その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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198話 争いは、同じレベルの者同士でしか生じない

 時は少し巻き戻り、ロキ・ファミリアから謝罪に訪れた幹部4人とベル・クラネルが会話をしている頃。オラリオにおいて存在を知る者は僅かしかいないギルドの地下の暗闇の一角。

 無関係とはいえない神とその使い走りが、全力で冷や汗を垂れ流す御前に、赤髪の女が一人。息を切らす程に全速力で駆け付けたレヴィスが、ヘスティア・ファミリアで生じた出来事に関する一連の事情を説明していた。

 

 出だしから神と使い走りの表情は固まり、止め処なく湧き出る嫌な汗が額と背中を流れる気配は収まらない。もしもガチンコの戦いが実行されてしまったならば、今までの実績の全てが無駄と化してしまうだろう。

 幸いにも一番ヤベー一般人がオトナであってくれた為に、こうして真っ先に報告がなされている上に“周囲のギルドへの連絡”も行われているようだと、ウラノスやフェルズは心の片隅で安堵している。

 

 

「その連絡が何であるかは、私も聞かされていない」

「大丈夫、大丈夫だ……」

 

 

 本当に大丈夫か?何を根拠にして問題なしと判断している?

 

 そう聞かずにはいられないフェルズだが、開けてビックリでは済まない玉手箱を開けることなく、影は影のままで居たいらしい。

 結局、口を開かずに沈黙を続ける。どうやらGrimDawn(過酷な夜明け)を受け入れる覚悟は無いようだ。

 

 普段は味方の神々に胃酸過多のデバフを振りまいているが、ここぞという時には頼りになる存在。……のように見えるかもしれない。

 それでも、自称一般人に常識を求めるのは間違っている。もしもヘスティアだったならば、間違いなく深掘りを行っている事だろう。

 

 己に対して言い聞かせるように呟くウラノスだが、どうにも普段の様相からは程遠い。重鎮の如き落ち着きは影すらも伺えず、アミッドが診たならば“軽い動悸”と診断する程のものがある。

 それでもギルドにおける実質的なトップとして、何かしらの決定が必要だ。深い呼吸にて落ち着きを取り戻すと、レヴィスから詳細な情報を聞き出している。

 

 表としては正規のギルド職員が対応するだろうが、裏方としても、黙っていることは悪手と言える。ギルドを経由して各ファミリアに「詳細については議論中」という類の言い回しがなされ、“火消し”を最速で行うことが出来ている点が最良だろうと、ウラノスはようやく安堵の心を取り戻したようだ。

 

 

 だが、しかし。今までの下積みが無に帰す恐れまで行ってしまった事に対しては――――

 

 

「あの大虚け共がああああああ!!!!」

 

 

 なんとかして秩序を保っていたものの、ここに来て祈祷は中断。珍しさで言えば激レアとなるウラノスの雄たけびが、地下室の闇に吸い込まれていた。

 

====

 

 翌日。心身の疲れと二日酔いにてゲッソリとした当該の2柱が朝一より呼び出され、盛大な説教が行われゲッソリ具合に拍車がかかったのは言うまでもないだろう。

 がしかし、戦争遊戯(ウォーゲーム)とはギルドを度外視して神同士で行われるモノ。一度起こってしまった戦いにギルドが口を挟むことはできず、酔っ払いが自ら言いふらした事によって話は広まり、ロキ・ファミリアとヘスティア・ファミリアの戦争遊戯(ウォーゲーム)が開催されることは公衆が認知する事となった。

 

 なお、単にそのまま話が広がったワケではない。そもそも戦うつもりなど全くない一般人によって、内容は、次のようなものに仕上がっていた。

 

 

 

 ロキ対ヘスティア、戦争遊戯(ウォーゲーム)開催のお知らせ

 日時:~~~~(明日夜19時)

 場所:怪物祭が行われたスタジアムのような場所

 報酬:戦争遊戯(ウォーゲーム)の非参加者を巻き込まない範囲で、相手に一つ罰ゲームを命令

 種目①:早押しクイズ

 種目②:叩いて被ってジャンケンポン5本先取

 種目③:いつもの取っ組み合い

 

 

 

「な、なんだいコレは~!?」

 

 

 内容としては単純であり、1日でこなすらしい。内容が記載されたギルドからの配布物を目にしてツインテールが荒ぶりを見せているが、今更騒いだ所で変わらない。

 同時刻、黄昏の館では似非関西弁の叫びが木霊しているが、こちらについても同様だ。自称一般人やヘファイストスによって歪まされた戦争遊戯(ウォーゲーム)の内容は、悲しいかな過去一番に匹敵する盛り上がりを見せている。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)とは、ファミリア単位の冒険者同士による争いである。

