ヤンデレのヒロインに死ぬほど愛されて眠れない13日の金曜日の悪夢   作:なのは3931

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ランキングに乗っててビックリ
ありがてぇ…


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 レオンはある日外で遊んでいた。あくまで家のすぐ傍の道路脇程度のものだ。

無論親も庭の直ぐ傍に居たし、自分も道路に出たら危ないことも分かっている。

 まあ人通りも車の通りも殆どなく道路で遊んでもあまり問題無いように思えるが…。

 

ふと歩道を見ると少女が立っているのが分かる。

 

 隣の家に住む少女のナンシー・トンプソンだ。

同じクラスに居る子だから覚えている。クラス写真も撮った。

 

 

「やぁ、ナンシーだったっけ?そんな所で突っ立って何をしてるんだい?」

 

「……レオン、くん…?」

 

気まぐれで声をかけたが彼女が涙を流している事に気付いた。

 

「何故…泣いてるんだい?」

 

「ひっく、猫ちゃんがぁ…」

 

 彼女が指さした先には猫の死体があった。

身体が轢きつぶされ赤い部分が露出している。

大方車にやられたんだろう。この町で車に轢かれるなんてドジな猫だと思った。

 

「死んじゃってるね」

 

「えっぐ、うん」

 

「内臓が飛び出ているね、グロいのが苦手なのかい?」

 

「そんなんじゃないわっ!!」

 

いきなり声を荒らげるナンシーに思わず驚愕したが、まったくもって意味がわからない。

 

「じゃあなんだ?血しぶきで服が汚れた?それとも弾けた肉片が体にぶつかったのかい?」

 

「なんで分からないの…?悲しいのよっ…!」

 

「悲しい……?」

 

猫が死んで、悲しい。その理由が上手くピンと来なかった。

 

 

「本当ならもっと生きれた筈なのに…可哀そうだわ」

 

 

 可哀想?生き物が早く死ぬと可哀想なのか?

事故で死んだなら避けられなかった猫の生存力の限界だったという事だ。何を悲しむことがあるのか?

 

「寿命が来る前に死んだならそれだけの命だったって事じゃないの?」

 

「違う!命が理不尽に奪われることはあってはならない事よ!」

 

「それが、許せないの?」

 

「許せないし、辛くて…悲しいの…」

 

 

 

まただ。また、悲しい。

 

 

「君が轢かれて死んだわけじゃないだろ?君は痛くも無いし苦しくもない筈だ。体は万全なんだから」

 

「違うわ、違う。体じゃなくて心が痛いの…」

 

「ココロ……?」

 

心臓が痛いという意味でもないんだろう。ならやはり感情ということか。

 

 

「誰だって大事な物が壊れたり、大切な人や生き物が死んだら悲しい筈よ…?貴方にはそういうモノが無いの?」

 

 

失ったら嫌なモノ、辛い者。自分にはたった一つだけ心当たりがあった。

 

 

「先生……」

 

 

フレデリカ先生、優しくて、綺麗で、カッコイイ。自分にとっては無くてはならない存在だ。

 

もし彼女が唐突に居なくなってしまったら…

 

 

「悲しい、かもしれない」

 

彼女が死んでいなくなるなんて嫌だ。僕はそう思った。

 

しかし納得した事で新たな疑問が湧き上がる。

 

 

「でも、その猫は君が可愛がっていた猫なのかい?」

 

「いいえ、違うけど…」

 

 

そうだ。彼女が猫を飼っていた様子は無かったし、どこかの猫と親しくしていた記憶もない。

 

「仲の良い猫じゃなかったなら悲しむ必要なんてないじゃないか」

 

「そんな事無いわ!無関係だとしても生き物が死んだりしたら悲しいもの!」

 

「でも僕たちが食べる肉は生き物を殺して食べるよね?虫は平然と殺すし害獣や害虫は率先して殺す」

 

