その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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246話 オリオンの矢 を使うなんて、とんでもない!(2/2)

 

 アルテミスが用意した槍を使わずして、アンタレスを倒したならば。残り時間は数秒もないだろうが、アルテミスは生き永らえる。無論、主目標である神殺しも達成することは言うまでもない。

 しかし当然、そのような虫のいい話など、この窮地の事態において、あるはずがない。だからこそ真向から反論を行っていた二人の女神だが、直後に出された一文が問題である。

 

 

「神殺しなど、さして問題ではない。口にするのはこれが初めてだが、今までに何度も行ってきたことだ」

 

 

 まるで、今朝の朝食を語るかのような気軽さだ。毎日続けてきた日課の一つ、それを語るようなものだからこそ、特別な感情を抱いていない。

 もしも誰かが、神殺しを「禁忌」と伝えたならば。数秒の間ののちに、「魚か?」と、すっ呆けるかもしれない。

 

 

「……は?」

「……」

 

 

 そんなノリの発言を受け、会話が続かない。聞き手の二名は女神である為に、“相手の言っていることが本当だと分かる”。

 だからこそ、発言の意味が“全くもって分からない”という矛盾の感情が生まれている。言葉は分かれど理解できない心境は、数多の冷や汗を生み出している。

 

 片やかつての日常を口にしただけであり、片や突拍子のないことを告げられて混乱中。シンと静まり返る空気の中、数秒後に動いたのは、無言を決め込んでいたヘスティアだった。

 

 

「……アルテミス。あとは、頼んだぜ……」

「ヘスティア――――ッ!!」

 

 

 サムズアップして後ろへと倒れる炉の女神ヘスティア、タカヒロという男が持っている数多の爆弾のなかで最強の核弾頭を知ることとなる。今の今までに知った爆弾の時は何とかして負けじと耐えてきたが、此度においてはそれも不可能。同時に言葉を耳にしたアルテミスさえ、目を見開きつつ「は?」の一文字しか返せなかった程の代物だ。

 

 ヘスティアは、俗に言う一撃でK.O.だった。その言葉が嘘ではないことを目にした瞬間、ゼンマイ仕掛けが切れた人形のように、パタリと後ろに倒れ込む。ぴくぴくと痙攣しているためにまだ辛うじて生きている事は分かるが、虫の息も絶え絶えで弱々しい。

 決して、依頼された“神殺し”の“手始め”というワケではない。“虫の息ならばまだ息がある為に問題は無い”などという発想も、此度においては辞めた方が良いだろう。

 

 目を見開いて相手二人を交互に見ることしかできないアルテミスも、ヘスティアの介護に必死である。強く呼びかけるも応答はなく、自分より先にヘスティアの方が天に還ってしまうのではないかと焦りの色が隠せない。

 こうして出会ったアルテミスとの別れが、目前に迫っていることを知った時のヘスティアの表情。それとはまた違った胃痛(悲しさ)も、遥かに強烈な様相だ。

 

 

 そんな瀕死の主神を背にし、一人の青年が夜空を仰ぐ。月が2つあるかのように錯覚する光景ながらも、片方は今現在においても詠唱によって作られている天界の一撃だ。

 

 天空に掲げられつつある、下界を滅ぼすオリオンの矢。ゆっくりと成型されるその矢の完成まで推定で残り30分、時間的な猶予は十二分にあると言っていいだろう。

 

 視線につられ、アルテミスもまた空を仰ぐ。優しくヘスティアを地面に寝かせると立ち上がり、前に立つ青年の背中を凝視した。視線を受けて、タカヒロが言葉を口にする。

 

 

「僅かにも敵わず、力になれぬと分かり、立ち上がるか」

「ええ……それでも私は、向かわなければならない。だって、今回の騒動は――――」

 

 

 己の力の大半が、アンタレスに取り込まれたこと。何とかして眷属を逃がしたものの、こうして地上の危機に陥っていること。

 だからこそケジメとして、己と引き換えにアンタレスを倒そうとしている事。神々の間でしか共有されなかった事実は、隠される事なくタカヒロへと伝えられた。

 

 

「そうか。己の失態が原因でアレが作られた事に対し、強い責任を感じているのだろ」

「っ……!」

 

 

 まさに図星だった。何も言い返せないアルテミスはどうにかして強気を保とうと表情に力が入るものの、やはり言葉の1つも出てこない。

 相手に頼る勇気が生まれない彼女ながらも、己に対する内容の言葉ならば何とかなりそうだ。どうして己がおかれている心境が分かったのかと問いたい彼女の前で、彼が持ち得るスキルが発動する。

 

 

