私のところの“彼女”は、こんな感じです。
時刻は夜。場所は変わって、アポロン・ファミリアのホーム。ロキが口にしていた“神の宴”、早い話がホームパーティーが開催されている。
女性陣は美しいドレスに身を包み、男はスーツを着込んで紳士に振舞う。出される質の高い料理に舌鼓をうちながらダンスを踊ったりと、到底ながらオラリオとは思えない程の華やかさをかもし出すのだ。
豪華
もっとも、会場はあくまでホールの一室。100名ほどの人数が居るのだがオラリオ程には広くないために、自然と顔見知りと出くわすこととなるのが常道となるだろう。
そして、とある二人も入口へ到着することとなる。
「うーん……なんで僕達が呼ばれたんでしょうね、神様」
「呼ばれたからには仕方ないじゃないか、何かあったらボクを守ってくれベル君。さぁ行くよ、今日は君がボクの
それならば体格的にも実力的にも師の方が適しているのではないかと思うベルだが、流石にこの場でドンパチが起こることは無いだろう。更には生憎とロキとの間で秘密協定が交わされており、ヘスティア側はベルが出ることで決定されている。
ヘスティアは胸元が大きく開いた、青の刺繍が入った純白のドレス。これはタカヒロとベルからのプレゼントで新調した物だ。眷属からのプレゼントということで周囲に見せびらかそうと企んでおり、毛嫌いしているアポロンの宴に参加した理由の1つと言えるだろう。
一方のベルは、黒のスーツに白のシャツと蝶ネクタイというオーソドックスな紳士スタイル。それぞれ青い瞳と赤い瞳が、対照的ながらもアクセントとして生きている。タカヒロは「兎子にも衣裳」と口にしていたが、“馬子にも衣裳”とは違い、まったくもって深い意味は無い。
そんなこんなで二人は警備担当に書状を見せ、軽い礼を受けながら館へと入っていく。心なしか警備の者が憐みの表情を向けていた事に気づいたベルだが、何か手を出されたわけでもないために、特に行動を起こすことはしなかった。
「やあヘスティア、久しぶりだね。」
「げっ、いつのまに戻ってきてたんだ。何しに来たんだい……」
館に入ると、早速知り合いとエンカウントしたらしい。白のタキシードに紫のシャツで“ちょい悪”感を出しているのは神であり、橙黄色の短髪を持ち合わせた飄々とした優男、名を“ヘルメス”。
いつかタカヒロが24階層で救出した、ヘルメス・ファミリアの主神である。諸事情でオラリオの外に居たようだが、こうして今は戻ってきたというわけだ。
「つれないなぁ。君のところの眷属に、心からのお礼を言いに来たんじゃないか」
「はい?」
「へ?」
「ん?」
しかし、3人ともクエスチョンマークで妙に話がかみ合わない。上から順に全く何も知らない、かつ心当たりがないベルと、ウラノスに肩入れしているヤベー奴は知っているが活動内容までは知らないヘスティアと、多数の眷属を窮地から救ってくれたことを知っているがウラノスから口止めされているために公に出せないヘルメス、という図柄である。
そこは流石のヘルメスと言ったところで、一時的に片眉を歪めて疑問に思いながらも色々と察していた。彼自身もウラノスと関わりがあるために、フェルズと共に動いている一人の“自称一般人”の事も知っている。今までの行いも聴いているために間違ってもその人物の御機嫌を損ねないよう、何かと彼も必死のようだ。
そして別の事情で、ベル・クラネルのことも注視していた。階段を駆け上がるようにレベル“2”になったこともあり、諸事情を抜きにしても、次世代の英雄を担う存在になるとヘルメスが最も気に掛けている冒険者なのだ。
しばらくするとアスフィも合流し、やはりヘスティアに礼の言葉を述べている。心当たりのないヘスティアだが、知らないことを告げると相手もまた口を噤むために、訳アリなのだろうと深くを追求することはなかった。そのまま4人は、会場へと足を踏み入れる。
「紳士淑女の諸君、よく集まってくれた!此度は趣向を変えてみたが、気に入って貰えただろうか?」
神自身だけではなく、可愛がっている子供たちを着飾り、共に赴く。それぞれの姿を見て楽しみ、喜ぶと言うのが今回のパーティーの趣向らしい。
そんななか、アポロンが持ち得るブラウンと呼べる色の瞳は数度にわたって怪しく光り、数回にわたってベル・クラネルを捉えている。しかし据わった表情から変わらないベルは、全く動揺していないようだ。
「アイズたん、落ち着き!」
「フレイヤ様、沈静を保ってください!」
なお、なぜか部外者約2名が激おこの模様。拍手喝采の音頭に掻き消されているが、二人ともに黒いオーラが見えつつある。