「そうね、生きてる内には命を奪わなければならない事もあるし奪われる事もあるわ。だからこと限りある命を大切にして不用意に奪うべきじゃないのよ」

 

成程、少し分かった気がする。

 

 

「でももう悲しむのは止めなよ。命を失って悲しみ続けるのは辛いだろ?牛や豚の加工場を見に行った事がある。一々悲しんでいたら辛いだけだよ」

 

「そうかしら…?確かに悲しい事も乗り越えなければならないわ。でも死を悲しむ事は悪い事かしら?」

 

「悲しむのは心が弱いからさ。死に慣れて心を強くするべきだ」

 

先生が言っていたような事を語るがどうやら彼女は受け入れられないようだ。

 

 

「それは、違うわ。違う。誰かが死んで悲しいと思う事は誰かを思いやれるってことだわ」

 

 

 

(思い、やる…?)

 

 

「誰かを思いやれるという事は素晴らしい事だわ。それは強さよ。弱さなんかじゃない」

 

「強さ…」

 

「誰かを思いやり、優しくなれるから、人は支え合える。共存できる。世界ってそうあるべきだと思うの」

 

 

それは世の中を知らない、子供の綺麗事だった。

 

実際はそんな世界じゃない。世界はそんなに優しくは無いし、優しさの裏には利益が隠れているものだ。

 

 

 

だが…そうであろう、そうでありたいと願う彼女の言葉でレオンは自分の中のナニカが変わったきがした。

 

先生と過ごし、想う日常は素晴らしいモノだった。彼女に優しくされたからこそ今の自分があるのだ。

 

 

「…猫を動かそう」

「えっ…?」

 

 

ふと呟いた自分の言葉に彼女は理解が追い付いて無い様だった。

 

 

「このままじゃ…きっと、可哀想だから……」

 

「っ…!?そうね……そうだわ…」

 

 

その後、猫を運び出し土の中に埋めた。

 

血と泥で汚れたのを親に見られた時は怒られたが、正しい事をしたと自分の中では思っている。

 

 

 

この日、たった一人の少女との出会いで起きたことがレオンの中の価値観を一変させた。

 

フレデリカが手塩にかけて育てた曇りなき邪悪な思想は、純粋な子供の慈愛の心によって歪んでしまったのだ。

 

 

 

そしてフレデリカの不幸はそれだけでは済まなかった。

 

 

この日を境に完璧に世間を欺いてきたメッキがメキメキと剥がれることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それは本当かい?」

 

 

「うん、地下室でママとレオンくんが二人っきりで遊んでたの」

 

フレデリカの娘キャサリンはフレデリカの旦那でもある父に真実を語った。

 

「本当に二人は…裸で遊んでいたのかい?」

 

「うん、色んな物や玩具で遊んでた」

 

「…遊んでただけじゃあないか?」

 

「ううん、抱きしめ合ってキスをしてた。何度も何度も」

 

 

何ということだ。出会った時から子供が好きだと言っていたがまさかそういう事だったとは。

 

思えば彼女は最初から子供が欲しい様子だった。

 

彼女の様な美女から迫られて男としては天にも昇る気持ちで行為に及んだが、娘が出来た後はあまりそういう行為は行わなかった。

 

幼稚園の先生になろうとしたのも下心あっての事だとでもいうのか?

 

 

(確かめなければ…)

 

「キャサリン、僕はちょっと倉庫に行ってくるよ」

 

「地下室に行くの?」

 

「そうだ、ママはもしかしたら隠れて悪い事をしているかもしれない、調べて来るよ。ママには秘密だぞ。絶対だ」

 

そう言って父親は地下室へ向かった。

 

その先に何が待ち受けているかも知らずに…。

 

 

 

 

「ふふ~ん♪ふ~~~ん♪」

 

 陽気に車を運転しながらフレデリカは帰宅していた。

今日も一人少女をイカせてきた所だ。

 

自分の欲望を解放した事で気分良く明日も過ごせそうだと呑気に思っていた。

 

