その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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226話 アミッドたんが診てる

 

 リヴェリアとの関係が進展し、その相方であるタカヒロの持つスキルが明らかになったのがつい先日。「ウチも限界やけど、ドチビの胃が破裂するで」というロキのアドバイスにより、ヘスティアに対しては、新たに発覚したスキルについては秘匿と決定された翌日のこと。

 その日は夜が遅くなったものの、ロキ・ファミリアで一番遅くまで残っていたベルとタカヒロは、ヘスティア・ファミリアのホームへと戻っていた。到着した頃には日付が変わっていたものの、消化が良い夕飯を取り、身なりを整えて就寝する結末となっている。

 

 

 そんな事が起こった翌日、本日のオラリオは晴天なり。本日のオラリオは晴天なり。後ろの陰に居るフェルズさん聞こえますか?大好きな面倒事の訪れですよ。

 

 そんな言葉をマイク越しに言っても、聞く耳を持ちそうにない者が二人いる。その二人は、テーブルを挟んで対面に腰かけていた。

 

 

「ベル様、ベル様。一体どうしたんですか、これは……」

「あはは……実は朝から、ずっとあんな調子なんだ」

 

 

 屈んだ姿勢を維持しつつ苦笑しているベルと、その二の腕を引っ張り不安げな表情を見せるリリルカ。

 

 ではなく、聞く耳を持たない二人は、その小さな背中の更に後ろ。ベルとリリルカだけではなく、他のヘスティア・ファミリアの団員も不安気な表情を浮かべている。

 静かに振り返った全員の視線の先には、テーブルを挟んで椅子に腰かける男女の姿。片方は彼等もよく知るタカヒロという存在ながらも、もう片方は、目にしたことがない者も少なくはない程だ。

 

 

「アールヴ様が目にしたら、お怒りになられませんかね」

「在り得るかも。どうしよっか……」

「逃げますか?」

「逃げよっか?」

 

 

 そんなこんなで、ヘスティア・ファミリアの団員は全員がダンジョンに逃走中。ホームから出る際にほぼ全員がタカヒロに向かって視線を飛ばしていたために退散の思考はバレバレなのだが、青年とて特に気に留めることはしていない。

 今現在において己が置かれている状況は、さして問題ではないだろう。食後の読書タイムを満喫している己の顔を、一人の女性が見つめているに過ぎない状況だ。

 

 ところで、その人物とは誰か。リヴェリアでもなければアイズでもなく、レヴィスでもヘスティアでもヘファイストスでもない。タカヒロとて、今日、それも今初めて出会った他のファミリアの人物だ。

 

 腰ほどの長さに伸ばした、ウェーブのかかった銀の長髪。パールの瞳に加えて冒険者とは一風を期した特徴的な衣類を持つ者の名は、オラリオにおける冒険者ならば、ほとんどが知っていることだろう。

 

 

「じーっ」

 

 

 光景を作っているお相手は、ディアンケヒト・ファミリアを纏める団長。行儀悪く机に両肘をついて顔を支えるレベル2、アミッド・テアサナーレが、タカヒロの対面から顔を覗き込んでいた。

 その構えが始まって、かれこれ20分と言ったところ。相も変わらず反応する様相すらない青年の対応に、アミッドは不貞腐れかけている。目が一層のこと細くなったのを感じて、とうとうタカヒロが反応を見せた。

 

 

「……向ける目線は、様相を口に出すモノか?」

「いつまでたっても、貴方が反応を示さないからですよ」

 

 

 素っ気ない声にて返すアミッドだが、相手の仏頂面と据わった表情も不変そのもの。案の定、そんな表情から、素っ気ない返答が行われた。

 

 

「興味を示さないのも当然だ、用は無い」

「私はお客様ですよ?」

「やれ持て成せと行儀悪く催促する輩も賓客となるのか?流石は“聖女”、輝かしい慈悲に満ち溢れている」

「……」

 

