その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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GrimDawn豆知識:属性ポイント
・属性は、体格、狡猾、精神の3つ。
・初期値10ポイント、レベルアップで+1。稀にクエストで+1。
・1属性ポイントを割り振ると、数値が8上がる。
・装備効果による上昇数値は8の倍数に縛られない。割合(3-5%)上昇もある。
・体格の数値1につきヘルスが2.5、ヘルス再生が0.05、防御能力が0.4向上する。

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原作に沿ったパートで、オリジナル要素は後半のみですね。


34話 ランクアップとプレゼント

 タカヒロがガントレットを契約した翌日の早朝、オラリオにある廃教会の地下室。一人の少年がソファーにうつ伏せとなり、その腰部分に主神の女神が跨っている。

 ヘスティア・ファミリアにおいては、よくある光景。少年に刻まれた神の恩恵を更新するためにとられる姿勢であり、二人にとっては日課のような代物だ。

 

 

「……。ベル君、落ち着いて聞くんだ」

「と、とうとうボクもレベル2に!?」

「それは、ちょっと置いとくとして。ベル君の今のアビリティ、オールSSS。1400とか1600とか、ワケのわかんない数値に行っちゃってるよ……」

 

 

 十数秒、音無き時間が流れてゆく。

 

 

「……凄いですね!」

「ベル君の行いは素晴らしいと思うしロキに貸しを作ってくれるのも嬉しいけど、凄いで済むかぁ!!」

「いったぁー!」

 

 

 数値を聞いて素っ惚けるベルの背中に、チクリと針が刺さる。彼もアビリティ数値の上限は999だと知っているために、しかし1000を超えている理由は分からないために、惚ける他に道が無い。

 

 朝一番でステイタスの更新を行いドン引きするのは、主神ヘスティアとその一番眷属本人である。本来ならばS:999までしか上がらないはずの数値が、どういうわけか4桁の更に中間まで伸びているのだ。

 もっとも、そのすぐ横にSSSすら突破してEX、数値的には6000を超えている例外中の例外が居るためにヘスティアも気絶を免れていた。なお、恩恵を貰った際に“体格”に1属性ポイントを振っていたので、ステイタスを更新すれば更に伸びているのはご愛敬だ。

 

 ランクアップ前のステイタス更新が終了し、準備も万全で完了である。ミノタウロスとの戦闘内容を聞き出した青年が、ようやくランクアップの許可を出したのだ。

 いざ。ということで、ヘスティアはそのままランクアップの作業に入る。いつもより長い時間をかけて文字を書いており、見ているのも気まずく思ったタカヒロは机で本を広げている。

 

 

 ところでこの青年。ガントレットの契約の際に2つのドロップアイテムを「持ってくる」となっているのだが、その点において依頼主と請負人で考えが違っている。

 ヘファイストスからすれば、「どこかの市場で探してきて」。青年からすれば「産地直送したほうがいいアイテムできるかな」という内容だ。

 

 ということで、リフトを使って日帰りしましたという内容は表に出さない方が良いだろうと直感的に感じ取っており、こうしてインターバルを設けているわけである。向こうも金属の用意があると口にしていたために、丁度いいだろうと判断していた。

 そして本人視点では「走って行っても片道1日、採取1日あれば行けるだろ」的な気軽さでいるために、“掘り”の予定は明後日だ。綿密な準備を行っていく場所、という程度は学んだことのある彼だが、「ソロで行けるんだしその程度でいいだろう」と判断している。リヴェリア先生、行くだけで最短でも5日以上かかるという一般教育が足りていない。

 

 

「ベル君、発展アビリティがわかったよ。狩人・耐異常・幸運。この3つのうちのどれかを選択する形だ」

「幸運?」

 

 

 それはさておき、「なんだそれは?」という感想に至ったのはタカヒロも同じである。少なくとも、教科書には書かれていない発展アビリティだ。うつ伏せのベルと目が合うも、互いに疑問符を発している。

