緑谷出久と黒血   作:292299

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鬼神

病院へ着いた時、戦いは終わっていた。

病院は封鎖され、ドクターは警察に引き渡されていた。

僕は退学の書類を提出し、学校から荷物を引き払う。

 

僕はドクターの弁護人に会ってもらった。

でも、僕が証人として法廷に立っても、逆に不利となる。

証言しても検察側に追求されるデメリットの方が大きかった。

ドクターにとって都合の悪いことを僕は知りすぎていた。

 

「彼は医療に貢献してきました! その全てをヴィランという理由で無かった事にして良いのでしょうか! 僕は個性の影響で、学校にも通えない状態でした! そんな僕に通信教育の環境を提供し、個性の治療も行って、10年の歳月をかけて人前へ出られるようにしてくれたのは、巨悪として取り上げられているドクターです!」

 

僕は町中に立って、声を上げる。

当然の事ながら、耳を貸してくれる人はいなかった。

早々に共同住宅は契約の解除を迫られ、荷物を背負って外で生活する。

と言っても黒血のおかげで、体は丈夫だった。

 

疲れないし、眠らなくていい。

物を食べる必要もないと気づいた。

これを機会に、体の大部分を黒血で置き換える。

外にいると服も汚れるので、黒血で構成した。

そうすると血は黒いので、全身が黒く染まってしまう。

まるで脳無のようだ。

 

ドクターの裁判は異常なほど早く進んだ。

オールマイトを殺した元凶を、世間は望んでいた。

多発するヴィランの犯罪に対する不満を、解消する相手を求めていた。

 

「ーーよって被告人を死刑に処する」

 

裁判官は安心する。

 

「これで翌日の朝刊で批判される事はないだろう」

 

裁判員は同意する。

 

「死刑になって当然だった」

 

傍聴人は称賛する。

 

「正義の勝利だ!」

 

誰れも彼れも、ドクターを死刑にしたかったのだ。

ベルトコンベアへ流すように、最初から結末は決まっていた。

この裁判は公正と言えるのか。

 

恐怖、不安、憎悪、不満。

人は都合のいい的に、痛みを押し付けている。

自分にとって都合のいい真実を見て、無責任に他者を批判する。

それで良いのだろうか。

 

僕は、どうしたいのか。

この裁判に納得できるのか。

このままドクターの死刑を見逃していいのか。

そう思ったから僕は、

 

「力を貸してほしいーー魔剣ラグナロク」

 

彼に頼んだ。

そうして黒剣を作り出し、裁判所の天井を破壊する。

法廷へ入れなかった僕は、裁判所に忍び込んでいたのだ。

 

「おお、ラグちゃん! 指示せずとも助けに来てくれたんじゃな!」

 

しかし急にドクターの体が吹っ飛び、ヒーローの下へ収まった。

 

「私の個性が反応しない。あの少年ーー全裸だ!」

 

ヒーローから生えた木の根が、一気に視界を埋め尽くす。

その瞬間、それとは別に凄まじい衝撃を受けだ。

 

「先制必縛 ウルシ鎖牢!」

「忍法 千枚通し!」

 

服を操る個性、木の根を生やす個性、そしてーー何だろう。

昔はヒーローに詳しかったけど、今は分からない。

今の僕にとってヒーローは目的ではなく、手段に過ぎなかった。

 

「ずいぶんと外見は変わっているが、緑谷出久だね。個性は黒血。聞いていた通り、なるほど硬いーーしかし!」

 

木の根に体を絡め取られる。

黒剣を握った腕も固定された。

でも、ここで狂気の波長を使えば市民を巻き込むだろう。

警察官によって避難誘導されているものの、まだ市民は近い。

ならば、そう、たしか、こうだったか。

 

「ブラッディー・スパイク」

 

死柄木さんの使っていたように、全身から黒血のトゲを突き出す。

それによって木の根は抉り取られ、僕の体は自由になった。

障害物の消えて通った視界に、ドクターの姿はない。

さっきの服を操る個性のヒーローに連れ去られたのか。

追わなければ!

