その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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228話 想いを形に(1/2)

 

 ロキ・ファミリアのメンバーが集うホームは、オラリオにおいて最も有名な建造物の一つである。しかし、名前を“黄昏の館”に漂う雰囲気が今までとは違うものとなっている点は、外からは読み取れない。

 良くなったワケではないが、かと言って“悪化”したワケでもない。一新された様相を文字で表現したならば、「少しピリピリしている」とするべきか。

 

 

 事の発端は、数日前に食堂で生じた一騒動だろう。あのベル・クラネルすらロキの謝罪を突っぱねる程に張り詰めた空気は、露骨に表に出てきていないとはいえ、未だに糸を引いている。

 色々と言われた当の本人が全く気にしていない点を第三者が耳にすれば、お笑い種と受け取るかもしれない。そして、この「ピリピリ」は、二種類の方向性から生じている。

 

 

「調子はどうじゃ、フィン」

「おかげさまで、元通りだよ」

 

 

 ロキ・ファミリアの執務室に、落ち着いた重厚な声が微かに響く。扉をたたいて入室したガレス・ランドロックは、先の戦いで負傷した団長、フィン・ディムナの身を案じていた。

 とはいえ、容体の概要については聞き及んでおり、フィンだけではなく当時の負傷者の全員が五体満足で復帰できる見込みにあるから不安の要素は非常に少ない。地下迷宮(クノッソス)について裏で行われている報告書の作成など、ロキ・ファミリアも暇ではないことから、フィンは事務方の仕事に復帰している格好だ。

 

 

「事の顛末は、ロキから聞いたよ。食堂での一件が、まだウチで尾を引いているみたいだね」

「混乱しておったのじゃろう、あ奴も今は猛省しておる。が、今の館の空気については、どうにも違う気がするわい」

 

 

 まず一つは、先の騒動が残した尾ひれ。こちらについては、口にした本人が落ち着いたのか猛省を見せており、そのうち収まる事だろう。

 しかし、もう片方。ロキ・ファミリアのエルフに蔓延する空気が収まるまでには、相当の時間を要するかもしれない。

 

 

「ガレスも……たぶん、見たよね?」

「嗚呼。薄々予感はしとったが、おったまげたとは、この事じゃ」

 

 

 こちらについては、エルフを除いて原因が秘匿されていることから、噂話の影もたっていない。加えて“副団長リヴェリア・リヨス・アールヴの左手に備わっているモノ”については、じゃが丸くん新作を視界に捉えたアイズ・ヴァレンシュタインよりも速く館内を駆けまわったのだから、「どちらもエルフ繋がり」という共通項に気付く者が生まれるのも当然だ。

 勿論、フィンやガレスもその中の一人である。とはいえ、答えこそ知っているものの、恐らくはエルフが知っているだろう“真実”を知らない点については、どうにもモヤモヤとした気持ちが芽生えるのは仕方がない。

 

 

「指輪から、大まかには察せるけれど……ガレス、何があったのか聞いてみなよ」

 

 

 答えは聞くまでもなく、分かり切っている。それでも問いを投げるのは、同じ認識を持つ者と認識したいが為の行いか。

 

 

「虎の尾を踏む真似は出来ん。なんなら、龍が出張ってくる程じゃろうに」

「はは。それも龍で済めば、御の字かな?」

「まったくじゃ」

 

 

 なんなら、そのジャガ何某、レヴィ何某(龍に匹敵する存在)が増える恐れすらもある。そして間違いなく、エルフの集団も関与してくることだろう。

 決して嫌悪な仲ではないものの、感性などが対照的と言えるガレスとエルフでは、あまり相性については期待できない。だからこそ、いざ“言い合い”となった際の負荷は一入(ひとしお)だ。

 

 

「仲間としては素直に喜ぶべきなんだろうけど、状況や経緯が読めないのがね」

「リヴェリアはさておき、エルフの者共までもが豹変した所が気になるのぅ……」

「うん。あのレフィーヤまでが変わっちゃったから、猶更だよ」

 

 

 簡単に表現するならば“リヴェリアのお相手候補”、ということで、少し距離を取りつつ礼儀正しくタカヒロに接していたエルフ達。此方については、“指輪”というトリガーが原因によって、今の状態になったことも納得できる。

 しかし、そんな中で異端の存在。リヴェリア程ではなくとも適度なフランクさを保っていたレフィーヤまでもが、他のエルフと同等にまで畏まっている。

 