 狩人は、一度戦闘を行ったモンスターを相手にアビリティに補正がかかるもの。耐異常は、毒や麻痺などの状態異常に対して抵抗を得るもの。そして最後の幸運は誰もが分からない内容ながらも、恐らく運に対して補正がかかるものだろう。

 

 ともあれ、どれか1つを選ぶことになる点については変わりない。自分自身のことであるために、ヘスティアは、3つの中で何が良いかをベルに尋ねていた。

 

 

「僕は、幸運が良いと思います。狩人は確かに魅力的ですが、実力がつけば補えます。参考までに、師匠のご意見はどうでしょう?」

「自分も同じ幸運かな、理由もベル君と同じで。耐異常も捨てがたいけど、これは他の時でも取れるらしいからね」

 

 

 正解かどうかは誰にも分からないが、師匠と同じ意見だったことを知って少年の顔に花が咲く。もっとも幸運の効果はタカヒロも未知数であり、レアアイテムなどのドロップ率が上がるのだろうかと考えている程度だ。ということで、羨ましがっているのは内緒である。

 ベルの意見もあってヘスティアは「幸運にするよー」と気軽に口にし、ベルの背中に更新後のステイタスを書き込んだ。やがて更新も終了し、左右の手をニギニギとして違和感を感じている少年の横で、彼女は羊皮紙にステイタスを書き込んでいる。

 

 

ベル・クラネル:Lv.2

・アビリティ

 力 :I:0

 耐久:I:0

 器用:I:0

 敏捷:I:0

 魔力:I:0

 剣士:H

 幸運:I

 

・魔法

 【ファイアボルト】

 

・スキル

 【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】:早熟する。憧れ・想いが続く限り効果持続。思いの丈により効果向上。

 【英雄願望(アルゴノゥト)】:能動的行動に対するチャージ実行権。

 

 

 微妙に変わっていた1つ目のスキルは例によって消されているが、ヘスティアやタカヒロの視点で言えばこのような状態だ。タカヒロが気にしていた発展アビリティは無事にHに昇格しており、更なる戦闘能力の向上が期待できる。

 本で勉強した程度の知識では、耐異常が最も求められるだろうと考えている。とはいえ無いもの強請りをしても仕方ないうえに、レベル2にしては破格である2つの発展アビリティとスキルだけで満足すべきだと判断し、紙をベルに渡していた。

 

 とここでタカヒロが気になったのが、極端な例としてアビリティが全てDと全てSSSの状態でレベルアップした際の差である。今回のベルは戦闘技術が追い付いていなかったために保留となっていたが、レベルアップによりアビリティの数値は0に戻るため、もし先ほどの2つが同じならばさっさとレベルアップした方が良いのは明白だ。

 ヘスティアの回答としては、余剰となった分は潜在能力としてキッチリと反映されるとの内容である。もっとも、ベルほどの例外っぷりは彼女も初めて目にするものであり、己の書き込んでいたステイタスが本当かどうか疑心暗鬼になりかけている旨を口にしていた。

 

 

「現になっているだろう。ベル君の潜在能力と弛まぬ努力があってこその、この結果だ」

 

 

 主神の疑問を師匠に否定され同時に褒められ、花のような笑顔を振りまく一人の少年。炉の女神をもってしても「うぉっ、まぶし!」と言わしめるソレを止められる術は存在しない。

 

 

「だが長けているとはいえベル君が得ている技能は剣、とくに短剣やナイフに関する扱いと立ち回りのみだ。ダンジョンにおけるセオリーやパーティー行動こそ身についてきたが、イレギュラーと鉢合わせにでもなれば素人以下もいいところだろう」

「うっ……」

「そして何より、仲間を失う“苦さ”を知らない。こればかりは起こらないに越したことは無いが、ランクアップしたとなれば、そういう領域へ行くということだ。そろそろ、常日頃から意識していた方が良いだろう」

 

 

 師である彼を除いて、の話である。太陽かと思う笑顔はズーンという擬音と共に氷河期へと変貌し、駆け出しの少年は過酷な現実を突きつけられていた。

 しかし事実であり、今現在において少年が最も気にしている内容だ。落ち込むことはあれど、やる気が削がれることはない。むしろ、自分に足りていないものが明確に分かって、しかし一番最後のことは起こしてはならないと、内心では奮起している。