 

「待て、少年!」

「ここは通さん!」

 

木の根と衝撃によって、ヒーローの妨害を受ける。

衝撃の方は、なにか細い物が高速で当たっているようだ。

僕は黒血を針のように射出する。

 

「ブラッディー・ニードル」

 

一方は木の根で防ぎ、一方は薄くなって避け切る。

このままではドクターを連行したヒーローに逃げ切られてしまう。

ヒーローは強く、今の僕では倒せない。

 

僕は黒剣を伸ばし、壁を貫通させる。

そのまま黒剣を振り回し、建物の構造を破壊した。

柱や壁は切断され、斬り刻まれた天井と共に崩落する。

それらを支えようと、木の根は広がった。

その隙に法廷から通路へ飛び込み、ドクターを連行したヒーローを追う。

 

おそらく服を操る個性だろう。

ドクターを抱えたまま、凄まじい速度で横へ吹っ飛んでいる。

通路の曲がり角を直角に転回する様は、何かの冗談としか思えなかった。

さっきのように黒剣で建物を破壊すれば、ドクターに当たってしまう。

いや、待てよ?

 

ーーそれにワシは無個性ではないよ

 

ドクターは超回復の個性を持っている。

僕は黒剣を伸ばし、前方の天井を斬り刻んだ。

裁判所の天井は崩落し、見通しも良くなる。

ヒーローの姿を見つけると、僕は真っ直ぐ跳んだ。

 

「周囲に与える被害も見境なしか。まさしく非道なヴィランよ」

「最後の手段は使っていませんよ」

 

「狂気の波長とやらか」

「イレイザーヘッドは来ていないのですね」

 

「教職を疎かにする訳にはいかぬだろう」

「それも、そうですね」

 

伸ばした黒剣を、軽く振る。

大地を切断しても、その勢いは衰えない。

ヒーローはドクターを抱えた状態で、それでも避け切っている。

いや、そうか。

 

ドクターの体を、僕は黒剣で貫いた。

ドクターを地面に突き刺して、ヒーローを追い払う。

 

「いだだだだだだ!?」

「ごめんなさい、ドクター。服を剥ぎますね」

 

全裸のドクターへ、僕と同じ黒血の服を構成した。

黒血によってドクターを背中へ接着する。

しかし襲いかかるヒーローに蹴り飛ばされ、僕とドクターは転がった。

ドクターを連れて、ここから逃げるのは難しいようだ。

 

「ベストジーニスト!」

 

ヒーローに追い付かれてしまった。

建物を破壊したから、すぐに分かったのだろう。

ドクターを抱えて逃げるのは無理そうだ。

 

「ドクター、超回復は半分になっても治りますか?」

「無理じゃよ。ワシ人間じゃもの」

 

ドクターの手足を切断する。

 

「ぎゃあああああああ!?」

 

心苦しいけれど、死刑と比べれば良いだろう。

しかし体の半分は無理らしいので、四肢の切断に留めた。

黒血で傷口を覆って、回復を阻害する。

これで少しは運びやすくなった。

僕は逃走を開始する。

 

「エッジショット、良いか?」

「うむ、任せた」

 

2人のヒーローは空中を吹っ飛びながら迫る。

服を操る個性で、片方も吹っ飛ばしているのだろう。

厄介な事に速いのはヒーローの方だ。

このままでは逃げ着れない。

 

しかし、もう十分に市民から離れたはずだ。

 

「ーー狂気の波長」

 

そうして止まったヒーローを置き去りにして、逃げ切る。

都市から離れ、林道を登った。

 

 

超回復によって、ドクターの四肢は生えた。

これから、どうするのかドクターに相談する。

 

「神奈川県神野区にアジトがある。まずは、そこに向かうのじゃ」

「では、急ぎましょう。夜明けを待たず、すでに追跡されているはずです」

 

明かりはなくとも、個性で追跡されているだろう。

森の中は真っ暗で、斜面も多く足場も悪い。

月明かりに照らされる林道を、僕とドクターは進んだ。

 

「来た? もう追い付かれたのか?」

 

後ろから聞こえるのは、大きな足音だ。

姿も見えないのに、足音だけ届いている。

 

「改人脳無?」

 

僕らの前に現れたのは改人脳無だった。

それと一緒にいるのは、雄英を襲撃した黒霧さんだ。

 