 この点が、知将フィン・ディムナの中で腑に落ちないでいた。元より彼女はリヴェリアを相手にしても適度な距離の近さがあったのだが、それすらも、今となっては消えかけている。

リヴェリアの指示により、今まで通りの対応を行うよう言われている。にも拘らず、フィンやガレスがこのような感想を抱く程となれば、何か無視できない事が起こったのは明白だ。

 

 

「助けて貰っておいてなんだけど、彼の“新しい何か”が原因なのかな」

「探るばかりでどうする。借りを返すかせねば、立ちいかなくなってしまうぞ」

 

 

 ガレスの言葉で、フィンは右手を顎に当てて目を瞑る。そして、2秒と掛からずに回答を導き出した。

 

 

「うーん、無理っ☆」

「じゃのう……我ながら不甲斐ないが同感じゃ。お主が裏で動いておるのは知っているつもりだが、到底、消化しきれぬわい」

 

 

 オラリオ最大手の一角、という名分ですら立ちいかなくなってしまった、“借り”の山。自分たちの立場を弁える知将は、無理難題に挑む勇気と行動力はあれど八方ふさがりの状況らしい。

 だがこれについては、ガレスもまた同じ意見だった。決して恩を忘れたワケではない。もしも役立てる事があるならば、二人は全力をもって動く事になるだろう。

 

 

 最も近い、かもしれないイベントの一つがあるとすれば、先の指輪に関する事か。そんな話を行いながら、独身おじさん達の時間は流れてゆく。

 

 

================

 

 

――――どげんかせんといかん。

 

 山より顔を出し始めた日差しが、カーテンの隙間から零れる部屋で独り、ベッドに背中を預けながら。先の言葉のままでこそないけれど、ベル・クラネルは悩みを抱えていた。

 

 自分に向けてくれる、向日葵の如き素敵な笑顔。あまり活発さは伺えず、おっとりとした様相の中に、ちょっとの天然さが見え隠れ。

 かと思いきや、いざ戦いとなれば剣を片手に、有象無象では足下にすら及ばない武勇を披露する。かつてダンジョン5階層で目にした光景は、今なお目を瞑れば鮮明に思い返す事が出来る程。

 

 

 そんな彼女が先日に見せた、影の一面。その場は凌いだようにも思えるが、どうにも、もう一手が必要ではないかと、相手が置かれているだろう気持ちを意識しつつ悩みに耽る。

 言うまでもなく、相方アイズ・ヴァレンシュタインについての事だ。あの時に振り返った彼女の顔、僅かな力でもって崩れ去りそうな様相は、ベルが最も見たくない彼女の姿の一つである。

 

 だがしかし、もう一手を行うにしても、具体的に“何が”や“何を”となれば、思い浮かばない。一緒に街を散策するだけでも十分なのだが、“経験”の乏しい少年となれば、まだそこまでの考えは回らないようだ。

 

 

「……い、言いにくい。で、でも……!」

 

 

 だからと言って、誰かに相談するとなれば、恥ずかしさが顔を出す。そして師から学んだのか、ここ一番でのクソ度胸もまた顔を出した。

 

 

 場所は変わって、打ち合わせを目的に作られた小さな部屋。ここならば視覚的なプライバシーの確保は勿論、多少の防音も効いている。

 テーブルを挟んで対面に座るのは、互いに白髪を持つ二人の男だけ。ベルではない片方が口を開いたのは、ベルが「アイズの為に何かしてあげたい」と出だしを口にしたタイミングであった。

 

 

「なるほど。彼女の役に立ちたいと思う反面、具体的にどうすればいいか分からない、と」

「さ、さすが師匠……その通りです、はい」

 

 

 湧き出た度胸こそあれど、やはり末尾になると、恥ずかしさ・照れくささの類が顔を覗かせる。しかし、ベルの不安や望みの類は、全て師に伝わったようだ。

 かつてアイズが見せたジェスチャー会話から、彼女の意図を汲み取った事のある程のコミュニケーション能力が遺憾なく発揮されている。それを少しでも、主神が置かれている状況への気遣いに向けることが出来たならば、恐らくは要所要所で雑に扱われることもない筈だ。

 

 彼にとって、そんな重箱の隅を楊枝でほじくるような問題点はさておき。“どげんかせんといかん”のニュアンスは、どうやら感じ取っていたようだ。

 