 一人で世界を背負うつもりかと、青年に対して口にしたいが取り出せる勇気は無く。一方で生憎と、目的に対する意思決定と過程はさておき、その男は世界を救うことなど経験済み。

 更には先ほどの言葉通り、神を相手にすることなど造作もない。故にその程度の重圧など、なんら大した脅威には成り得ないのだ。

 

 

 

 言葉や動作なく発動するアクティブスキル、“サモン ガーディアン・オブ エンピリオン”。召喚された二体の騎士は原初の光である神エンピリオン直属のガーディアンであり、アルテミスとて初めて目にする存在だ。

 そのスキルが使えることを知っていたヘスティアは気絶中であるために反応を示さないが、アルテミスは目を見開くのが精一杯であり言葉の1つも生まれない。加えて星座の加護が有効化された姿、数多の神々と対決してきたケアンの英雄の背中を目にして、「もしかしたら」という希望が沸き起こる。

 

 

「自分に良くしてくれている奴が、君と似たような性格をしていてね。抱く本心は汲み取れる。その“虚ろ”な身になってまで虚栄を張るのも結構だが、手も足も出ないならば、頼ることを覚えてみろ」

 

 

 此度における戦う理由が何かとなれば、正直なところ1つに限定することは難しい。それでも彼女の為に戦うことも含まれているのは、先に見せた悲しみを抱く翡翠の瞳が己の相方に重なってしまったからだろうか。

 かつてにおいて、他人を頼る事をしなかった。頼る事で肩の荷が軽くなるを良しとせず、己一人で様々な物を背負おうとした一人のハイエルフ。そんな相方に似ているところがあるからこそ、捻くれているものの根は優しいその男は、手を差し伸べたくなったのかもしれない。

 

 

 

 それとも。青年が加護を受ける星座の1つ“猟犬”が、仕えるべき狩人のために腰を上げろと働き掛けたが故の行動か。

 

 

 

 真実は、その男にしか分からない。そして胸の内を告げることなく、先の一文を最後に、姿が一瞬で消え去ることとなる。

 駆け出した方向が分かってしまい、思わず呼び止める言葉を叫ぶ彼女の残響は木々へと消える。残り香の如く正面より風が吹くも、先の言葉が届いたかどうかを確認する術は持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 それから、数分の時が経っただろうか。むくりと上体を起こしたヘスティアは痛む腹部を抑えているが、意識は取り戻したようである。

 休日の寝起きに目覚まし時計を確認するかのような、ボーっとした目つきで辺りを見回す。すると5メートルほど先で、天界の盟友が胸に手を当てて一つの方向を見つめていた。

 

 その先にあるのは、アンタレスが封印されていたエルソスの遺跡。決戦の場所。

 

 一点を見つめる処女神は、悲しげな様相を隠し切れない。そんな彼女を見上げるヘスティアは立ち上がって、下から覗きこむように声をかけた。

 

 

「アルテミス……そうか。タカヒロ君は、行ったんだね」

「……ああ。過酷を押し付けてしまったが、まさに、英雄の背中だった。君と同じく、私が既に一度死んでいることにも、気づいていたよ」

 

 

 当然だよ。と、何故だかヘスティアは上機嫌。胃が痛むという大きなデメリットこそあるものの、最高に頼れる眷属の一人だと鼻高々にふんぞり返っている。

 

 どんな時でも彼女らしいなと、アルテミスの表情に笑みがこぼれた。天界でもいつも笑顔を分けてくれ、慈愛を与えてくれる彼女の姿は、地上でも変わらないのだと思い出に耽る。

 しかし、それが空元気でないこともアルテミスには分かっていた。ヘスティアとて状況は理解しているはずだが、理由を聞いてみれば、「タカヒロ君なら何とかしてくれるさ!」の一点張りで微塵も疑う様相を見せていない。

 

 目的を達成するロジックに相違こそあったものの、最初から、彼という存在に頼っている。責任を取らなければならないと強いられていた己がどうしてもできなかったこと、彼に言われたことと全く同じ内容だ。

 ならば、己も彼を頼って良いのだろうが。そんな葛藤が芽生えると同時に、たとえ神だろうが無理と決めつけ心の奥底に眠っていた本音も、ちらりと顔を覗かせる。

 

 

「ヘスティア」

「なんだい?」

「……彼に、頼れば。私は、生き永らえることができるのだろうか」

 

 

 ここにきてアルテミスが口にした、本当に心から望んでいた事だった。そこには処女神としての名誉も、凛とあろうとする姿の欠片もない。

 間一髪の所で己が逃がした、愛する眷属達と共にまだまだ地上で過ごしたい。こうして再会した盟友の笑う表情を、もっと近くで見て居たい。己が神であり此度の騒動の原因であることは分かっているが、それでもそんな、ありふれた平和を望む感情が沸き上がる。

