いつもの道、いつもの風景。何度も通ったはずの所が随分新鮮に感じられる。それもこれも全部後ろからとことことついてくる彼、葵のおかげだ。
負けた弱みにつけ込んだ俺の急な誘いだったが快く受けてくれた。いずれ機会を見てこうするつもりではあったが、それが少し早くなっただけだろう。
それにしても不思議な気分だ。足が自然と早くなる。身体が動揺を訴え、心臓もうるさい。分かった。だから落ち着いてくれ。
大体な話、あちらの家には一度行ったのだ。それの逆をするだけで何もおかしなことは無い。
いや、もしかしたら葵も昨日いつも通りのクールな表情で取り繕っていただけでこう思いながら色々考えていたかも知れない。
希望的観測ではあるが、思うだけこっちの勝手だ。いずれ俺の中の葵は現実とは似ても似つかないポンコツになってしまいそうだ。
自分としては真っ直ぐ家に向かっていたつもりだったが、一本道を間違えてしまっていた。こんな事初めてなんだから仕方ないはず。多分。
このままいくと回り道になってしまうので迂回をしようか。そんなことを考えていると自然に足が止まってしまっていたようで。
「わっ、急に止まらないでくれ。びっくりする」
俺の背中にもたれかかるようにしてそのままぶつかる。体重が感じられないほどに衝撃が少ない。足で踏ん張る必要すらなさそうだ。
昨日の事を思い出す。そこまで隅々まで見渡したわけでは無いが、パッと見て食べ物はどこにも見当たらなかった。その辺も含めて今日色々聞かないとダメそうだ。
葵は小柄だ。俺なんかよりもずっと聡明で、何もかも優れているが何となく守ってあげたいな、そう思った。
「ここ、ここ。着いたよ」
「あぁ、ここがお前の家か。うん、覚えておくよ」
ひとまず次回がありそうでほっと一安心する。お母さんには何も言っていなかったが大丈夫だろうか。大丈夫じゃなくてもここまで来させてしまった以上どうにかしなければいけないが。
ノブに手をかけて、開く。言う言葉はもう既に決まっている。
「ただいまー」
「おかえりー。今日はどうだったーってあれ、この子は友達かな?」
「こんにちは。僕は信楽葵と申します。雄二くんにはいつもお世話になっていまして、今日はお邪魔させていただきます」
「お母さん、この子がこの前言っていた友達。急だけど家で遊んでもいいかな」
言い掛けながら迎え入れた母だったが、俺の横にいる葵を見て少しびっくりしている。特に何も言っていなかったのでそうなるだろう。
俺もこういう時にどうしていいか分からなかったけど、大事なことは伝えたつもりだ。大事な友達だという事を。
横にいる葵は慣れたようにペコリとお辞儀をして挨拶をしている。転入してきてたまたま馴染めなかっただけで前はよくこういう事をしていたのかなとか思うと少しもやもやした。
しかし、しきりに目を泳がせる姿を見て虚勢を張っているだけなんだとわかると逆に心が温かくなってくる。
「勿論いいよ。葵ちゃん雄二と遊んであげてねー」
「いや、お母さん葵は」
「ありがとうございます。ほら、早く部屋に行くぞ」
あの時の俺の様に女の子と勘違いしているお母さんを見て訂正しようかと思った。だが、何故かは分からないけど葵が強引に話を遮りそのまま部屋に行くことになった。
きっと葵も遊ぶのが楽しみで、結果として急いでいるという事なのだろう。普段はどんなくだらない俺の話でも最後まで聞いてから返してくれるので、やはりワクワクしてくれているのだ。
そんなことを考えながら、俺の部屋が分からないのに手を引っ張って進む葵。しばらくそこらをウロウロしているという珍しい葵の変な一面を見る事が出来た。そんなに広い家でもないので見つかったことは見つかったけど。
「ところで、今日は何で僕を誘ったんだ。いや、別に嫌だったとかそういう訳じゃないが、急なものでとにかくびっくりしたかな。何をして遊ぶ」
目を輝かせ、ソワソワした様子で聞いてくる。残念ながら、そういう事じゃなくて。部屋の鍵をしっかり閉めたことを確認してから言う。
「ちょっと今から服脱いでくれない」