その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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*お詫び*
色々と追記しているうちに、時間系列が昔のものになってしまいました。
本来でしたら18話に入る内容となります。


20話 主神の覚悟

 日付は少し遡り、地下室特有の、やけに静かな昼下がり。一人ホームに残っている青年は、いつものように本を片手にダンジョンの知識を学んでいる。

 己の弟子はダンジョンへと潜っており、主神については、その弟子へのプレゼントを作成してもらうために家を空けている状態だ。

 

 ――――ガチャリ。

 

 故に開くはずのない、玄関代わりの扉が開く。本を広げつつも窃盗の類かと考えて鋭い視線を向けると、そこにあったのは、紛れもない己の主神であった。

 

 

「おや、どうした?」

「……」

 

 

 プレゼントの話をして送り出したはずのヘスティアが、今にも消える炉の灯火のごとき表情と足取りで帰ってきたのである。言葉を掛けたものの考えられる事象は1つであり、武器の作成依頼を行って断られた点だろう。

 しかし、タカヒロの中ではシックリこない。ヘスティアを送り出してから戻ってくるまでの時間は約2時間。彼女にしては“早すぎるのではないか”というのが彼の考えだ。

 

 彼女が見せるベルへの愛情は、タカヒロからしても特別なものがあると感じている。もっともベルもヘスティアのことを非常に大事に思っており、鍛錬の休憩時間において、自分が守るべき家族だと語ったこともあった。

 そんな感情は彼女も捉えているだろうから、諦めるにしても夜遅くになるだろうと踏んでいたものの、現状はこれである。違和感を感じつつ、何かを口にしたがっているヘスティアの言葉を待っていた。

 

 

「タカヒロ君、ごめんよ!君の気持ちを全く考えてあげられなかった!」

 

 

 背筋を伸ばすなり勢い良く頭を下げる主神の姿を見て、何かあったかとタカヒロは本を閉じる。頭を上げる様子の無いヘスティアに声を掛け、ソファへ座るよう促した。

 しかし彼女は断固拒否する姿勢を見せる。それでも彼女の感情が高ぶっていることを感じたタカヒロは落ち着くよう再び言葉を掛け、ヘスティアは申し訳なさそうに腰を下ろすのであった。

 

 

 何があったかを尋ねると、重い口が微かに動く。ヘファイストスのところに行って武器の作成を頼んだ際に、二つ返事で拒否されたというのが真相だ。

 しかし彼女が落ち込んでいるのは、作成を拒否された点ではない。ヘファイストスが作成を断った、その理由にあり、ヘスティアは先ほどまでのことを静かに口にし始めた。

 

 

===

 

 タカヒロとの対話でベルへのプレゼントは武器が良いだろうとの結論に至り、数日間家を空けることを伝え、ヘスティアはバベルの塔へと駆けてゆきヘファイストスの下に辿り着いた。抱く気持ちは既に“1つ”であり、ベルのための武器を作ってもらう覚悟を抱いている。

 決して安くは無いであろう、ヘファイストス・ファミリアの一級武器。アルバイトをしたことがあるために値段は知っており、数千万ヴァリスは当たり前と言って過言ではなく、億に達することも珍しくは無い。

 

 極論を言えば、青年がカドモス周回なる行動(掘り作業)を開催すれば1週間程で集まる金額だ。一時的に相場が下落しそうな点や青年がそのような奇行を実行できることを知らない点はさておくとして、前回に買い取ったカドモスの被膜から、ヘファイストスはその点を問題視しているのである。

 ヘスティアの覚悟の下に打った武器。その対価となる彼女の労働、つまるところのローンの支払いを他人が受け持っては、まったくもって意味がないのである。自分で返していく覚悟は示したヘスティアだが、そうなる保証があるかと言われれば確かに無い。

 

 また、問題はそれだけではない。例えば、二人の兄弟が居たとする。年齢こそは離れている兄弟だが、とある共通の記念日に弟だけがプレゼントを貰えばどうなるか。

 そのようなことを話され、答えが見つかり善は急げとばかりに駆け足となっていたヘスティアはハッとする。ベルに夢中になるあまり、そしてこればかりは青年にも原因があるものの“ぶっ壊れステイタス”から目を逸らすあまり、その青年という、他ならぬもう一人の眷属を蔑ろにしてしまっていたのだ。

 

 

「分かったら帰りなさい。貴女の願いを聞くのが嫌って言ってるわけじゃないわ。ただ、貴女の願望を聞くのは、貴女の周りで起こるだろう問題を片付けてからよ」

「……ごめん、ヘファイストス。本当に、ごめん」

「……」

 

 

 全てが正論かつ自分が盲目となっていた内容だけに、ヘスティアは何も言い返せない。礼儀は忘れないながらも力なく返事をし、足取り重く部屋を去る。

 

 二人の眷属の武器を作って。そう言葉を返すこともできたヘスティアだが、それだけは絶対に口にしてはいけないと喉元に仕舞った。

 ヘファイストス・ファミリア、それもローンの関係で主神ヘファイストスが打つ武器なのだ。おいそれと複数本が打たれて良いものではないのは当然であり、今の状況においては、“じゃぁ二人分”と言い換えることが出来てしまう“二人分の覚悟を背負う”という台詞は、ヘファイストスの誇りまでも蔑ろにしてしまうものだ。

