その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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232話 納得するには餌が要る

 

 繋げられたままのリフトにてオラリオ西部から51階層へとやってきた、母息子娘プラス近所のおじさん合計四人とペット一名。もはや誰一人としてリフトについて疑問を抱いていないのは、キッチリと毒されている証拠だろう。

 

 さっそくカドモスらしきモンスターによって服従のポーズが展開されたこともあり、「何これ」と言いたげな空気が充満している。ともあれタカヒロとしては、フィンが付いてきた事については想定外だった。

 簡単に経緯を述べるならば、ヘスティア・ファミリアのホームにてフィンとベルが色々と話し合っている最中にリヴェリアが到着したらしい。結果、ジャガ丸と鍛錬して(遊んで)いたアイズが付いてくる事となり、連動してジャガ丸も加わったというワケだ。

 

 

「えーっと……何なのかな、これは」

 

 

 最も最初に行動を開始できたフィン・ディムナ。しかし見当がつかないとはこの事であり、素直にタカヒロに対して質問を飛ばしている。

 がしかし、何かと問われれば「モンスター」と答えるしかないだろう。セオリー通りと言えばそれまでだが、タカヒロもまた、その名称を返している。

 

 

「しかしモンスターの部類においても、特殊な個体となる」

「なるほど。分類としては、レアモンスターになるのかな?」

 

 

 希少さを判断基準の一つに分類するならば、間違いなくレアモンスターの分類だろう。現在進行形でアイズとジャガ丸にツンツンされている存在、51階層の番人カドモスの面影が残るモンスターは、そのような存在だ。

 タカヒロ曰く、通常のモンスターの思考回路とは異なる存在。ヒューマンやエルフのような括りならば“異端児(ゼノス)”と呼ばれる存在を、フィンとリヴェリアは初めて耳にする事となった。アイズは相手に興味津々で、聞く耳を持っていない。

 

 

「そのようなモンスターが、他にも居るというのか」

「ああ、ギルドが匿っている」

「なんだと?」

「ちょっ……」

 

 

 のっけから核心を貫く発言に思わず静止の反応を行ってしまったベルだが、無理もない。とはいえ今回の発見時にリヴェリアが一緒だった為に、ウラノスに対する相談の有無にかかわらず隠すことは出来ないだろう。

 

 今回のカドモスを見殺した上で、異端児の存在を隠したうえで装備ドロップに期待して己の欲を満たすか。隠れ家で出会ったリド達の気持ちを汲み、ウラノスとの約束を守るか。

 ならばカドモスらしき何かを見捨てる事は悪手と考え、タカヒロは後者を選択している。そこには、ロキ・ファミリアに対して隠し事をする点を嫌う理由も含まれている。

 

 ロキ・ファミリアに対しての隠し事について、タカヒロの所持能力?

 隠してはいない。伝えていないだけだ。所詮は他人、知らない事だってあるだろう。

 

 さておき、タカヒロやベルの口から、異端児やギルドの地下についてが語られた。ここまできては隠しきれない部分を公にした形であり、最低でも、この二人は賛同してくれると信じているからこそのカミングアウトと言えるだろう。

 

 

「納得できるかとなれば別だけど……なるほど、異端児(ゼノス)、ね」

「……フィン、なぜだ。常識の崩れる事項が幾つもあった筈だが、私もお前も納得してしまっている」

「いやー、僕も年を取ったかな?」

 

 

 知らぬところで、各自の常識が書き換えられているようです。苦笑するしか道のないベルの表情が、その事実を告げていた。

 

 

 と、いうことで、次はウラノス陣営を巻き込む事となる。とはいえウラノス自身はギルドの地下を離れることが出来ない為に、地上へと戻ったベルは、陣営の残り一名のもとを訪ねてオラリオ西区へと案内した。

 

 

「ベル・クラネル、これは……」

「リフトですよ、一瞬です!」

 

 

 違う。フェルズの中に湧き出た質問のベクトルは、そうじゃない。

 