 

 “ぶっ壊れ”宜しく、そんな定義を正面からぶっ壊した一般人。戦争遊戯(ウォーゲーム)そのものは何度か目にしたことのある住民でも、神同士による争いとなれば新鮮そのもの。

 何せ、戦争遊戯(ウォーゲーム)の前哨戦とばかりにオラリオでドンパチやりあう冒険者が少なくない中、此度においてはそんな危険は存在しない。地上に居る神が持ち得る力とは正真正銘の一般人と大差がなく、だからこそ今回の戦いは、巷の喧嘩と大差がないのだ。

 ロキ・ファミリアが蹂躙するだろうから冒険者を戦わせるよりも面白いとの声も高いが、一部では「逆ゥー!」と抗議を行いたい声も上がりつつある。無論、フィンや各神によって止められているのは言うまでもない。

 

 周囲のファミリアが盛り上がり、当事者二名の二日酔いも収まった翌日の夜。オラリオに存在する酒場は、どこもかしこも満員御礼に匹敵する大盛況。凹凸の神が繰り広げる雑な漫才は、オラリオに住まう皆の肴となるだろう。

 前回の戦争遊戯(ウォーゲーム)と同じく、映像が中継されていることに変わりは無い。興味を向けるかどうかは個人差があるとはいえ、娯楽に飢えた住民の殆どは酒を片手に観戦しており、視聴率という言葉があったならば凄まじい値を叩き出しているだろう。

 

 

 熱気が渦巻くスタジアムに、対戦者の二名が姿を現した。

 

 

「年貢の納め時だぜ、ロキィ」

「泣いて詫びても承知せんで、ヘスティアァ」

 

 

 主神が素直に戦うかについては疑念が残ったファミリアメンバーの心配をよそに、ここに争いの熱が再び燃え上がる。こんな戦いを生じた責任を相手に擦り付ける、言うなれば“憂さ晴らし”を達成するために、互いのやる気も無駄に高い。

 暇だからと言う理由で地上へと降りてきた神にとっては、こんなオフザケも愉しみの一つなのだろう。コレが生じた原因、子に掛けた迷惑に目を瞑るとなれば色々と問題だが、今回については己の始末を自分で処理する流れの為に比較的穏便な結末となりそうだ。

 

 

 

 そんなこんなで、第一ラウンドは早押しクイズ。もはや説明は不要となるであろうルールの元で行われる事もあり、一般の者でも分かりやすい。

 ロキとヘスティア横並びで回答テーブルの前に立ち、やや前のめりになって回答ボタンの上に手を乗せる。周囲が静かになると、司会役となる“ヘルメス”が問題を読み上げた。

 

 

「〇×クイズ第一問!神ヘスティアが天界で求婚を断ったのは、結婚した際に生じる妻としての家事全般を面倒に思った為である」

「ちょっと待ってくれヘルメス!誰だいこんな問題を作ったのはああああ!!」

「グ、グフッ!ひ、卑怯やでヘスティア!わ、笑いが!ダハハハハハ!!」

 

 

 〇×クイズという名の、羞恥話の暴露大会。勿論、話の出どころはオラリオに住まう神々である。ちなみに先の問題は、ヘスティアの盟友であるヘファイストスが出所だ。

 無論、ロキについての内容も存在する。その際は先の絶叫と笑い声が逆となるだけであり、最も盛り上がっているのは周囲の傍観者だ。やがてクイズは終了するも、互いにドっと出た疲れが隠せない。

 

 

「や、やっと終わりおった……」

「と、とんでもない戦いだったぜ……」

 

 

 叫ばせることでバイタルを、問題の内容でメンタルの残量を削り取る。前回の戦争遊戯(ウォーゲーム)でヒュアキントスが降参した時のベル・クラネルを上回る比率で疲れの溜まったロキとヘスティアだが、続いては更に体力を使う戦いだ。

 こちらも説明は不要だろう。なお、通常ならばピコピコハンマーの類を用いるのだが、今回はハリセンが用意されている。

 

 

 一人用ともいえる小さなテーブルの上には、ヘルメットとハリセンが一つずつ。二人が定位置についたならば、それぞれ左右で等しい位置に設置されている。

 ジャンケンを行い、勝った方がハリセンを用いて相手の頭部を攻撃。負けた方はヘルメットを被り、それを防ぐという戦いだ。

 

