その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

253 / 255
252話 穢れ退治

 

 とある女神やエルフの祈りも空しく、天へと届く事は無い。そもそもにおいて子供達が神に祈ったところで報われないというのに、神が祈ったところで何かが起こるはずもない。

 そんな女神の横の地帯からは、選ばれし精鋭たちが人造迷宮(クノッソス)へと突入する。様々な情報より、途中までは概ね一本道であることも判明していた。

 

 

 最初の内は、行く手を阻むトラップの数々に苦戦した。今のままでは、侵攻の計画に支障が生じる――――と考えたフィンだが、そもそも今となっては計画自体があってないようなモノだと気が付いた。

 とはいえ、以前にロキ・ファミリアが単独で突入した功績は存分に活かされている。傍から見たならばゴリ押しと捉えるかもしれないが、少なくともドライアド以外の者は、ロキ・ファミリアが得た情報を活用しているのだ。

 

 結果として、以前にロキ・ファミリアが突入した区域については概ね順調に進んだものの、“迷宮”と呼ばれるだけの防衛能力は各階層に備えている。総数すらも想像がつかず、規模もまた同様だ。

 行く手を阻む要素の代表を示すならば、落とし穴、落下する格子、突如として現れるモンスター、あからさまに怪しい宝箱。規模やタイミングも疎らに備えられており、セオリーらしいセオリーも見つからない。

 

 

 しかしそれも、まさに最初だけに限ること。新たな階層を一つ突破したのちに、明らかな変化が訪れた。

 

 

「あ、そこにも罠があるんですか?」

「ああ。気を付けるんだよ、ベル」

「はい!」

「よく勘づくな、“静寂”」

「お前も幾つかは気付いているだろう、“九魔姫(ナインヘル)”。罠の数は多いが、到底、応用と呼ぶには程遠い。そして確かに入り組んでこそいるが、これが迷宮とは興覚めだ」

 

 

 この人造迷宮(クノッソス)を創りあげてきた者達は、確かに“迷宮を作ること”に関しては長けているだろう。並の冒険者、言い方を変えれば“一般基準”をぶつけたとしても、僅かに揺るぐことはない。

 

 しかしぶつけるソレが、“ぶっ壊れ”基準だったならば、どうだろうか。人造迷宮(クノッソス)を創りあげてきた者達も、ある程度の“規格外”を想定しているかもしれないが、度が過ぎる存在となれば話が変わる。

 “才能の化身”という言い方を変えれば、“学習能力に優れる”と呼ぶべきか。アルフィアが持ち得る強大な“センス”は、現段階において人造迷宮(クノッソス)に張り巡らされたトラップの数々を看破している。

 

 

「“九魔姫(ナインヘル)”。お前の相方こそ、この手となればどうなのだ」

「庭の草でも毟る気軽さで進むだろう。最硬金属(オリハルコン)の格子だろうが、片手間で叩き壊していたぞ」

「……」

 

 

 なお、“真のぶっ壊れ”となれば、得意不得意だとか適性などよりも前の段階の話となる。相方自慢で口元を釣り上げるリヴェリアだが、彼の事となると王族の仮面が取れかけるのはご愛嬌だ。

 自慢となるかもしれないが、残念ながら、世間一般からズレていることを広めているだけに過ぎない模様。痘痕(あばた)に該当するかは捉え方によるだろうが、それが(えくぼ)に見えるとは、よく言ったものだ。

 

 ついでに言えば、一般世間からズレている人物がもう一人。今現在において“新しい魔杖”を装備して、ジャガ丸に乗りながら敵を蹴散らしている、リリルカ・アーデその人だ。

 

 

「ベル様の道は切り開きますよー!さぁ、死にたい奴からかかってこいですー!」

■■■(ヒャッハー!)

「リリ、何かが乗り移った……?」

 

 

 普段より活発である一方、どこか大人びた知性的な性格。小さな見た目の愛嬌と反する“ギャップ”は、それだけで多数の男を虜にすることだろう。

 そんな普段の彼女は、どこか遠くへ行ってしまったらしい。魔剣ならぬ魔杖を振り回してポーションをがぶ飲みしつつ、レベル3時代のレフィーヤに迫るかという魔法を連発する姿は、周囲をドン引きさせるには十分だ。

 

 

「ジャガ丸、次はあちらですよ!緑の肉を焼き払います!」

■■■(オブツダ)ー!』

「あ、なんだジャガ丸かぁ」

「……ベル。そんな結論で、いいの?」

「すっごく強いからヨシ!」

 

