その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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Act.8:Gods and Spirits(神々と精霊達)
Act.8-1:アイズ・ヴァレンシュタインを探しに24階層へ向かえ
Act.8-2:とある神の使者と会って会話せよ
Act.8-3:とある神と会話し、力を貸せ
Act.8-4:50階層を調査せよ
Act.8-5:59階層にてリヴェリア・リヨス・アールヴを守り切れ
Act.8-6:精霊の分身を殺し、ロキ・ファミリアの安全を確保せよ
Act.8-7:59階層における出来事について、神ウラノスと意見を交わせ
Act.8-8:18階層を調査せよ
Act.8-9:目的を思い出そう
Act.8-10:【New】強制ミッションを達成せよ


215話 それぞれのミッション

 ディオニュソスが抱く“願望”――――なお大半の生命にとっては「愚行」や「悪行」と呼ばれ、運命という存在が意思をもって存在したならば「絵に描いた餅」と表現するモノが大半となる行動や目的の数々が明らかになって、数日後。

 少し前にリヴェリアがタカヒロと共に乱獲してきた51階層の素材は、武器や防具に変わっている。費用については60階層以降で大騒ぎした際の魔石が換金されて用いられている一方、60階層以降の素材については危険物として認定された為、一旦の所はタカヒロ預かりとなっている。結果としてロキ・ファミリアに残った残金こそ相変わらず乏しいが、装備については必要数を揃えている状況だ。希少素材の現物持ち込みということで、鍛冶師達のテンションも上がっているのは副産物である。

 

 もとより装備とは、己の命を守る為に犠牲となるモノ。そして装備とは基本として、消耗品に他ならない。

 例外があるとすれば、デュランダルぐらいのものだろう。ともあれメンテナンス作業が必要な点については同じであり、故に冒険者の全ては、日々の手入れを欠かさない。

 

 

 それら武器や防具が揃った日付も、ロキ・ファミリアとしては計算通りのタイミング。新しい武具への慣れについては時間が足りていないものの、各々の能力と、武具そのものが持ち得る性能でカバーできることだろう。

 ディオニュソスや闇派閥に対し、対処の為の時間を与えないという点についても狙い通りだ。“相性”という言葉があるが、相手の手の内を知ったならば対策も練りやすい為、このタイミングにおけるロキ・ファミリアの装備一新は効果的と言えるだろう。

 

 もっとも、全ての者や物に対する更新ではない事を付け加えておく。そして得たものは武器だけではなく、多大な情報もまた同様だ。

 

 罪を償うと心に決めたフィルヴィスからもたらされた情報、怪人だった頃のレヴィスからの情報。ロキ・ファミリアが収集した情報、ヘルメス・ファミリアがかき集めた様々な情勢。

 無論ながら、ギルドとしてウラノス達が集めたモノも含まれる。まさにオラリオにおける全ての頭脳が集結しており、情報の一つ一つは確信の度合いが区別されて処理される。

 

 そして最後に、ベル・クラネルが持ち得る御伽話の知識などが組み合わさり。闇派閥、ひいてはエニュオの狙いは丸裸となった。

 

 ロキ・ファミリアが59階層で対峙した、穢れた精霊の“分身”。ソレが6体、この人造迷宮(クノッソス)に配備されている。

 幼い頃にベルが読んだ伝記においては、“精霊の6円環”と呼ばれる6体の大精霊の命と引き換えに“討伐”された災害悪、“ニーズホッグ”。“神の力と呼べる威力”の次に強い大魔法でもって行われた“討伐”を、穢れた精霊の分身で“再現”させることで、オラリオという街を吹き飛ばすというのがエニュオの真の目標だ。

 

 しかし、伝記においては“討伐”とあったにも関わらず、フィルヴィスによれば、その存在が人造迷宮(クノッソス)にあるらしい。ベルが読んだ“祖父が記した伝記”に誤りがあったか、ベル本人の記憶違いか。

 

 もしくは。実際は封印するのが精いっぱいだったものの、何らかの事情で“討伐”と記載せざるを得なかったか。今となっては“死人に口なし”で、こちらの真相は闇の中だ。

 当時の生存者であるレヴィスですら、その存在は知るところにないらしい。ならば何故ベル・クラネルの祖父が知っていたか、こちらについても“死人に口なし”だ。

 

 

 そもそもにおいて、大魔法が必要となるだけならば、ニーズホッグの存在自体が不要だろう。そこはロキが推察を入れており、ディオニュソスが実際に口にした“狂乱”を各地へとばらまくために、ニーズホッグを復活させるのだろうとの事だ。

