その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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次パート(?)に向けたフラグ建築回。

Act.8:Gods and Spirits(神々と精霊達)
Act.8-1:アイズ・ヴァレンシュタインを探しに24階層へ向かえ
Act.8-2:とある神の使者と会って会話せよ
Act.8-3:とある神と会話し、力を貸せ
Act.8-4:50階層を調査せよ
Act.8-5:59階層にてリヴェリア・リヨス・アールヴを守り切れ
Act.8-6:精霊の分身を殺し、ロキ・ファミリアの安全を確保せよ
Act.8-7:59階層における出来事について、神ウラノスと意見を交わせ
Act.8-8:18階層を調査せよ
Act.8-9:【New】目的を思い出そう


120話 同じ目的

「なるほどなー……少し前に18階層で誰か動いとった情報が上がって来とるが、タカヒロはんやったんか」

 

 

 燃える松明の灯りが怪しく石造りの大部屋を照らす、ギルドの地下にある祈祷部屋。相も変わらず椅子に腰かけ動かないウラノスの前で、2つの勢力が情報と意見を交わし合っていた。

 その片方、ロキ・ファミリア。ウラノスと同じくオラリオにおいて暗躍しているグループを探っており、この度において、ギルドに対して己が白であることを極秘に証明した格好である。約一名を通じて互いに白と分かっているからこそ成せる、信頼関係を築くことも含めた行動だ。

 

 もっともロキとしても、これで相手から黒と言われたら“詰み”の状況であることに間違いはない。ギルドにしろロキにしろ、そこに座っているワイシャツを着た約一名が敵となった瞬間に、対抗できる手立てを持ち合わせていないのである。

 もしもの話で仮にそうなれば、迎える結末は明らかだ。もっともそんな素振りは微塵も無いのだが、どこに地雷が埋まっているかは分からない事と今までの借りが大きいために、何かとロキも慎重な対応となっている。

 

 

「恐らくは扉を見つけた時だろう。扉の先がどうなってるかは未確認だが、この期に及んでハズレという事もあるまい」

「せやろな。ともかく、見つけてくれたのは助かるわ。ちゅーことは、やっぱどっかにあるな、“出口”」

 

 

 とはいえ一方で、高い城壁に囲まれたオラリオという迷宮において、ロキ・ファミリアが調べていない残りのエリアは多くない。オラリオにおいてもっとも複雑とされ今現在においても正確な地図が存在しない“ダイダロス通り”が最も怪しいと睨んでいるものの、いかんせん広大であるために時間を要しているようだ。

 

 

「で、その“ヘルメス”とか言う神は信用できるのだな?」

「……」

 

 

 今回の会合により敵ではないと分かって居ながらも、「うん」と言えない天界のトリックスター。ロキの気持ちが分からなくもないウラノスは視線を逸らし、フェルズもまた腕を組んで明後日の方向を見つめている。

 とはいえ、今までのヘルメスが見せてきた行動を知っているならば、それも無理のない反応だ。本質を知る者ならば、有能さよりも“胡散臭さ”からくる疑惑を抱いてしまう。

 

 その点はさておき、話は戻ってオラリオ、と言うよりは“地上”のどこにダンジョンの出口があるか。この点が最も大きな議題の一つとなっており、オラリオにおいて確認されている情報がフェルズとロキの間で交わされている。

 最近においてロキがディオニュソスから得た情報の一つとして、オラリオの少し外、南西3㎞程のとある海辺において食人花(ヴィオラス)らしき姿が目撃されたとの情報も入っている。今のところはそちらを調査する方向で準備を進めているのだが、しかしながら問題もあるようだ。

 

 

「理由?おたくのブタのせいで、ロキ・ファミリア全軍で出撃できへんのや。ホンマ腹立つ」

 

 

――――ロキ・ファミリアの主力メンバーほぼ全員がオラリオの外に出ることは、決して許されることではない。

 