 

===

 

 

 結果として何も言い返せず、祈願を続けることもできず、ヘスティアは力なく教会へと戻ってきたのである。その心境が如何程であるかは、いつも暖かい元気を見せている彼女の灯火が消えそうな表情が示していた。

 

 

「……なるほど」

 

 

 たとえベルだけに武器が与えられたとしても、とりわけ気にしていなかったタカヒロだが、こうして言われると一理あると感じてしまう。装着するかどうかは別として、彼とて自分のための武器を貰えるならば少年のように喜ぶだろう。

 事実を知るためにヘスティアに対して覚悟のほどを聞くと、たとえ数億ヴァリスでも、何百年かかろうとも、自分の力で返していくと強い目を以て答えていた。覚悟の瞳が漆黒の視線と交わり、青年は相手の覚悟と決意を問いている。

 

 

「仮に、以前に自分が見たことのある斧と同じ2億ヴァリス、アルバイトの日給2000ヴァリス、年間300日の労働として――――約333年か。半額としても166年。炉の女神とは永久の処女を誓った身と聞く。天に交わした制約ゆえに実ることは微細にしか望めないだろうが、それでもベル君のために身を捧げるのか?」

「うん、そうだよ。これは君が来る前の話なんだけど、ボクが路地裏で酔っぱらいに絡まれていた時、細い身体を張って守ってくれたのがベル君との出会いなんだ。その時の恩を返せる時だと思っている。そして、こんなボクについて来てくれたベル君が抱いている、覚悟の背中を押してあげたいんだ!」

 

 

 あえて厳しい現実を口にしたタカヒロだが、それでも呉須色の瞳は濁ることは無い。真っ直ぐ青年を見つめる力の入った瞳は己を捉えて離さず、覚悟のほどを示している。

 数秒して、タカヒロは一枚の羊皮紙を取り出した。同時にペンも持ち出しており、何かしらの文を書いている。

 

 

「一筆を示した。これをヘファイストスに持って行くといい」

 

 

 両手で受け取ったヘスティアは、何が書かれたのかと考え、内容を確認した。

 

 

 ――――主神ヘスティアの名に誓って本書を記す。此度において我が心が抱く願いは主神と共にある。また、主神がベル・クラネルの為に抱く覚悟に対し、我、一切の関与を成さず。タカヒロ。

 

 

 ヘファイストスが口にした、2つの“問題”を解決する一文。しかし同時に、ヘスティアが眷属に対して示そうとしている決死の覚悟を、欠片も受け取らないと宣言している文章だ。

 ヘスティアは目を見開き、相手を見る。そこにあったのは据わった瞳であり、漆黒の瞳が己の眼を射貫いていた。

 

 

「主神ヘスティアに物申す。ベル・クラネルに対し最高の武器を与え、それに対しては主神の覚悟を示して欲しい。自分に対しても何かしらをするというのなら、今の望みを叶えてくれ」

「で、でもそれじゃボクはタカヒロ君に何も」

「二言も繰り返しも無いぞヘスティア。今ここで更にゴネて自分(装備キチ)の二度とない対応をふいにしてみろ。血ぃ見るぜ」

 

 

 口元を怪しくゆがめて不敵に笑う笑みに、ヘスティアの背中が震えあがる。

 なんせ、彼のレベルは100なのだ。いつもとは違って(装備が絡んでいるだけに)冗談に思えないその言い回しを受けて、冷や汗を出すなと言う方が無理である。

 

 

「うっ……そ、それは遠慮願いたいね……」

「常に家の中心に在り、家族に力を分け与える炉の女神の気持ちが冷えていてどうする。己の中の気持ちが冷めないうちに、頭を下げに戻っておきな」

 

 

 これ以上は話さんぞ。と言わんばかりに、タカヒロはソファーに寄りかかり、本を手に取って読み始める。

 その姿と最後の言葉に勇気を貰い、ヘスティアは「ありがとう!」と言葉を残して勢いよく駆け出した。すっかり元気が戻った彼女の後姿を眺めた彼の心境は――――

 

 

――――いいなぁ……鍛冶の神が作る武具なんだろ?自分だって祈祷ポイント20ぐらい上がって報復基礎ダメージついて装甲強化と物理耐性と全報復ダメージ倍率、ああ、あとソルジャーとオースキーパーのスキルボーナスが付いたヘビーグローブが欲し以下略

 

 

 ものすごーく羨ましがっていた。しかし、そんなものが有るとするなら、ただのチート武具である。百歩譲って、祈祷ポイントぐらいは諦めなければ話にならない。

 先ほどの文言を口にしたものの、やっぱり心の底では羨ましがる装備コレクター。妥協した2つよりも至高の1つを見たいという極一部の本音が隅っこにあるなど、そんなことは無いと信じたい。

 

 ポンコツ具合が顔を覗かせているが、大人とはいえ青年もまた人間。内心でダダを捏ねるぐらいは許されるだろう。

 

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