 これらについては、明らかとなったディオニュソスの性格や目的とも一致する。そして今の場に集う一同にとって、絶対に阻止しなければならない内容としても一致した。

 

 

 そして実は、一行の中に真実を知っている者がいる。しかし本人が忘れていることと、それは他の誰にも知らされていない内容である為に、今の段階で真実が明るみに出る事はなかった。

 

 

 なお当然ながら、これらはタカヒロの耳に入らないよう隠密に処理されている。理由は語るまでもない(好奇心を抑えきれず突撃するのを防止する為)だろうが、正論を述べるならば、切り札とは最後の最後まで一端も見せない事が王道だろう。

 

 

 ケアンの地においては神々の鉄砲玉となっていた男だが、それも昔話の一部である。いつのまにか、自分で加速しつつ標的を探すミサイルへと進化していたらしい。

 

 

====

 

 食堂という円卓で行われた唐揚げ世界大戦の数日後。皆が寝静まる、深夜の時間帯。ただでさえ人気(ひとけ)の少ないダイダロス通りは輪をかけて不気味な静けさに包まれており、人一人や二人が潜んでも発見する事は困難だろう。

 だというのに、その地区の一角には数十名の集団が集っていた。各々が吐き出す熱の篭った吐息は魔石灯の灯りを反射して僅かに白く、やがて訪れる冬の気配を感じさせる。

 

 

「しかし、こうしてワシ等だけとなると随分と少なく感じるのう」

「はは、そうだね」

 

 

 あくまでも表向きは陽気に。しかし、僅かに出てしまった不安を隠しきれず、ガレスはフィンに対して軽口をたたく。

 返ってきた言葉は、いつものフィン・ディムナらしく重々しさが見られない。しかし普段とは違った、据わった瞳から向けられる視線の意味については、対面に居る全員が受け取っている。

 

 時は今しかない。先日の映像が公開された事により、闇派閥との関係を揉み消そうとする動きを含め、オラリオの混乱は膨れ上がりピークの域に達していた。

 闇派閥とて同様と推察され、だからこそロキ・ファミリアは、次なる一手を打つための行動を開始する。オラリオの地下に造られた迷路、人造迷宮(クノッソス)への突撃だ。

 

 どうやら此度の突撃は、ロキ・ファミリア単独で行われる様相だ。バックアップとしてヘルメス・ファミリアこそ地上で活動しているものの、主なミッションは地上の監視であり、本隊とは程遠い。

 

 

 ロキ・ファミリアの構成員が、それぞれ少人数単位の覚悟を決めたあと。少し高い位置から一行を見渡したファミリアの長は、静かに、しかし力強く口を開く。

 

 

「――――総員、準備はいいかな」

 

 

 ロキをもってバケモノと言わしめる知将、フィン・ディムナ。彼は普段よりも表情は険しけれど、普段の口調を崩すことなくファミリアの者達に語りかけた。

 

 思い返すは、約7年前の出撃時。絶望を前に責務を果たすべく集結した際の情景は、今でも勇者(フィン)の脳裏に残っている。

 歴史に残らぬ数多の英雄が散り、そして新たに生まれた大恐慌。今のロキ・ファミリアにおいても当時の情景を知る者は半数程となったが、知り得る者は、フィンと同じく当時の光景を脳裏に浮かべていた。

 

 

「じゃぁ、オラリオの為に、行こうか」

 

 

 返されるは、肯定となる二文字の言葉。立ちはだかる最硬金属(オリハルコン)の扉を開き、歴史に残らぬと知りながらも、英雄達は覚悟と正義を掲げて人造迷宮(クノッソス)へと駆けてゆく。

 懸念する点など、挙げ始めればキリがない。せめて住民たちの盛大な見送りのもとで出陣を行い、一人でも多くに己の名を知って欲しいと思う者も少なくない。

 

 

 最悪は、死してなお戻れぬ事も覚悟の上。本音をぶち撒けるならば黄昏の館へと逃げ帰りたい者も多々居るが、挑む仲間を見捨てる事など出来はしない。

 

 

 レンガのような金属が積み上げられた、トンネルのような通路の中心。先頭を走るは、3つに分けられたパーティーのリーダーだ。

 バランスよく配分されているフィン・ディムナ。火力(パワー)要因が多数配置されており、一定の深度にまで達した際に追手の足止めを担うガレス・ランドロック。エルフのみで構成され臨機応変に動く事を許可されている、リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

 

 世界で最も冒険者が多いとされるオラリオの基準においても、それぞれがトップクラスの戦闘能力を持っている。このパーティーのどれか一つで、中堅のファミリアなど軽く捻り潰せる程なのだ。

