本体500円、DLCセットのGrim Dawn Definitive Editionが3000円弱となっております。
触り程度をやってみたい方は前者、ガッツリという方は後者がお勧めです。
……本作では今のところクロス要素が薄いですが、話が進むにつれて出てきますのでご容赦ください。
コン、コン。と規律の良いノックが行われ、扉の向こうから聞こえてきた「どうぞ」の返事と共にリヴェリアがガチャリとドアを開く。事前の説明では執務室とのことだったが、思ったよりずいぶんと簡素な部屋だと感じたタカヒロは、促されてベルと共に部屋へと入った。
大きめの執務机の前に、ソファに座って使うリビングテーブルが縦方向に置かれている。その上には菓子類とティーポットが置かれており、部屋を満たす安らかな香りは気品を表しているかのようだ。
テーブルの両脇には4人掛け用のソファがあり、執務机を挟んで向かい合うように一人掛けも用意されていた。装飾の類こそなけれど決して簡素ではない品質の代物は、ロキ・ファミリアという大規模ファミリアの財力を示している。
執務机の椅子の前に立つ、一見すると少年のような外観。しかし紛れもない強者であることを感じ取ったタカヒロは、相手の外観の特徴から
そんな人物に手のひらで案内され、白髪の二人は上座へと移動した。タカヒロの後にベルが続き、どう対応していいのか分からず己の師の見様見真似で行動している。そんな少年を、後ろからアイズが見守っている格好だ。
反対側の席には既にドワーフらしき人物が待機しており、双方が立ち上がったまま二人を迎えている。二人に続いてリヴェリアが一人分のスペースを挟んでドワーフの横に立ち、アイズは一人用ソファの横に着いた。そのタイミングでフィンから言葉があり、全員が腰かける。
「さて、まずはようこそロキ・ファミリアのホームへ。一応“黄昏の館”って名前なんだけど、呼びやすい名前で大丈夫。入り口で出会ったと思うけど、赤髪の女性が主神・ロキ。僕が団長のフィン・ディムナだ。ちゃんと挨拶するのは初めてだね」
フィンはそのまま、リヴェリアとガレス、アイズの簡易的な紹介へと進んでいく。そののちに、来客が自己紹介できるようきっかけの言葉を掛けた。
同じ白髪ながらも片や落ち着き払い、片や年相応の中身となった自己紹介。双方ともにシンプルなれど素直な口調であり、嫌みや恨みなどの感情はどこにもない。そして青年は、フィンの姿を眺めていた。
「……うん?タカヒロさん、僕がどうかしたかい?」
「……いや、失礼。パルゥムは若作りと知識程度はあったのだが、再び目にして想像以上で驚いた」
「更に想像以上なハイエルフという種類も居るがのう」
「黙れドワーフ」
思わぬ飛び火にタカヒロとフィンは目を合わせ、二人して咳払いをして話を本題に戻すよう空気を変える。何気に息の合った行動に、二人して内心でほくそ笑んだ。
そしてロキ・ファミリアの面々は立ち上がり、ベルに対してミノタウロス逃走の件とベートが発した言葉の謝罪が向けられる。頭を下げる3名にアタフタとする少年は助けを求めて師を見るも、あの礼を止めさせることができるのは君だけだと助言している。
己の師の言葉もあって、ベルは頭を上げてもらうようフィン達に対してお願いした。ミノタウロスについてはともかくベートの暴言については自分が弱い点は事実であると認めており、とやかく言うつもりは無いと言葉を残している。
3人は続いて、ベートが青年に殴りかかったことを詫びている。もっとも青年は当時「知らぬ存ぜぬ」の意思を示しており、今回も同様の言葉を発してすぐに頭を上げさせた。
直後、52階層におけるモンスターの引きつけについて謝礼の言葉が出されている。結果的に
それらの点については気にも留めていないとはいえ、先ほどベルがスルーしたミノタウロスの件は別である。彼の中で、最も聞いておかなければならないと判断している内容だ。
「ロキ・ファミリアがダンジョンで起こした一件を問いたい。並のレベル1ならば即死するミノタウロスを5階層まで逃がしたことは事故としても、後処理を放置し、あまつさえ帰還の宴を行うなど何事と考える」
「……お叱りの言葉も当然だ。本当に、申し訳ない」
