ここでダラダラとやっていても仕方ないので、さっそく本編へどうぞ。
草木は芽吹き、体を包む風が心地よくなってきたそんな季節。
俺は気持ちの良い陽気とクラスメイトのガヤガヤとした喧騒をBGMに、机に突っ伏し瞼を落とし、ドリームワールドの入場手続きをすませた。
そんな俺を、これでもかと言うほどの爽やかな声が夢の世界から引き上げた。
「おはよう!黒沼、比企谷」
「お、おは…」
「お、おう」
このクラスで俺の名を呼ぶ。というか覚えている人間は極めて少ない。
そんなごく少数の中の一人がみんな大好き爽やか風早君である。なんなら風爽君なまである。
いやマジ爽やかすぎて爽になったわね。そしてそれを冷凍庫に潜影蛇手。
というかいきなり話しかけるなよ。友達なのかと思っちゃうだろ。
そんな無駄な思考を走らせながら顔を前にやると、何やらブツブツとなにやら呟いている彼女の姿があった。
「お前、また挨拶できなかったのかよ…」
「ひ、比企谷君がスゴすぎるんだよ…」
「いや普通だからね?さすがの俺もそこまで拗らせてないからね?てか今の俺のも挨拶ではなかったけどな」
「あれは私から言えば挨拶と言っても過言ではないよ」
そう言いながらキラキラと目を輝かせている。
「お前の中の挨拶ってそんな適当なものなの?」
基本ぼっちな俺がなぜよりにもよって女の子といとも簡単に会話しているのかは置いておき、彼女、黒沼爽子はとんでもなくコミュ障なのである。
俺に言われるほどなので、相当なものだ。
名は爽子だが、その不気味な雰囲気から「貞子」と呼ばれ一部の人間から恐れられているのだ。名前負けもいいとこである。
だが、名前どころかまず認識されているか怪しい俺に比べれば、多くの人間に知られているというのは幾分マシなのかもしれない。
頑張れ黒沼。お前がナンバーワンだ。
そんな黒沼が誰かと会話しているのが珍しいのか、先ほどから「おい、貞子が喋ってるぞ」「あいつ、平気なのか?」「てかあいつ誰」などと聞こえている。おい、最後の誰だよ。
「あれはもはや長年連れ添った親友が交わす阿吽の呼吸だよ。いいなぁ、憧れちゃうなぁ…」
「んなわけねえだろ。お前の中の友達の定義どうなってんだよ…おい、その眼差しやめろ」
キラキラに押しつぶされそうだ。実際はドロドロしてるが。なんならちょっと怖いまである。
てか阿吽の呼吸ってなんなの?まったく会話したことないクラスメイトに、勇気をだして話かけたはいいものの、「あ、うん…」ぐらいしか返ってこないってことじゃないの?
やべぇ、なんだか視界がぼやけ始めたぞ。
「よし。私も頑張ろう!」
俺のセンチメンタルな気持ちなど露知らず、気合を入れるようにグッと拳を握る。
「いやいやいや、そんな頑張るもんじゃから。むしろ頑張る方が失敗するまである」
だいたい、頑張るっつったって何するんだよ。
何?お友達ノートでも作るの?仲良くなりたい子の個人情報とか書き込んで、いつ会話しても大丈夫なようにしとくの?