 そのような集団が畏怖の感情を抱く、此度の相手。故に口数少なく走る一行だが、今の所トラップが発動する気配は見られない。

 

 ほぼ並んだ状態で先頭を走るは、フィンとリヴェリアの頭脳コンビだ。そしてリヴェリアは何か思うところがあるらしく、他には聞こえない音量で声を発した。

 

 

「フィン、()いのか。お前を貶すわけではないが、これ程の実地調査を、ヘスティア・ファミリアの者達に無断で行うなど……」

「神ヘスティアにだけは、話を通してある。君やアイズの力は信じているし、今回の結果で彼等から向けられる罵倒があれば、それは全ては僕のせいだ。団長命令ということで、従ってくれ」

 

 

 少なくともベル・クラネルは、此処オラリオで暗躍している闇派閥の存在を、その目的を知っている。恥ずかしくて口では言えないけれど、大切な人を護る為、そんな相手と出会ったオラリオを護る為にも、少年は努力を惜しまない。

 だからこそ、レベルは違えど団員達と共に、強くなる為に鍛錬を積んできた。そんな光景を知っているリヴェリアだからこそ、先の意見を抱いている。

 

 

人造迷宮(クノッソス)がどういう場所かは聞いているけれど、それらは結局のところ、一定部分の知識に過ぎない。ダンジョンの攻略には、必ず知見が必要だ」

 

 

 オラリオの冒険者がよく知るダンジョンとは、未だ全容が明らかとなっていない危険地帯。故に冒険者は、ギルドが公表している内容をはじめとして、様々な情報を頭に叩き込んでから攻略するのが定石だ。

 持ち得た事前情報では、それに引けを取らないとされる人造迷宮(クノッソス)。オラリオの地下に作られた要塞であり、防衛に特化した仕掛けが数多く予測されるとなれば、それを知らなければ効率的な作戦の立案は不可能だ。

 

 故に誰かが斥候の如く、その要塞へと突入し。敵が持ち得る戦力を知り、要塞の概要を把握し、持ち帰って突入部隊へと知らせる必要があるだろう。

 フィン・ディムナが語る知見とは、それらを示す。そしてロキ・ファミリアとして知見役に名乗りを上げた理由は、大きな心境の変化にあったのだ。

 

 

「此度のコマは僕達だ。道化と呼ばれようとも、どうでもいい。自分自身を棚に上げるようだけれど、僕は、情報の分析は得意と自負している。そして今の行動が、オラリオにとって最も為になる、正しい事だと信じてる」

 

 

 かつて59階層で目にした、静かな、しかし大きな英雄の背中。ロキ・ファミリアの第一軍、その命の全てを当然のように背負い零すことのなかった存在は、小さな勇者には眩しすぎるものだった。

 最も危険なこの任務こそが、今という時を歩むフィン・ディムナが行うべきこと。彼が心中に掲げ、団長としてファミリアに示し、同意を得た正義なのだ。

 

 己が抱く、切望でもある絶対の野望。長く険しいゴールへと辿り着く、一歩の範疇。

 それが残り何歩なのかは、答えの微かもありはしない。それでも、大きな背中が見せてくれた戦う理由とは違えども、彼は正義を活力と成して歩みを進める事だろう。

 

 

 これまでのフィン・ディムナが抱くモノとは、決定的に違う思想概念。今までの彼は、主神のロキに掛け合ってまで“勇者(ブレイバー)”の二つ名を欲したように、どちらかと言えば“目立つ”ことを好んでいた。

 

 今まさに行おうとしている戦いが、歴史の表へと昇華することはないだろう。危険の度合いを考えれば、ここで命を落とす危険性もまた十分に考えられる。

 少なくとも、彼が好き好んで行う事ではない。だからこそ先の発言は、リヴェリアに僅かながらも驚愕の感情を与えている。

 

 

「……変わったな、フィン」

「ああ……君の相方から言葉を貰って吹っ切れたよ。この戦いで、答えの一つを示して見せる」

 

 

 親友の一人が見せた雄の顔に、リヴェリアの口元が僅かに緩む。

 

 もう随分と昔になった、ロキ・ファミリアを結成した当時。今となっては常日頃から平然としているフィンとはいえ、当時は、がむしゃらに攻めを演じたことも少なくはない。

 スタイルは自在なれど前衛の一人として、覚悟を決めた場面も数多に上る。そんな当時を思い出すリヴェリアだが、一方で、気になる点も浮かんできていた。

 

 