 人の気配が全くない位置にポッカリと開けられた、リフトの穴。なんだか嫌な予感しかしないフェルズが恐る恐る中へと入ると、そこには予想だにしない集団が待ち受けていた。

 視界に映る姿は、個々を知らないと口にしたならば虚言の塊。各々こそ知っているが、己の視界に飛び込んできた姿から想定されるシチュエーションを、フェルズの頭脳は認知することができていない。

 

 

 ドンッ。と音が鳴るような存在感を放つ、モンスターらしき何かの存在。

 ドンッ。と音が鳴るような存在感を放つ、様々な種族からなる異端児達。

 ドンッ。と音が鳴るような存在感を放つ、ロキ・ファミリアの幹部三人。

 ドンッ。と音が鳴るような存在感を放つ、オラリオのヤベー二人と一匹。

 

 

「なん、だとっ……!?」

 

 

 どう見ても28階層の隠れ家です、本当にありがとうございました。己の所へと相談が来る前に、既にロキ・ファミリアというヤベー所と出会ってしまっているではありませんか。

 一度50階層へと皆をリフトで送り、地上へと戻り、ダンジョンを下り28階層の隠れ家前へと到達したタカヒロが、50階層へとリフトを繋げて無傷で搬送。その勢いで異端児達にも紹介を終えており、カドモスらしきモンスターと含めてフィンとリヴェリアに対して色々と説明をしていたところだ。

 

 

 無論ながら、フェルズという存在とロキ・ファミリアの団員達は初対面。此方についてはロキ・ファミリアに対して「師匠の知人」というベル・クラネル発案の“万能紹介(ゴリ押し)”が行われたことにより、フィンやリヴェリアは深く突っ込みを入れる事をしていない。

 

 ヤベー奴の周りには、ヤベー奴が集うもの。そんな事を考えるフィンやリヴェリアの胸の内を知ったならば、風評被害だとフェルズはプンスカすることだろう。一般人と比べれば普通に見えてしまうかもしれないが、ヤベー分類なのは事実です。

 

 さておき、次は異端児と呼ばれる存在に対する対応だ。これについては、フィンが意見を口にしている。

 

 

「正直に言うと、情報と感情の整理が追いついていないかな」

「私も同じだ。よもや、このようなモンスターが複数に渡って居るとはな……」

「うん。私も」

 

 

 そうは言いつつも、なんともあっけらかんとした態度を見せる面々に、フェルズが逆に困惑する。ウラノスも慎重に慎重を極めていたロキ・ファミリアへの開示という高く険しいハードルは何だったのかと、安堵と共に、「こんなアッサリとして本当に問題が無いのか」という思考と共に、幻想の胃痛との戦いにシフトしている。念には念を入れて勉学に励み臨んだ試験が、ものの時間半分で終わってしまった際に生まれる不安の心境と似ているだろう。

 モンスターへ向ける憎悪が昔よりは小さくなった――――と言うよりは、憎悪を向ける相手を選んでいるアイズもまた、感想としては同じである。ジャガ丸の首部分に腰掛け、頭を撫でつつ回答している。

 

 

「オレっち達からすれば、その……えーっと、そのジャガ丸と仲良くしている方が、不思議で仕方ないんだが」

 

 

 あっけらかんとしている原因は、その“ジャガ丸”という存在が生み出した状況に他ならない。今日も含めてアイズと共に示した触れ合いの姿は、「条件はあれどモンスターとも仲良くなれる」という心理を、知らずの内に冒険者たちへと与えていたのだ。“常識が侵食されている”とも表現できるが、そのように無粋な表現を行う者は居なかった。

 なお、全く争いがないワケでもない。ちょくちょくベルに対して距離が近い異端児によるハンティング(スキンシップ)も行われようとしていたが、そこはアイズ・ヴァレンシュタインが迫真の防衛行動。

 

 おかげさまで彼女の中の異端児が違った意味での“敵”となってしまっているが、物理的に手を上げる事は無いだろう。片割のタカヒロについては、ジャガ丸の使役を含めて異端児の中でも既にヤベー奴認定の扱いをされており、スキンシップを目的に擦り寄る者は居なかった。

 

 