 

 対面に座る皮肉タップリなタカヒロの顔に対し、行儀悪く両肘を机に立てて顔を支え視線を向ける自称お客様。向ける目線は物言いたげな様相を隠しておらず、俗に言う“ジト目”の酷いバージョン。

 確かに、行儀悪くズカズカと乗り込んだことは彼女とて否定しない。彼女とて持て成して貰うつもりは全くないが、こうも言われては悪態の1つでも言い返したくなるというものだ。

 

 基本的に大人しく物静かな女性だが、時たまこういう反応を見せることでも知られている。医療系ファミリアであるがためか医療関係、特に現場においてには厳しく凛々しいのだが、その状態の派生ともいえるだろう。

 もっともそんな様相を向けられるタカヒロは、少し前の“リヴェリアいぢり”と似ているために問題はない。今でも時たま揶揄うことはあっても、かつてのように上げ足を取ることは無くなってしまったため、中々に新鮮味のある感覚だ。

 

 

「で?建前はさておき、何か自分に御用かね」

「大きな意図は在りません。ただ、大人数が受けた呪詛(カース)の傷を一瞬にして治してしまう程の人物がどのような人か、気になっただけの話です」

「なるほど。しかし聖女の二つ名を持つ程だ、忙しいのではないのか?」

「追い返そうとしても無駄ですよ、今日は非番の扱いですから」

「……」

 

 

 先ほどの仕返しが成功したと思っているのか、アミッドは控えめなドヤ顔で応じていた。どこぞのリヴェリアと似ているのか、僅かなポンコツさが伺える。

 

 ともあれ観念したのか、タカヒロは状態異常を治すスキルを使ったことを自白している。それがウロの流水であることまでは伝わることは無かったものの、アミッドからすれば、特出したモノであることは間違いない。

 それほどの評価となるのも、仕方のないことだろう。如何なる負傷も治す自信のある彼女だが、あくまでそれは単独の患者を相手にした時の話である。

 

 

 昨夜に起こった、前代未聞の出来事を思い返す。顔面血まみれの女神フレイヤが運ばれてきた点についてはティッシュを鼻に突っ込んで横に流した彼女だが、問題はその次だ。

 

 ロキ・ファミリアの斥候が息を切らしつつ、ドアを壊すような勢いで入ってきたかと思えば。なんと、10人以上の団員が呪詛による重傷を負ったとの内容が報告されたのだ。

 自慢するわけではないが、それ程の損傷となると治すことができるのはオラリオにおいて自分に他ならない。もっともそれは傷を負った直後に治療を開始できた仮定の話であり、此度においては何人かは見捨てなければならないと覚悟したほどだ。

 

 

 それが、結果はどうだ。街中を駆け抜けている際にロキ・ファミリアの斥候がもう一人現れ、青ざめた表情で全員の容態が安定したことを伝えてくる。

 アミッドと言えど。いや、逆に医療に精通したアミッドだからこそ、何故そうなるのかが全くもって分からなかった。事と次第では己のファミリアの経営に問題が生じるとはいえ、そのような事は気にならない。

 

 心中にあるのは、何が起きたかという考えだけ。常識に則り考えられるとするならば、治療者が、状態異常の治癒に特化したスキルを所持しているという事。呪詛(カース)は確かに厄介な状態異常ながらも、これさえ無ければ只の傷と同様だ。

 何かしらのスキルで呪詛(カース)を解除し、ヒーラーが治癒を行った。こう考えるのが最も妥当性が高いものの、人数が人数であることを考えると、やはり理解不能という回答に行き着くのは仕方のない事だろう。

 

 

 極めつけは、前衛特化らしいこの男の立ち位置と存在だ。もし仮に範囲型の状態異常回復スキルを持っているならば、その名前は当の昔に知れ渡っている筈である。

 しかし、全くの無名。アミッドとて初めて耳にしたこの男の名前は、ディアンケヒト・ファミリア内部においても知る者は居ないだろう。

 