 優しさの塊と言える、ヘスティア・ファミリアの団長の存在。彼ならば真っ先にロキ・ファミリアの援軍を申し出て、例え主神が拒否しようとも、たとえ一人だろうともやって来るのではないかと危惧していた。

 もちろんフィンは、ウラノスと手を組んで対策を講じている。団長のベル・クラネルがレベル4になったことも相まって、オラリオではよく知れている“強制ミッション”を、本日早朝のタイミングで発動させていたのだ。

 

 

 回答を耳にして、なるほど。と腑に落ちた瞬間に、疑問符で肩眉が歪むリヴェリア。

 もちろん原因は、彼女が最もよく知る一人である“自称一般人”。今となっては下位互換ながらもヤベーのが増えているだけに、どれだけ無茶なミッションが与えられたのかと気が気でないようだ。

 

 

「しかしフィン、あのタカヒロが居るのだぞ?クエストなど、すぐに終わってしまわないか?」

「大丈夫。階層こそ中層の奥程度だけれど、採取系クエスト、それも“稀少系”だ。“彼”が居るから1-2時間で辿り着けるとしても、最低でも三日四日は見つからないさ」

 

 

 なんとも捻くれた内容だなと、リヴェリアは苦笑する。そしてエルフ・パーティーの指揮を務めるべく、集団の後方に位置を移した。

 

 

====

 

 

 一方その頃。同時刻、ダンジョンにおける中層の奥程度の領域では。

 

 

「色、合ってる。形、似てる。味……なんで味の項目が?とにかくヨシ!その他特徴、一致!間違いなくこれだ。師匠、ありました!」

「お、本当か。流石だベル君、“幸運”持ちは違うな」

「えへへ!」

 

 

 知将フィン・ディムナよ、詰めが甘い。ヘスティア・ファミリアに課せられた強制ミッションは、“現場(ネコ)”によって、ダンジョン突入から僅か3時間で目標の発見となっている。

 レベル2になってベル・クラネルに発現していた発展アビリティ、“幸運(チート)”。詳細な効果は未だ不明ながらも現在ではFランクとなっており、その効能を存分に発揮していたと言うワケである。

 

 いつか黒いガントレットを待つ際に正規ルートで50階層まで数往復した際、正規ルートについては予習済み。いつかの24階層の時のように道中の敵をなぎ倒しつつ進行した白髪師匠と弟子のコンビは、与えられてたクエストを楽々と熟していたというわけだ。

 なお、装備は完全に日帰り前提。故に出立までの時間も十分ほどしか要しておらず、採取した鉱石も、運搬は容易いものがある。

 

 

 もっとも、此度において白髪の二人は未知の開拓と発掘が仕事のうちだ。運搬となると、ヘスティア・ファミリアには、“生きの良いサポーター”が在籍している。

 

 

「タカヒロ様と一緒に行動すると、リリは正真正銘の荷物持ちにさせられる事がよく分かりました……」

「失敬な、そのつもりはない」

「だったら戦闘禁止ですー!」

 

 

 本日のジョブは炭鉱夫と言わんばかりに、ツルハシ片手に「えいさ、ほいさ」と鉱石を掘る男二人。その横で両手を上げて背中を伸ばしプンスカするリリルカは、御自慢のバックパックに鉱石を詰める作業に勤しんでいるというわけだ。今現在では3割ぐらいが溜まっており、そろそろクエストの要求数に達する頃だろう。

 その作業が行われている横では、リリルカを運んできたジャガ丸がヘスティア・ファミリアの団旗を持ってフレーフレーと応援中。時折湧き出るモンスターは超高速による一撃の刺突ダメージで魔石ごと粉砕しており、あまりの早さ(速さ)にリリルカでは気づかない程だ。

 

 結果としてその鉱脈だけでは予定量には届かなかったのだが、そこは幸運持ち探知機ベル・クラネル。一刻もせぬうちに次の鉱脈を見つけており、結果として、ギルドが予想した時間の僅か1割もかからずに回収が完了した。

 そして帰路については、リフトにてオラリオ西区の人気の欠片も無い地点へと直行便。通常ならば片道だけで1日は要するのだが、ヘスティア・ファミリアに、そんな常識は通じない。

 

 

 陰で色々と見ていたフェルズは、ありもしない下腹部に痛みを覚える。よもや半日でイレギュラーのオンパレードを目撃してしまうことになろうとは、依頼書を手渡した時には全くもって想定にしていなかったのだ。

 

 

 フェルズよ、強く生きて先人(先神)を敬うのだ。そんな光景は善神ヘスティアにとって、もはや日常のレベルに達しているのだから。

 

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