 細部は違えどこのような旨を発言したのは、ギルドの表向きなトップである男のエルフ“ロイマン・マルディール”。一世紀以上の期間をギルドにて勤める者であり、今の地位に就いてからは豪遊かつ放蕩の生活を極めているためか、エルフらしからぬたっぷりと太った体型だ。故に、付けられたあだ名が“ギルドのブタ”なのである。

 金遣いも荒いためか、オラリオのエルフは勿論のこと、ギルドの職員の大半からも嫌われている模様。典型的な悪役スタイルであるために「そいつが黒幕じゃ?」と誰しもが思う推察を抱くタカヒロながらも、既にフェルズが監視しておりその傾向は見えないらしい。

 

 ならば詮索はしないと口にしたタカヒロだが、そこにロキが言葉を付け加えることとなる。その内容は、ウラノスやフェルズにとっても納得のいく内容でもあった。

 ロキ曰く、ヘスティア・ファミリアの白髪コンビは2枚のジョーカー。うち一枚は戦争遊戯(ウォーゲーム)においてその力を出してしまったが、もう1枚については未だ全くの未知数。

 

 情報を纏めるに、今の敵勢力でそれを知っているのは赤髪のテイマーと黒衣の仮面の人物ぐらいのものだろう。もっともどちらも一撃を交えた程度であり、実力の確認とは程遠い。

 加えて星座の恩恵・報復ダメージを筆頭とした報復ウォーロードの神髄は、味方にすら見せたり知らせていない状況だ。青年のことを最も知っているリヴェリアとヘスティアの二人ですら全ては知らないという、まさに秘匿された状況となっている。

 

 そう言った意味では、ロキが表現したようにジョーカーという扱いは相応しいかもしれない。相も変わらず仏頂面で話に参加する青年はあまり危機感を持っていないのか、随分と涼しい様相だ。

 

 

 

 その実。最近はリヴェリアと過ごすのが楽しくて、闇派閥という存在(問題)が頭の中から綺麗サッパリ消え去っていた事は口には出せないという裏話があるのだが。

 

 

 

 ともかく要望があれば単身で突撃する構えでいるタカヒロだが、所詮は一名。己が死ぬことは起らずとも、敵を取り逃がす可能性は大いに出てくるだろう。

 だからこそ、18階層において扉を見つけた際も突撃する選択肢を避けていた。今更ながらも理由を聞いて、フェルズは「なるほど」と相槌を打っている。

 

 取り逃しが居れば、いつかまた今回のような事態へと発展することは揺るがない。故に残り1枚のジョーカーを切るタイミングは今ではないと考えており、ロキはタカヒロに対して自粛を要請しているのだ。

 青年もその点は同意しているものの、素材探しの旅で59階層から下へ潜っている際に目にした“精霊らしい存在”が同時に口に出されたため、雰囲気が一変する。モンスターに寄生する穢れた精霊の上位版かと、神二人とフェルズは危機感を抱いていた。

 

 タカヒロ流に表現するならば、より一層のこと神に近い存在。そして恐らくは、穢れた精霊へと成長する宝玉を生み出す本体の存在。

 道中で見た精霊らしき物体がソレなのかどうかは不明ながらも、関連性はあるだろうと考えている。とはいえ先に精霊を攻撃すると、レヴィスを筆頭とした怪人のグループに露呈して闇派閥へと知らされる可能性があることもまた事実だ。

 

 

 少し前に18階層で殺された冒険者は、フェルズが雇った者であることも伝えられた。足がつかぬよう“オラリオの外”からやってきた者だったとはいえ、地上にいる神々が何かしらの動きを察知していることは相手方にも露呈していることだろう。

 今までの動きを見る限りは、怪人がオラリオの地上で何かをしでかした事実はない。ならば実行グループの筆頭は闇派閥であり、力の優劣も伺い知ることが出来る程だ。

 

 やはり、討伐の優先度合いは闇派閥。タカヒロの調査では19階層の全てをマップ埋めしたのだが扉は見つかっておらず、今後も24階層までを調査する予定とのことだ。

 ちなみにフェルズが持っていたギルドのマップと照らし合わせたところ、いくつかの違いが見つかったらしい。ダンジョンの構造が変わったのかどちらかのマップが間違えているのかは定かではないが、調査の結果に変わりはないだろう。