据わったままの表情で放たれる静かな言葉に対し、フィンは本当に申し訳なさそうな表情と返事を見せる。全面的にこちらが悪い内容である上に、彼自身も不甲斐ない事だと思っているために、何も言い返せないのが実情だ。それほどのことを、起こしてしまったのである。
フィンの説明によると、どうやらベルと対峙した一頭の逃走事情は知らされていなかったようであり、ベルと対峙している際にギリギリでアイズが追い付いたことが酒場のベート事件で発覚。後日、複数名に聴取した結果として事後報告されたというのが真相のようである。
この点については報告を怠っていたアイズも同罪であり、ベルに対して頭を下げて謝罪の言葉を掛けている。アイズ故に許してあげたい気持ちが芽生えてしまう少年だが、事の重大さは分かるために、ここばかりは伏せた顔のまま抑え込んだ。
続いてリヴェリアが口を開いたのだが、改善策として、連絡体制の見直しを図っているとのことである。酒癖の件も見直しとなっている最中であるらしく、最低でも1年は、ここ黄昏の館以外での宴は禁止となっているようだ。もっとも酒については外飲みを禁止すれば問題は解決と言うわけではないために、これで良いのかとなれば不足点も見えるだろうが、そこは己が口にするべきではないと青年はスルーしている。
実のところ別件において、この段階で彼女の言葉に疑問符を持っているタカヒロだが、大したことではないために今のところは話題に出すことを保留している。起こってしまったことをこれ以上蒸し返しても仕方なく、対策は行われるようであるために「わかった」と一言返し、再発が起こらないよう要請して仕舞いとした。
「直接的な被害が出なかっただけ良しとしよう。ベル・クラネルもそうだが、駆け出しの冒険者は強豪ロキ・ファミリアの姿に焦がれている。言わば道標だ。その者達の期待を損ない主神ロキに悪評が付くことにならぬよう、切に願う。ベル君は、どうだろうか」
「僕も、師匠と同じです。皆さんの背中を追いかけたくなるような、そんなロキ・ファミリアで居てください」
「ロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナが約束する」
零細ファミリアの二人が口にする言葉が、各々の第一級冒険者の心に刺さっている。目に力を入れて言葉を返したフィンに同調するように、残りの3名も目に力を入れ、タカヒロとベルを見据えていた。
しかし団長であるフィンは、同時に、相手の青年が見せる対応に不思議な感覚を抱いている。ロキ・ファミリアを相手にして非常に有利に立ったこの状況、何かしらの要求を求めるものだろうと考えている。本来、ファミリア間のトラブルとはそうなるのが王道だ。
そこで、謝罪として何かしらできそうなことはあるか、と問い掛けたフィンだが、やはり青年も何かしらの事は思っていた模様。濁してはいる上に強要するものでないことはアピールしているが、隠すつもりもないようだ。
「何かしらの事、要求か。無いと言えば嘘になる、あるにはあるが……」
「言ってみてよ、いくらかの協力や努力はするつもりだ」
「ではまず質問を。ここに来た時にレフィーヤ君から、ロキ・ファミリアの駆け出しがパーティーを組んでダンジョンで行動を学ぶ内容があると聞いたのだが」
「うん、毎日じゃないけどやっているよ。ダンジョンにおけるモンスターの危険さ、実戦での実力確認、パーティー行動の大切さ。レベル2とか3の先輩冒険者と一緒に、色んなものを学ぶんだ」
なるほど。と一言返し、タカヒロは腕を組んで考える姿勢を見せている。そしてどうやら、要求内容が纏まったようだ。
「では詫びの内容としては、ダンジョンでのパーティー行動を体験したい。対象はもちろん、ベル・クラネルだ」
「えっ」
「……それは、ロキ・ファミリアが築いてきた知識を教えろ、ということかな?」
「教育ではない、体験だ。見ているだけでも十分だ、必要なことは本人が勝手に覚えるだろう」
青年の、少年に対する買い被りか?と勘繰るフィンだが、どうも表情を見るに、そういうわけではないらしい。明らかな自信をもって、しかし今の少年に欠けており必要とされることを求めている。
最低でも見学ということになるが、ロキ・ファミリアの駆け出し冒険者パーティーを眺める他者など珍しくはない光景だ。青年が口に出した体験とは、立場的有利を利用して一歩踏み込んだために出たものである。