 

 不安気に見つめてくる翡翠の瞳に対し、炉の女神は昔から変わらぬ屈託のない笑みを作って返している。そして青年の主神である彼女もまた、心からの本心を口にするのであった。

 

 

「ああ、タカヒロ君なら叶えてくれるさ。色々と常識からは外れているけれど、あの子が持つ実力はホンモノだよ。だからアルテミス――――」

 

 

 炉の女神を象徴する、溢れんばかりに眩しい花の笑顔。同性であるアルテミスですら思わず胸が高鳴ってしまう表情を崩さずに、ヘスティアは――――

 

 

 

 

 

 

「ボクと一緒に、胃痛仲間になろうぜ!!」

「それはお断りよ!!」

 

 

 炉の女神ヘスティア。かつてのマブダチを地雷原に連れ込もうとするも、アルテミスの直感が全力で「巻き込まれるな」と警告を発している。地上に降りてきた神の身ながらも眷属と共に武器を掲げ戦ってきた故か、どうやら直感は仕事をするようだ。まさに“神”回避である。

 現に、先ほどの台詞を耳にしたならば猶更の事と言えるだろう。頼りたく頼っているのが現状ながらも、己もまた神であるために、耳にした発言の異常さは身に染みて感じ取ることが出来ていた。

 

 

「酷いじゃないかアルテミス!ボクたちはマブダチじゃなかったのかい!?」

「マブダチなら猶更巻き込まないで!!そもそも、あんな人と一体どこで出会ったのよ!」

「ボクじゃないやい!ベル君が街で拾ってきたんだよ!!」

「あんな人がオラリオには大勢!?」

「居るワケないだろう!?イレギュラーの中のイレギュラーの中に輪をかけたイレギュラーさ!!」

「どれだけよ……」

 

 

 一分一秒を争う危機だというのに、最前線の次にいる二人の女神は呑気なものだ。肩の荷が下りたとは文字通りかもしれないが、その荷は一人の青年が代わりに背負ったことも、アルテミスは分かっている。

 

 それは、家の中心に居る女神も同様だ。世界の危機だけれども、あの青年ならば、なんとかしてくれる。抱く心の底に、この感情があるからこそ、ヘスティアは己を見失うことなくいつも通りに居られるのだ。

 

 二人して言い合いながらも、最後には軽い息切れと共に同じ方角を見つめている。たった一人で世界を背負うこととなった者の安全と無事を、心から祈るのであった。

 

====

 

 毒々しい紫色に染まった森の奥。何人をも寄せ付けないかの如く天然の要塞に阻まれたところに建つ古びた神殿。そこに、一人の青年が到着した。

 

 アルテミスが持つ神威を使う事でしか開かないはずの、封印された扉。“とある魔神が機嫌取りに渡した魔石”を使って強制的に解除させられる封印の扉、その先には神殿に寄生する卵の数々。生れ落ちるモンスターの光景は、いつか24階層で見た食人花(ヴィオラス)のプラントの焼き直しだ。

 その数・質共に、ダンジョンの下層で生れ落ちるモンスターに匹敵する。第一級冒険者のパーティーでも苦戦を強いられる程の群れは、たった一人の男を屠るべく群れを成して力を振るう。

 

 

『■■■■――――!!』

 

 

 しかし展開される光景をダンジョンの焼き直しと呼ぶならば、迎える結末もまた焼き直し。大型・小型のモンスターは関係なしに一撃のもとに敗れ去り、神殿を駆ける戦車の速度を僅かに緩めることもできていない。

 

 

 

 それを迎え撃つは、古城の主。拠点の如く築いた城は万全であり、如何なる侵入者が相手だろうとも隙は無い。

 最奥にある開けたエリア、原理は不明ながらも発光する物体の逆光によって中は見えない。天井が崩れ落ちた天高く聳える塔は星空を切り取り、見上げ雄叫びを上げる存在は禍々しい姿を保っている。

 

 

 全長10メートルをゆうに超えるサソリの形をした漆黒のモンスター、“アンタレス”。あろうことかアルテミスが持つ力の大部分を取り込んだ存在は間違いなくセレスチャルであり、地上で神の力(アルカナム)を使えるイレギュラーの存在だ。

 アルテミス曰く、矛盾をはらんだ災悪。葬るためには、理を貫く神造武器で穿つ他に道が無い。だからこそアルテミスは、最後の微かな、それこそ搾りかすのような余力でもって、オリオンの槍を地上へと召喚した。