ちなみに中学生のころ友達の友達がそれをしていたが、「え?なんでそんなこと知ってんの?」とドン引きされた挙句、影でストーカー呼ばわりされていた。あれ以来あのノートは開いていない。そして絶対に許さないリストに追加しておいた。許すまじ竹内。
「そ、そうなの?」
「あ、いや…まぁそうなんじゃねぇの?知らんけど」
「そっかぁ…」
…なんというか、彼女は人の言葉をそのまま受け取ってしまうタイプの人間のようで、含みのある言葉では伝わらないことはしばしばである。これも、所謂友達というものができない要因なのであろう。
「まぁ、ぼちぼちやれよ。いきなり会話は難しいだろうが、挨拶ぐらいは、な」
「う、うん。そうだよね。せっかく毎朝風早君が挨拶してくれるのに返せないと申しわけないし…」
「…そうだな。てか、お前『貞子』とか呼ばれてんだからそれ使えよ。なんのためのアイデンティティだよ」
「で、でも私霊感とかないし、嘘は良くないかなぁと…」
「変なとこ真面目なのな」
完全孤独主義な俺が、なぜ彼女を気にかけているのか。
それは、まだ希望を捨てていなかったあの頃の自分を見ているようでなんとなくほっとけなかったからである。
自分でもびっくりするほど曖昧な理由ではあるが、それが理由としては一番しっくりくる。
俺は今じゃ希望なんて持ってないし、他人にも自分にも期待していない。そんなもの持つだけ無駄だし荷物になるだけである。
やはりなんの負荷もかからないぼっちこそ最強。
だが彼女は違う。
友達が欲しい。休み時間に取り留めのない会話をしたい。放課後一緒に帰りたい。イベントに一緒に参加して楽しみたい。たくさん失敗して、間違って、それでも最後には「いい思い出だったね」と笑い合える友達が。
欲しいと願う彼女の思いは真っ直ぐで、俺はそれが羨ましくて、憧れた。そしてそんな姿が昔の自分に重なってしまったのだ。
まぁ昔つったって、中学生の頃の話だから1年も経ってないんですけどね。てへぺろ。
とまぁ我ながら臭い理由ではあるが、不思議と嫌な感情ではないのだ。
そんなふうに無駄なまでに無駄な思考を巡らせていると、いつの間にか早風がすぐ傍まで来ていた。
するとギャラリーはまた「おい、風早が貞子のとこに行ったぞ!」「呪われるんじゃあ…」「てか隣にいるあいつ誰?」
おい、だからなんで俺の事覚えてねぇんだよ。クラスメイトだろ。俺もお前の名前知らんけど。
「比企谷と黒沼って仲良いんだな」
「何をどう見たらそうなるんだ」
「黒沼、比企谷相手だと普通に会話してるし…」
「俺たち普通に会話できるからね?ただあれだから、無駄なエネルギーを消費しないために他の誰とも交流してないだけだから。省エネなだけだから」
というかなんか不機嫌だな。まぁ無理もねぇか。
俺は風早の気持ちを知っている。
というか、あれだけ見てりゃ嫌でもわかるだろ。ぼっちは視線に敏感なんだよ。
まぁ俺が見られてたわけじゃないんですけどね。
「で、でも」
「それに、俺が黒沼以外と会話をしないからそういうふうに見えるだけだ」
「そ、そうだよ。比企谷君と仲がいいわけじゃないよ。席が近くだから話してるだけだよ」
そうして俺の言葉に乗っかるように、それでいてしっかりと俺を傷つけている。
「確かにその通りなんだが、そこまでハッキリ言われるとさすがの俺も傷つくからね?」
「ち、違うよ。嫌っていうんじゃなくて」
「まぁわかってるけど…お前だしな」
うん。黒沼だし。
「やっぱり仲良くねぇか?」
そう言って訝しげな視線を向けてくる。
なんなの?そんなに好きなの?
それともあれですか。お前に喋る権利ねぇから!的なやつですか。
何それ泣きそう。明日私の席は教室にあるのかしらん?
「何が言いてぇんだよお前」
「べ、別になんでもねぇよ…」
そう言ってほんのり頬を赤く染め顔を背ける。
言っておくが、男のそんな仕草を見ても微塵もキュンとはこないぞ。
「?」
そして黒沼は、首を横へ傾けよく分からないという顔をしている。
「えっ、と…黒沼はさ!」
「は、はい!」
とそこで、まるでタイミングを見計らっていたかのように、キーンコーンカーンコーン…とチャイムが鳴り響いた。
残念ながらタイムアップらしい。
「「あっ……」」
2人は少し気まずそうに目を合わせ、そして風早は口をもごつかせながら自分の席へと戻っていき、黒沼もなんだか申しわけなさそうな顔つきで黒板の方を向く。
まぁあれだな。前途多難って感じだな。
肩を落とす風早と、一段と黒いオーラを放つ黒沼を後目に、そんなことを考えていた。
いかがでしたでしょうか。
初っ端なのでこの先の展開は未定ですが頑張っていこうと思います。