 とはいえ、モンスター即ち敵という一般常識は何処へやら。そんなオカシな風景があるからこそ、フェルズに生まれ出る冷や汗の量は加速する。この後の展開がどうなるかと気が気でならない感情を隠せないフェルズは、ありもしない心臓の鼓動が加速しており、腹部がキリキリと痛むような錯覚を覚えている。

 そしてタカヒロは、ベルに対する説明を繰り返す。もはや隠す事は不可能だった点を告げると、フェルズは諦めと心の疲れにより身体の力が抜けているようだ。

 

 

「あっ……」

 

 

 ここまできて、そもそも己の存在が秘匿であった事を思い出した。自己紹介の類もまだであり、通常ならば、様々な質問が向けられる事だろう。

 

 

「さて。その人が、フェルズというギルドの“使い”でいいのかな?」

 

 

 案の定であり、此方もまた、もはや手遅れの模様。使い走りと言えば合致する苦労人という存在に対し、フィンやリヴェリアが少し強い視線を向けているのは仕方がない。

 ヤケクソではないが、フェルズは異端児についてをロキ・ファミリアの幹部に対して説明し始めた。そしてウラノスの考えについても同様であり、どのように思うかをフィン・ディムナへと問いている。

 

 とはいえ、ものの数秒で回答を出せる者などいないだろう。絶対の法則こそ崩れ去りつつあるが、何せモンスターとは人類の敵なのだ。

 ロキ・ファミリアへの影響を考えただけでも、地位・名誉も含めれば影響は計り知れない。だからこそ回答に困るフィンとリヴェリアに対して、フェルズにとって恐らく最も黙っていて欲しい者が口を開いてしまった。

 

 

「なに、明確なメリットも存在する。ジャガ丸、アステリオスを探してこい」

■■■(オッケイ)

 

 

 言葉と共に展開されるリフト、消えるジャガ丸。5分後――――

 

 

■■■■(捕ったど)――――!』

「またか……」

「……」

 

 

 傷こそ少ないが、あの時の焼き直しがリフトより出現。ライバルらしいベル・クラネル、なんともいたたまれない光景を目にして同情の念を隠せない。

 内心で「オッタル2号だ」というニュアンスを沸かせるフィンやリヴェリアについては、概ね正解と言えるだろう。ベルと違って“あの時”のミノタウロスとは気付いていないが、そこはベルに対するヒロイン属性の有無による差となっている。イイ男同士とは、魂レベルで引き寄せられるのかもしれない。

 

 さておき、このミノタウロス――――名をアステリオスもまた、異端児と呼ばれる一名であることが紹介された。そして――――

 

 

「推定戦力としては、レベル7の後半だろう」

「っ……!」

 

 

 高みへと昇る為の、数多の経験に必要な戦闘相手を目にして、戦闘狂に染まりつつある小さいオッサンの目が輝く。ベル・クラネルとの三角関係については、恐らくアイズが許さないだろう。

 ともあれ、強者とあれば手合わせしてみたいと思うのが武人と呼ばれる種族の真っ当な思考回路。相手がオッタルやレヴィスのようなパワーファイターであることは読み取れるが、何せ、明確な思考を持つモンスターとの戦いなど初めてだ。

 

 フィン・ディムナにとって、間違いのない新しい経験。得られるものが何であるかは未知と言えど、だからこそ、輪をかけて好奇心が顔を出す。

 飴につられた子供のように、餌に興味を示す生き物のように。どうにかして平常心を保とうとするが、どうやら本能に逆らう事は難しい。

 

 

「皆が良ければ、是非、お手合わせを願いたいね」

「此方も同様。腕前は、フェルズから聞いている」

 

 

 そして二名の視線は、何故か自称一般人へ。「自分?」とでも言いたげな彼だが、とりあえず己やリヴェリアに(直接的な)害はない為に、短時間の手合わせを許可するのであった。

 

 

 結論から述べるならば、以前に行われたレヴィスとの鍛錬と似ているかもしれない。筋肉質で大柄と呼べるアステリオスによって振るわれるパワータイプの一撃は、フィンにとって全てが致命傷となるだろう。