 

 どうやら、ジャガ丸が乗り移ったという結論に達したらしい現場(ベル)。取りこぼしについてはジャガ丸が許すことなく消毒しており、後ろへと流れることなど無いに等しい。

 更にはベルの観察眼では、チャージ能力とも言うべきか、リリルカが込めている魔力によって威力が僅かに変動しているとの事だ。こればかりはリリルカ本人も気付いていない程度の誤差であり、逆に言えば、彼女の魔力制御が優秀である証明だろう。

 

 

 ともあれ繰り広げられるは、“攻撃は最大の防御”を体現した戦闘内容。相手からの遠距離攻撃について、大半は発射前にリリルカの魔杖から放たれる魔法の一撃が消し去っており、残りについても“当たらなければどうということはない”状態。

 機動性については、リリルカが騎乗中の為に加減しているとはいえ、それでも並の冒険者では視界に入れる事すら難しい。今のジャガ丸の機動力と敏捷性は、第一級冒険者でも相当に苦労をする程なのだ。

 

 

 が、しかし。どうやら、僅かながらにデメリットがあるらしい。

 

 

「うっぷ……は、張り切りすぎたみたいです……」

■■■(ヒャッハー)……』

 

 

 そんなリリルカ無双も暫く続いたが、どうやら魔力酔いよりも先に物理的に酔ったらしい。暫く休憩すれば戦力として復活すると判断する一方で、前々から気にしていたリリルカに対して輝いた眼を向けている勇者フィン・ディムナ。

 何かを察知して激情を発するアマゾネス姉など、戦場とは、どこで生じるか分からない。後方の仕事は後方に任せる事にして見なかった事にしたガレスやティオナとベートだが、こちらについても平常心とは言えない状況だ。

 

 何せ、世間一般では“力なし”の印を押されているパルゥム、それも僅かレベル2である者が、無双と呼べる先の活躍を披露して見せたのだ。物理的に酔いさえしなければどこまで進んだのかと考える一方、戦う事しか能がない――――もとい、己の戦いにプライドが高い者達は、自然と自身との比較をしてしまう。

 どのようなエンチャントが施された杖であるか知る者は居ないが、どうあれ“結果”は素人からしても明白だ。思いもよらぬパルゥムの活躍は、数日もすればオラリオに轟いている事だろう。

 

 

「交代じゃ、分かっとるなベート!」

「うるせえぞジジイ!後れを取るなよ!!」

「それはテメェの事だぞクソ犬!」

「んだとこのバカ猫!?」

「私も混ざるよー!」

 

 

 先の光景は、まるで物語の勇者の如く。口の良し悪しはさておき、己には、あのような振る舞いはできないだろうか?

 大半の凡夫のように、ただ後ろで、羨ましく見ていることしか叶わないか。ただ諦め、無理と決めつけることしか出来ないだろうか。

 

 否。例え得物が違えども、絶対に負けられない。

 

 後先を考えず、裏を返せば心の奥底では味方のヒーラーとサポーターを信頼しているからこそ、交代した者達は殲滅の結果を優先して飛び出した。残存する敵を、味方の誰よりも多く倒すと意気込みながら、戦士たちは戦場を疾走する。

 先程までの圧倒的な広範囲な火力こそないものの、手数については数倍に上っている。殲滅速度は負けず劣らず、無論、後方からの援護射撃も有している為に憂いは無い。

 

 

「援護するぞ、“ウィン・フィンブルヴェトル”!」

「続きますリヴェリア様!“ウィン・フィンブルヴェトル”!!」

 

 

 後方より放たれる援護の一撃は、直線上の敵を氷漬けにする。直後に砕け散る様相は、造りだけに目を向ければ美しい人造迷宮(クノッソス)と相まって絢爛さを見せる程。

 砕け散るは、果たして誰の野望か夢か。互いの“正義”の衝突は、未だ収まる気配を見せていない。

 

 

「敵の増援、前方!」

「リヴェリア様、ここは私達が!」

「行け!ガレス達は交代だ、一息を入れろ!」

「おう、任せるぞ!」

「出るよ、アイズ!」

「うん!」

 

 

 ガレス達と交代で飛び出すは、統率の取れたエルフの部隊。無駄はなけれどゴリ押しだった先とは打って変わって技巧を中心とした戦いに切り替わり、見る者の視線を引き付ける。

