その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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233話 疑いながらも

 

 厚い雲が空を覆う、今日のオラリオ。明け方まで降り続いていた強い雨は今は止んでいるものの、本日の日差しを期待することはできなさそうな空模様だ。

 そんな中で早朝に届いた、一通の手紙。リヴェリア・リヨス・アールヴ宛であるために、いつも通りエルフの者が丁重な扱いを見せて運んできている。

 

 

「リヴェリア様、お手紙が届いております」

 

 

 しかし、表情がよろしくない。いつもならば冷静を装って渡してくるのだが、今回においては目線が少し泳いでおり、表情も心なしか険しさが覗いている。

 手紙を受け取ったリヴェリアは直ぐに理由を察するも、下がっていいとの言葉をかけて自室へと歩いていく。相手の対応がそうなった原因は、封蝋にあった文様だ。

 

 

 特殊な魔力が篭った、リヴェリアの故郷で使われている文様。それは間違いなく実家であるアールヴ王家の文様であり、捏造することは不可能といえる代物だ。

 故に、高確率で父親もしくは母親からの手紙ということになる。数年前に突然とバトルクロスを送ってきた父の例もあるために、あまり良い予感はしないというのがリヴェリアの見解だ。

 

 それでも、中を見ずにゴミ箱行きなどという暴挙は出来はしない。随分と意見の衝突があった仲とはいえ、ラーファル・リヨス・アールヴとはリヴェリアの実父なのだ。

 裏返せば父の名前が記されている手紙だけに、猶更の事と言えるだろう。記されていたのは間違いなく父親の字であり、彼女は少しの緊張を抱いて手紙を開いた。

 

 そして読み進めるごとに、次第に表情が歪んでゆく。最後に達したときは歯を食いしばっており、感情は緊張から怒りへと変わっていた。

 

 

「よりにもよって、このような時に呼びつけると言うか……!」

 

 

 手のひらで机に押し付け、リヴェリアは自室で一人憤怒する。続いて歯を食いしばる様相を見せており、このような激情も珍しい。

 ともあれ、どうやら一人で片づけることはできない内容であるらしい。さっそく同ファミリアのエルフ数名に遣いを頼み、そのエルフ達はヘスティア・ファミリアへと向かうのであった。

 

 

 その日の昼。

 

 「カドモス異端児は隔離したんだから問題ないやろー」的な判断のもと、色々と変更を繰り返した結果の最終装備でカドモス・タイムアタックをしていた装備キチ。よもや、己に用があるロキ・ファミリアのエルフ数名が訪ねてきているなどと想像もしていない。

 とはいえ、カドモスの数にも限りがある為に丸一日を掛けて乱獲が行われる事もない。結果として昼食直前の時間帯にホームへと帰還した直後、エルフ達に捕まった格好だ。

 

 緊急ということで鎧姿だけ解除すると、その足で黄昏の館へと訪れている。此度の遣いの謝礼として産地直送な“カドモスの表皮”を“各々に”渡しており、受け取り手は目が点になって驚いている事にツッコミを入れる余裕がある者は居なかった。蛇足で言えば、最近は“カドモスの表皮”の相場が下落傾向にあるらしい。無論、原因は闇の中(全くの不明)である。

 そんな事はともかく案内先はロキの執務室であり、真面目な話なのか人払いも済ませているらしい。ロキの表情は真剣であり、リヴェリアの表情にも険しさが伺える。

 

 三人分の水が用意され、話し合いが始まった。内容は今朝方に届いた手紙の中身であり、先に中身を知らされたらしいロキは唸る様相を見せている。

 現在は、タカヒロが手紙を読んでいる。オラリオで普及している共通語ではなく古代エルフ語だというのに当たり前の如く解読できている点に驚くリヴェリアながらも、その程度の驚愕は今に始まった話ではないのでスルーしていた。

 

 

「この手紙、差出人は?」

「私の父上、ラーファル・リヨス・アールヴからの呼び出しだ」

「見合いの話なぁ……まったく、色々と何ちゅータイミングや」

 

 

 内容を簡単にまとめると、ロキの一言に辿り着く。貴族との見合い話があるから戻ってこいという中身であり、断るならば実力行使も辞さないという内容だ。

 見合いと書けば軽い内容とも受け取れるが、要は将来の旦那との顔合わせである。王族故にその手の自由は無いに等しいものであり、かつて彼女も覚悟した、決められた相手ということだ。

