その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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184話 魔導士と前衛

 

 ベル・クラネルが魅せた足止めの一撃は、数多の冒険者たちに勇気と興奮を、そして約一名に鼻血をもたらす。本人は元の布陣に戻って再びアイズと一緒に左翼を担当しており、此方についてはあまり時間を要さず収束を迎える事だろう。

 勿論、先のファイアボルトの一撃で後方で勃発した戦いが終わったワケではない。実際の迎撃戦闘は、これからが本番だ。

 

 

「前は任せてきたぞフィン、後ろはワシが引き付ける!」

「僕も出るよ。リヴェリア、レフィーヤ!」

「任せろ」

「はい!」

 

 

 繰り広げられるは、ロキ・ファミリアの十八番と言える。しかし一方で最も信頼を置くことができる布陣でもあり、リヴェリアとレフィーヤは、各々が持ち得る最短詠唱の魔法を選択した。

 ヘスティア・ファミリアの者達も有効打ではないと知りながら、各々が精一杯の攻撃や支援を行っている。特に左翼へと駆け出したアイズとベルに対する補給は万全で、結果として二人で処理する結末を見せている程だ。

 

 

「こちら片付きました。フィンさん、加勢します!」

「おお?遅かったではないか!」

「待ってたよ、支援を頼む」

 

 

 あくまで支援に徹していたベルは余力を残しているようで、アイズと違って一息すらつくことなく新たなバトルフィールドへと駆け出してゆく。一方のアイズは一度下がってポーションを服用して態勢を整えており、1分もすれば前線へ復帰することが出来るだろう。

 このような場面においてもロキ・ファミリアとヘスティア・ファミリアのサポーターは連携しており、各々が必要な仕事を全力でこなしている。前線への支援か、こうして戻ってきた者への補給作業か、1秒単位で戦場を見分けなければ務まらない。

 

 

「次、中級ポーションを前線に渡します!そっちは遠距離攻撃の用意を、魔導士を護る為の攻撃で右に二人――――」

 

 

 取りまとめ役は、リリルカ・アーデ。全体的な司令塔の頂点となればフィン・ディムナながらも、こうして彼のサポートに回っている。

 普段の教導などを彼から受ける事があるという実績も相まって、連携の度合いは非常に高い。フィンも、サポーターに絡んだ支援周りについては開始から1分程で考慮の内から除外しており、こうしてリリルカへと任せている程だ。

 

 まだまだサポート関係が中心ながらも、物凄く頼りになる。それがフィンがリリルカに対して抱いている嘘偽りのない評価であり、ベルも大いに感じている事だ。

 そんな支援も相まって前方を担当する魔導士は詠唱を紡ぐ一方、ガレスが駆け出した後方にも動きがある。まずは取り急ぎと言わんばかりに、レフィーヤが先手の一撃をお見舞いした。

 

 

「“アルクス・レイ”!」

 

 

 広範囲を攻撃対象とする一般的な魔法ではなく、ビームのような軌道を持つ単発の追尾型。彼女が得意とする攻撃魔法であり、魔法そのものが消されるかダンジョンの側壁にでも当たらない限り、狙いを定めた目標に命中するまで追尾する。

 範囲という面では劣る代わりに、詠唱を含めた攻撃準備から完了までの時間が非常に短い点が挙げられる。本来ならばそのような魔法が持ち得る威力はベルのファイアボルトのように低いのだが、そこは彼女が持ち得る才能でカバーしていた。

 

 その才能を表現するにあたり言葉を捻るならば、“火力一辺倒”。実のところ並行詠唱については初歩の初歩と呼べる段階であり、ロキ・ファミリアの幹部を基準とするならば、間違いのない言い回しだ。

 とはいえ本来、扱う魔力量が増える程、並行詠唱と言うのは難しい。そしてレフィーヤの現時点での実力についても侮るには程遠く、なんとレベル3の終盤でありながら、魔法の威力だけならばレベル6のリヴェリアを上回る程なのだ。

 

 

 彼女の出身地、“ウィーシェの森”。一口にエルフと言えど出身地によって個性があり、この森の血を引く者は、取り扱うことが出来る魔力量が多い事が特徴だ。

 そしてレフィーヤ個人の潜在能力も相まって、3レベル差を引っくり返す程の魔力を取り扱うことが出来るワケである。なお色々とあってリヴェリアがレベル7になった為に威力についても頂点を奪還しており、例の秘匿スキルまで発動したならば、例えレフィーヤでも、そう容易く追い抜くことはできないだろう。

 

 

 ともあれ、これらの理由により、彼女が放つ魔法は短文と言えど侮れない。先程の“アルクス・レイ”が着弾した地点で発生した爆発は轟音と地響きとなって届いており、魔法の熱量で周囲の氷が解けたのか、水蒸気となって視界を遮る。