 絶対的な力では劣るだろう、しかし技でもって同等に立ち向かう姿に見惚れぬ者などいなかった。力で劣る者は焦がれ、力で勝る者は、己の糧にせんと注視する。

 

 

「……大きくなったな、ベル」

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタインと共に前線で剣を振るう、一人の背中。もはや甥っ子と侮ることはできない確かな実力は、静寂の二つ名を持つアルフィアだからこそ、ひしひしと感じ取れる。

 レベル5への到達とは冗談であり、皆が口裏を合わせているのではと疑った。しかしもう、疑いの余地など欠片もない。彼女から見たベル・クラネルは、間違いなく第一級の冒険者だ。

 

 初見では、不思議な武器を使っているように見受けられる。折れてしまったヘスティア・ナイフの後続として、ベル専属の鍛冶師であるヴェルフ・クロッゾが造り上げた正当進化版。

 何か一つの技能に特化させるわけでもなく、新たに何かを付与するわけでもない。それがベルにとって最も良い武器だろうと結論に達したタカヒロやヴェルフの考えは正解であり、ヴェルフから手渡す際に、兎のお目目がキラキラとなった為に約一名の神を戦闘不能に持って行った経歴(歴史)が語られる事は無いだろう。

 

 

 ともあれ武器については、リリルカ・アーデが振るっていた杖の方が圧倒的に異端と結論付けたアルフィア。しかし関心はそちらではなく、ベルが見せている技術力の高さに向けられている。

 それを授けたのは、一体誰か。察しの良い彼女の脳裏に一人の男が思い浮かぶも、それだけと言い切ることも(はばか)られた。

 

 

 つい先ほど目にした、ガレス・ランドロックやベート・ローガの戦い方。数多ある書籍の中から、本当に己に役立つ一冊を見つけるかのような僅かながらも、面影となって感じ取れる。

 

 

 そもそもにおいて、何故“九魔姫(ナインヘル)”とヘスティア・ファミリアのヒューマンが知り合ったのか。オラリオに向けた岐路の最中に“九魔姫(ナインヘル)”に聞いてみれば、ヘスティアとロキ・ファミリアの交流が大きく深い事を知らされた。

 ゼウス、ヘラ・ファミリアが台頭していた時代にはなかった、ファミリアとしての確かな交流。もう少し踏み込めば、育ててきた技術の交流も行われたことだろう。

 

 

「―――――心配は、杞憂だったか」

 

 

 斬撃に消された声が、誰の耳に届くことはない。眼前で踊るように戦う、ベルとアイズのコンビネーションもまた、異なるファミリアにおいて交流が深い証拠の一つだ。

 それに匹敵する程でこそなけれど、ロキ・ファミリア、フレイヤ・ファミリアをはじめ、場に居る全ての者が皆同じ。今までは“他のファミリアと共闘する”とまではいかずとも“交流”と呼ばれるレベルを含め、コミュニケーションの一切がなかったからこそ、真横で目にしたならば、新たに感じ取る“気付き”が多くなる。

 

 

 その様な道中。オラリオに迫る危機から目を逸らすとすれば、もう少しだけ浸りたかった時間は過ぎ去る事となる。

 迎えた岐路は、事前の資料においては、アルフィアとドライアドの二名だけが別方向へと進む場所。今生でこそないものの、ここで一度、別々の道を進む事となる。

 

 

「ベル、ここで一度お別れだ」

「はい、お義母さん。無事に戻って、また、地上で一緒に暮らしましょうね!」

 

 

 思わずして、アルフィアに強力なバフが掛かったようです。比喩表現を抜きにして「何よりも強い」と言われる“おかあさんパワー”を前にしては、穢れた精霊の分身程度が迎える未来は明白だ。

 なお、「ズルい」と言わんばかりに地上でハンカチを噛み締めつつ赤い線を作っている女神は平常運転。尊さと嫉妬、相反する二つの感情を制御する事は、どうやら神でも難しいらしい。

 

 記念すべきかは不明ながら、地上における被ダメージ(犠牲者)の第一号。胃をやられた善神については、戦闘開始前の事である為に、残念ながらノーカウントだ。

 

 

 ともあれ一行は、最大級の戦力を温存しながら確実に歩みを進めている。そしてとうとう、目的の大部屋へと辿り着いた。

 一部で緑色の肉壁が蠢く、不気味な部屋。そこに存在する穢れた精霊の分身を前に、ロキ・ファミリアのメンバーの表情が強張った。

 