 

 

「こー言うのも色々問題あるやろうけど、なんで今更なんや、リヴェリア?」

「おおかた、貴族の連中が用意周到に仕組んだモノだろう。街中で私とタカヒロが一緒にいる所が、連中の耳に入ったのだろうか……」

 

 

 己の里であるアルヴの森を飛び出してきたハイエルフ、それがリヴェリア・リヨス・アールヴだ。アルヴの森からやってきた諜報員――――とまでは言わずとも調査員が、リヴェリアに関する大雑把な情報を収集・報告していたとしても不思議ではない。

 少し時期的に遅い気もするが、あまり表立って“お付き合い”を公開していなかったからこそ、可能性としては、あり得なくもないシチュエーション。だからと言って事実ならば許し難い為に反発したくなる状況ながらも、手紙ゆえに真相は分からない。

 

 

「ちなみに、召喚に応じなければどうなる?」

「貴族が暴走したならば……最悪は手紙にある通り、兵を差し向けてくることだろう」

「そりゃ堪忍やなー……闇派閥とやりあってる時に後ろからグサーなんて、一番アカンで」

「まとめて()るのも気が引ける」

「気持ちは分かるんやけど、一番アカンで」

 

 

 アルヴの森のエルフ達は恩恵を得ていない為に、強く見積もってもレベル1がいいところと言えるだろう。尾ひれを付けてレベル2だとしても、常識的に考えれば、その程度の戦力だ。

 しかし弱者でも群れを成せば鬱陶しさは顕著であり、相手が相手だけにオラリオのエルフは相手方に手を出せない。また、計り知れない戦力となる闇派閥を相手にしては、リスクについては少しでも減らしたいのがロキとしての実情である。

 

 そうなれば、リヴェリアがアルヴの王森へと一時的に帰らなければ脅威をゼロにすることはできないだろう。しかし説得に要する時間は、移動も含めれば、最低でも一週間はオラリオを空けることとなる。

 レベル7、それもオラリオ最強と言われる魔導士だ。どれ程の戦力としてカウントされるかは主神であるロキが一番わかっており、故に大手を振ることができずにいる。

 

 そして間違いなく随伴することになる、実力不明の自称一般人の方も重要人物であることに変わりはない。オラリオの全冒険者を相手にしても片手間で勝つのではないかと考えているロキとしては、こちらの存在がオラリオを留守にするのも考え物だ。

 文字通り切り札となる、絶対的な存在。以前にチラッと聞いた時も戦う姿勢を示してくれたために、最強の戦力となることは明らかだろう。

 

 しかし現状、タカヒロやレヴィス、ジャガ丸という存在は、闇派閥を相手に隠すことができている。故に、闇派閥がタカヒロの不在を理由に進軍してくることは無いと言えるだろう。

 一方のリヴェリアは名を知られているために、勝率を上げるためにこちらの不在を理由に進軍してくる可能性は考えられる。ならば、対策は必要だ。

 

 

「その場合に備えてな、ヘスティア・ファミリアと正式に連合軍を組んどいた方がええんちゃうかと思うとってなー」

「実はヘスティアとベル君も、明日からオラリオの外に出向くのだが……」

「マジで!?」

 

 

 思惑が外れるロキだが、既に予定に入っていることらしく撤回は難しいらしい。タカヒロもヘスティアから聞いた程度ながらも短い期間ではなく、どうやらアルテミスという神が関わっているようだ。

 なんであの処女神が?と内心思って首を傾げるロキながらも、そちら方面の情報は入ってきていないために判断することはできないが、ヘスティアが絡んでいるとなれば悪事でないことは分かる内容だ。近いうちに、オーバーワークでヘルメスが生贄となるだろう。

 

 そうしようと考えうんうんと唸るロキの前で、リヴェリアもまた顎に手を付けて考える様相を見せている。それに気づいたロキが問いを投げると、彼女に続いてタカヒロが口を開いた。

 

 

「いや、なに……こうも立て続けに大きな動きが起こるとは、なんとも奇遇な話だと思ってな」

「……意図された動き、っちゅーワケか。あり得んとも言い切れんなぁ」

 

 