 

 そして、午前の鍛錬が開始されることとなる。器が大きく変わると言われているレベルアップ直後のために、今日は身体と感覚のズレを経験し調整する程度に留められた。

 タカヒロの体感としても、ベルの剣は昨日よりも速く重くなっている。とはいえ彼からすればまだまだ序の口であり、まだまだ教えられることの内容はいくらかあることを実感していた。

 

 

 一段落したのちに、新たなスキルを試すこととなる。おっかなびっくりな表情を見せるベルと「シャキっとしろ」と活を入れるタカヒロは、まさに師弟のやり取りだ。

 結果としては、強力な一撃を求めた際に攻撃をチャージし、より強大な一撃を放つことができるというモノであった。手数には優れるものの時には必要となる強大な一撃を放てる手段は、少年にとっても非常に有効なスキルだろう。

 

 しかし、デメリットも多数ある。まずチャージ中は他の行動はともかく移動すらも行えず、詠唱というわけでもないので並行詠唱の類も使用できない。

 加えて、チャージ時間に応じて体力と精神を大きく消耗することも判明した。試しに最大秒数までチャージしようとするとマインド・ゼロに直面することが分かり、現状では1分と30秒ほどが最大チャージ可能時間。現実的な戦闘能力を残すとなると1分程度が限度であると判明した。

 

 

「今日は少し早いが、精神(マインド)も使ったしここで終わりにしよう。ベル君、それと1つ……」

「あ、はい。なんでしょう?」

 

 

 表情を緩めたタカヒロはそう言うと、インベントリから1つのネックレス型のアミュレットを取り出した。包装されてるわけでもなく、現物のままの状態である。

 

 

「風情の欠片もない現物渡しですまないね。自分とヴェルフ君から、レベルアップした君の安全を祈る贈り物だ。辛い時、このアミュレットが持つ力が元気を分けてくれるだろう」

 

 

===

 

時は、少しだけ遡る。

ガントレットの件でヘファイストス・ファミリアへ足を運んでいたタカヒロが、用事が済んでからヴェルフの工房へと訪れていた時だ。とあるアイテムを作ってもらおうと、口を開いたのである。

 

 

「え、ベルへのプレゼントでアミュレットを?」

「ああ。ベル君もレベル2になっただろ?魔除けのアミュレット、というわけではないが、無事を祈るという意味で、1つ作成を依頼しようと思ってね。まぁ、実用性があるかと言われれば耳が痛いが……」

「そんなことはないでしょう、気持ちの方が大切ですよ。作成は任せてください!なんでしたら、一緒に作りませんか?」

 

 

という流れで、アミュレットの作成が決まったのだ。もっとも、作成過程においてリングにするかペンダントの方が良いかなど様々な論議があり、結局は装着しやすいネックレス型のアミュレットに落ち着いている。

もう1つ、デザインをどうするかで二人して唸っていた。実のところ1つのデザイン案が思い浮かんでいたタカヒロは、指輪のようなリングに紐を通すことを提案し、ヴェルフも気に入って採用となっている。

 

大まかなリングの形はヴェルフが作り、自称素人のタカヒロと二人で細部の簡易的な装飾を整える。使われている素材こそレベル1にお似合いの代物ばかりだが、こうして1つのアミュレットが作られた格好だ。

なお、ネーミングについては二人で意見を出し合うこととなる。タカヒロが出したものと“兎輪(ぴょんりん)”のどちらが良いかとヘファイストスに意見を求め、間髪入れずにタカヒロのものが採用となってヴェルフが落ち込んでいた結果となったのはご愛敬だ。

 

===

 

 

「ちょっとしたエンチャントがかかっているアイテムなんだが、そのへんは秘密という事にしておいてくれ。自分とヴェルフ君からの、君の無事を祈る願いが込められたアミュレットだ」

 

 

