その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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244話 黒いモンスターとは

 

 一方こちら、静かな村の静かな宿で、行儀悪く指差しをしたまま固まるアルフィア。銅像の如き不変さで気の抜けた驚き顔を見せており、現役時代の彼女を知る者が目にしたならば、狐につままれたような仕草を見せるだろう。

 呆気ない表情を作る顔は縦軸をベースとしてゆっくりと回転し、リヴェリアが口にする“婚約者”へ。言葉にできない驚きと疑念の感情は表情となり、赤の他人だろうとも汲み取れる程だ

 

 無論、タカヒロとて否定する理由もなければ、冗談とて口にしたならばブラックジョーク。目を瞑って茶に手を伸ばした事で、肯定の返事としていた。

 

 

「しかし、お前はアルヴの森の……」

「なに。父上と母上との顔合わせ、承諾は済んでいる」

 

 

 どこか得意げな気配を隠せておらず、ドヤ顔の片鱗を見せるハイ(lol)エルフ。相性が最悪だからこそ負け続けだった当時の積年の恨みを、今まさに晴らすと言わんばかりだ。

 なにせ女性にとっては――――男にとっても同じだろうが、特に女性にとっては“人生の一大イベント”と表現して過言は無い。結婚という行いの是非や早い遅いはさておき、特にリヴェリアの場合は“理想的”な相手である為に輪をかけて嬉しいのだろう。

 

 

「……裏切者か」

「馬鹿者、お前と徒党を組んだ覚えはない」

 

 

 向けられる消えゆく予想外の小言は、心の奥底では抱いていた懸念が乗せられている。返される翡翠の強烈なジト目は、同時に出された一言と共に正論となる類だろう。

 とはいえ、アルフィアとて持ち得る美貌は上位一握りの中へと軽々しく入る程に高いものがある。「ではなぜ今までフリー?」となれば、理由は非常に単純だ。

 

 ①第一級冒険者、その中でも抜きんでた才能。

 ②都市最強と言われたヘラ・ファミリア所属。

 ③リヴェリアも手玉に取る、つよつよな性格。

 

 フリーと言うよりは、フリーダム。色々と相まって、色々な意味で男にとって敷居が高い。その高さは凡夫の男共にとってバベルの塔よりも高い程で、“お近づき”になる事どころか声を掛ける事すらも至難の業だ。

 なんせ下手をすれば、「今日も綺麗ですね(おはようございます)!」などと軽口の挨拶を投げたら「消え失せろ(ゴスペル)」と返ってくる確率は、新作のジャガ丸くんを見つけたアイズ・ヴァレンシュタインが駆け出す確率と近似値を示すだろう。そんな地雷原に突っ込む勇気を持ち合わせていないからこそ、大半が凡夫の域に収まるのかもしれないが。

 

 なお例によって、そこの一般人にとっては問題にすらなり得ない。1番と2番目については言わずもがなで、敷居の高さについて“躓く段差”と表したならば間違いなく過剰表現だ。

 3番目についてはリヴェリアを相手した時の如く、彼特有のマイペースを軸にして合わせてしまうかもしれない。そもそもにおいて興味の欠片を向けるかという点で非常に怪しいが、アルフィアはエルフではない為に仕方がないだろう。

 

 

「む?」

 

 

 宿のドアをノックする音が響いたのは、妙な睨み合いが2-3分ほど続いたタイミングであった。しかし残響が消えゆく一方で、三人共に疑義が残る。

 宿泊目的の客にしては、妙に礼儀正しいと言える行い。特にこのような時間、失礼を承知で述べるならばこのような田舎においては、当該の作法を行えるような者が立ち寄る事もないだろう。

 

 

 実態は礼儀正しさなど程遠く、溜息と愚痴を交えながらの入店と相成った。

 

 

「邪魔をするぞ。まったくいつの世も、精霊は神の使い走りで変わらんのう」

「大精霊……!?」

 

 

 本日二度目、アルフィアにとって驚愕の対面。突如として生まれた気配を察知して警戒を見せてみれば、今となっては珍しい存在が突然と尋ねてきたのだから疑念が積もる。

 なお、一目見て彼女を大精霊と見抜く点については流石というところ。反射的に後ろの二人へと顔を向けると、立ち上がって首を垂れるリヴェリアと、先程と変わらず椅子に腰かけたままのタカヒロという構図が出来上がっていた。

 

 

「理由なく追いかけてきたワケでもないだろう。何用かな、ドライアド」

「先の言葉通りじゃ。御身に向けた、これを預かっておる」

 

 

 深いため息を一度だけ見せると、右手の人差し指と中指で、一通の手紙らしきものを摘まんでいる。手首のスナップだけを使って器用に前へと飛ばすと、タカヒロは同様に右手の人差し指と中指で受け取った。

 

 

 右からリヴェリア、左からアルフィア。名前のイントネーションだけが似ている二人がそれぞれから覗き込み、開封を待っている。

 簡易な封であり、裏手に書かれた手紙の差出人は、神ヘスティアとヘルメスによる連名であった。ヘスティアについては初耳となるアルフィアの疑問に対し、ベル・クラネルの主神であることをリヴェリアが告げている。