 オラリオ最強の魔導師と、今最も勢いがあり実力もついている悪魔兎(ジョーカー)。その二勢力が、こうして同時にオラリオを離れることになる。

 後者については誰かが止めなければ、高確率でアイズ・ヴァレンシュタインもくっついてく事になるのは想像に容易い。ならば、オラリオから大きな戦力が更に離れることとなる。

 

 ともあれ、単に考えすぎなだけ。そのように言われても、反論できる内容はどこにもないのが実情だ。

 

 ロキとしては、用心するに越したことはないという姿勢を示している。レベル1の眷属や協力ファミリアの者も動員して、厳重な警戒を敷くらしい。

 闇派閥とは神を味方に付けるほどの組織。オラリオの内外に協力者がいても、何ら不思議ではないはずだ

 

 

「あの時の惨劇は、絶対に繰り返したらアカンのや……」

 

 

 ポツリと零れた、そのセリフ。歯を食いしばるロキは、かつてオラリオが辿った歴史を思い返す。

 しかしながらそれを知っているのは自分とリヴェリアだけかと思い返し、タカヒロに“死の七日間”を知っているかと問いを投げた。

 

 

「7……もう8年前か?当時オラリオで起こった大まかな内容は、リヴェリアから聞いている」

「なら話は早いで。せや、それが暗黒の七日間や。ウチは、今回の闇派閥がその再来にならんかと危惧しとる」

 

 

 数多の神が天へと還り、数多の命が失われた大厄災。オラリオ全土を狂乱に陥れたその裏で、一つの願いがあったのもまた事実だ。

 

 己が嫌われ者となり、悪となり、次の世代に未来を託した三名の存在。その真意が伝わることは期待できない為に、耳にしたタカヒロが先の感想を抱くのも仕方のない事だろう。

 結果から言えば、未来を託した三名の思いは、ここにきても紡がれることとなった。その男がここで警戒を見せたがゆえに、運命が1つだけ変わっている。

 

 ともあれタカヒロは、リヴェリアが帰省するならば随伴することをロキに向かって告げている。同時にここでヘスティア・ファミリアと秘密裏に連合軍を結成する決定をしており、ヘスティアやベルには後ほど伝えられるだろう。

 幸いにも共に戦ってきた実績は幾らかあり、上位陣になればなるほど経験を積んでいる。互いに強靭な戦力は、大きな戦果を挙げる働きを見せるだろう。

 

 もっとも表に出ていないレヴィスとジャガ丸は秘密裏に待機することとなり、隠し戦力として機を伺う。オラリオに住まう人々の避難準備計画を進めるなど、用意も徹底して行われることとなる。

 なお、これらの手続きはご存知ヘルメスの担当だ。高難易度ながらも秘密裏に行わなければならない無理難題を押し付けられ、主神とその眷属達は頭を抱えている。

 

 

 それらの決定もあったことで、最終的にはフィンやガレスとも相談し、リヴェリアは約30年ぶりにアルヴの王森へと帰ることとなる。あまり大々的には言えないためにウラノス経由で秘密裏に出立することとなり、随伴するのもタカヒロ一人という状況だ。

 しかしリヴェリアは、随伴するタカヒロのことを真っ先に心配している。本来ならば己の誉れであるエルフの里、アルヴの王森へと赴くことが最大の理由だ。

 

 

 ヒューマンだからという単純な理由で忌み嫌い、王族の前だというのに暴言の類を躊躇なく口にする程の固定観念。エルフと呼ばれる種族が他族から敬遠される理由の1つであり、最も大きな理由といえるだろう。

 人間不信とはよく言うが、このような対応が原因で、リヴェリアはエルフ不信になりかけている傾向があった。此度の話題が話題であるだけに、内容も痛烈になるだろうと想定している。

 

 そのことを相方に告げるも、見せる様相は“どこ吹く風”。婚約のことを公にする事で決定したのだが、だというのに普段の仏頂面を崩さない。

 もし公の場で露呈するようなことがあれば、その状況は容易に想像することができる。だというのにまるで気にしていない様相を見せる相方に対し、思わずリヴェリアが声をかけた。

 

 

「分かっているのか、タカヒロ」

「そうだな、何かしら言われることは想像している」

「今までも何か言われたかもしれないが、恐らくその比では済まないぞ。連中は、きっとお前を目の敵にして」

「言っただろう。君の向けてくれる瞳があるだけで、自分は如何なる苦境でも立ち向かえる」

 

