その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

120 / 255
少し遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。

タイトルは正直者


119話 爆弾と書いて、プレゼントと読む

「うーん、何が良いだろうか……難しいぜ」

 

 

 新しいホームが完成するまでの借家、一階にある4人用リビングダイニングのような場所。行儀悪くテーブルに両肘をついて顔を支え、ヘスティアが唸り悩む声を発していた。

 テーブルの上には、新たなホームで使用する家財道具のパンフレット一式。それらの山にプレゼント用のものが混じっており、今現在は一番上に置かれている。

 

 カタログギフトというわけではないのだが、“こんな贈り物がありますよ”という紹介が記載された内容となっている。オラリオにおいては年1回の頻度で発行されているものらしく、その年のトレンドが組み込まれているという充実ぶり。

 内容も意外と豊富であり、若年~年配、男性女性、各種族向けのものと揃っている。広告料を含んでいるのかページ数にしては随分と安い価格で販売されているために、意外と読んでいるだけの人も多いらしい。

 

 ともかくヘスティアは、この中からヘファイストスへの贈り物を選んでいるというワケだ。少し前まで零細ファミリアだったために、その手のモノに疎いのは仕方のないことだろう。

 食品が良いか、家財道具の類が良いか。選択肢はそれこそ無限に匹敵するモノがあり、先程から唸りに唸っている。

 

 

「おや、何を見ている?」

「ああ、タカヒロ君。実は、ヘファイストスへの贈り物で悩んでいるんだ」

戦争遊戯(ウォーゲーム)の謝礼か?」

「いんや、それとはまた別だよ。実はね――――」

 

 

 ヘスティア曰く、ヘファイストスから教会の土地を借りて、三日後に丁度1年が経つらしい。更にはファミリアが大規模になったお祝いという事で此度においては土地を丸ごと譲り受けたらしく、ファミリアとして、何かしらお礼を兼ねたプレゼントをしたいと考えているとのことだ。

 予定している物は5万ヴァリス程度であるために貰ったものと贈る物の価格が釣り合っていないが、ベルの時と同じく気持ちが大事であるために、その点は仕方のないことだろう。資料を渡されたタカヒロも内容を流し見ているが、意外と豊富であるために“どれがいいか”と言われても悩みそうな程だ。

 

 とはいえ、やはり「どれがいいかなー」とヘスティアに相談されるワケである。もっとも青年とてヘファイストスの好みなど分からないために、どれが良いのかも不明と言ったところだろう。

 むしろ盟友ヘスティアが悩む以上は、解決できるとしたらヴェルフぐらいのものである。こんど聞いてみるかと思い立ったタカヒロの脳裏に、別の考えが思い浮かんだ。

 

 

「ところでヘスティア。ここに載っている品々よりも、彼女が喜びそうなモノがあるのだが」

「えっ、何かあるのかい?」

 

 

 その点についてだけ言えば、タカヒロは最も適切な人材と言えるだろう。彼個人にしてもガントレットを2億ヴァリスという破格で作って貰ったこともあり、もしも「取ってこい」と言われれば全力を尽くす筈だ。

 何か最適なものがあればと、“あまり考えを巡らせていない”ヘスティアは目をキラキラさせて乗り気の模様。貰ったものが土地ということで普通の贈り物では価格が釣り合わないため、少しでも種類は多い方が彼女としても嬉しいのだ。

 

 とはいえヘスティアにとってもサプライズなのか、青年は具体的なモノの名前を示さない。更にはいくつか候補があるようでさっそく悩むような仕草を見せ、顔を少し背けて悩む様相を見せている。

 何だろうかとワクワクしつつヘファイストスが気に入るかどうか心配なヘスティアだが、悩むタカヒロが見せる表情は真剣そのもの。力の入れようが目に見えてわかり、彼女の気分も上々と言って良いだろう。

 

 

「じゃぁタカヒロ君に任せちゃってもいいのかな?ファミリアとしてのプレゼントだからお金は出すよ、“買ってきて”よ!」

「わかった。一日二日時間をくれ、“持ってくる”」

 

 

====

 

 

「え、えーっと、それじゃぁ極秘ミッションです。ヘファイストス様へのお礼を探しに、3人でダンジョンに……」

「団長命令ですから用意はしましたが、嫌な予感しかしないんですけどベル様」

 

 

 昼食後、ダンジョン50階層。「あははー」と言いながら右手を頭の後ろにやるベル・クラネルと、既に生気が抜けかけているリリルカ・アーデ。前者はかつての弟子であるがため、残る一人となる“一般人”の考えていることが分かってしまっているのであった。

 リリルカとしては久々にベルに誘われてテンションが上がったはいいモノの、耳にした残り一人の名前が問題だ。レベル1の際に58階層でひたすらに素材集めに追われたメモリア(トラウマ)は、未だ彼女の心に焼き付いている。

 

 