背中が開いた薄緑の一枚もののドレスと肘先までを覆う伸縮性のある黒色のオペラ・グローブで美しく着飾るアイズと、薄紫を主体とした露出の多いドレスで色気を振り撒くフレイヤ。それを抑える赤髪と似た色のドレスを纏うロキと、濃い紫をベースとしたタキシードに身を包むオッタルが、なんとか暴走に歯止めをかけている状況だ。
とはいえ、互いに怒り心頭の原因と対象も同じである。その感情が同じ極の磁石のように反発でもしたのか互いの存在に気づくこととなり、数秒ののちに視線が交差した。
「ベルに……何か、用ですか?」
「今夜この子に、夢を見させて欲しいと思ったのよ」
「
「見させないよ!?」
一瞬だけ一触即発の気配になるものの、すぐさま和解。慌てるヘスティアの前で互いに右手を差し出し、軽く握って友好を深めている。
「でも、このあとのダンスは、譲れない」
「そうはいかないわ、譲ってもらうわよ」
「ヤダ」
「アンタ等はじめて顔合わせたんやろ何を張り合っとんねん!ちぃと落ち着きや!!」
なお和解していた時間も一瞬であり、即・決裂。アイズはフレイヤの名を知らないものの、気が合うのか合わないのか、よく分からない二人である。
「そうですよ。アイズさんもフレイヤ様も、僕より大人なのですから」
「「はい」」
そして、師匠譲りな据わった表情と声の前に一撃であった。これでは、どちらが年上なのか分からない。
ともあれ、この一言によって二人そろって淑女らしい態度へと一変し、ようやく暴走が止まったかとロキとオッタルは溜息を吐くこととなる。さも当然のようにベルとアイズの両方がフレイヤの魅了を無効化している点が気になるロキだが、到底ながら口に出せるような状況ではない。
一方のヘスティアとしては、ベルがフレイヤのことを知っていた点を気にしている。確かにフレイヤは一方的にベルの事を知っているが、逆となれば、顔を合わせるのも本日が初めてだ。
聞いてみれば、レベル8の猛者が付き添うとなるとフレイヤ様に他ならないという知識があったため。表情には出さないものの、その言葉を聞いたフレイヤ一途なオッタルは内心非常にご満悦である。
ロキに引っぺがされたアイズは、ズルズルと引きずられ少し後ろへ後退中。可愛らしく頬を膨らませるも、再戦とならぬように距離が置かれている。オッタルもまた、いつでも前へ出れるような位置でスタンバイしている状況だ。
とはいえ、アイズ側が剥がされた影響で、フレイヤとベルが向き合うこととなる。先ほどはベルとダンスをしたいという本音を口にしたフレイヤは、魅了効果が効かないことを頭の片隅で疑問に思いつつ、更に甘い言葉で勧誘を行う。
「一目見た時から、貴方が魅せる魂の輝きに見惚れているの。私のお誘い、受けてくださらないかしら?」
発せられる艷やかな声は大きくはなく、音楽のある会場は周囲の話声と相まって非常に賑やかであるために、数歩離れてしまえば聞こえない程だ。ベルがヘスティア達から一歩前に出ており間に居るために、聞き取ることは猶更難しいことだろう。
とはいえ此度においては、互いにとって聞き取られて欲しくはない内容だ。言葉を受け取ったベルは、相手を見据えたまま回答を口にする。
「美の女神に見定めて頂けるなど、とても喜ばしい事です。ですが僕は、とある女性のために強くなるべく足掻いています。一番初めは、その人と踊りたい」
「フレイヤ様たってのお誘いを、断ると言うか」
「もしも僕が自分への誓いを貫けないと言うのでしたら、フレイヤ様と踊る資格すらも失ってしまうでしょう」
どこまでも真っ直ぐな、クリッと、しかし凛々しく二人を見据える真紅の瞳。決してフレイヤを貶しているのではない。最低でもそれほどの覚悟を持った者でなければ釣り合わないと、間接的に彼女と踊る敷居の高さを示している。
オッタルとフレイヤの二人も、瞬時にそのことを理解する。一層のこと輝く少年の魂を目にし、愛でたい衝動と沸き上がりかける鼻血をぐっと堪え、フレイヤは早口気味で此度の敗北を認めるのであった。
「そ、そこ、そこまでの覚悟を持っているなら仕方ないわね。ここは、大人しく引きましょうか」
「……見事だ、ベル・クラネル」
己を認めてくれた二人に、礼儀正しく頭を下げ。どこぞの師に似たように踵を返し、一人の戦士は、己が望んだ相手の下へと歩み寄る。
タイミングを見計らったかのように流れる、ダンスを誘う旋律。周囲の話声もすっかり落ち着き、一転して上品な空間へと変貌した。
「アイズ・ヴァレンシュタイン。僕と一曲、踊って頂けませんか」