 すぐさま凍り付かないのは、先の魔法の熱気が残っている為だろう。それだけでも、レフィーヤが使用した短文魔法が持ち得る威力の高さが伺える。

 

 

 前衛が敵の動きを止め、後衛が遠距離にて数を減らす。最もセオリーかつ効果的な戦闘方法であり、恐らく狙いを付けた一体は仕留めることが出来ただろう。

 レベルは3、そろそろ魔力アビリティが999となってレベル4になる予定なれど、ちゃんと60階層付近でも通用する。厳しかったけれども、今まで学んできたことは間違いではなかった。次に備えるために、彼女は再び詠唱を始めて魔力を練り上げ――――

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 そのような喜びを打ち砕くように煙の中から彼女に向かって放たれる、角のような部位を打ち出す遠距離攻撃。視界が途切れる水蒸気を使用した、最も効果的な一つと言える攻撃方法が放たれたのは、彼女が自信を抱いた時だった。

 

 突然で予想外の奇襲、イレギュラー。加えて放ったのは腐っても59階層のモンスターであり、威力・速度共に、例え前衛職でも反応は難しい。

 

 

 ドクンと心臓が一度跳ね、頭が真っ白になった。考える時間などない。しかし反応することは不可能だ。

 モンスターのくせしてコントロールに長けていることが腹立たしい。あとコンマ五秒もすれば、自身の脳天を貫くだろう。

 

 

 

 

 そう、彼女が認識した瞬間。

 

 

 

 

「ハアッ!」

「――――えっ?」

 

 

 跳躍するかの如く其処に向かって横っ飛びで跳んできたのは、白い兎。アイズ・ナイフにて地面へと叩き落とし、迫る脅威を確実に排除する。レフィーヤを庇おうと動きかけていたリヴェリアですら、接近に気が付いていなかった。

 リヴェリアとレフィーヤは、何故ベル・クラネルが此処にいるのか理解できなかった。ほぼ全方位に対して警戒しながら詠唱を続ける彼女たちが数秒前に確認した時は、未だ先で足止めを繰り広げるフィンやガレスの所に居たのだから無理もない。

 

 少年が持ち得るモノはテクニックに対してこそ目が行きがちだが、その根底は彼が持ち得る広い視野。それがあるからこそ先の小手先が行えるワケであり、持ち得ぬならば、今のベル・クラネルは存在しない。

 ともあれ、まさかの対応と今の一撃へ反応できた事実に対し、護られたレフィーヤは驚愕から一転して、ポカンとした表情を浮かべてしまう。何か問題だっただろうかと同じく数秒程ポカンとした表情を浮かべたベルは、護衛対象に安心を与えるべく口を開いた。

 

 

「大丈夫です。ちゃんと、レフィーヤさんの事も見てますから」

「っ――――!!」

 

 

 魔導士にあってはならない魔力の暴走を誘発しかけてしまったレフィーヤ、何とかして踏みとどまる。横ではリヴェリアが少しばかり物言いたげな目線を向けているが、事はすでに起こってしまっている。

 なお少年からすれば単純に後衛を護っただけであり、他意はない。そこそこの距離に居たアイズの耳に届いていない点だけが、唯一の救いだろう。詠唱を続けながらワタワタとした動作にてベルを指差すレフィーヤと荒ぶるポニーテールに落ち着きが生まれるのは、もう暫くしてからの事になりそうだ。

 

 とはいえ、そんな心の浮つきも永くは続かない。再び前へと駆け出し敵の足止めに集中する少年の背中、魔法攻撃は任せたと言わんばかりの姿は、彼女の瞳にどのように映っただろうか。

 先の攻防もそうだと、レフィーヤは状況を振り返る。戦いが始まって以降、あの少年は決して後ろを見ることなく、常に前だけを気にしている。

 

 それは、後ろへの絶対的な信頼があるからこそできる業。何度か交流のあるリヴェリアならばまだしも、客観的に言えば“アタリがキツい”者に対してまで今の態度がとれるのかと、何故そのような事が行えるのかと、彼女は心の内で質問のマシンガンというトリガーを引いている。

 ともあれ。ならば応えなければ、名が廃る。彼女が持ち得る負けん気はそのような回答を導き出し、最良と言える一撃を叩きこむべく状況を見回した。

 

 

 前方では変わらず、前衛の三名が敵を相手しつつ進行を止めている。1-2体は倒せているようだが撲滅には遠く、早急な援護が必要だろう。

 チラリと、横のリヴェリアを流し見る。詠唱は最終段階も終盤であり、ならば範囲魔法で打ち漏らしたターゲットを狙うべきとレフィーヤは判断した。

 