「お迎えに上がりましたよ、ドクター」

「おお、黒霧。よく来てくれた!」

 

黒霧さんへ駆け寄るドクターを、僕は捕まえる。

 

「ダメですよ、ドクター。また研究を始める気でしょう。いい機会だから研究は止めてください」

「それはできん。あれはワシの人生の全てじゃ」

 

「そちらは緑谷出久ですね。こちらの死柄木弔が、あなたに用があるそうです」

 

モヤモヤは何処かへ通じ、そこから出てきたのは死柄木さんだ。

マスクで頭部を覆っているけれど、放たれる狂気の波長で分かる。

自身の個性によって顔面は崩壊し、感覚の大部分を失っているはずだ。

死柄木さんの黒血で作られた大鎌を見て、それに対して僕も黒剣を作り出した。

 

「どうしても貴方を殺したいそうです」

「なぜでしょう?」

 

「死柄木弔の心に、貴方が土足で踏み入ったからですよ」

「なるほど」

 

「では先にドクターを、お連れします」

 

戦闘に巻き込む事を考えれば、ここに残しておけない。

改人脳無もモヤモヤに包まれ、僕と死柄木さんの2人になった。

狂気の波長を死柄木さんに合わせようとすると、逃げるように変化する。

少しだけ混じり合った波長の一部から、死柄木さんの心を覗き込んだ。

すると、

 

「死ね」

 

死柄木さんの波長を読み取り、死柄木さんの動きを読む。

その攻撃が来る前に、僕は攻撃が来ると分かった。

薙ぎ払われた大鎌を、黒剣で受け流す。

 

「あなたの苦しみは、すべて自身から生まれています。僕を消し去ったとしても、すぐに次の苦しみが生まれますよ」

 

自身の自殺衝動を見たはずだ。

痛みを他人に押し付けている限り、その痛みに追われ続ける。

痛みから逃れる術はなく、痛みを受け入れるしかない。

 

「あなたは何が苦しいのですか?」

 

死柄木さんも分かっていないのだろう。

波長を重ね合わせる事で、死柄木さんの脳波を読み取る。

死柄木さんが目を背けている事も、他人の僕から見れば分かった。

 

「あなたは忘れています。それを思い出してください」

 

そこに在るのは不自然に断たれた脳神経の接続だ。

でも壊されている訳でも、死んでいる訳でもない。

何度も繰り返して刺激すれば神経は発達し、やがて繋がる。

 

「あなたを苦しめている、それは何ですか?」

 

逃げ回る死柄木さんの波長を捕まえた。

そうして波長を重ね、死柄木さんの脳へ侵入する。

死柄木さんの脳を使って、僕は代わりに考えた。

 

ーー魂の共鳴

 

脳の波長を上げる。

つまり、脳の電気活動を活発化させる。

奇妙に衰弱していた脳神経へ、閃光のような一撃を与えた。

 

「ああーーおかげで思い出した」

 

死柄木さんの持っていた大鎌が崩れ去る。

 

それに続いて黒剣も崩壊する。

黒剣を握っていた腕も、崩壊に飲み込まれた。

すぐに死柄木さんから離れるものの、崩壊の拡大する速度から逃げ切れない。

 

「痛い。痛い。痛い。与えられた苦痛を忘れないーーだから、すべて壊す」

 

その感情は波動となって流れ出す。

木々は崩れ、岩々も崩れ、山々が崩壊する。

崩壊という現象は流れ出すように広がって、世界を侵食した。

 

 

 

その光景をドクターは、モニター越しに見ていた。

カメラマンとして現地にいた改人脳無と共に、映像は切れる。

また別のモニター映っているのは、椅子に背を預けた人物だった。

 

「ドクター、神でも作る気かい?」

「ワシは、どちらでもいい」

 

狂気の波長は際限なく広がり、世界を覆う。

この小さな星を包み込み、狂気の渦に沈めるだろう。

顔のない王は魔剣の出力を解放し、単体で世界を滅ぼせる領域に至った。

 

「人の世は乱れ、天地は鳴動する」

 

魔剣ギャラルホルンによって、到来は告げられた。

 

「ーー終末の刻きたれり」

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