片膝が床につくかどうかの位置に腰をかがめ、アイズの目をしっかりと捉え、少年は己が抱く情景をハッキリと口に出す。正直なところダンスなんて右も左も分からないが、ここで引けば男が廃るというものだ。
もちろん恥ずかしく勇気が居るために心臓は早鐘の如く鳴り響いているが、今は無視。なんとかして、恥ずかしさに負けて暴走しないよう、己の心に杭を打つ。
「――――はい、喜んで」
返されたのは、太陽にも負けない微笑みだ。“心奪われた”と表現できる程の感情は、奥底から湧き出る水のように、こんこんと情熱を滾らせる。
可憐な腕を取り、肩を抱き寄せる。互いの身体の間には扉1枚分の隙間も無いが、互いに意外と落ち着くことが出来ていた。
双方が、ダンスなど素人である。それでも互いに相手の眼を見て行動を読み、周りに合わせて似たような動きを見せることで、二人だけのダンスを作っていく。
詳しい者が見れば、基礎もなっていないようなモノだろう。しかしその程度の事は重要では無く、互いに駆け引きを行い、相手の知らないところを理解していくのである。
「……初めて」
「はい?」
踊りながら、アイズがポツリと言葉をこぼした。動きに集中していたベルは、思わず聞き返す疑問符を発している。
子供の頃。とは口にするものの、大人組からすればアイズも十分に未だ子供だ。とはいえ幼い頃、両親の愛情を受けて居た頃、焦がれていたことが1つある。
たまに見ることがあった、父と母が愛し合う絆。周りに誰も居ない草原で互いに手を取り、風を音楽とするように軽やかに踊っていた眩しい光景。そんな二人の姿に、自分もそうありたいと思ったことが何度かある。
とはいえ、アイズがダンスを踊るのはこの場が初めてであり、何も知らない。もっとも相手のベルも同じであり、アイズの憧れた光景の言葉を聞いて、自分も初めてだと言葉を返していた。
「そう、なんだ……誘ってくれて嬉しい、ありがとう」
再び咲き誇る、少女の笑顔。応じるように穏やかな笑顔を見せる少年も、言葉にこそ出さないが、心境は今の彼女と同じである。
可愛らしく頬を膨らませかけるフレイヤだが、流石に今の彼女では、こんなベルの顔を作ることはできないだろう。そんなフレイヤを目にしたオッタルがベルに嫉妬の念を抱くなど、何かと連鎖が始まっている。
一方で、互いの主神はオトナであった。相変わらずチマチマと言い合いこそ続けているものの取っ組み合いには発展しておらず、隅で大人しく見守っている状況である。
「それにしてもリトル・ルーキーと
「にゃにぃ!?」
「だぁーっとれヘルメス、お前さんには関係あらへんやろ。にしてもアポロンには気ぃつけやヘスティア。分かっとるやろうけどアイツ、ベル・クラネルを狙っとるで」
「ああ、イヤ――――な視線は存分に感じたよ。大丈夫だロキ、ここはボク達で片を付ける」
今までの借りもあって肩入れする気でいたロキだが、相手が手出し無用というならば従う他に道が無い。一応は気を付けるかと情報網は張り巡らすとして、直接的に手を出さないことで決定した。
一方で、ベルとアイズが見せた一連のやり取りを遠目から見ていた神ヘルメス。あんな顔して大人も驚愕する程とんでもない応対を見せる子になっていたと、“雇い主”への土産話ができて非常にご満悦だ。
やがてダンスも終わり、ベルとアイズが戻ってくる。するとヘルメスを目にしたアイズは、ロキの肩をつつくと口を開く。
「思い出した。ロキ。あの神様、だよ」
「ん、何がや?」
「レベル1の時……ランクアップの方法を、教えてくれた神様」
――――これヤベーやつだ。
直感的にそう思うヘルメスながらも、思った時には決着がついている。マウントを組まれて悲鳴を上げるヘルメスだが、四肢は僅かにも動きそうにない状況だ。
何かをやらかしたが故にこうなっていると確信できるアスフィが、助け船を出すことは無い。突然と投下された爆弾発言により、ヘルメスは遣い走りとなることが確定している。
そしてパーティーの閉会式。ヘスティア・ファミリアに対して、先日の居酒屋の事件を理由としてアポロンから遊戯戦争の申し込みが行われることとなる。ヘスティアは了承の返事を行い、その後の
人数差があるというのに承諾された点についてはアポロンも疑問に思ったのだが、なにせ情報が何もないために“やぶれかぶれ”の承諾と判断した。これにて退路が無くなったのだが、自業自得と言う事もできるだろう。
此度の
どちらかが全滅するまで続くという、文字通りの“
主催者の影が薄い?知りませんね……。
原作でアイズにランクアップを教えたのがヘルメスだとバレていたかどうかが拾えなかったのですが、この後に影響することはないので本作では今バレたってことにして下さい。