まるで偉い人の演説が開始される5分前かの如く、その場所は控えめな騒がしさに包まれている。各々が身を寄せ合って様々な内容を口にしていながらも、視線は一点に釘付けだ。
なにせ、明らかに敵だった者と、明らかにモンスターな者が混じっているのだから無理もない。それらがロキ・ファミリアもよく知る白髪の二人と共に居るのだから、騒ぎ立てるなと言う方に無理があるだろう。ようはロキ・ファミリアにおいて、“胃痛の種を知らない組”である。
場所はオラリオの南東部に位置している、ダイダロス通りの一角。行き当たりばったりで造られた区画の為に非常に入り組んだ迷路のような路地が絡み合い、空を遮る3~4階建ての建物が所狭しと並んでおり、夜間であることも相まって、灯りのある部分を除き、本当の暗闇に包まれている。
基本としてオラリオは深夜の時間帯でも人気があるのだが、それはメインストリート付近に限定された話だ。このダイダロス通りは基本として貧困層が暮らしている事もあり、加えてオラリオにおいても当該エリアを把握している者は居ないと言われている為に、なおさら人は寄り付かない。
「そんな中でも、ゴッツ複雑な地点にあったんが、この扉や」
だからこそ闇派閥は、此処を出口の一ヶ所に選んだのだろう。灯台下暗しということでメインストリートにドンと拠点を構えるパターンもあるのだが、今回は違ったようだ。
ロキが親指を向ける先にあるのは、随分と“分かりやすい”モノだろう。かつてのアポロン屋敷には劣るとはいえ、随分と趣味の悪い――――もとい、禍々しい装飾が施された扉である。
大きさは縦方向に4メートル、横方向は6メートル程だろうか。縦方向に一本の線が中央にある事から、開き戸と予測できる。
見るからに重厚であり、力ずくでの突破を寄せ付けないかの様。事実ロキ・ファミリアの調査でこれは
「18階層の扉に施されていた処置とは、真逆となるか」
「ああ」
タカヒロの言葉に、レヴィスが賛同する。かつて二人が18階層で見つけた扉は、ダンジョンの壁の中に隠されるという、非常に高い隠蔽手法がとられていた。
それに引き換え、こちらの扉については隠す気がゼロと言って良い。一応は見つかりにくい場所にあるものの、もしこれが普通の見た目の扉だったならば、ロキ・ファミリアとて発見する事は出来なかっただろう。
しかし、あえてソレを行っている。考えられる理由としては――――
「ポーカー、すなわち
「せや、タカヒロはん。ウチもそう思うとる」
ロキとタカヒロの意見は、見事に一致。しかしそうなれば、気になることが生まれるのも事実であった。
今この場に居ないロキ・ファミリアのメンバーは、一軍~三軍の者達だ。ヘスティア・ファミリアも知っている程であり、オラリオにおいても名だたる冒険者達ばかりである。
言っては失礼となるが、今ここに残ったメンバーでは突入の戦力が足りていない。何度か行われているヘスティア・ファミリアのルーキー達との合同演習においても見知った顔ばかりであるため、判断材料としては十分だ。
見る限り各々の装備も十二分であり、此処が拠点と言わんばかりに多数のポーションなども備えられている。つまりは誰かが突発的に行動を起こしたワケではなく、程度はどうあれ計画された行動となる。
それらを率いる親は、天界のトリックスターと言われる女神ロキ。だからこそタカヒロは、ここにきて突如として強引の域を出ない状況で突入するに至った理由を知りたがっている。
「一応、理由を聞いておこう。何故、相手からの挑発と知って送り込んだ?」
「んー……耳が痛い言葉やな。しいていうならタカヒロはんのおかげで装備が揃うたのと、オラリオの為を考えると、ウチ等の手の内を隠したうえで相手の手札を見んとアカン。色々言うたけど、最後はウチの団長の覚悟と決意、やろか」
「なるほど」
ロキの返答を耳にして、タカヒロは短文ながらも納得した口調で言葉を返した。それが意外だったようで、逆にロキが僅かに驚きの様相を見せている。
その為にロキ・ファミリアの戦力分布を告げると、“
ともあれ、ロキ・ファミリアの団長、フィン・ディムナが抱いた覚悟と決意だ。ならばそれは彼が掲げる心中の正義に他ならず、タカヒロ程度が口を挟める隙は無い。