 

 

 アルテミスが最後の力を振り絞って(えが)こうとした、神のシナリオ。しかしながらようやく見つかった少年は、アルテミスが知らなかった“穢れのない”純粋な愛を抱いていたために計画に狂いが生じてしまった。

 二人の心が通じ合う程、オリオン()の力は強まる。当然ながら少年に相手がいる以上、一定よりは踏み込めない。神を穿とうとしている現状、今の距離では圧倒的に力が足りなかったのだ。

 

 槍を使うしか、時間も、方法もない。神々はそう“決め込んで”、それでも何とかしようと未だ足掻きを続けている。

 

 

――――さて。結局は、また神々の尻拭いか。いやまて、処女神の尻となるとセクハラか?気を付けねば。

 

 

 そんな狂ってしまったシナリオを更に捻じ曲げ、強制的にハッピーエンドへと辿り着かせるべく地を駆ける呑気な者が一人いる。オラリオにおける神々の誰一人として全容を知らない、しかしオラリオにおけるエルフの間ではちょっと有名な“一般人”。

 ドリーグの魔石を用いて遺跡の封印を破壊するというさっそくの“ぶっ壊れ”っぷりを発揮して扉をこじ開け、エイリアンの卵の如き物体がひしめく廊下を強制的に突破して。決戦の地へと辿り着いたときに、先制の攻撃が見舞われた。

 

 

 向かってくる閃光は、星々が一斉に瞬いたかのよう。直径数メートルはあろうかという一筋の閃光が木々生い茂る森を照らし、生き残った生物は一目散に地を駆け空を舞う。

 

 

 青年に向かって放たれたのはアルテミスの矢、その極小バージョン。たった数秒程度の詠唱によって作られた人間が使う弓矢程度の大きさながらも、射出方向の洞窟の壁ごと遺跡の一部を吹き飛ばしてしまい、一帯に居たモンスターや卵すらも飲み込んだ程だ。

 とても立っていられない程と表現できる爆風は洞窟内部と出口付近に吹き荒れており、荒れ狂う魔力と共に一帯の全てを吹き飛ばす。轟音と多量の煙もまた同様であり、いつまでも鳴り響き収まる気配を見せていない。

 

 それらを発生させた一撃の威力については、語るまでも無いだろう。属性はセレスチャル、そしてアルティメット級のスーパーボスが持ち得る攻撃力と耐久を前にしては、並の冒険者(ビルド)は塵に等しい。

 封印の扉だった場所からは、ヘスティア達がいる近くまで矢の作る射撃の線が伸びていたことだろう。一撃を受けた男の運命は明白であり、アンタレスは不気味に微笑みながら、下界を破壊するための詠唱を続けている。

 

 

 

 これこそが、神の力(アルカナム)。これを使える存在こそが、他ならぬ神という存在(セレスチャル)。轟音とともに収まりつつある土煙を含め、威力を示すには十分だ。

 

 下界の子供たちがレベル10に達しようが足元にも届かぬ、絶対的で圧倒的な殲滅力。例え空に掲げた一撃が在らずとも、下界を蹂躙する事など容易い力であることは揺るがない。

 

 

 

 

 

 

「――――自分の為でもあるが、主神の望みだ」

『!?』

 

 

 

 

 晴れゆく土煙に混じり、鎧が発する重厚な金属音が確かに響く。アンタレスの首元に流れ出た一筋の冷や汗が大地に僅かな痕跡を残すも、1分もすれば跡形もなくなる筈だ。

 

 

 万物流転。カタチあるモノが崩れ行く、移ろいとも無情とも表現できる自然の摂理。それは一体、このあとに生じる誰の姿か。

 

 

 アンタレスが放つ事の出来る攻撃の数々は、確かに全てが強力の言葉を上回るモノであり。例えオラリオの冒険者全てと同時に戦ったとしても、片手間にすらも満たない一撃で処理することが出来るだろう。

 

 

 

 

 

「その女神、返してもらおう(攻撃)」

 

 

 

 

 

 ――――だが、無意味だ。




世界を滅ぼすスーパーボスの前に立ちはだかるラスボス

■星座:猟犬
・忠実な猟犬は、別の狩りにつく女狩人に従うのをいつも熱望し、天界の主人が呼ぶのを待っている。
※GDの星座に“女狩人”というものがあり、これがアルテミスを指しています。
+35⇒ +63  体格
+7%⇒ +12.6% 装甲強化
+70%⇒+126%  全報復ダメージ
ペットへのボーナス :
+12%⇒+21.6% ヘルス
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