 

「来ます、下がってください!」

 

 

 詠唱中のリヴァリアに変わってレフィーヤが叫ぶと、前衛の三名は一目散に後退して敵を引き付ける。これから放たれる魔法が最も効力を発揮するよう敵の陣形を調整する為であり、状況に対して最も有効な対処方法を、3人は言われずとも成し遂げたのだ。

 

 

「“ウィン・フィンブルヴェトル”!」

「“アルクス・レイ”!」

 

 

 凍てつく極寒の地に、負けず劣らず。世界の終焉が迫った際に生じた“三度の厳冬”が訪れたならば敵の退路は無いに等しく、それは、極寒のブリザードに耐性を持つ者すらも氷塊へと変えてしまう。

 撃破数、約7割。続けざまのアルクス・レイで一体を倒し、残党についてもフィン達の敵ではない。モンスターとは群れると非常に厄介だが、基本として一対一の戦闘ならば、適性の場所においては勝つことが大半となるだろう。

 

 

「ガレス、前線に戻ってくれ」

「承知した。悪魔兎(ジョーカー)、フィンの援護は任せたぞ」

「はい!」

 

 

 お疲れ様でーす、とでも言わんばかりの調子で、ピンポイントで敵の弱点に対して攻撃していくベル・クラネル。この階層は二度目と言うこともあって敵の弱点は前回で見抜いており、リヴェリアとレフィーヤを含め、ロキ・ファミリアは見て学んでいる状況だ。

 援護どころか、倒す速度も同等だ。後ろで対抗意識を燃やしているレフィーヤだが、少年と同等の戦い方をするのは実質的に不可能だろう。

 

 こうなってしまっては、あまり時間は要さない。流石に魔石を残す余裕はなかったもののモンスターは全滅となり、ベルとフィンは右手を軽くタッチさせて口元を緩めた。

 共闘を称える一方で、まるで「君には負けない」とばかりに対抗心を燃やすかの様。実のところは正解であり、そんな気持ちを感じたベルもまた、「待っていてください」と言わんばかりに視線を交わす。

 

 

 どうやら前方で生じていた戦いも、時を同じくして収束となったようだ。いくらかドロップしているらしいアイテムを取り合う元気なアマゾネス姉妹の声が響いており、リヴェリアが軽い溜息を吐いている。

 戦い足りないのかガレスがジャガ丸を相手に一戦を始めようとするなど、三者三様。そして一行へと足を向けるベルにも、新たな試練が降りかかる。

 

 

 突き刺さる視線、感じる威圧。無視したならば肥大化することは目に見えており、一行の元へと向かうには横を通らなければならないので、無視を決め込むこともできないだろう。

 

 

「……ぼ、僕に何か……?」

「っ~~~~!!」

 

 

 歯を食いしばり眉間に力を入れたレフィーヤは、やや染めた頬の表情をベルに向けている。言いたいことはあれど絶対に口には出せない為に、こうして威嚇している真っ最中だ。

 そんな表情を向けられるベルは、自分が何かしてしまったかと過去の行動を振り返る。焦りから僅かな冷や汗を浮かべるも、少年の中で、問題となりそうな行動は起こしていないのが実情だ。

 

 

 一つ。敵の遠距離攻撃を察知し、レフィーヤさんを護った。

 一つ。まだ怖そうにしていたので、ちゃんと戦場全体を見ている事を口で告げた。

 一つ。フィンさんと共闘しながら、残存のモンスターを討伐した。

 

 

 故に、ヨシッ。恥じる事、謝るべき事はないと結論に辿り着き、ベルはレフィーヤの前を通過して集団の元へと戻ってゆく。

 後ろから鋭く突き刺さる視線に怯えつつも、まずはヘスティア・ファミリアの一行を労うのが少年の仕事だ。フィンもまた己のメンバーを労って約一名に襲われかけているものの、得られたものは非常に多い。

 

 良かったこと、悪かったこと。地上に戻っても議論すべきことは少なくはなく、それもまた、各々のファミリアの糧となるだろう。

 

 

 

 ところで。あえて手を出さなかった2名以外に居た、もう2名はというと。

 

 

「フレイヤ様、大丈夫ですか?」

「ありがとう、大丈夫よ」

 

 

 今の今まで自爆業による致命傷で済んでいた、美の女神。相も変わらず、たいそう御満悦な面持ちでベルと会話を行っており、アイズが警戒の視線を向けている。

 

 

 ともあれ、これにて関門は突破した。このあとはジャガ丸の先導により、一行は、約一名と合流すべく移動する。

 

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