TSヤンデレもの   作:サラメンス

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潜む者

 朝が来た。外の眩しいほどの日差しとは裏腹に俺の気分は全く晴れていない。結局あれは夢だったのか、現実だったのか。分からないし、思い出したくもない。でも、知らなければいけない。

 

「ちょっと、昨日は何であのまま部屋に籠って」

 

「ごめんなさい。ちょっと、色々あって」

 

「色々って。何か悩んでるみたいだけど、本当に大丈夫なの。もしかして昨日言っていたお友達と何か」

 

「大丈夫だよ!!」

 

自分の中でもわかる。今の態度は絶対にこちらに非があった。誤魔化すように、にへらと頬を緩ませる。先ほどの事なんか何も無かったかのように。俺は上手く笑えているだろうか。

 

大体あんなにムキになってわざわざ自分からそれが関係しているとばらしている様なものだろう。大丈夫、大丈夫だ。今日もいつも通りあそこに行ったら、ちょっと仏頂面な彼が俺に気付いて少しだけ目が優しくなるんだ。

 

不穏な視線から逃げるように準備を済ませて外に出る。あれは俺の見ていた夢では無いだろうか。だって、親が子どもに対して、あんなことをするわけがないから。気がちょっとだけ楽になる。

 

俺はいつもの道へと進む。根拠はないけど、大丈夫。

 

 

 

「ああ、雄二。おはよう。外は本当にいい天気だな。今日は何をして遊ぼうか?」

 

良かった。今日もいつもの葵だ。大人びた口調の割に高めの声も、自信がありそうに見えて本当は臆病なところも。

 

それに、彼もそのことに対して何ら触れてこようともしていない。もしあのことが現実にあった事であれば、言わない理由がないじゃないか。だから、あれは悪い夢だ。くよくよしていても仕方が無い。

 

「うーん。いい天気だし外で遊ばうよ」

 

「そうだな。僕は走ることに関して自信があるんだ。鬼ごっこでもなんでも負ける気はしないぞ」

 

何となく、自信満々な彼の顔を見て見返したいなと思った。何とか負かしてやりたい。しかし、勝てる気がしない。そこまで言うという事はよっぽどなのだろう。なら。

 

「じゃあかくれんぼしようよ。中でも外でもありで」

 

「かくれんぼか。なら僕が隠れる役でいいよな。遊びはそっちが決めたんだし。あと負けたほうは罰ゲーム有りで」

 

「もちろん。それじゃあ、30数えたら探すから」

 

足音が離れていき、一つ一つ数字を数え始める。負けられない理由が出来た。別にこれが得意という訳でも無いが、葵よりはここにいる歴が長い。どちらかと言えば有利だと思う。

 

彼の身体は大きい方ではないので、こちらの思いもよらぬところにいるという事もあるだろう。しっかり念入りに探そう。

 

不必要なまでに念入りに頭を動かす。そうしなければいけない。もう時間だ。さあ、葵を探しに行こう。そういえば、今日は季節の割にとても暑い。なのにどうして長袖を着ていたのだろうか。

 

 

 

「やれやれ、参ったよ。まさか僕が出て行くまで見つけられないなんて。少し本気を出しすぎたかな」

 

「も、もう一回!今度は俺が隠れるから」

 

胸を張り、得意げになるのを見て悔しくなる。まさか直ぐ横にあるロッカーの中にいると思わなかったのだ。

 

返事を待たずにそこを後にする。急いで場所を探さなければいけない。待っているときは長く感じた時間だが、いざ追われる立場になるとなるとやけに短く感じる。

 

ええと、時間がない。結局何の捻りもなく戸棚の陰に隠れることにした。

 

ここは部屋の隅にあるので案外見つかりにくいかもしれない。また、物が陰になっていて周囲の状況も見る事が出来る。そう考えてみると意外と悪くないところに思えてきた。

 

そーっと、音で気付かれないように注意しつつ葵の動きを探る。あ、いた。どうやらそこそこに苦戦してくれているらしい。額にへばりついた綺麗な黒髪からそれが分かる。勝ちの目が見えてきた。

 

でも少し、いや大分焦っている様に見える。頭をしきりに動かしている。目からも焦燥感が伝わってくる。どうやらかなりの負けず嫌いらしい。俺に負けるのはきっと悔しいのだろう。

 

時間が経ったがまだ見つかっていない。彼は見当違いな方向である外に出て行っている。まだ油断して良いはずだ。俺が見つかるまでの時間はとっくに過ぎた。出て行って勝利宣言でもしようか。

 

分かりやすい位置に移動すべく腰を上げようとする。しかし目の前に見知った人物がこちらを見下ろしているのを見て、その動作を止める。表情は暗くてよくわからない。

 

「やっと見つけた。しかしよくもまあ僕がいいと言っていないのに逃げてくれたね。このままいなくなっちゃうかと思って、でもいて、本当に良かったよ。うん。よかった」

 

明るいところに出て彼が泣いていたことに気が付いた。目元が若干腫れている。外に出たときに目に砂でも入ったのだろうか。そんなこと言われても恥ずかしいだろうし、俺は何も言わないことにする。

 

何故俺は少し怒られている感じなのだろうか。これは交代交代でやっていくものだとばかり思っていたが、そこの意識の差が原因かもしれない。なら役割を決める意味も無かったし。これは反省しよう。

 

「そういえば結局お前は僕の事を見つけられなくて僕は今見つけたよな。それなら今回は僕の勝ちだよな」

 

「いや、それはどうだろうか。寧ろ俺の方が隠れた時間は長かったと思うぞ」

 

痛いところを突かれたとばかりに途端に押し黙る。苦虫を噛み潰したような顔をして目を吊り上げて睨んでくる。全然怖くない。

 

「それは、そうだけど。それを言うなら僕が出て行かなかったら一生探し回っていただろう」

 

「でも時間にしたら俺の方が長いぞ」

 

「…分かった。何をしてほしい」

 

そういえばすっかり勝負の事を忘れていたが勝った、よな?そういう事にしておこう。うーん、別に何かしてほしいわけでは無いし特に何も考えていない。

 

そうだ、俺も知りたいことがある。逃げてはいけないしはっきりさせる必要がある。腕を守るように身を縮めるのを見てよりそう思った。

 

「じゃあさ、俺の家来てよ。お母さんに今度友達紹介してって言われてたんだ」

 

「えっ、あ、うん」


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