 

 

「では、オラリオの捜索はロキ・ファミリアに任せてしまって良いのだな?」

「せや。ウチ等の仕事はまず、問題の“出口”を見つけることが優先や。ダンジョンの中なら人目に付かへんし、タカヒロはんも動きやすいやろ」

 

 

 その点についてはタカヒロも同意しているものの、もう1つの問題として闇派閥の資金源が挙げられていた。かねてより疑問視されていたのだが、ここ数年における大規模な活動を行うとなると、それこそロキ・ファミリアの予算に匹敵する資金が必要となるだろう。

 しかしながら、その出所が全くもって不明なのだ。それ程の資金を提供できる所となると“大御所”となるために迂闊に動けず、故にギルド側としても見当がついていない。

 

 

「資金ついでで言えば……街中となると、いつ闇派閥が出てくるか分からんぞ。失った武器防具は揃ったのか?」

「うっ……じゅ、順次調達中や、流石に数が多すぎるわ」

 

 

 これが、ロキ・ファミリアの調査を妨害している1つの大きな理由だ。59階層の決戦において失った武器防具や消耗品は数多く、その前回、タカヒロと出会った51階層付近における撤退でも数多の武器防具をイモムシに溶かされており、その時にも発生した財政難は、未だ糸を引いている。

 故に物資の類は万全と言えず、最も怪しいダイダロス通りへと飛び込めない。誰が悪いというわけではないが、59階層の一撃はロキ・ファミリアに対して財政的なクリティカルも与えていたのである。

 

 とはいえ、そこの装備キチがヘファイストス・ファミリアに対して深層の素材をばら撒いているのでコレでもまだ軽症と言える程度。表向きこそ試作品と言いつつ今まで以上の品質を誇る武器の数々に、ヘファイストス・ファミリアを使う者達は大満足している状況だ。

 これに対して、使用経験のあるゴヴニュ・ファミリアは59階層の素材が使われた武具であることについては見抜いている。しかしながら、どのような経緯でもたらされた素材なのかが全くもって不明であり、調査しようにも情報が少なすぎてすぐさま暗礁に乗り上げている程だ。

 

 

「そら、まさか冒険者でもない一人の“一般人”がソロで潜っとるなんて思わんわな」

 

 

 ケラケラと陽気に笑うロキだが、フェルズは呆れて苦笑いしか示せない。ロキも既に毒牙にかかっているのかと、額に手を当てて静かに首を左右に振っていた。

 そんなロキは序盤の話を持ち出し、ロログ湖と呼ばれる場所へ行くことを口に出している。理由は先の事もあるのだが、ロログ湖の奥底に沈む“とあるモノ”を確認するためでもあった。

 

 

「リヴァイアサンのドロップアイテムを使った代物なんやが、タカヒロはんは知らんか……」

「なに、ドロップアイテム?」

 

 

 三大クエスト、と呼ばれるほどのモンスターのドロップアイテム。そちらに興味が向いてしまっている一般人ながらも、問題はドロップアイテムそのものではない。

 

 

「せやで。“リヴァイアサン・シール”いうてな、ドロップアイテムの化石みたいなやつを加工した代物や。強力な気配を放つから、そのシールの付近には魔物が近寄らんようなるんや」

 

 

 それは素材か?と真剣な様相で尋ねるタカヒロに対し、ロキは素材の一種であることを伝えている。ドロップアイテムを前にしてブレない点は相変わらずのようだが、装備直ドロップではないために、まだこの程度で収まっている点は蛇足だろう。

 ともあれ当時の三大クエストにおける討伐部隊において、ロキ・ファミリアが参戦したのはベヒーモスの時だけだ。その時も後方支援が中心であったために、リヴァイアサンとの戦闘やどのような素材なのかは詳しく知らないのが実情である。

 