 互いにテーブルの前に向かい合い、交わる目線は“水平”に。事前に調節された高さは、互いの身長差をイーブンへと変えている。

 だからこそ、面白い。基本として死ぬ危険性がない肉弾戦だからこそ、ロキとヘスティアのテンションも上がりっぱなしで怪しい笑みを浮かべている。

 

 

「それじゃぁいくよ~?叩いて、被って、ジャンケン」

「ポンッ!」

「ポンや!」

 

 

 ヘスティア は グー を くりだした。ロキ は パー を くりだした。

 

 ということで、攻撃の権利はロキにある。そして普段から見せる身のこなしの差がここに出る事となり、ヘスティアの対応が僅かに遅れた。手を伸ばした時には、ロキは既にハリセンを手にしている。

 一切の加減を見せずに振るわれ、スパァン!!と。まるで、風船が割れるかのような音が響き渡った。

 

 

「ぬ゙お゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!?」

 

 

 今の一撃によって、幾らか背が縮んだだろうか。獲物が強烈なハリセンである為に、そう思える程に強烈な、そして傍から見れば気持ちの良い音が会場に木霊する。

 とても女神とは思えない下品な叫びが響き渡る程、観客の歓声とボルテージは高まりを見せているのは必然だろう。悲しいかな、赤の他人が悲惨な目に合う光景は、他人にとってはストレス発散の対象となるのです。

 

 

「もう一発、かましたるで」

「こんのやろおおおお!」

「いやー、良い音だったねヘスティア!それじゃ2回目、叩いて、被って――――」

 

 

 先の逆。ヘスティア は パー を くりだした。ロキ は グー を くりだした。

 

 

 しかし、先とは違う点が一つ。ヘスティアは口元を怪しくゆがめつつ、突き出し開いた手を、流れるようにハリセンへと伸ばしている。

 いくら30㎝程度の動きとはいえ、物体が動く以上は加速度が存在する。ジャンケンとは運による勝負の為に一か八かの賭けも含まれていたとはいえ、これも一つの作戦だろう。

 

 

「しもた――――」

 

 

 アルカナムでも使ったのかと思える程、予想を上回る俊敏な動き。ロキも全力でヘルメットへと手を伸ばすも――――

 

 

「せりゃああああ!!」

「あ゙だ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!?」

 

 

 再び響く爽快な音と絶叫、盛り上がる観衆の声援群。オラリオに長くいる者だけが気付いているが、今までの戦争遊戯(ウォーゲーム)と比べ、盛り上がりの大きさが非常に強い。

 幾らかのダメージを受ける者がいるとはいえ、誰も命を落とさないと皆が知っているからこその影響だ。そしてオラリオに対して富と共に害をもたらす神が被害者だからこそ、輪をかけて遠慮なしに盛り上がっている。

 

 

「こなくそおおお!!」

「ぬおあああああ!?」

 

 

 争いとは、同じレベルの者同士でなければ生じない。やがてジャンケンによる勝ち負けを関係なく取っ組み合いが始まり、勝手に第三ラウンドの取っ組み合いへ突入した凹凸神。辛うじて双方が最低ラインを弁えているからこそ、ポロリなどによるR18指定になることは無いようだ。

 しかし先にも示した通り、この二名については似たり寄ったり。此度もまた決着がつくことは無く、二人して無様に床に突っ伏して息を切らしている有様だ。辛うじて顔だけは持ち上がっているものの、今にも力尽きそうなありさまと言えるだろう。

 

 

 あえて判定を述べるならば、間違いなくドローだろう。司会役のヘルメスはその事を告げると力が抜けて顔を突っ伏した二人だが、ヘルメスの言葉は終わらない。

 

 

「それじゃあ、ギルドから二人に対して罰ゲームを発表するよ」

「にゃ、にゃにい!?」

「な、なんでや!?」

 

 

 確かに、戦争遊戯(ウォーゲーム)の非参加者を巻き込まない範囲で罰ゲームを与える事ができるとなっていた。つまるところ対象は、ヘスティアかロキの何れか、もしくは“両方”が対象となる。

 通常ならば、勝者が敗者に命令をする形が想定されるだろう。だがそこに、勝者が命令できるとは記載されていない――――!