彼女の歪んだ日常が今日崩壊する事も知らずに…。

 

 

 

「ただいま~帰ったわよぉ~!」

 

玄関を開けて家族を呼ぶ…が、反応が無い。

 

不思議に思い居間に行くと娘が座っていた。

 

「あら?ちゃんといるじゃなぁい?」

「…お帰りママ」

 

出かけていたわけではないらしい。

 

 

しかし娘は居るのに面倒を見ている筈の夫が居ない。

 

「キャサリン、パパはどこ?」

 

「えっと、今は居ないみたい」

 

 

居ないって事は無いだろう。車は車庫にあったしいつも着ていく上着もある。

 

外に行った様子もない。

 

夫の書斎や寝室、風呂場も探したが見当たらなかった。

 

 

まさか、そんな事…あっていい筈がない。

 

「……キャサリン、パパはどこに居るの?」

 

「し、知らないよ…」

 

 

 

 

「答えなさいッッッ!!!」

 

 

気付いたら娘には出したことの無い怒号を浴びせていた。

 

娘はビクリと慄き、目を伏せた。

 

 

「…地下室に行ったのね?」

 

ピクッと揺れた後、驚愕の表情をしていた娘はなおも口を噤んでいたが最早語るまでもなくその反応が夫の居場所を表していた。

 

 

「ちょっとパパの所に行ってくるわ」

 

「ッ、パパはッ…!?」

 

「約束を破る人にはお仕置きをしないとね。貴方はここで待ってなさい」

 

 

 

 その後震える娘をよそに急いで地下へ向かった。

もしもあの男が中の隠している物まで見ているとしたら…

 

 

消さなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

そこは酷い空間だった。

 

多量の機材が置いてあり薬品や油と何やら分からない異臭がそこはかとなく漂っていた。

 

取っ散らかった中で一際異彩を放つのは中央に置かれたベッドと端に取り付けられたシャワーだろうか。

 

ベッドをよく見ると盛り上がっている。何かがあるのだ。

 

毛布を捲ると、そこに居たのはグッドガイ人形だった。

 

初期衣装の服は取り払われ、下には大人の玩具が取り付けられていた。

 

「なんということだ…」

 

娘の言う事は真実だった。

 

そして先日、少年を家に呼んだ事を鑑みるに…

 

 

「あの子に手を出している…!?」

 

自分の妻の不貞、それも明らかな異常性癖に戦慄し更に辺りを見渡す。

 

もしかしたら彼だけではないかもしれない。

 

ふと、小綺麗な棚が目についた。

 

証拠があるかもしれない!

 

そう思った彼は引き出しを開け中の資料を拝見した。

 

 

そしてそこに記されたモノは彼の想像を遥かに上回る物だった。

 

 

「なっ!?なんだ!?これは…!!?」

 

 

何をされたのか想像すらしたくない、恐らく子供の写真。

 

そのおぞましいまでの姿に恐怖と吐き気がこみあげてくる。

 

 

「うっ!?オゥエエエェ……」

 

信じられ無い、人間の所業じゃない。妻は何故こんなものを?

 

その時、写真の横にある文章が目に付いた。

 

子供達の詳細な情報、殺し方、そしてそれらをなした者の恐ろしい記録。

 

まるで夏休みの子供の絵日記の様に嬉々として殺しの感想を書いているのが理解しがたかった。

 

 脳が狂気なる文字を理解する事を拒否して、文から目を離した時、気付いた。

子供達の写真をもう一度見やる。

 

写真は残虐な物の前におそらくはその被害者であろう子供を写していた。

 

それらの姿にはいずれも見覚えがあるのだ。

 

顔写真の横の文字の方へ目を移すと、やはりそうだ。

 

中には詳細な個人や住所を表す物が幾つかあった。

 

 

 

そしてそれらは此処、スプリングウッドを示していた。

 

つまり彼等はこの町で行方不明となった子供達だったのだ。

 

原因不明の行方不明事件、子供が居る家庭には警察からも注意喚起されていた。

 

当然我が家もそうだったし妻に至っては子供を預かる幼稚園の先生だ。

 

一層注意しなければならない立場だ。

 

 その妻の秘密の部屋に何故こんな物がある?