 

 一応、最初のカミングアウトでタカヒロが口にしていた内容だが、その時の衝撃が大きくて忘れていたのだろう。直後、「ああ」と思い出したかのようなイントネーションでもって、納得した様相を見せている。

 中の本文を破る心配もなかったらしく、手で適当に封を開いたタカヒロは、一通りに目を通す。その間、ドライアドの口から何かが語られることは無く、何故か数秒で読み終えたタカヒロは、目を伏せてドライアドへと合図を送った。

 

 

「記載の通りじゃ。御身に決定を委ねる、との言葉も預かっておる」

 

 

 問題は、記載されていた内容であった。どうやらドライアドには口頭で伝えられているようで、アルヴの森の時のような気軽さは見られない。

 

 オラリオから離れた遠い土地。その山奥にある忘れられた古城に存在する、とある大型のモンスター。

 タイムリミットは、残り二日。そんな状況から事実を伝達する為に、下界では禁忌とされる“神の力(アルカナム)”に辛うじて該当しない力を用いて、大精霊へと言伝が行われた。

 

 簡潔に言えば、討伐が依頼の内容となる。ベル・クラネルがアルテミスと共闘して倒す“はずだった”存在は、待ったなしの状況で、大きな問題を生じているらしい。

 記されている「世界を救ってくれないか」という一文の意味を、どのように受け取るか。重圧を感じて縮こまってしまうか、己に活を入れて奮起するか。示す反応は、強弱を含め、人によって様々だろう。

 

 

 なお、そもそも該当の一文を右から左に流している一般人。数秒で読み終えた理由の一つであり、依頼を受けるか否かの判断材料には全く含まれていなかった。

 

 

「ドライアド、このモンスターについての情報は?」

「実態を見るまで断言はできんが、“神の力を取り込んだ存在”と伺える。外観は、黒く大きなサソリとの事じゃ」

「なっ!?」

 

 

 驚きで目を開くアルフィアの脳裏に浮かぶ、一つの影。己が所属したファミリアが挑み続けてきた三大クエストの他に黒いモンスターが居たのかと、驚きを隠せない。

 仲間が死力を尽くして挑み散った戦いが、脳裏に浮かぶ。嘗ての最強二大ファミリアを薙ぎ倒した、黒き龍が猛威を振るう光景は、二度と繰り返してはならないものだ。

 

 

 一方でリヴェリアの脳裏では、そんな黒サソリが必死になって理不尽の化身と戦っている姿が浮かんでいる。実際にエンカウントしたならば、現実となって披露される事だろう。

 なお現実は、想像に増して黒トカゲすら瞬殺という臨終具合。現実は小説より奇なりとは言うが、相手にとって理不尽の化身(自称一般人)が関わってしまったならば、それ程の事が起こっている。

 

 

 もっとも該当の男は、やはり事の重要さが理解できていないようだ。見せる表情は全くもって変わっておらず、呑気な質問を飛ばしている。

 

 

「黒竜のように、“黒きモンスター”との固有名称は伝記においても何度か見たことがある。通常のモンスターと、何か異なる部分があるのか?」

「嗚呼、分からぬのも道理よな……」

 

 

 黒竜を筆頭に、ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアの連合が倒してきたがベヒーモスとリヴァイアサン。“黒いモンスター”と呼ばれるジャンルとなるこれらの存在を、なぜ神々は討伐したがるのか。

 そして子を想う神々ですら、なぜ、極端に言ってしまえば己の身と引き換えに倒す事をしないのか。天へと還るだけならば、神が刻む果て無き歴史からすれば、超大作の小説における1-2文字程度で大事ではないだろう。

 

 

「アレはまさに異端の存在。理由を要するとなれば“是非もなし”の一言で足りるじゃろう。ともかく、神々や我等精霊の手では倒せぬのだ」

 

 

 神ないし、それに準ずる存在では通用しない。何かしらの理由で神々より生じたツケが、黒い特殊なモンスター。

 

 子供たちが“平和”と呼ばれる類の世界を手にするために討伐が必要な、絶対条件。ダンジョンの構造とは、神々が口にする子供達が、黒いモンスターを倒せるようになる為の演習場。

 討伐の報酬として取得できる魔石や素材は子供たちの生活に潤いを与えているが、先のように捉えることもできるだろう。この場に居る四名の誰も因果の真相は分からないが、状況を把握するには十分だ。

 

 

 タカヒロにとっては、過去の謎の一つについても、可能性が見えたらしい。

 

 

「――――なるほど。風の精霊アリアが人間の血を受け入れた理由の一つ、か」

「―――――」

 

 

 ドライアドやアルフィア達は黙ったままで、肯定も否定も行わない。過去の謎の一つを推察したタカヒロは答え合わせをしたいワケではないが、確かに筋は通るだろう。

 