 

「――――オレが、出よう」

 

 

 一度の素振りと共に空気を切り裂き、オラリオにおける猛者(王者)は静かに歩み出る。視線の先にある穢れた精霊という存在を目にするのは初めてながらも、抱く考えは、少し別の所に存在している。

 

 

 ――――あの者ならば、片手間で倒すのだろうか。否、片手間の時間すらも要らぬだろう。

 

 

 足元へと届くまでに――――足元が見えるまでに、どれほど荒れた険しい道を歩むだろうか。その道の上には、幾たびの大きな絶望と苦悩が待っているだろうか。

 

 思い耽るだけで、星々を仰ぐ己の姿が浮かんでくる。かつて示してくれた戦い方の全てを己の糧とすることは出来ないが、まるで夜空の様に、幾つもの可能性を見ているかのようだ。

 “光年”などという言葉を言われたとしても、意味など欠片も分からない。それでも、あの星々の元へと辿り着くよりもに困難である事は、今更語るまでもない事だ。

 

 

 抱く志は、先の道中で目にした、己の背を追う者達と同じ。この程度の敵を前に、絶対に負けられない。

 

 

 

 

 結果から記述を行うならば、オッタルの圧倒的勝利として飾られるだろう。太古より語られる物語の如く、力技の連打という数多の爆発。

 その中に隠れ瞬くような、確かな技巧に気付く者は僅かだろう。だとしても、その背中に惹かれる者は、冒険者ならば数知れず。

 

 オラリオを拠点とする冒険者、その頂点が魅せた英雄の背中だ。約一年前、雨風に晒された志は、研がれた刃の如き輝きを見せている。

 

 

 ともかく、他の状況こそ共有できていないが、これで一体。そして一行は通路を進み、二体目の地点へと到着した。

 

 

『アリア、アリア!!』

「っ!?」

「アイズ!」

 

 

 分身といえど、個体によって詳細な性格は異なるのだろう。此度の個体は、アイズを目にするや否や、触手と呼べるツタ状のものを伸ばしてきた。

 狙いは明白、生死は不明だがアイズの身体を捕らえること。すぐさま防御態勢に入るアイズと護衛の為に武器を構えるベルであったが、戦いが始まる前に、更に予想していない出来事が発生した。

 

 

■■■■■(テメェどこ中だ)?』

『アリ、エッ?』

 

 

 皆が直後に耳にしたのは、スパーンという類の音と、宙を舞う穢れた精霊の分身、その首から上。ジャガ丸の姿が消えていた事に皆が気付いたのは、数秒後の次の段階だ。

 テイムされたとはいえ、元々はダンジョンの白血球だった存在ジャガーノート。故に“穢れた精霊”などという存在は認知しておらず、加えて飼い主ベル・クラネルと仲が良い上に、結構な頻度で遊んでくれるアイズ・ヴァレンシュタインに危害を加える“不逞の輩”など欠片も許す筈が無い。

 

 

 なお、初めての戦闘を目にしたフレイヤ・ファミリアと一般冒険者の面々は怯え固まってしまっている。直前までオッタルという“強者”の戦いを目にしていたからこそ、ジャガ丸の言葉は分からずとも、オラリオ最強冒険者との差を分かりやすく比較できる為に無理もない。

 オッタルが魅せた背中、第一級冒険者としてのカッコヨサ。サッカーで例えるならば、一試合で同じ者が三度のゴールを決める“ハットトリック”に匹敵する活躍と輝きだった事だろう。

 

 

 そんな活躍を、キーパーごとぶち抜くかのような、たった一発の強烈なロングシュートで上書きしてしまったジャガ丸という異端の存在。誰が目にしても“絶対に止められない”と分かってしまう一撃は、シュートを放った者に悪気が無いために怒る対象にもなりはしない。

 案の定、戻ってきた際に目にした“固まる冒険者の面々”に対して、可愛らしく首をかしげる程。ジャガ丸からしても、更に訳の分からない存在を知っている為に、この程度では何とも思う事は無いようだ。

 

 

 

 真の一般人からすれば、訳の分からない具合は、ドライアドとアルフィアも同じこと。さも当然かのように片手間で四体を討伐しており、一方でディオニュソスの姿を発見できなかった各々は、深追いは悪手と判断して、再び人造迷宮(クノッソス)の入口へと集う事となる。




原作オッタルが蹂躙ならば、この世界線のジャガとか絶好調アルフィアは……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。