ああ、違う本当は分かっている。だが認めたくない。理解したくない。

 

あの優しい妻がこんな恐ろしい事をしているなんて信じたくはないのだ。

 

だが本当にそうだとして?妻が帰ってきて僕がこの書類の中身を見た事に気付いたら…。

 

(妻が帰る前に戻らないと…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしているのかしら?」

 

 

 

 

 

 

「?!や、やあ帰ってたのかい?」

 

見つかった。

 

「この中には入っちゃ駄目だって約束してたわよね?」

 

「ああ、そ、そうだったね。つい忘れてたよ!」

 

「なんだか挙動不審ね?汗も凄いし」

 

「そりゃあ怒られそうな時は焦るさ、うん…。この部屋籠ってるし汗もかくさ!」

 

「そう?私にはまるで……」

 

 

 

 

 

 

「見てはいけないモノを見てしまった様に思えるケド?」

 

 

 

マズい…!?バレている!?確実に!?

 

妻をなんとか説得しなければ。

 

「も、もうあんなこと止めるんだ!」

 

「へ~ぇ♪やっぱり見てたんだァ…。」

 

「二人でやり直そう!生まれ変わるんだ!一緒に!」

 

「そうね…心機一転やり直さないとねぇ?」

 

 

妻はじわり、じわりとこちらに近づいてくる。

 

 

「その為には過去を暴こうとするものは取り除かないとねぇ…♪」

 

「待て、待ってくれ!頼む!!」

 

 

 

フレデリカは右手に鈍器を持ち、こちらに振りかぶり―――

 

 

そして僕の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は先生はまた先生のお家に呼び出された。

なんでも今日は僕にとって特別な日になるとか言っていた。

 家の中にお邪魔し、居間に連れられると、準備があると言って先生は席を立って行った。

 

 

「ねぇ、レオン君…」

 

 先生が居なくなったのを見計らったかのようなタイミングで声をかけられた。

先生の娘のキャサリンだ。

 前に会った時は朗らかで明るいイメージがあったが、今日は表情が暗く今にも泣きだしそうな顔をしている。

 

「どうしたの?ひどい顔をしているけど…?」

 

「パパがね、帰ってきてないの…」

 

 

パパ?先生の旦那さんか。物静かで優しそうなイメージがあったがどうしてしまったんだろう。

 

「どういうこと?いつ居なくなったの?」

 

「あのね、ママがレオン君と地下室に入ってくのを見たって言ったら、パパが地下室を見に言っちゃったの」

 

 

成程、あの日の事を見られていたのか。

 

「それから?パパは戻って来たの?」

 

「ううん。その前にママが帰って来ちゃったの。それで怒って地下室に行っちゃって、その後ママだけしか帰ってこなかったの…!」

 

「先生だけ?旦那さんは帰ってこなかった?先生は何か言ってた?」

 

「パパは悪い事しちゃったから、喧嘩して…追い出したんだって…」

 

 

 先生がそれだけ怒ったのか?なんの理由があって?

確かにあの部屋は秘密の部屋だと言っていたが、それほど問題になる物があるようには見えなかった。

 いや、前に来た時は詳しく詮索なんてしていなかった。

もしかしたら自分も知らない秘密が何かあるのではないか?