「なんだどうした。かつて似た階層で経験をしたことがあるだろう、腰抜けではあるまい」

「タカヒロ様、“適正レベル”って言葉をご存知でしょうか!?」

「何か問題か?パーティーの平均レベルは、適正レベルをクリアしているぞ」

「レベルおいくつか知りませんけれど、とにかく色々と常識の範囲外ですぅ!!」

 

 

 小さな身体をめいいっぱい伸ばしてリリルカが叫ぶ内容は、ドが付く程の正論だ。少なくともダンジョンの深層において、金銭目的に3人パーティーで潜る奴などオラリオにおいて他に居はしない。

 なお、このパーティーにおいては平均レベル35。ここだけを見れば聞こえは良いが、詳細はお察しだ。

 

 

「最終的にファミリアのモノとなったが1000万ヴァリスを用意したのだ。深層の空気は慣れておいても損はないぞ、少し付き合え」

「ぐぬぬ……」

 

 

 リリルカ・アーデ、その話を出されると“ぐうの音”も出ない。彼女とて恩義は感じているために、ガックリと力なく肩を落とすのであった。

 そしてリリルカとて、タカヒロ発案の素材回収に付き合うのが嫌というわけではない。単に、向かう場所に大きな問題があるというだけの話と言えるだろう。

 

 しかしながら、深層の空気を体験できることは大きなことだとベル・クラネルは考えている。“百聞は一見に如かず”とはよく言うが、本当の死の恐怖というものを目の当たりにできるこの光景を知ったならば、普段の戦闘においてもいかんなく発揮されることを理解したからだ。

 だからこそ虐めでもなんでもなく、ファミリアの新人に対して深層体験ツアーを開こうかと考えている程のものがある。元凶のタカヒロ的には上層とさほど変わりないという程度の場所ながらも、少年にとっては重要な体験となったらしい。

 

 とはいえ今は58階層からの階層無視攻撃を避けながら潜ることが優先であり、例によって少し前に轢き殺され皮となったカドモスを思い出して同情しつつ、ベルとリリルカはダンジョンを疾走する。レベル4の後半となった為にベルも単体との戦闘が可能となっており、此度においては何匹かを処理していた。

 もっとも大半は“ぶっ壊れ”が一撃の下に屠っており、一行は素材を適度に回収しつつ59階層への入口へと到達する。ここへ来たことが二度目となるベル・クラネルだが、前回とは環境が大きく異なっていた。

 

 

「さ、寒いですね……」

「た、耐異常があっても、この寒さですか……」

 

 

 まだ入り口だというのに思わず身震いしてしまうベルとリリルカがやってきたのは、“本来の”59階層。穢れた精霊によって熱帯地方へと変えられる前、ゼウス・ファミリアが到達した極寒の階層だ。

 文字通り、居るだけで身体が凍り始める程のブリザード。吹雪によって視界も悪く、常に気を配らねば容易く奇襲を許す結果となるだろう。

 

 一行は58階層側の入口へと戻り、リリルカがバックパックから1つのアイテムを取り出した。事前にタカヒロが用意していたものであり、簡単に説明すると“サラマンダー・ウール”の耐寒バージョン、冷気に関する耐性を向上させる代物だ。

 見た目としては、全身を覆うローブのようなものだ。冷気耐性のみが対象ながらも羽織るだけで冷気耐性を70%も上げる代物であり、此度においては非常に有用なアイテムと言えるだろう。

 

 もっともサラマンダー・ウールと同じく、あくまでもローブであるために耐久性は高くはない。攻撃を受け続ければ、簡単に破けてしまうことだろう。

 そんな説明をするリリルカと耳にしているベル、それよりも疑問に思うことがある。取り出された代物は、なぜか2枚しかなかったのだ。

 

 

「あれ、師匠は要らないんですか?」

「ああ、そもそも2つしか買っていない」

「……ベル様、お高い一品ですので破らないように」

「あ、はい」

 

 

 冷気耐性84%に加えて超過耐性を100%以上保持しているために不要、というのが答えである。また、“凍結時間短縮”の耐異常も持っており最悪は軟膏アイテム(ドーピング)を使えば絶対に凍結しないようにもできるのだ。

 故に本人からすれば“秋頃の少し冷えた夜”程度の冷気であり、さして活動に支障はない程度。“ぶっ壊れ”のことについては深く考えないようにしたリリルカは、明後日の方向に目を向けてベルに注意を促していた。

 

 そして始まるは、かつての58階層と似た景色。ブリザード吹き荒れるフロアらしく、アザラシやペンギンのようなモンスターが群雄割拠しつつ襲い掛かってきている状況だ。

 氷のフロアは所々が脆くなっており、凍てつく水中に落ちてしまえば一瞬にして体力を奪われることだろう。恐らくは水中にも何らかのモンスターが居ると思われる、文字通りの危険地帯だ。

 

 

 ここ数年において誰も訪れていない階層の為に、蔓延るモンスターの数も過去最高と言って過言ではない。

 案の定、氷塊の下から狙いを定める複数体のモンスター。連携による攻撃によって、久方ぶりの“得物”を分厚い氷塊ごと貫き仕留めるべく、水中より勢いをつけて氷塊を突き破り――――