だからこそベルやレヴィスも含め、独断専行したことについては一言たりとも口に出されることは無かった。よく分かっていないのか首を傾げるジャガ丸は、ペット枠なので仕方がない。
とはいえ、だからと言って心配の気持ちが消えるわけでもない。そして突入しようにも、目の前の扉は紙一枚の隙間すら通らない程にキッチリと閉じられてしまっている。レヴィスが軽く叩くも返る音は重々しく、オラリオの第一級冒険者とはいえゴリ押しは難しい事だろう。
「ロキ様。皆さんは突入部隊の帰りをサポートするのだと思いますが、なぜ扉が閉まっているのですか?」
「閉めたんやない、勝手に閉まってしもうたんや。中におるフィンたちは、鍵を持っとるさかい問題ない」
この場に居る全員が目にした通りの回答だ。責任がどうこうではなく、一行が扉の前に辿り着いて暫くした時に自動で開き、突入後、暫くしたら自動で閉まったとの事らしい。
だからこそロキは、タカヒロ一行が到着するまで残った団員たちと共に対策を練っていた。そんな最中、タカヒロ一行が到着したというワケである。
話すこともなくなったので、ロキは腕を組んでウロウロと歩きながら思考を練る。実際に目にしたことはないとはいえ、レヴィスやフィルヴィス経由でダンジョン内部のトラップの情報があるだけに、彼女もまた不安が消える事は在り得ない。
とはいえ、絶対に口には出せないが逆の意味で安堵していることもある。宿敵となったディオニュソスが
「あー、イカン。何やっとんねん自分。なんで子供らがそうなってまう前提で考えとんのや……」
一人静かに溜息と共に言葉を溢し、手を額に当てて首を強く振るう。ネガティブな考えを捨て去るかのように背伸びを行い、ロキは再び扉の前へと戻ってきた。
そして、まるで簡単な間違い探しのように。ロキは、大きな変化点を目にする事となった。
もしも彼女が場を離れる前後で間違い探しを行ったならば、大きな二か所の変化点はすぐに露呈する事だろう。事実、彼女は既に全てを探し当てている。
「……あれ?扉、いつのまに開いとったんや?」
一つ、
勿論ロキもそれらをすぐに理解しており、だからこそ頭の中を疑問符が埋めつくす。後者については「あ、突入したんやなー」程度に収まると仮定しても、前者については理解不能な領域だ。
とはいえ壊された訳ではなく、傍から目にした限りでは何かしらのゴリ押しが行われたワケでもないらしい。場に残っているロキ・ファミリアの面々も疑問符こそ浮かんでいるが、変なものを目にした表情とは程遠い。
ロキが声を掛けてみても、反応は正常だ。しかしヘスティア・ファミリアが追加の鍵を持っているとは知らされていない為、何が起こったのかと、ロキは事情聴取を続けている。
「ヘスティアの子らが、開けはったんか?」
「だと思います。先程、タカヒロさんが開けていらっしゃいました」
「うせや。タカヒロはん、持っとった鍵をリヴェリアに渡しとる。“D”の紋章が刻まれた鍵、ウチ等はフィルたんとタカヒロはんから受け取っとるんやで?他にあったんか?」
「え?でもさっき、ダガーらしき短剣を片手に「開いた」って呟いていたのは聞いたけど……」
「ダガー???ちょい待ちや、ウチ等が持っとる二つの鍵は球体やろ?」
「あ、そう言えば確かに……」
今度は何をしたんだと思いつつ額に手を当てるロキだが、今更でもある為に要因については思考を放棄。ともあれ突入部隊の退路が確保できたことについては喜ばしい事であり、最善の準備を整えるだけだ。
なお管制センターのような場所にいる
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時は、2分ほど前に遡る。どうするかと話し合いをしていたのはロキ・ファミリアだけではなく、心中の正義を掲げるヘスティア・ファミリアとて同じこと。
物理的な大きさの関係でジャガ丸がはみ出しているものの2対2で並ぶ4名は、周囲の邪魔にならない音量で会話中。頭部を掻きつつ多少の焦りと苛立ちを消しきれないベルの為に何とかできないかと、タカヒロとレヴィスの表情は真剣だ。
「どうする、タカヒロ。ここを突破しなければ、挑む事すらも出来はしない」
「それは理解している。しかし“D”の文字が入った鍵は、リヴェリアに渡し――――あっ」