 

キャサリンの方を見る。先程会った時から辛そうな顔をしていたが、語っていくうちに涙を流していた。

 

彼女は悲しんでいる。大切な家族を失って。

 

 

「パパが居なくなるなんて嫌だよぉ…」

「…分かった。僕もパパの居場所を探ってみるよ」

 

「本当?」

「うん」

 

 

 先生は多分旦那さんがどこに行ったか知ってる筈だ。

聞いてみたら分かるかもしれない。

 

「レオーン、こっちに来て頂戴~」

 

「っ!?ママだ…!?」

 

先生が近づいて来るのを察してキャサリンは自分の部屋の中にそそくさと隠れてしまった。

 

先生は僕の目の前に現れると肩を抱いてあの部屋へ連れて行こうとしていた。

 

「ねぇ、旦那さんはどこに行ったの?」

「ああ、()()()?その事に関しては地下室に行ったら話すわ」

 

旦那さんの事を尋ねた時には、普段の彼女からは想像もできない冷たい反応が返ってきた。

 

おかしい、今日の先生は変だ。

 

地下室に入り先生はドアに固く鍵を閉める。

 

「今日はレオンには遂に一人前になってもらおうと思ってるの♡」

「…一人前?」

 

地下室を見渡していたら先生からよく分からない発言が聞こえた。

 

「そう、一人前の人殺し。自分の身や大切なモノを守る為には戦う事も必要となるわ。そんな時に此方を傷付けようとする人間を殺せなければ大変な事になってしまう。だからいつでも殺せるように慣れておかないとね?」

 

 

人を殺す…彼女はそれを当然の様に語っていた。

以前の僕ならそれを平然と受け入れていただろう。

 

だが今はどうだろうか?

 

 少女のナンシーと話した事を思い出す。

彼女は死を悲しみ、それを平然と受け入れてはいけないと語っていた。

 しかし世の中は正当防衛という言葉がある。アメリカは治安が悪いし事件に巻き込まれる事もある。

犯罪者は銃を持って殺しに来るが住民は銃を用意して守る権利がある。

警察は犯罪者を殺すし戦争では人は人殺しを正当化している。理由ある殺人なら許されるのではないか?

 

自分でも正直分からなくなっていた。

 

 

「レオンは私を好き?愛してくれる?」

「…もちろんだよ先生。僕は先生を愛している」

 

僕の言葉を聞き、先生は顔を染め、天を見上げて心の中で何かを叫んでいた。

 

「もちろん私もよ、でもね。私達の愛を邪魔しようとする人間がいるの。こいつよっ!!」

 

先生は診察台の様なものに被せていたシートをどけた。

 

そこに居たのは全身を拘束され猿轡をされた彼女の夫だった。

 

「旦那さん…?どうしてこんなところで捕まっているの!?」

 

「こいつは私達が愛し合っているのを妬み、その関係を壊そうとした。言ったでしょ?私は人妻だし貴方は子供。世間一般では愛し合う事自体が許されてはいないしバレたら犯罪になるわ。だからバラされる前に捕まえたの」

 

「ン゛~!ン゛ン゛~ッ!?」

 

彼は必至の形相で何かを伝え、縋るかのように此方を見つめていた。

 

「こいつを逃したら私と貴方は離れ離れになってしまうわ…レオンもそれは嫌でしょ?」

 

「それは…そうだけど…」

 

「なら」

 

鉤爪の付いたグローブを差し出し、僕に嵌めて言った。

 

 

 

 

 

 

 

「殺しなさい」

 

 

淡々と、冷酷にそれが当然であるかの様に言ってのけた。

 

 

「私を愛しているんでしょう?なら()()を殺してその愛を示して頂戴。大丈夫、今殺せばバレたりなんかしないわ。バレなきゃ犯罪じゃないのよ」

 

そう、多分今彼を殺した方が万事うまく行くんだろう。

 

だが彼女達の姿が脳裏に映った。

 

 

猫が死んだのを見て涙したナンシー。

そして父を心配して涙を流したキャサリン。

 

彼女等の姿想像し思った。これでいいのかと。

 

自分達の為だけに殺すなんてしていいのかと。

 

ナンシーは間違っているというだろう。

 

キャサリンは父親の死を悲しむだろう。

 

 