フィン個人としては否定する余地はない。されど本人が言ったように、ロキ・ファミリアの財産に匹敵する内容であるために、いくら迷惑をかけた相手とはいえファミリア内部での議論は必要だ。
もっとも、己が武器捌きを教えたアイズ・ヴァレンシュタインが秘密に戦闘指導をすることになっている点は知る由もない。また後日談だが、この決定によって鍛錬の開始日が再調整されることとなっている。
そのための対価。ロキ・ファミリアの財産を出すに相応しい相応の何かが得られるならばと、己のファミリアがヘスティア・ファミリアに迷惑をかけたことは承知しつつ、52階層での情報を求めることとなった。
「いくらかの質問に答えてくれたら、許可するよ。なんだったら、ダンジョンに関する教育でもいい」
「そうなればダンジョンに関する知識も欲しい。主な書籍は一通り読んだが文字通り机上だ、現場からの目線がほとんどなくてね」
言葉による駆け引きは続く。情報には情報を、ということで、フィンもロキ・ファミリアとしての要求を口にする。
「僕達は50階層から下へと進まなくちゃいけない。だけどあの芋虫型のモンスター、新種に対して敗走することとなった。何せどこにも情報が無くてね、知っていることがあったら教えて欲しい」
「では、とりあえず知っていることを一通り。自分の言葉が出まかせかどうか、答え合わせは任せる」
そう口にして、彼は芋虫の特徴を話し始めた。その内容の半分は彼等にとって初耳ながらも、残り半分は経験した内容と合っている。
魔法は試していないタカヒロだが、体感として物理的な耐久性は全くない。一方で敵の物理的な攻撃は突進術だが、柔らかな身体と大きさの割に軽い体重によって威力もソコソコ。そのために速度は速く、これら突進術の情報についてはロキ・ファミリアにとって貴重な情報となった。
しかしロキ・ファミリアも痛感した口の部分からの強酸の遠距離攻撃が厄介であり、彼も言葉に表している。傷口からも同様の酸をまき散らし自爆するのだが、一撃で魔石を破壊できれば自爆することもないというのが彼の出した結論であった。近接の物理攻撃しか試していないので魔法攻撃の効果は不明なものの、これもフィン達にとっては有益な情報となっている。
そして最後に出された情報は、フィンの興味を引くこととなる。他の階層において、そのイモムシは他のモンスターを積極的に襲っていたというのがタカヒロが目にした光景だ。
思わず「他のモンスターを?」と聞き返すフィンだが、青年の言葉を信じるならばまさに異常な出来事である。疑うならば主神を呼んでも良いという彼の言葉で、その発言が嘘ではないのだと判断したが、それでも理解するには苦労しそうな内容である。
基本としてモンスターがモンスターを襲うのは、37階層にある闘技場と呼ばれる場所だけの事象。それがないからこそ、“モンスター・パレード”という多種多様なモンスターが一斉に発生・急襲する緊急事態が起こるのだ。
「ああ、そう言えばもう1つ。50階層に居たのはロキ・ファミリアだと思うが、撤退した後に、芋虫共の親玉らしきモノと対峙した」
「本当かい!?」
目にしたことすらない、完全な新種である。是非その情報を!と言いたげに目を開いて立ち上がるフィンだが、相手の反応は涼しいものだ。己が言葉を発する前に、何かしらの利益を求めていることは一目瞭然である。
何かしら、とは、先ほど青年が発言した内容だ。ダンジョンにおける情報、教科書に載っていないような実戦的なモノの知識となれば――――
「……リヴェリア、無理を承知だ。君がやっている座学の対象者に、彼も含めて欲しい」
その言葉に対して真っ先に反応したのは、リヴェリアでもタカヒロでもなく。一人座る、アイズ・ヴァレンシュタインである。
リヴェリアの座学、という言い回しだけで大きく震え、透き通った顔色が悪くなる。かつてのスパルタ教育の記憶が脳内を駆け巡り、アレルギー反応と似たような症状を起こしてしまっているのだから仕方ない。
突然と小さく震えだす彼女を心配するベルだが、彼女は小声で「だだだだ大丈夫」と口にしているため大丈夫――――ではない。もっとも理由は不明であり己の師は絶賛ネゴシエート中であるため、少年もまたアイズと一緒にアタフタとするしかなかった。
