痛い目を見るわよ!

さぁ、早く言いなさい!」

そう脅されながらも少女は否定し続けているのか、乾いた音が鳴り響いている。

 

シーカは驚いていた。

子供が一人の人間を助けるために命を張っているからだ。

またかつてシーカは、警察が自分を捕まえに来た時には、自分を見捨てても大丈夫だと強く言い聞かせていた。

その時も子供達は「助ける!」と言って聞かなかったが、自分の足の速さで逃げ切れると冗談をまじえつつなんとか説得したはずだった。

だのに少女は、恐怖と痛みに苦しみながらもシーカを危険にさらさないよう、精神的に抗っているのだ。

 

 

 

「何故、動かない」

突如後ろから声をかけられる。

後ろを向くと、そこにはレベリオがいた。

「何故動かないかと聞いている」

 

青年が出すとは思えぬ気迫にシーカは体がすくむ。

それを見たレベリオは、彼女が動けぬ理由を悟ったようだ。

「成る程、お前は今臆しているのか…

まぁ仕方ないことだろう

だが、お前はあの子を見て何も思わないのか?

幼いながらも恐怖に抗い、戦っている姿を見て、何も分からないのか?」

 

警官への恐怖、レベリオの気迫が重なり、シーカの頭は真っ白になり何も返せずにいる。

レベリオは小刻みに震える彼女の姿を見、眼光を強くしながら喝を入れた。

「あの子は待っているんだ、お前を!

恐怖に抗えているのも、お前が助けてくれると信じているからだ!

お前はその信頼を、たかが恐怖で無くす気か!?

今あの子の感じている恐怖がお前に分かるのか!?

それを考えろ!!」

 

そう言われ、シーカは気づく。

ただ怖いだけだった。命を奪われる恐怖に捕らわれていたのだ。

だが、自分はただ見ていただけじゃないか。

あの子はそれを肉体で体感しているではないか。

 

そうだ、自分が持っている恐怖心なんて、あの子の抱いてるものに比べればたいしたものではないじゃないか!

今までビクビクしていた自分を鼓舞する。

気付いた時には、足の震えは収まっていた。

「やっと、分かったか?」

レベリオがシーカに話しかける。

「…うん、もう大丈夫」

 

先程の怯えた表情は無くなり、今度は決意に満ちた顔をする。

「どうやらそうらしい」

レベリオは相変わらずの無表情で返す。

そんな彼を見てシーカは可笑しくなり、少し吹き出してしまう。

レベリオは不思議そうに首を傾げていた。

「なぁ、レベリオ」

一息つき、シーカが彼の名を呼ぶ。

対してレベリオはアイコンタクトで答える。

そしてシーカは彼に頼み事をする。

 

 

 

 

 

 

「スラムの皆を、守っててほしい」

「承知した」

 

 

 

直ぐ様帰ってきた返事を聞き、彼女は疾風の如く少女の元へ向かっていった。




や、ヤバい。
相変わらずの不定期すぎる投稿だ…
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