TSヤンデレもの   作:サラメンス

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コ〇ナの影響で暇になったので


プロローグ

 俺の名前は佐藤雄二(さとうゆうじ)。特に特筆することは無いほどに普通な人間だ。勉強もスポーツも、そこそこできるがそれ以上にはならない。ただ、そんな俺にも親友くらいはいる。

 

季節はまだ初夏だというのに、疎ましいほどジリジリとした太陽が窓越しにこちらの体力とやる気を奪ってくる。日は落ちかけ、朱が射してきてもこれなのだから、日中の暑さは想像に難くないだろう。

 

気が付けば部活動等の事情が無い生徒は帰宅する時間になっていた。俺に特段用事は無い。ただ人を待っているだけだ。

 

俺は最早誰もいない教室で彼、いや今は()()が来るまで何をするでもなくボーっとしている。いつもの感覚からして、もうすぐだろうか。或いはこの座っている体勢のまま机に突っ伏して寝てしまおうか。そう思い始めたところで丁度教室の扉がやや早めに開かれる。

 

「すまない。かなり待たせてしまっただろう。いつも僕の為に待っていてくれてありがとう」

 

艶のある真っ直ぐな黒髪の割に左右にはねた前髪がどこかアンバランスさを感じる。そしてそのやや垂れ下がった気の弱そうな大きな瞳。全体的に華奢で凹凸の少ない身体だが、それでも年頃の少女らしくストッキングに包まれた太ももはどこか肉感的な印象を受ける。夕暮れを背にする彼女はどこか幻想的に思える。

 

個人的にも、そして客観的に見ても美少女な信楽葵(しがらきあおい)はどこか申し訳なさそうにこちらに頭を下げる。

 

「前から言っているだろう。俺はあくまでも自分の意志で勝手に待っているだけなんだ。だから、そんなに思いつめたりしなくても良いから」

 

彼女は生徒会で放課後毎日仕事をしている。この前、何故そんなことをするのかと聞いてみた。すると最初ははぐらかされたのだが、根気よく聞いてみると、目を逸らしながらボソッと人の為になる事がしたいからと呟いた。きっと恥ずかしかったのだろう。

 

「僕はね、雄二。物事に対しては言葉だけでは意味がないと思っているんだ。何かをしてもらったらその分対価として何かをする。それが当たり前だろう?」

 

どこか粘り気を持った粘着質な声が俺たち以外誰もいない教室に響く。腰を上げて席を立とうとするといつの間にかすぐ側に近づいていたことに少し動揺し、行動を起こす事が出来なかった。

 

綺麗な顔が間近に迫り、反射的に顔を仰け反らせる。そしてその判断は間違っていなかったことが分かった。彼女の瞳は黒く、まるで底無し沼の様に澱んでいた。目を猫の様に細め、露骨に不機嫌そうな表情になる。

 

「何故拒む?お前は昔よく言っていたじゃないか。性的な雑誌を見てこの女とどうしたいだのと。横に今すぐ好きに出来る()がいるんだぞ。おもちゃにしてそのまま捨ててもいい。何でもしてやる。もしかして恥ずかしがっているのか?心配するな。僕に任せてくれればいい」

 

先程とは反対に今度はゆっくりと、今度はこちらを気遣うように優しく触れてくる。いや、このままではマズい。俺はこんな形になるために彼女と接しているわけじゃない。それにここは人通りがあまりないとは言え、そもそも学校の、しかも誰でも入る事が出来る教室だ。

 

彼女は非常に頭がいい。そんなことを考えていないはずもない。だが正気だとも思えない。何が彼女をこうしてしまったのだろうか。わからないが、流されてはいけない。

 

「やめろ。ここはそういう所をする場所じゃない。そして俺は葵とそういう関係を望んでいるわけじゃない」

 

彼女の触ったら崩れてしまいそうなほどか細い両肩を持つ。これで伝わってくれればいいんだが。ところが、彼女の恍惚として蕩け切った表情を見るに、全く伝わっていないどころか、寧ろ逆効果にすら思えてきた。

 

「お前も僕と同じ気持ちだったんだな。ああ、嬉しい。嬉しいよ。今だったら何でも出来そうな気がするよ」

 

やはり彼女はどこか錯乱しているようだ。会話が噛み合っていない。そしてこのままでは彼女の大事なものを奪ってしまいそうになる。俺は反射的に彼女を突き飛ばす。

 

そしてその衝撃を受け、お尻からペタッと座り込む。彼女はポカーンとしていたかと思うと、堰を切ったかのように大粒の瞳から涙をこぼし始めた。

 

高さも無いし、後ろにぶつける物もないため特に怪我はしていないとは思うのだが、もしかしたら痛かっただろうか。もう葵は女なのだ。いつまでも昔のように考えてはいけないと何度も心の中で反芻したはずなのだが、どうにも結果はついてこない。

 

「突き飛ばしてしまってごめん。あのままだとダメだと思ったんだ。どこか痛いところはあるか」

 

ドキドキしながら問い掛けると、俺の言葉に気が付いたのか、徐々に涙を引っ込め、平静を取り戻し始めたように思える。

 

そして今気づく。彼女は何よりも俺に拒絶されることに対して大きな恐怖を持っていることに。そしてその恐怖を俺は解消できただろうか。

 

「いや、痛くはない。お前の気遣いを感じたよ」

 

首を振りながら俺の問いを否定する。そうか、良かった。じゃあ何故泣いたのだろうか。とにかく今俺に出来ることは彼女を拒んでいないと伝えることだ。

 

「じゃあ「でもな。僕は心が痛かった。客観的に見ても僕は正しくない。だってそうだろう。こんな元男に迫られるなんて気持ちが悪い。それに女性的な身体でもない。否定する要素しかないんだ。大体にしてお礼がしたいというのもただの口実だ」

 

話しを遮り、一方的にまくしたてられる。いつも穏やかで普段は一緒に居ると安心するのに、何故だか今は恐怖しか感じる事が出来ない。

 

「本来なら優しくて頼りになる男だ。もし僕さえいなければもっと楽しくて彼女とかも出来て、毎日楽しく過ごせただろうに。でもね。僕には君しかいないんだ。嬉しかったよ。自分を否定され続けたのにそんな僕でも良いって言ってくれたのが雄二なんだ。だから、これは謝罪。ごめんなさい。でも絶対に逃がしてやるものか。この幸せを誰かに渡してたまる物か」

 

もうすっかり日は沈んでしまった。そこにいつもの微笑みは無く、そこにはいない誰かに対しての大きな敵意が見て取れた。こうなってしまい壊れてしまった彼女だが、それでも月明かりに照らされた彼女はとても綺麗だった。

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