 

 

だから、僕は――――――

 

 

 

 

 

 

「……出来ない」

 

 

「…………なんですって?」

 

 

心底理解できない。彼女はそんな顔をしながら此方から目を逸らさずに首を傾げた。

 

 

「殺すなんてできない。よくないよこんな事」

 

「何を…!?何を言ってるの!?何を、何故…どうして!?何でなの!?貴方は殺れる。殺せる筈よ!?」

 

 

貴方はそんな子じゃないと訴えかけるが、揺るがない。

 

 

「殺せないんじゃない、殺さないんだ。殺すなんて間違っている。他の方法がある筈だ」

 

「ないわ!ないわよ!!これが一番正しいの!貴方なら分かっていた筈!何故そんな事言うの?誰に言いくるめられたの!?」

 

「誰の言葉でも、考えて、決めたのは僕だ。気付いたんだ」

 

 

「違う、違う、違うッ!!貴方は至高の殺人鬼になれる素質を持っている。私には分かるのよ!」

 

「だとしても、僕は人殺しにはならない」

 

決意を込めて断言すると彼女は項垂れ、崩れ落ちた。

 

「そんな、じゃあどうすればいいの?」

 

「もうやめよう、こんな事。やり直そうよ」

 

彼女に駆け寄り、言葉を投げかける。

 

すると彼女は涙を流しながら微笑み、呟いた。

 

 

「そうね。やっぱり良くないわね。こんな事」

 

そう言うと立ち上がって身なりを整えだした。

 

「今日はもう帰りなさい、家まで送るわ」

「先生…」

 

「貴方を帰したら主人を解放して、謝って、それで元通り!明日からまたやり直せるわ!」

 

 

 

 

その後先生は僕を家まで送り、僕に最後のキスをして、自身のケリをつける為戻っていった。

 

 

 

地下室の階段を下りていく。

 

一段一段、ゆっくりと。

 

(どうして…?)

 

固く締められたドアを開け鍵を閉める。

 

(どこで間違った?)

 

自分の非を探すが思い当たらない。強いて挙げるなら多少スケベが過ぎたことぐらいだ。

 

拘束された男を見やる。

泣きそうな面で助けを求めていた。

 

 

「あの子は才能ある、至高の殺人鬼になれた筈だった!!」

 

右手に着けた鉤爪を振りかぶり、男の体を切り裂く。

 

「~~ッ!?ン゛~ッ!?」

 

 

「誰だ!?誰があの子を変えた!?何があの子を変えたのよッ!?」

 

鉤爪を振りかぶる度に鮮血が噴出し、フレデリカの体を真っ赤に染める。

 

 

「私と同じ、殺人鬼に、理解者になれる筈だったのに!!」

 

内臓が飛び散るのも構わず、一心不乱に右手を振り回していた。

 

 

「どうして…どうしてよぉ…!」

 

「……」

 

膝をつき、涙ながらに訴えても向かいにいる人間は瞳孔を開きがっくりと項垂れ、こと切れていた。

 

 

 

 

 

その日からフレデリカの状態は徐々に悪化していった。

 

 

 レオンにはその後父と和解したと嘘をつき、娘には夫は出張に行ったと言っておいた。

警察には涙ながら夫が居なくなった事を訴えて被害者アピールをかました。

 それで平穏に生きていれば穏やかに生きる事もできただろう。だがそうはならなかった。

 

 

彼女は殺人癖が落ち着くどころか、反動で大きくなってしっていた。

 

以前は時期を見計らっていた殺人が、なりふり構わなくなっており、地元警察も大きく動くようになってしまった。

 

 

 

 

 

ある日警察が再び家にやってきた。

フレデリカは自身の失態を恥じ、神経が冷え込むのを感じた。

 

自身は夫を殺された被害者であり、追い払うような真似をする事も出来ずに事情聴取に応じるハメになった。

 

 

 