 

「なるほど、そちらの受け入れ準備は万全だったと言うワケか。ディアンケヒト・ファミリアは守銭奴と聞く。金が取れなくて残念だったな」

「ええ、せっかくのロキ・ファミリアという金づr……良きカm……」

「……どこまでが演技か分からんのだが」

「……落としどころが分からなくなりました、すみません」

 

 

 金銭は二の次で、患者の容態を何よりも優先する彼女としては、最初から最後までがネタである。妙な漫才はさておき、タカヒロが口にした煽りの文言で、アミッドの意識が“患者”から“己のファミリア”へと切り替わった。

 実の所、アミッドとて、金儲けがしたくディアンケヒト・ファミリアに所属しているわけではない。最初に所属したファミリアがそうだっただけの話であり、彼女は、困った人には積極的に手を差し伸べる性格をしている。

 

 しかし主神などより、その行いを咎められたことも数知れず。聖女という二つ名を貰っておきながら、やっていることの根本まで辿り着けば“金儲け”と言って良いだろう。

 

 故に、目の前の男が気になって仕方がない。あそこでロキ・ファミリアに吹っ掛ければ、極端な話、それこそ分割払いの1兆ヴァリスだって要求することができたはずだ。

 

 金額はさておき、少なくとも己の主神ならば、間違いなくそれをする。先程“守銭奴”と表現した青年の言葉通りで、まさに“銭の化身”という二つ名がついても不思議ではない程なのだ。

 

 それ程の状況だったというのに、この男は、何も求めずに治療を行ったらしい。本人曰くスキルを使っただけとのことだがアミッドの治療も根底としては似たようなところがあり、そこまで大きな差はないだろう。

 それよりも、己がかつて通った道であるからこそ。アミッドの心の中では一つの疑問と不安が沸き起こっており、目を伏せて内容を問いかけた。

 

 

「……それ程のスキルを使って、異端の目で見られるとは思わなかったのですか」

 

 

 かつて己が初めて呪詛(カース)の治療に成功した時、周囲から向けられた畏怖の眼差し。アミッドは、あの時の光景が脳裏に焼き付いて離れない。

 今も十分に若い年齢ながらも、当時は輪をかけて若かった。具体的に言うならば男が手を出したならば事案確定となる程に幼い年齢だったために、余計に深く脳裏に刻まれたのだろう。

 

 だからこそ、彼女は先の一文を口にしたというわけだ。向けられるアミッドの言葉は、呪詛の治療に対する難しさと希少さが険しいからこそのモノ。

 ベル・クラネルとはまた違ったこの辺りの優しさが、ディアンケヒト・ファミリアに居ながらも“聖女”と呼ばれる所以なのかもしれない。表向きは興味本位で煽っているように見えるかもしれないが、心の奥底ではタカヒロの事を心配しているのだ。

 

 

「気持ちは受け取るが、案じて貰う程のことではない。自分にとっては、“その程度のスキル”というだけの話だ」

「……そうですか」

 

 

 しかしタカヒロが答えたように、既に覚悟したうえで解決したことでもある。その答えを耳にして、アミッドは長い睫毛と共に伏せられた目を戻す。

 受け答えも含めて本当に気にしていないような立ち回りであり、そこには微塵の不安も伺えない。相変わらず自分を客と認識していないのか、目線は広げられた本へと向けられたままだ。

 

 ともあれ。先の言葉から、彼女の抱いた心配が杞憂であったことは明らかと言って良いだろう。

 患者を診ることが彼女の仕事だというならば、これにて職務は完遂だ。互いに顔を合わせたのは初めてということもありこれ以上は会話が続くとも思えず、彼女は己のホームへと帰るために立ち上がった。

 

 

「もし此処を追い出されるようなことがありましたら、私のところで雇わせて頂きますよ」

「それは有り難い。オラリオが亡びる時にでも伺おう」

 