 結果的に二人で試行錯誤して作ったこのアイテム名を“ブラザーズ アミュレット・オブ ライフギビング”。首にかける紐の先に青白く細い指輪のようなものがついた、見た目も効果もシンプルながらエンチャント効果を持つアミュレットである。

 アイテム作成時にAffixを付与するタカヒロが作成にかかわったことで“オブ ライフギビング”のAffixに似たエンチャントが発現しており、素材のレベルの低さで効果は本当に微量なれど、自然治癒能力を向上させる効果を持つ。また、5%のエレメンタル属性の魔法に対する耐性を付与する効果も持ち合わせている汎用的なアクセサリーである。

 

 いつもの“スクラップ(屑資材)”をベースに作ると装備レベルが要求されるが、どうやらこの世界のもので作ればその制限は無いようだ。レベル1用の武具に対して使われる素材の代償としてAffixも効果が低いものとなっているが、それは仕方のない事だろう。

 なお、ここオラリオにおいてはマジックアイテムに分類される代物だ。性能を保証したうえでオークションにかけたならば百万ヴァリス程の値段がつくことを、タカヒロが知るのはかなり先の話である。

 

 

 両手で受け取るベルは、まるで恋人からプレゼントを貰ったかのように頬を紅潮させて嬉しさを隠そうともしていない。さっそく紐をほどいて装備すると、エンピリオンの光よりも眩しい笑顔を振りまくのであった。

 

――――嗚呼、これホントに男の子なんですかね。

 

 そっちの気はないものの、抱きしめて“高い高い”でもしてやりたい気分になってしまった青年。タカヒロは、兄と言うよりは完全に父親(パパ)の立ち位置であった。

 

 

 一方で。バベルの塔の最上階で鼻血の海を創造している美の女神が居ることと後処理に追われる苦労人が居ることは、当該者を除いて誰にも関係のない話である。

 

 

 そして、装備したアミュレットをたっぷり30秒ほど眺め、指輪のような部分を服の下に仕舞ったあとのこと。意を決したように、突然とベルが口を開いた。

 

 

「じゃ、じゃぁ、僕の秘密も、言います!」

 

 

――――いや、別に無理しなくていいんだけど。

 

 突然のカミングアウトに真顔でそう考えるタカヒロだが、口に出すことはできなかった。目に力を入れてググッと身構える、小さな勇気を持った彼の志を蔑ろにはできないからだ。

 さて何がくるのやらと気軽に構え、胸の前で左右の手首と肘をくっつけている女々しい少年の言葉を受け取るために顔を見据えると……

 

 

「ぼ、僕は、異性としてアイズ・ヴァレンシュタインさんに憧れてます!」

「知ってた」

「ふぇっ!?」

 

 

 顔を真っ赤にしたかと思えば、次の瞬間には真っ白に。基本的に仏頂面な師とは違い、ベル・クラネルは感情豊かな少年である。




オリジナルの装備は“シスターズ アミュレット・オブ ライフギビング”、装備可能レベルは5です。ゲームにおいても初期に装着するプレイヤーは多いことでしょう。
このアミュレットの名前のネタはやりたいと思っていたのですがGrimDawn側のぶっ壊れエンチャントはどうかと思いましたので、数値が低いのは素材のせいにして、あんまり影響のないこの程度にしておきました。
ライフ回復の数値は暈してありますが、ゲーム内でレベル2だと、自然治癒速度が5~11倍(体格1振りでのヘルス再生値が0.32)になる感じです。この数値はポーションなどのアイテムには影響しません。


■ブラザーズ アミュレット・オブ ライフギビング
+4.2 ヘルス再生/s
5%  エレメンタル耐性

■シスターズ アミュレット・オブ ライフギビング
装備可能:Lv5 (ノーマル難易度)
+10% ヘルス
+4.2 ヘルス再生/s
+50% 活力
8% エレメンタル耐性

■スクラップ
GrimDawnにおける鉄くず、ボルト、ロープ類が混じったアイテムの総称。アイテム作成などのベースとなる、意外と重要アイテム。

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