「クルーガー夫人、貴方の旦那さんが行方不明になったと言ってましたよね?」

 

「ええ、そうなんです。あの人を早く探してください!」

 

警官共は含みを持った目で互いにアイコンタクトを取った後に私に告げた。

 

「ええ、ですがちょっとおかしくありゃしませんかね?」

「…どういう事ですか?」

 

「ここ最近行方不明事件が頻発しています。ですがその被害者はいずれも未成年の子どもであり、ご主人の様な成人男性が行方不明のケースは他にありません」

 

「なにが言いたいんですか?」

 

警官は間を置いてから意味深に語り始めた。

 

 

「お宅のご主人は事件の直接的なターゲットではなく、事件に巻き込まれたか、この事件に深く関わっている可能性が高いんですよ」

 

「そんな…まさかうちの主人が!?」

 

自分でも白々しい演技だと思うが自分は何も知らない被害者の妻を演じなければならない。

 

「ええ、なので再度お伺いしたいんですが行方が分からなくなった日の朝まではご主人は家にいらっしゃったんですね?」

 

「ええ、それがなにか?」

 

 

まさか感づかれたのかと内心冷や汗が流れる。

 

「いえね、ご主人が居ないと判明した後私らはご主人の車を発見しました。お宅のご主人はいませんでしたがね。ですが一つ妙な事がありましてね…タクシーの運転手が夜に車があった近くでクルーガー夫人。貴女を乗せたと証言しているんです」

 

「……」

 

「ご主人が行方不明になる前日です。貴女の様に美しい女性が夜に一人で、何故あんな所にいたんでしょうね?」

 

 

マズい、車を遠くに隠したのがバレている。このままでは全てバレてしまう。

 

 

「ええ、本当はあの日に車で主人と喧嘩してたんです…」

 

「…喧嘩?ですか?」

 

苦し紛れの言い訳になるが言うしかない。

 

「ええ、そのまま喧嘩離れして私は車から降りて…そのまま主人は帰って来ませんでした。まさかあの後居なくなるなんて…!」

「クルーガー夫人、落ち着いて。…分かりました。本当はご主人を最後に見たのは通報した前日だった。そうですね?」

 

「…はい。そうです。疑われるのが…怖くて、つい嘘をついてしまいました…ごめんなさい…!」

 

 

咄嗟の言い訳に警官はメモを取りながら此方を見据えると呆れながら説明した。

 

 

「気持ちは分かりますがこれからはしっかりと真実を告げてくださいよ。それじゃあ」

 

「はい。すみません。主人を見つけてください…!」

 

 

その後、警官は車に戻り、帰っていった。

 

 

警官は車内で一緒に居た同僚に話しかけた。

 

「なあ、お前クルーガー夫人をどう思う?」

「綺麗な女性ですよね」

 

「馬鹿。クロかどうか聞いてるんだよ」

「確かにさっきの様子は変でしたけど、ガイシャは皆冷静じゃないでしょう?」

 

「まぁそうだな」

「あんな優しそうな女性が子供を攫いますかね?子供好きで優しく、周囲の評判もいい。犯人像からは最も遠い存在だ」

 

「決めつけるのは早計だ。これ程狡猾な連続失踪事件の容疑者だ。計算高く、上手く自分を隠しているに違いない」

「そうでしょうか?」

 

「何より怪しいのは嘘がバレたその後だ。慌てる所か一瞬で新しい前提を用意しやがった。かなり頭が回るよ、あの女は。気に食わん」

「はぁ」

 

「過去の事件を洗うぞ。フレデリカ・クルーガーの事もな」

 

そう言うと彼等はパトカーを発進し、仕事場へと向かうのだった。

 

 

 

 

マズい、完全に疑われただろう。

このままでは大っぴらに暴れる事は出来なくなる。

忌々しい警察め……!