 

 

 と、いうことで。ウラノス発となる命令は、ギルドよりという形で、ベルとアイズから発表される事となる。

 

 

「それではお二人とも、喧嘩両成敗の握手です。反省してくださいよ、神様」

「ロキも、だよ」

 

 

 事の発端。ロキとヘスティアそれぞれが愛する眷属に言われては、Noと答える事などできはしない。

 加えて戦闘規約の道理は通っており、喧嘩両成敗となる今回のクローズ迄の発案者がタカヒロである事を神の二人は見抜いていた。酔いが回っていない今は自分たちの不始末が事の発端であることを理解している事もあり、二名の神は素直に従うようだ。

 

 

「な、な、仲直りだぜ、ロキィ?」

「せ、やなぁ、ヘスティアァ~?」

 

 

 公衆の面前で仲良し宣言を強制されるとなれば、程度はどうあれ、二人にとっては罰ゲームの類だろう。だからこそ素直に受け入れておらず、息を荒げながらも最後の抵抗を続けている。

 残りカスのような力を互いに振り絞り、作り笑顔にて仲良しアピール。“喧嘩するほど仲が良い”という言葉を、これでもかと言わんばかりに再現した。

 

=====

 

 オラリオにある、とある地下室。屋内用の魔石灯の光が6畳程度の石造りの壁に無秩序に反射し、不規則な影を作り出している。

 

 部屋の中心部にあるのは、4人掛けには少し小さい丸い木製テーブル。やけに小傷が目立つそれは、持ち主がどのような性格かを示している。

 対面となるように二人の男女が腰掛けているのだが、机に肘をつく男に対して背筋を伸ばす女性側という不釣り合いな状況だ。二名の人物は、ロキ・ファミリアとヘスティア・ファミリアの戦争遊戯(ウォーゲーム)が開催されることは知っている。

 

 

 女性側については、戦争遊戯(ウォーゲーム)について、そこまで気には止めていない。しかし男性側となれば別のようで、此度の戦争遊戯(ウォーゲーム)について思う所があるらしい。

 普段より見せる行動の根底は己の愉悦とはいえ、戦う以上はいくらかの闘志が存在する。俗にいう“悪”という存在だろうとも同様であり、今のような環境は、己が望む世界とは程遠い。

 

 

 いくら遊戯(ゲーム)とはいえ、これの何処が戦争だ。文字通りの“おふざけ”だからこそ、狂乱を望む神は行いを許せない。

 

 

 事が失敗し痛手を負った7年前。以降、日の光の当たらぬ闇の底で、ただ耐えるように過ごし誰にも知られぬ綿密な計画、誰しもが想定できないだろう準備を重ねてきた。

 だからこそ輪をかけて、こんな奴らには負けられない。人類の大多数には“悪”となる事でも、本人にとっては“正義”の類である事だろう。

 

 

 なお現実とは悲しいかな。争いとは、同じレベルの者同士でなければ生じない。

 こんなフザケた戦争をしていた奴等の向こう側。同じ“フザケ”でも異なるベクトルの盛大にフザケた奴等が心中の正義を持って立ちはだかる事を“悪”が知る由は無いが、悪(笑)は悪(笑)なりに思う所があるらしい。

 

 

 

 

 今までとは違う意味で成功を治め、自業自得の神二名を除いて誰も傷つく事のなかった戦争遊戯(ウォーゲーム)から一夜が明けようとしている。酔いつぶれた者達が多いためか、オラリオは、いつもにまして静かな、穏やかな朝を迎えるだろう。

 

 オラリオを囲う高い城壁の向こう、山の頂より日が昇る。誰に見送られる事なく去り行く闇と歓迎される光の雨は、果たして何を比喩したものか。

 今日も今日とて、オラリオの地上は変わらない。各々が目標に向かい挑み、または明日を生きるために、異なる日常を精一杯に送っている。

 

 

「ままー、おひさまー!」

「おひさまだね。おひさまは、今日も皆を照らしてくれるのよ」

「うん!」

 

 

 それでも訪れる“決戦”の時は、そう遠い未来の話でもないだろう。運命が何か悪戯をしようにも「どうにもならない」と匙を投げている結末は、ニッコリと微笑む太陽(エンピリオン)だけが知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フレイヤ様、いつものです」

「あら」

 

 

 争いとは、同じレベルの者同士でなければ生じない。鼻血の量で争うのかどうかはさておき、この女神に匹敵する者はオラリオに存在していないのが現状だ。

 先の例とは更に別のベクトルにおいてフザケた女神が何を見て赤い線を生み出しているかは、誰とて知ることがない。此方の“血栓”については、エンピリオンの認知から除く事とする。

 




読者の方に、キャットファイトはともかく、叩いて被ってが見破られた謎。何故分かったし
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