 

 

「師匠、そっちは大丈夫そうですか?」

「少し穴が開いているが問題は無いぞ、何も居なくなった」

 

 

 結果として、事後報告である。言い回しに疑問を覚えたリリルカだが、まさか敵が報復ダメージによって勝手に水中で爆発四散したなどとは想定にしていない為に仕方がないだろう。

 ともあれ、此度の狩場はここで決まったようだ。そうなれば自然と開始されることも一つであり、各々の役目も自然と分担されてゆく。

 

 少年が釣り、青年が欠伸をしながら一撃で粉砕してフロア端へと蹴り飛ばし。レベル2になったことで処理速度が向上した少女が、必死に魔石とドロップアイテムの回収作業に励んでいる。

 レベル2になったことでの能力向上を最も実感できたのが解体作業という、リリルカ・アーデにとってはなんとも不本意な結果と言えるだろう。それでも初めて目にするモンスターを相手に的確な処理が行えているのは、彼女が持ち得る本当の能力と言っても過言ではない。

 

====

 

 

「おおーっ、奇麗な素材だね~タカヒロ君」

「品質は上々だ、これなら喜ぶと思うぞ」

 

 

 そして半日が経過し夕食後、場所は地上へと戻ることとなる。アザラシの牙、ペンギンの羽や嘴などのドロップアイテムが1つずつ、綺麗な額縁に入れられてヘスティアのもとへと届いていた。

 産地直送である鮮度の高い素材の輝きは、素人であるヘスティアの目にも分かる程に著しいものがある。このまま糸を通してアクセサリーにしてしまっても、十分に通じるものがあるだろう。結果として出来上がった少年少女の抜け殻は、明日の朝まで充填される様子はない。

 

 

 翌日、さっそく彼女はお礼を携えヘファイストスのもとへと訪れている。いつもの私室にいたヘファイストスは、やってきたヘスティアを部屋へと通した。

 何か用かと尋ねた彼女に対し、土地を譲ってくれたお礼ということで緩んでいた表情だったが、それも数秒。「じゃじゃーん」という言葉と共に差し出された包装物だったが、その後のヘスティアの発言が問題だった。

 

 曰く、「タカヒロ君が選んだヘファイストスが気に入ると思う“素材”」という内容。故に、ヘファイストスのなかで興味スイッチがTURBOへと入ってしまっている。

 ヘファイストスの中におけるタカヒロに対する評価は非常に高いものがあり、そんな青年が選んだ素材となれば期待値はストップ高となってしまうのだ。早速中身をチェックした彼女は、文字通り目を丸くすることとなった。

 

 

「……凄い。私も、本物を見るのは初めてだわ」

「……えっ?ヘファイストスで、すら?」

「ええ、“現物”はね。“資料”でなら、見たことがあるわ」

 

 

 ヘスティアの身体に電流走り、消化器官は状況を察知して悲鳴を上げるべくスタンバイ。ヘファイストスの表情は真剣を通り越して壊れる一歩手前であり、身体はプルプルと震えている。

 素材も含めて武器防具の事に関しては、ヘスティアは素人以下と言ってもいいだろう。しかしあのヘファイストスが“資料でなら見たことがある”と口にする辺り、それらの“サンプル”がロクでもない代物であるのは明白であり――――

 

 

「かつて18年前に、ゼウス・ファミリアが59階層から63階層で採取した素材よ。当時はゴブニュのところに流れて全く出回らなかったらしいけれど、サンプルは資料として保管されているの。それと全く同じ物ね」

「ろ、ろく、ろくろくじゅうにかいそう……」

 

 

 59~63階層に対して「62階層」という言葉が出ており、思考回路が働いていないヘスティアのすぐ目の前。ヘファイストスがサンプルを掲げ下から覗いた時に、ヒラリと落ちる紙がある。

 大きさにして、手のひらよりも少し大きい程度の代物。なんの紙かとヘファイストスが拾い上げるも、そこに記載されているのは簡単な文章だった。

 

 

 ――――主神の命により、それぞれ1スタック(99個)確保しました。ご用命は別途ヘスティア迄、タカヒロ。~至高の素材を至高の鍛冶師達に~”

 

 

「サイッコ――――じゃないのヘスティア!!何よりよ!何よりも一番の孝行だわ!!」

「あっハイ……」

「早速全部持ってきちゃって!なんなら取りに伺うわ、真夜中でも喜んで受け取るわよ!!」

「あっハイ……」

 

 

 抱き着かれ頭を撫でられる炉の女神、ヘスティア。ヘファイストスは、弾けるような喜びの様相を見せている。

 

 お礼の品かと思えば、まさかの爆弾を持たされていたことに気づくこととなり。溢れる胃酸と共に、しばらくの間において正気を手放す結果となってしまった。

 




その心は、どちらも弾けることになるでしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。