 先日に彼女が見せていた悩みは、ベルがアイズの傍から離れてしまう事だった。言い換えれば、傍にいて欲しいという乙女な事情。少し依存気味の様相も見られるが、そこは個人の事情だろう。

 ならば逆はどうだろうかと考え、依存の様子こそなけれど、向けられる矢印は大きく厚い。互いに向け合う気持ちの面では問題なく、毎日でこそなけれども、行動だって疎かにしていない。

 

 ならば、形の面で、どうなっているかと考えた時――――

 

 

「アイズ君に、何か、手作りのモノをプレゼントしてみようか」

「へっ?」

 

 

 異なるファミリアだからこそ、常日頃から共にいる事は現実として難しい。

 

 

 汎用性を含んだ物となると、アクセサリーが第一候補となるだろう。ベルもその点は同意しているが、なんのアクセサリーにするかは注意点が必要だ。

 チョーカーの類ならば、渡す意味合いが少し変わってしまう。そして指輪は難易度が高い事と、少年少女には急ぎ足。

 

 冒険者という職業柄、ダンジョンへと持ち込んだうえで戦闘に邪魔にならないモノが理想的か。そう考えたベルの脳裏に、一つのアイテムが浮かび上がった。

 

 

「重そうなカチューシャの代わりって、どうでしょう?」

 

 

 アイズが戦闘時に身に着ける、無骨な形と色のカチューシャ。頭頂部を基本として防御範囲は狭いものの、長い髪が乱れる事を防止する意図もあるだろう。カチューシャと呼ぶことが最適か、ヘッドギアではないか、と言った論点はさておき、一旦はカチューシャとする。

 ともあれ、既存装備の置き換え、という視点から見ても最適な部位かもしれない。重量をそのままに防御力を向上させるか、防御力をそのままに重量を軽減するか。効果量と相談しながら両方を同時に達成することも、選択肢の一つだろう。

 

 

 そうなれば、大まかな形をどうするか。幸か不幸か「それっぽいアイテムを持っていない」旨の発言をするタカヒロにより、完全に一からの作成となる。

 まず手始めとして、使用する金属の選定だ。予算は幾らまでいけるかなと、ソコソコ溜まっている“貯金”を脳裏に浮かべるも、悩むほどの額を用意したならば確実に過剰の域に達するだろう。だからと言って手抜きできるモノでもない為に、加減が非常に難しい。

 

 そんな少年の、すぐ横で。まるで金属ゴミを廃棄用のボックスに詰めるか如く、テーブルの上に、無造作に金属の破片が並べられた。

 

 

「手持ちの最硬金属(オリハルコン)の一部だ。失敗を気にせず、挑戦してみようではないか」

「……」

 

 

 同じ重量単位でならば、最も高値となる部類に位置づける最硬金属(オリハルコン)。100gもあれば、下手をすれば小さな家でも買えてしまう程の値段を知って、驚く者も少なくはない。

 

 だというのに、この物量。これで一部ならば総数量はどうなるのかと考え、「まぁ師匠だから仕方ないか」とい結論に行きついた。最硬金属(オリハルコン)がここまで傷ついているのも、この人が関わったならば有り得ると納得できる。

 相変わらず、この人の基準は、どこか斜め上を泳いでいる。そう捉えたベルだが、これが人造迷宮(クノッソス)からリサイクルされたモノだと知れば、苦笑が輪をかけて強くなる事だろう。

 

 

 ともあれ、これにて物資と動機が揃った。加えて誰かの動悸が生じるかどうかは、天にて微笑む太陽だけが知っている。

 あとは、これらを取り扱う場所の用意だ。しかし偶然にも、二人は、最も適している場所を知っている。

 

 それは、オラリオのとある一角に佇む工房。オラリオで最も有名な上級鍛冶師(ハイ・スミス)の一人であるヴェルフ・クロッゾは、一仕事を終えて椅子に寄りかかり、休息を取っていたタイミングだった。

 

 

「ヴェルフさん、最硬金属(オリハルコン)は要りませんか!?」

「ふざけろっ!?」

 

 

 かつて仕事開けに50階層へ拉致られた、リリルカ・アーデの時の如く。ノックはすれど、突然とドアを開けてやってきた白兎が口走った一文は、誰が聞いても驚愕と疑問符で埋めつくす。

 最硬金属(オリハルコン)とは、何かを生産する過程で生じる端数や副産物、という取り扱い。もしくは手料理の際に生じたお裾分けのノリで赤の他人へと提供するような運用は、絶対に間違っている。

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