TSヤンデレもの   作:サラメンス

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説明

「TS病?あれって本当にあったんだな」

 

「ああ、僕もまさか自分がかかってしまうとは思ってもいなかったよ」

 

先程までは少し錯乱していたのだろう。何故かこちらに向かってキスをしてきたがあのままだと俺の方も危険になってしまうのでどうにか理性を保って引き剥がした。

 

「…。いや、何も言うまい」

 

何故か睨んでくる。整った顔立ちからの射抜くような視線に一瞬怖くなる。だが、赤くなった頬を見てそんなことは杞憂だとわかる。

 

それにしても、改めて葵を見てみると前までの違いがはっきりとわかる。全体的に丸くなった造形は痩せているはずなのに何となくむっちりとしているようにも思える。

 

時折見せてくれる髪を耳をかける仕草などは変わらないが、それにしても本当に葵なのか半信半疑になってしまっている。

 

TS病は今のところ不明なことが多すぎる、とどこかのテレビでやっていたのを見たことがある。大体ここ数年でぽつぽつと症例が出始めている。何故、どこから、どうやってかかってしまうのか。何もかもが黒いベールの下に包まれている。

 

その病気にかかって身体に及ぼす影響は実にシンプルな一点のみである。性別が逆転してしまうということはとてつもないイレギュラーではあるが。

 

それに年齢、場所などは関係ない。全世界で100万人に一人程度の確率とも言われている。身体の変化自体も個人差はあるが一晩で終わることが多いようだ。近くにいる人にとってはある日、全くの別人が横に降って落ちてきたようにも思えるだろう。

 

死んでしまう事は今のところ確認されていないし、その変化に伴って何か重大な病気にかかりやすくなるなどといったことは一切ない。寧ろ変化する前に比べて調子がいいと言う人さえいるほどだ。直後は自分の変化に伴い混乱してしまう為大多数は何をどうすればいいのか分からないが。

 

一番の問題、容姿についてだが、大きく変わってしまう人も多いらしい。そしてほとんどが美男美女と化す。もっとも、年齢に変化はないため例えば老人が変化してロリババアに、というのは有り得ない。そして元の容姿に影響されずに大きく変化することが多い。

 

葵は昔から可愛かったということもあるのだろうが顔の大まかな作り自体にほとんど変化は見られない。勿論突き詰めていけば小顔になっていたりするのだろうが、それはまぁ見間違いだったで済む話だ。

 

大きな変化がない以上、あまり葵が変わってしまったと思う事が出来ない。全くの別人であれば逆に納得できるのかもしれないが、今回はそういう訳でもない。

 

そして、現実問題として極低確率であるこの事象が起こってしまう事が有り得るのだろうか。実は葵に双子の妹がいてドッキリでしたーなんて言われる方がずっとありそうな話だと思う。

 

可愛い。葵は可愛い。だが、男だ。なんだかんだで友達としてバカなことをしていた頃が最高に楽しかった。その関係が壊れそうで怖い。

 

「キミに一つ、聞いてもいいか」

 

「キミ、だなんて随分と雄二は水臭いことを言うじゃないか。僕とお前の仲だろう」

 

話せば話すほどに彼と重なる。心の中の俺が認めてしまえばいいじゃないかと囁く。いいや、まだだ。兄弟などであれば似ることもある。大丈夫だ。

 

先程までの上機嫌さから一転、目を吊り上げさながら烈火のごとき怒りを感じる。俺も親友である葵にそんな態度を取られたら嫌だろうな、とは思いつつも自分はそうしたくない。

 

「いいや、君は恐らく葵の妹である、ええとそうだな、蒼歌とかだろ」

 

「やれやれ。茶番をいつまで続けるつもりだ。僕だって驚いているが、これは紛れもない事実だ。女になった僕は抵抗できずに実の父に犯されかけていたところを君に助けられた」

 

熱を持った視線を向け、こちらの目の奥をのぞき込んでくる。罰が悪くなって逸らそうとしたかったが、そんなことをさせてくれるような彼女ではない。

 

正面まで近づいていた彼女に顔をひんやりとした細い両手で固定される。逸らすのは許さないとばかりに、深い深い闇に落ちていく。

 

「いいか。君にとっての僕とはなんだ。友達か?もしそうだとしても」

 

気付けば彼女は一糸まとわぬ姿になっていた。シミ一つない綺麗な肌には青黒い痕がはっきりと確認できた。

 

「お前は僕から逃げただろう」

 

やめてくれ。

 

「痛かったよ。何度も、何度も、理不尽を叩きつけられるんだ。わかるか」

 

もう、わかってる。

 

「女になって、非力になって、僕はわかった。やられる側だってことを」

 

ああ、そうだ。いつも怯えていたはずだ。

 

「なら、やる事はもう、わかるよな」

 

今度はもう。

 

「逃げない。前みたいには絶対にならない」

 

その言葉を聞いて満足したのだろう。穏やかな笑みのまま、こちらに倒れ掛かって来た。色々とあって疲れていたのだろう。そのまま眠り始めた。相変わらず軽いけど、それでも少しだけでも重荷を取れたら。そう思った。

 

 

 

ひとまず起こさないようにとベッドまで運んで急いで毛布をくるませる。枕元に今の彼女でも着られるであろう、俺のジャージを置いておく。

 

本当はそんなことないのに、いつも気を張って不愛想にしている。しかし今は穏やかな表情を見る事が出来る。憑き物が取れたかのように晴れやかな彼女を見て、根拠はないけどこれで良かったのかなと思った。

 

そんなところをのぞき見してしまい、何となく見てはいけない様な罪悪感に駆られる。今の葵はもう女の子なわけで、寝顔を見続けるわけにもいかないだろう。

 

別にこれは逃げたとかそういう訳じゃないからな。これじゃあ誰に言い訳をしているんだかよくわからない。何をするでもなく居間まで向かう事を決め、そそくさと移動した。

 

部屋の扉を閉め、ふと振り返る。いつもの見慣れた場所のはずなのにこの中に葵がいるのだと思うと、変な感じがする。やっぱり可愛いな。普段から礼儀正しいので立ち振る舞いも普通に女の子女の子していたように思える。

 

変な考えが出てきそうになったのでとにかくこの部屋から離れてしまった方がいいと判断し、階段を駆け下りる。そんな乱暴にしたら大体わかるだろう。足がじんわりと熱を持ちかなり痛い。俺はバカだな。玄関前にある鏡を見て気付いたが、俺は笑っていた。

 

こんなくだらないことで笑っている。そういえば最近楽しいことも無かったな。これからは二人で笑っていきたいな、なんてちょっと格好つけすぎだな。

 

 

 

「言質は取ったからな。ふふふ」

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