「あ?」
――――そう言えば。
それが、自称一般人の脳裏に浮かんだ実態である。何故Dなのかという疑問はあれど、「じゃぁコレは?」と、一つのダガーを取り出した。
まるで武器が炎を纏ったかのような見た目をしている、レジェンダリークラスとなるダガー。武器の名前を、“ブレーズハート”。
柄の部分に“D”と彫り込まれている、ケアンの地における隠しクエストのキーアイテム。もっとも同じ掘り文字ながら此方は“誰か”の血文字となっているのだが、物は試しにと取り出して、使ってみたと言うワケだ。
結果、
なお一般的な闇派閥構成員からすれば、4名の内どれか一つでも対峙したならば死刑宣告に等しい程。万が一と呼ばれる数値を数万回乗算した確率で撃退する事に成功したとしても、生じる被害の桁は尋常の域に留まらない。
はたして、その中で最もヤベー奴を引き当てるのは、一体だれか。地下へと降りる者の手札は4枚、そして4枚の全てがジョーカー級と言う、究極のロシアンルーレットの幕が開ける。
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オラリオの地下に張り巡らされている
目は見開かれ、綺麗な舌は自身の唇はもとより頬の部分を嘗め回す。早い話かつ手短に例えるならば、非常に下品な仕草の連続だ。
その女性は、人の大きさを軽く上回るカプセル容器が幾つか鎮座した部屋で待っている。主神曰く、アイズ・ヴァレンシュタインは、必ず此処にやってくるらしい。
レベル6の相手に対して、彼女自身はレベル5。1レベルの確かな地力差が存在するものの、その様子は無謀ではなく、むしろ余裕の感情に溢れている。
「まずは、お姫様を血祭りか。イイねぇ7年前を思い出す、ここで
持ち得る
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時を同じくして、オラリオの地下に張り巡らされている
「どうだ、異常はないか?」
「こちらカイマン、異常ないッスよ~」
「そうか。しかしロキ・ファミリアが来ている。注意を怠るなよ」
各場所に配置されている固定の見張りと、巡回グループのやり取りだ。カイマンと名乗った前者は、いつも通りの陽気さで実態を答えている。
この5階層とその下の幾つかは、闇派閥のテイマーが集う場所。もっとも5階層の全てと言ったワケではなく特定のエリアとなっており、その為か、ロキ・ファミリアには見つかっていない状況だ。
それでも、仕事がない、なんて状況とは程遠い。程なくして迎えられる挟撃を行うために、まだ活動を行っていないテイマーの面々かつ
見張りの男とすれ違った者達は、
見張りの者が、そんな事を思った直後の出来事だった。
鳴り響く轟音が
なんとかして振り返るも、目に映るは過大表現なくして“地獄絵図”。人らしきモノ、人だったモノが通路に散乱する光景によって吐き気を催すよりも早く、見張りは仕事を完遂すべく連絡用の水晶玉を取り出し――――
「き、緊急――――」
赤子の手をひねるかのように、
《アンドルフおじさあああん!》
ブレーズハート
・柄には、 血文字で“D”と彫り込まれている。
カテゴリ レジェンダリー / ダガー
アイテムレベル 94
要求レベル 94
要求ステータス 狡猾性: 396
要求ステータス 精神力: 495
53-97 火炎ダメージ
+297% 火炎ダメージ
+152% 生命力ダメージ
+297% 燃焼ダメージ
+152% 生命力減衰
45% 生命力→火炎 変換
45% カオス→火炎 変換
+33 攻撃能力
+18% 攻撃速度
+2 ファイア ストライク
+2 サイフォン ソウルズ
+1 ネクロマンサー全スキル
+1 オースキーパー全スキル
2秒 持続時間 : サイフォン ソウルズ
100% 生命力→火炎 変換 : サイフォン ソウルズ
-15% 火炎耐性 : サイフォン ソウルズ
12 火炎ダメージ : ファイア ストライク
100% 物理→火炎 変換 : ファイア ストライク
100% カオス→火炎 変換 : ファイア ストライク
-0.3秒 スキルリチャージ : メンヒルの盾
+300% 燃焼ダメージ +100% 持続時間延長 : メンヒルの盾