緑谷出久と黒血   作:292299

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魂の共鳴

あいかわらず、体は自由にならない。

彼女の思うように動き、僕は見ているに過ぎない。

これは僕の脳が、彼女の波長に干渉されているのだろう。

僕の脳が乗っ取られて、彼女の脳として機能しているのだ。

彼女の記憶に僕が入ったのではなく、彼女が僕の脳に侵入している。

 

彼女は個性を自由に扱い、体内の血液から剣を作り出していた。

それは体積は明らかに、子供の血液量を超えている。

しかし、どこかへ血液を蓄積している様子もない。

彼女の個性は体積を変えないまま、血液を圧縮しているのか。

 

ドクターは死体を、原形すら残らないほど改造する。

僕の見たことのないドクターの姿だ。

悪意もなく殺意もなく、ただ楽しそうだった。

これは僕の妄想という訳でもないだろう。

 

ドクターは作品に愛着を持って愛称を付けている。

彼女も死体から作り出された、その1体らしい。

そんなドクターに対して、彼女は嫌う訳でも怒っている訳でもない。

 

「ボクも他人のことは言えない性癖だからなァ」

 

それは共感ではなく、後ろ向きな同情だった。

他人の性癖を悪く言えば、自分の性癖も悪く言われて仕方ない。

彼女にとって重要なのは、他人の命よりも同族のドクターだった。

 

そういう彼女の性癖は、壊れている人間だ。

死体を見ると抱きしめたくなって、胸から溢れ出る感情がある。

それは冷たい感情ではなく、温かくなるもので、それこそ彼女の愛だった。

 

病院の地下に彼女は軟禁されている。

軟禁と言っても彼女の意思に近く、強引に脱出する事は可能だ。

ドクターに言われたから地下に留まっている、その程度の理由だった。

 

そんな彼女は叶えたい夢を持っている。

愛を知らないまま死にたくない、という願望だ。

なぜか彼女は理由もなく、生き急いでいた。

与えられた命が短い訳でも、死体から作られた体が弱い訳でもない。

いつも死ぬ可能性を捨て切れず、その前に願いを叶えたい様子だった。

もしかすると死んだ時の記憶を覚えていて、それに急かされているのかも知れない。

 

「ドクター、ボクは恋をしたい。だから外に出して」

「ラグちゃんの頼みでも、それは無理じゃ。繁殖機能は付けておらん」

 

すると呆れたよう彼女は言う。

 

「ドクター、人と愛し合う方法は繁殖だけじゃないよ」

「女の子の死体なら用意できるんじゃが、それではダメか?」

 

「おねがい、ドクター。ボクは武器だから、使い手がいないとダメなんだ」

「ううむ、まだ次の製造まで時間が掛かるからのう」

 

「波長の合う相手じゃないとダメだよ。誰でも良い訳じゃない」

「知能が高すぎるのも問題じゃな。次は、ほどほどにしておいた方が良いかも知れん」

 

「ボクは恋を探しに行きたいんだ」

 

ドクターは折れて、彼女を外出させる。

その代わりとして、彼女に発信機を埋め込んだ。

ワープの個性によって、病院から離れた所へ送られる。

身元の分かる病院服は脱がされ、男の子の服を着ていた。

 

彼女は男女も構わず声をかけ、そして愛す。

彼女にとって愛すという事は、他人にとって殺すという事だ。

だからと言って殺したい訳ではなく、愛したいから殺すのだった。

でも、彼女の求める相手ではなかったらしい。

殺して、殺して、殺して、死体の中身を覗くように探し続ける。

 

そんな事をしていたものだからヴィランとして周知された。

何も知らないまま店に入った彼女は、警察官に取り押さえられる。

不利と悟って狂気の波長を解放し、人々を発狂させた。

ヒーローが駆け付けた時、すでに彼女は姿を消していた。

そうして逃走に成功した彼女は隠れ潜むようになる。

 

そんな彼女は気の向くままに移動する。

でも、僕の知っている風景へ近付いていると僕は分かった。

彼女に自覚はなくても、まるで最初から僕を目指しているようだった。

その途中で会った人を、勘違いで殺しているのかも知れない。

 

そうして彼女は誘われるように、子供の頃の僕を見つけてしまった。

その時に感じた衝撃こそ、恋なのだろう。

彼女は一目で、運命の相手と分かった。

 

でも、同性という問題がある。

だから彼女はワンピースに着替えた。

名も知らない少女の首を切断して、その服を奪った。

泣き叫ぶ保護者も同じように殺して、無感動のまま捨て置いた。

愛すために殺すのではなく、奪うために殺した。

 