 

 比較的親しい者からの言葉なら、いざ知らず。リヴェリアの向けてくれる瞳が不変である以上、その男にはいかなる批判の言葉も通用しない。

 無論、力業でくるならば猶更だ。ダンジョンの内部ではないためにアセンションを含め全てのスキルが使用可能となる状況は、加減無しで戦える環境の1つなのである。

 

 

 と言えば聞こえはいいが。それとはまた別に、此度においてはリヴェリアが身に纏った衣類もヤル気が上昇している原因の一端だ。

 

 

 見慣れた濃い目の緑色で素っ気ない魔導服ではなく、要所要所に“高貴さを感じさせるあしらい”が施された洋服。“縦セーター”を感じさせる上部はリヴェリアが持つ“戦闘力”を少しだけ露わにしており、チャイナドレスよろしくスリットの入った下部とも相まって、高貴の中にも色気がある。

 実はこれ、7年前の大抗争においてリヴェリアの父ラーファルがオラリオに届けた“贈り物”。もちろんモノとしては一級品の戦闘衣(バトルクロス)であり、持ち得る性能も申し分ない。

 

 リヴェリア曰く、露出部分が落ち着かないとのことで大抗争の時を過ぎてからは仕舞っていたとのこと。しかし此度の帰省においては、せっかくの父からの贈り物なので着るべきだと判断した恰好だ。

 ということで、初めて目にした彼女の姿によって“テンション上がってきた”モードに入っている戦士タカヒロ。今のリヴェリアに手を出すならば、レベル1だろうが神だろうが全力の“おもてなし”を受けることになるだろう。

 

 

「……分かった。私を守ってくれ、タカヒロ」

婚約者(お前)を守るのは当然だ。例え黒竜のモンスターパレードが起ころうとも、片手間で蹴散らしてやろう」

 

 

 比喩の表現だろうとも、そこまで言われては彼女の顔に笑みがこぼれる。全くと言って良いほど自分の力を表現しない彼だからこそ、自負の言葉が出るときは覚悟の現れだ。

 彼本人が真面目に黒竜パレードを望んでいるかについても察することが出来ているが、そこは二の次。己を案じてくれる言葉について、受け取るリヴェリアの嬉しさに拍車がかかっている。

 

 

 そして約半日後、夜明け前の夕やみに紛れるように出立した、二つの影。ウラノスと干からびているヘルメスの手配によって、オラリオを出る手続きが史上最速の40秒で済まされて門をくぐり、とある方角へと進路を向けている。

 出立と移動方法は、ガネーシャ・ファミリアがテイムしている翼竜のようなモンスターに二人乗りしており、道中の小さな村で一泊して用意を整えた。ここから日の出とともに飛び立てば、昼頃には森の入口に辿り着くことができるらしい。

 

 ちなみにだがアルヴの森はエルフにとって神聖な場所であり、通常の入口には門番が居る上に、秘密の通路に繋がっている場所は一般に分からないよう秘匿されている。曰く“隠蔽の類の魔法”がかけられており、アールヴの血統に所縁のあるエルフでなければ、外からの発見は無理だろうという内容だ。

 その魔法は不思議なものであり、一度出入りすると入口を再び忘れてしまうという効能付きのものらしい。だからこそ、今回のような秘密の来訪者には打って付けの代物なのだが――――

 

 

「あそこか」

「……何故分かるのだ」

 

 

 上空から森の一点を指さしており、何故だか場所が分かってしまう一般人。この者が披露する反面でヘスティア等が疲労する謎ムーブは今に始まったことではないために深くは突っ込みを入れないリヴェリアながらも、ともかく二人は森の入口へと到着する。

 

 

 果たして、エルフではない誰かが歓迎していたが故の露見か。真実は、もう少し後に明らかとなるだろう。

 

 

 ところで翼竜は入り口で待機となり、帰路についてはリフトというモノがある事を知りながらも、どうやら帰路についても翼竜を用いるようだ。そこには“二人で空の旅を楽しみたかった”ポンコツ(誰かさん)の意図があるのだが、追求するのは無粋だろう。

 

 

 ともあれ、二人は決戦の舞台の入口へと降り立ったわけだ。タカヒロは二枚の盾を取り出すと、一度少し深く呼吸したリヴェリアに続き、2歩ほど後ろを歩くこととなる。

 

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