 幸いにも、狡猾さにおいてはフィンが一枚上手の様相だ。小柄さと槍による受け流しを生かして受け身を中心として立ち回り、どうにかして隙が無いかと模索する。

 

 だからこそ結果としてはイーブンであり、互いに一撃を見舞えない。盛り上がってきたところだが度が過ぎて観戦者に害が及ぶ可能性が生じる前に、タカヒロが区切りの言葉を入れる事となった。

 大小の二名は互いに向き直り、獲物を仕舞う。そして僅かに口元を緩めると、互いの健闘を褒め称えるのであった。

 

 

「ありがとう、アステリオス。第一級冒険者でも敵うかは怪しい、予想以上の腕前だ。正直、驚いたよ」

「此方は攻め切ることは叶わなかった。見事な槍だ、フィン・ディムナ」

 

 

 互いに褒め讃え握手を交わし、僅かに息を荒げた鍛錬は終了する。いつか50階層で行われた大規模な行いだったならば、共に大の字で倒れる程の接戦だった事だろう。

 敷居の高かった異端児と冒険者による交流という意味では、ウラノスにとって間違いなくプラスとなった一幕。ロキ・ファミリアとのファーストコンタクトは、大成功の結果に収まった。

 

 

 

 と、いうことで。すぐ横に、未知数となるカドモスらしきモンスターがいる点について興味が集まり――――

 

 

「強さを測るぞ」

「うん、賛成だ」

「計らねば」

「僕も興味があります!」

「私も」

■■■■■■(おらワクワクすっぞ)

 

 

 脳筋と呼ぶべきか、戦う事となれば一直線の男連中プラス剣姫プラス一匹。額に手を当てて「どうしようもない」と言わんばかりに唸るリヴェリアと、不安しかなくみぞおちに手を当てるフェルズは、見守るほかに道がない。

 

 

■■■.(W T F .)

 

 

 What The Fu〇k. マイルドに直訳すると、ナンテコッタイ。

 とはいえ、カドモス異端児がそのような感想を抱くのも仕方ないだろう。モテモテなシチュエーションだが相手は暑苦しい男共であり、どれもこれもが強者の類だ。

 

 

 数分後、自称一般人を筆頭とした分析班によって戦力的に素っ裸にされたカドモスらしきモンスター。

 しかし推定レベルが6後半に相当する程だった事もあり、これまた戦闘狂の連中が興味を向けてしまっている。流石は51階層生まれと言った所か。性格は大人しい部類であるものの、持ち得る実力は第一級冒険者に匹敵するようだ。

 

 

「ところで、なんとお呼びすれば良いのでしょう?」

 

 

 ベル・クラネルが発した、素朴な疑問。先程からは「そのモンスター、カドモスらしきモンスター」などと呼ばれており、通所のモンスターとは異なる異端児達からすれば、あまり気分は良くなかった事だろう。

 

 という事で皆が協議した結果、命名、“表皮製造機”――――ではなく、“ドーガ”。“ドラゴン”と泉の番人から“ガーディアン”という2語の頭を取ったオーソドックスな命名規則であるものの、それが彼の名前となった。

 ジャガ丸よろしくベルが名付けの親となったとはいえ、ジャガ丸と違って彼は28階層での生活を送る事となる。しかし51階層で恐怖に怯え続けるよりは、遥かに上質と言えるだろう。恐怖の大魔王が身近になったとも言えるのだが、とりあえず敵対する事はなくなった。

 

 そんなこんなで交流会のような何かは大成功となり、地上に住まう者達は帰還する事となる。ジャガ丸は、去り際に言葉を残す事となった。

 

 

■■■■、■■(達者でな、兄弟)

■■……?(えっ……?)

 

 

 周囲が把握できないやりとりが、ジャガ丸とドーガとの間で交わされる。そのうちアステリオスのように、必要あれば拉致られる存在となるかもしれない。

 

 

 彼等の物語が進むのは、闇派閥との決着がついてからとなるだろう。決して平坦とは言えない道のりをウラノスは進む事になるだろうが、薄っすらと見える未来に、陰りの色は見られない。

 

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