そうして彼女は、僕の前に現れた。

彼女の起こした事件について僕は知らなかったのか。

きっとヒーローが絡まなかったから、見逃してしまったのだろう。

僕はオールマイトの動画ばかり見ていたから、彼女と一緒に、ずっと。

 

そして、あの日だ。

無個性と告げられて、ヒーローになりたいと願った。

彼女から見ると歪んでいた僕の笑顔も、彼女にとっては嬉しい物だった。

 

彼女の見ている世界は、僕の見ている世界と違った。

他人にとって疎ましい死体を、彼女は美しいと感じる。

他人にとって歪んだ笑顔を、彼女は好ましいと感じる。

彼女の壊れた神経回路は、視覚から入った情報を変質させている。

 

でも彼女は正常な部分によって、他人と見える世界が異なる事を知っていた。

彼女の半分は人間で、彼女の半分は人間ではない。

だから彼女は願うのだ。

 

1つになりたい。 (1つになれない)

愛し合いたい。 (愛し合えない)

同じ物になりたい。 (同じ物になれない)

私と同じものになってほしい。 (君と同じものになりたい)

 

「ーー好きです。 ("ボク"を好きになってほしい)」

 

そう言い逃げして、彼女は去ってしまった。

僕の答えを聞きたくなかったのだ。

 

愛してほしいけれど、愛されることを信じていなかった。

愛されるまでは死にたくないけれど、愛されるのならば死んでもいい。

全力で見当違いの方向へ投げつけた、投げやりな愛だった。

ここに残っているのは、彼女の亡骸に過ぎない。

 

彼女は人殺しだった。

彼女はヴィランだった。

彼女は彼女ではなかった。

 

 

君が何であっても、

それでも僕は、君を受け入れる。

君に悪い所があっても、良い所もあると知っている。

だから10年も待たせてしまった答えを返そう。

 

「君を愛している」

 

彼の波長は、僕の波長と重なった。

完全に一致した波長は、その出力を跳ね上げる。

彼の力を借りて、彼の波長を引き上げ、僕は上を目指した。

 

僕の脳内は、真っ暗だった。

上下左右も分からないけれど、とにかく上だ。

そうして脳波を上げれば、意識は起き上がって何とかなる。

 

しかし進んでいるのか、止まっているのかも分からない。

頼りになるのは、この10年で磨いた脳波を操作する感覚だ。

進んでいることを信じて、上がっていることを信じて、全力で突破を試みる。

 

「君を救いたい! それが僕のヒーローとしての在り方だ! 誰かの借り物じゃなくて、それが僕自身から湧き上がった願いだ!」

 

それは胸から溢れ出るように、自然と零れ落ちた。

 

「ーー僕は、君を愛している!」

 

僕と君は互いに愛し合って、もう永遠に交わることはない。

 

「届け! 届け! 届け! 届けぇ!!」

 

君を失ったことを受け入れ、それでも君を愛し続けよう。

君を失った痛みを、永遠に感じ続けよう。

僕は死んでも、君を忘れない。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

泣き叫ぶように心の声を上げる。

焼けるように恋をして、溶けるように愛をした。

すでに終わってしまった恋に焦がれ、過ぎ去ってしまった愛に溺れている。

 

脳内の暗闇に、光が差し込んだ。

まるで星空のように、あちこちへ光が灯る。

電気活動の活発化は、周波数の上昇を示していた。

 

ドクターの示した。

そうだ、これが、

 

「ーー魂の共鳴!!」

 

もっと早く、早くと星空へ駆ける。

駆け抜けた後の光は、流星のように過ぎて行った。

やがて世界は光に満ちて、すべての闇を打ち払っていく。

 

 

 

目を覚ますと、病院の一室だった。

閉ざされたカーテンの向こうから、淡い光が差し込んでいる。

全身に取り付けられた電極は、どこかへ情報を送信していた。

 

長い夢を見ていたようだ。

それを現実とするために、僕は手を動かそうと試みる。

しかし脳死している間に障害を負ってしまったのか、まったく動かない。

 

だから彼に頼んで、腕を持ち上げてもらった。

そうして彼の使っていた剣を出してもらう。

僕の手から涌き出た黒血は、その剣を形作った。

 

彼が遺した個性で、彼の遺した愛情だ。

これこそ彼の、終末を告げる剣だ。

 

彼の銘はーー魔剣ラグナロク

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