「……それは、団長としての命令か?」
一方でこちらの空気は別であり、人形の如き精細な翡翠の瞳と、見た目は子供ながらも力のこもった薄青い瞳が交わる。彼もまた、己が命令しようとしている内容の重さは理解していて言葉を掛けている。
ロキ・ファミリアが持つ知識の流出。とはいうもののその中身の大半がロキ・ファミリアだけが持っているというものでもなく現場目線における一般知識がほとんどであり、再び50階層へと赴いて危険を冒し、またもや武具の類を溶かすよりは遥かに安上がりだというのがフィンの判断だ。
その後「わかった」と口にして承諾したリヴェリアに続いて、タカヒロから芋虫型の女王らしき物体の話が開始される。大きさなどの外観をある程度口にして、相手が見せた攻撃内容の説明を全員が聞き入っている。
爆発する光の粉を広範囲にばらまき、己が屠られる際もまた広大な範囲に酸をばらまく芋虫の女体型。前者については風で流される程に軽いものであり散布範囲も一定、発生から炸裂までは3秒の時間を要し、範囲外に出てしまえばさほどダメージが無いことが分かっている。
後者については、イモムシ同様に確実に魔石を穿つしか解決策が無い事項だ。結局のところはモンスターを相手する時の基本、魔石を狙うことが重要という事が分かり、フィンも方向性は見えたとの発言を行っている。もっとも一朝一夕で行えることではないために、すぐには動けないのが実状だ。
その他、細かな情報について各自から質問がなされるも、的確な回答が返っている。それがモンスターの湧かないセーフエリアであるはずの50階層に出現したという事も相まって、一行は深層と呼ばれる場所の恐ろしさを再認識した格好だ。
そして話は、タカヒロが要求したものへと切り替わる。
勉強会が開催される場所はリヴェリアの書斎兼、執務室となっている一室。公務を行う際の部屋であり彼女の私室ではないものの、レフィーヤもそこで講義を受けており、6人が囲えるほどの長机は用意されている。
その他、教材の貸し出しや筆記用具の類は全てロキ・ファミリアが用意するという中々の待遇である。タカヒロとしても断る理由を見つけるどころか願ったりかなったりであるものの、約一名が見せる不敵な笑みだけが気になって仕方ない。念のために聞いておくかと考え、不安事項を口にした。
「……行動の見学についての承認、及び教材、筆記用具の手配は感謝する。しかし肝心となる教師役が、先ほどから怪しい顔をしているのだが」
「なに、大したことではない。私の教導を受けるからには、相応の成績を残してもらうというだけのことだ。音を上げることは許さんぞ?」
先に揶揄ってもらった御礼だ、と言わんばかりに若干ながら勝ち誇った表情を見せ紅茶に口をつける彼女。普段から厳しい厳しいと言われている彼女の授業だが、そこの青年相手にはより一層厳しくしてやろうと腹黒さを抱いている。場に居る全員が、薄っすらとその本音を感じ取れるほどに。
御自慢の知的さ・高貴さはどこへやら。単に優位に立てることでバルコニーでのモヤモヤを晴らせてスッキリしているだけの、年甲斐もなく子供の様相を見せるハイエルフであった。
なお、残念ながら勝鬨を上げる顔をするにはまだ早い。“ああ言えばこう言う”と言ったようにひねくれた性格を見せることのある彼は、先ほどの疑問点を口にすることを決めている。彼に対して言葉で挑むならば、相応に大きな理由を得なければカウンターを貰うのだ。
「なるほど、それは当然の課題だろう。全く気にも留めていないが……花のモンスターによる攻撃で肋骨にヒビを入れられ、治療のために“生徒”にポーションを奢らせる“先生”の期待に沿うよう努力する」
「リヴェリア、さっきなんて言った?僕それ聞いてないんだけど?」
「リヴェリア、お主……」
「……」
そんなハイエルフも、セオリーに乗っかることとなる。ロキ・ファミリア、特に自分自身が不利となる、ものの見事なカウンターストライクを貰っていた。
52階層におけるポーションの件然り、こと青年が見せた気遣いに関する事となると、この始末。珍しく“完璧”が崩れている彼女は、眉間をつまんで唸っていた。
大天使ベル君
そしてミノ逃走当時のロキ・ファミリア事情と対応は、このような感じにしてみました。