 精霊が子を宿し未来へと紡ぐ為、もしくは、精霊が黒いモンスターに攻撃を与える為。どちらが真の理由かは分からず、そもそもが明後日の方向に推察している可能性もゼロではない。

 

 

 そんな推察を行った彼。神ないしそれに準ずる存在“ではない”、神々が勝手に“〇〇の化身”と呼ぶ一般人は、根本において、そもそも他者とは全く異なる内容の思考を抱いている。

 

 

「ところで、敵はサソリと言ったな。それは黒竜よりも強いのか?」

「……」

 

 

 恐らくは微塵にも問題などとは思っていないのだろう、その一言。考えはリヴェリアに筒抜けであり、物言いたげな視線を貰っている。

 

 

(わらわ)では計ることは叶わぬが、それ以上であろう」

「なるほど。依頼については了解した、帰路のついでに討伐を行おう」

 

 

 表向きは、普段と変わらぬ淡々とした調子。しかし裏では、「神モドキ?よっしゃ装備とか素材が落ちるかもしれないし、新装備のテストランしたろ!」程度の呑気な心境となっている。

 

 

「……相も変わらず、突拍子なく途轍もない事を口にするな、お前は。庭の草でも毟る程度の気負いでしかないのだろう」

「失敬な(正解)」

 

 

 美味しい料理を提供してくれる店舗の情報を耳にして、「美味いのか?じゃぁ自分も行こう!」と相槌を返すかのよう。そのような回答を本当の凡人が行う事だけは、絶対に間違っている。

 

 

「なに。依頼された弟子が事を成せないとくれば、後始末は付けるべきだ」

 

 

 元とはいえ、弟子が行った失態の責任は師匠が取れ。巻き込まれただけのベル・クラネルに罪は無いが、少年が気負う事は汲み取れる。

 が、如何せん、自称一般人と比較した際に本当の一般人となってしまう少年では、今回の案件は荷が重い。リヴェリアとアルフィアも汲み取ったのか、タカヒロにつられて外へと出た。

 

 

「あれは……」

「いかんな、詠唱が進んでおる」

 

 

 空を仰ぎ見れば、第二の月のようなモノが薄っすらと浮かび上がる様相を見せている。三日月という弓の(つる)に矢をあてがうかのような光景は、目的を知らなければ幻想の一言で表される筈だ。

 最低でもオラリオを、予測と同等ならば大陸を消し飛ばす天の一撃。約一名ほど「アレって遠距離物理なのかな」程度の感想を抱いているが、口に出す事もない為に掘り起こす必要もないだろう。

 

 

 残された時間はあまりなく、タカヒロは、このまま当該地点へと移動を開始するようだ。一方のリヴェリア達は、オラリオにおける闇派閥に対抗する為に帰還する選択を取っている。

 

 リヴェリアについては冒険者である為に正規の外出届を出しており、ロキ・ファミリアとしての面子を保つ為にも、正規のルートで帰還しなければならない。その為に、リフトによる帰還は悪手と言える。

 残り二名については逆に正規ルートを使用できず、一方でドライアドは、コッソリと侵入した経歴を持っている。そこにアルフィアを巻き込む形で計画が練られ、これ以上の議論については必要はないだろう。

 

 

 女性三名がオラリオに入った後?

“当たって砕け――――”るか否かは、神のみぞ知るところだ。ヘスティアの胃が砕けてしまうかもしれないが、新たな“ジョーカー2枚”をドローする際に生じるコラテラルダメージ故に仕方がない。

 

 

 ともあれ、互いの行動は決定した。5分後には、二つのルートへと人影が散る事となる。

 

 

「“静寂”、そしてドライアド。リヴェリアを、オラリオまで送ってくれ」

「先の礼だ。その頼み、必ず果たそう」

「御身の頼みならば是非もない。引き受けよう、わらわとて手は抜かんぞ」

 

 

 魔導士三銃士、とでも表現すべきか。即席ながらも史上最強の魔導士パーティーが組みあがり、オラリオを目指して飛び立つ事となった。

 羽音と共に夜空へと消えゆく姿を暫く見送り、男は鎧姿になると大地を駆ける。手紙に同封されていた地図に過ちがないならば、迷うことなく目的地へと辿り着くことだろう。

 

 

 背に腹は代えられない大きな理由があったものの、ヘスティアが選択した、“彼を呼び寄せる”という諸刃の剣。よもや表側だけではなく反対側の(やいば)が持つ切れ味すらも“一撃必殺”などとは想定にしておらず、今や、彼の到着を待ちわびている程だ。

 

 

 誰が眠りから覚ましたか、大地を蝕む黒いサソリ。それが迎える運命は、数日のうちに明らかとなるだろう。

 

 

 

 

 ところで。オラリオへ帰る空路については、意図せずして三人乗りになってしまったワケだが――――

 

 

■、■■(お、重ヒッ!!)

 

 

 頑張れ、名も無き鳥型のモンスター。明日の朝日を五体満足で拝みたいならば、その一言を口にするのは、絶対に間違っている。

 

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