 

 最後の最後まで、どうやら捻くれた対応は変わらないらしい。ドアへと足を向けたアミッドの背中に、そんな声が届いていた。

 オラリオが滅んでいるということは、ディアンケヒト・ファミリアも壊滅していることはすぐに分かる。つまり気持ちは受け取るが加入する気はサラサラ無いというワケで、アミッドは珍しい苦笑いを浮かべながら玄関へと歩いていく。

 

 後ろから足音が近づいて瞬時に追い抜いたのは、そのタイミングであった。するとガチャリとした音と共にドアが開かれ、昼手前の眩い光と安らかな風が竈火(かまど)の館の室内を撫でてゆく。

 やや大股でアミッドを追い越したタカヒロが、彼女のためにドアを開いたというワケだ。相変わらずの仏頂面ながらも、そのような対応をされたことのないアミッドは驚きと少しの羞恥の感情が芽生えるも、どうにかして言い返してやろうとツンツンした感情が顔を覗かせる。

 

 

「あら、意外です。紳士なところもあるのですね」

「客をエスコートしないとなれば、ファミリアの品位にも関わるだろう」

「おや。お茶こそ頂きましたが……私は、お客様ではなかったのでは?」

「気が変わることもある。案じて貰った礼と思って……ん?」

 

 

 ドアを背にしていたタカヒロが門の方へと振り返ると、そこに居たのは見慣れた翡翠の姿。相変わらずの魔導服と特徴的な杖を持ち、微塵も揺るがぬ程に伸ばされた背筋を見せるハイエルフ、リヴェリア・リヨス・アールヴだ。

 ちなみに此度は特に理由は無く、先日の言葉もあり、仕事も一段落したので単に会いに来たという乙女な理由。ともあれそんな本音を他人の前で口に出せるはずもなく、ひょんな所で顔を合わせたアミッドに対して口を開いた。

 

 

「おや?聖女ではないか、このような所で会うとはな」

「ご無沙汰しております、九魔姫(ナインヘル)

 

 

 二人は知り合いか。と内心考えるタカヒロだが、どちらも有名な二つ名であるために付き合いもあるのだろうとスルー安定。互いのファミリアはナワバリが違うため、利用し合うことも珍しいことではない。

 しかしそれとは別に、今ここに居る二人は互いに口数は物凄く少ないのが実情だ。だからこそ会話はそこで止まってしまい、あまつさえ二人してタカヒロに目線を向けてくるので非常に居づらい状況が作られている。

 

 何か言えという無言のプレッシャーが突き刺さるも、何を口にしたものかと悩みに悩む。此度はリヴェリアが居るだけに、今までの経過を口にするわけにもいかないだろう。

 進展がないまま、数秒後。とりあえず現状をリヴェリアに報告するかと、タカヒロは口を開いた。

 

 

「突然に押しかけてきた上に館中の者を叩き出し、のうのうと茶を飲んで帰る客だ。礼儀に倣ってエスコートしている」

「もしもし?」

「……」

 

 

 言葉の前半と後半が、全くもって一致していない。綺麗に纏まろうとしていたエンディングが、ものの見事にぶち壊しである。

 アミッドの物言いたげなジト目と口調によって、リヴェリアはタカヒロの捏造具合を察知済み。既にそれ程言い合える仲なのかと嫉妬心が芽生えており、こちらも物言いたげな表情を作っている。

 

 

 前から後ろから、似たような表情を向けられる一人の青年。板挟みとは、まさに文字通りの状況だろう。そんな空気は数分間続くこととなったが、もちろんタカヒロの自業自得である事に間違いない。




投稿速度は速いとは言えませんが、おかげさまで3年目となりました。(節目的な話は前話にて…。)

現在の予定の上では、本作も最後のパートへと進んでおります。
いつも感想・評価・誤字報告ありがとうございます。励みになります。

完結まで頑張って参りますので、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
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