 結果としてドロップしたアイテムを加工し、ダンジョンに続いていた穴を物理的に塞いだ巨大な岩石に張り付けたのだ。ある種の結界のような役割を果たしており、その付近にモンスターが近寄ることは無い効能をもたらしている。

 

 それはさておき、ともかく素材の採取となればリヴァイアサンを倒すしか道が無い。ベヒーモスのドロップアイテムもそうなのだが、ドロップアイテムを得ると言う結果を達成できる手段はそれだけだ。

 しかしながら当該モンスターは既に駆除された後であるために、二つ目を手に入れる手段は残されていない。そのためか、タカヒロは次の一言を呟いた。

 

 

「では、再び沸く時を待つしかないか」

「は?」

「なにっ?」

「……なんやて?」

 

 

 ダンジョン産のモンスターならば、再び出現する可能性。現に階層主がソレであり、有名なゴライアスは10日間おきにリポップをしている。

 当たり前の事だろう?と呟くタカヒロだが、その言葉を耳にして、呑気な青年を除いた3人が固まった。ウラノスも、思わず祈祷を中断しかけた程の驚き様である。

 

 

 かつて地上へと進出した、三大クエストのモンスター。強大な力を保持しており、当時においてどれだけ地上に損害を与えたかは計り知れないものがある。

 あまりにも強力だったとはいえ、それは“ダンジョンで生まれ落ちた”モンスター。ならばダンジョン内部において“リポップ”することがあっても、何ら不思議な光景ではないと言うことだ。

 

 

 そして、それを倒そうとしているソコの青年。大きく溜息を吐いているあたり、まるで凶悪なモンスター“リヴァイアサン”が居ない事に対して残念さを表しているようだ。

 

 

 フェルズとウラノスはこのタイミングにおいて、“ダンジョン下層にいた”と報告を受けている“ドラゴン科・黒竜属・黒トカゲ(黒竜と似た存在)”のことを思い返す。それをウラノスが重い口調でロキに告げたが故に立ち上がって驚くロキだったが、それも数秒の間だけ。

 理由としては、やはりそこの装備キチが原因だ。どうでもいいことを伝え忘れていたかのように「ああ」との出だしで口を開くと、己がやってきたことを報告することとなる。

 

 

「ああ、言い忘れていたな。そのドラゴンならば、発見時に倒したぞ。週に一度は監視しているが、今のところリポップの気配はない」

「……」

「……ナンデスッテ?」

「……タカヒロはん。もしかしてそれは、ソロで、やろか?」

「もちろん」

 

 

 そこの青年からすれば、ブレス(挨拶)をされたので討伐(挨拶)で返した程度の認識であることに間違いはない。そこからスイッチがターボに切り替わった案件は、まさに蛇足程度の話と言えるだろう。

 先ほど迄は陽気になってケラケラ笑っていたロキだが、ここにきて胃酸が分泌されはじめる。発言が嘘ではないことが分かるために、分泌具合は猶更だ。

 

 ロキはもちろんウラノスとフェルズの中における青年の危険度具合が、ワンランクどころか数ランクも上昇した此度の会談。「もう全部押し付けちゃえば全部解決してくれるんじゃね?」という共通の考えを抱く3名だが、それを口に出す勇気はない。

 

 

 結論としては、やはり“動くときは一斉に”ということで結論が導き出された。その時には、そこの装備キチが先頭を行くことになる確率が高い事は明らかだ。

 どのような道筋を辿るかは、それこそ神にもわからない。しかし通り過ぎ去った道に、何が残っているかも分からない点もまた同様だ。少なくとも、ドロップアイテムは全て回収されることだろう。

 

 

 ともあれ。直近の予定として、一つの案件がタカヒロへと伝えられていた。

 

 

「と、ともかくタカヒロはん。最初に話した件、忘れんといてーな!」

「自分とベル君がメレンへ行く件か?了解した、忘れずに伝えておく」

 




わけあって犠牲者がガネーシャ・ファミリアではない全くの部外者になっています。

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