 

上手く行かない事に腹が立ってくる。

イライラを解消したくてもそれ(殺し)が出来ない以上どうしようもない。

 

フレデリカが抱える問題は更に自分の首を絞める結果となった。

 

 

 

 

 

 

「ナンシー、さあお家に入りなさい」

「…うん」

 

娘を幼稚園から連れ帰った時、彼女の母親のマージ・トンプソンは娘の様子がおかしいことに気付く。

 

「ナンシー?どうしたの?」

 

 

心配して娘の肩を抱く。すると。

 

 

ジワリと手に湿り気を感じた。

 

不思議に思い肩を見ると服の繊維が赤く滲んでいる事に気付いた。

 

 

「ナンシー!?大変!?」

 

慌てて家の中に娘を連れ込み服を捲ると、娘の背中に無数の引っかき傷のようなものがついているのが分かった。

 

 

「酷い、一体誰がこんな事!?クラスの子なの!?ロッド?グレン?ディーン?最近来たレオンって子?!」

 

「違うの…」

 

「じゃあ誰なの?」

 

震えながら首を振る娘はその後恐るべき真実を告げた。

 

「フレデリカ、先生。毎回誰かがこっそり呼び出されて引っかかれたり傷口を舐められたりするの…」

 

 

驚愕の事実だった。こんな残酷な事をしたのは子供を守る立場の幼稚園の先生だったのだ。

 

 

警察から警戒されていたフレデリカは警察のせいで殺しが出来ないと、自分の殺人欲求が晴らせないフラストレーションから幼稚園の生徒に『おイタ』をするようになっていったのだ。

 

 

「ドナルドを呼んでくるわ、他の親御さんにも連絡を入れないと…!」

 

マージは夫の元に連絡を入れた。

 

 

 

 

「ドナルド!奥さんから電話だ!!」

 

 

フレデリカについて調べていたドナルド・トンプソンに同僚が連絡を入れてきた。

 

 

「こんな時に何だってんだ…?おい、マージ、どうした?」

 

 

『ナンシーが幼稚園の先生に暴行されたの!』

 

「なんだって!?一体誰だ!?いや幼稚園の先生…?まさか…!?」

 

ドナルドは自分の中で情報が一つになっていくのを感じた。

 

そして、妻から告げられた言葉はその想像どおりになった。

 

 

『やったのはフレデリカ・クルーガー先生よ…信じられ無い…!あんな優しい先生が娘をこんな傷だらけにするなんてっ!?』

 

「分かった、すぐ行く。待ってろ」

 

 

 電話を切ったドナルドは全身の血が沸騰するのを感じた。

行方不明者は数年に渡って発生していた。

 その数は凄まじい数に及んでおり行方不明者は大半が未成年の子供だった。

 

その犯人が娘の通う幼稚園の先生で、そいつが娘を、傷付けた…!

 

 

「おい、ドーナツ食ってる場合か、すぐにフレデリカ・クルーガーを逮捕する準備をしろ」

「おいおい一体何だってんだ?」

 

呑気におやつを頬張っている同僚をぶっ叩き車のキーを取る。

 

「行方不明事件の犯人は例のクルーガー夫人だ。奴め、痺れを切らして手を出しやがった。よりによってうちの娘にな」

 

「おいおいマジかよ…」

 

「あのアマ、絶対許しはしないぞ!」

 

 

 

 

 

自体は収束へと動き出した。

 

フレデリカはスプリングウッド市警に逮捕され、裁判にかけられることになった。




主人公のレオンの由来はラクーンシティで不幸に見舞われ続ける泣けるイケメンから取りました。
5秒ぐらいで考えました。レディ・クルーガーは2秒程でクレイジーショタコンおばさんは3秒です。後でフレディの女性名がフレデリカとかいうクッソ可愛い名前なのに気付いたので多用しております。
かなり行き当たりばったりですがよろしければこの後も本編を読んでいただくか俺がもっときゃわいいホラー美少女書いてやんよという需要が増えてくれたらそれはとっても嬉しいなって思ってしまうのでした。

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