その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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保護者会の続きです


36話 性格

 何ものにも染まっていない少年の笑顔が、何故だか心を刺激する。僅か7歳の頃から続くモンスターとの戦いで荒んだ心が、優しく洗われるようだ。

 自分には無い安らかな顔は、不思議といつまでも見ていたい。そうしているだけで、口元が自然と緩みかける。

 

 

 が、しかし。アイズが少年に向けた視線ついでにリヴェリアを見るも、そちらから飛んできているのは「お叱り」の類の視線である。思わず視線を逸らしてアタフタするアイズだが、藁をも掴める状況にない。

 内容は言わずもがな、二度の蹴りに関する内容だ。リヴェリアが青年に言った通り、指導者としては見過ごせる内容で無かったことは確かである。決してタカヒロから受けた言葉の八つ当たりではない。はずだ。

 

 

「そ、そうだ師匠、それとリヴェリアさん!パーティー行動を見ていてずっと疑問だったんですけど、後衛を守る時って、どのあたりの立ち位置が良いんでしょうか!?」

「わ、私も、知りたい!」

 

 

 そこに出されたのは、少年渾身の助け舟である。天の助けとばかりにアイズも乗っかり、リヴェリアの後ろからベルに対して手を合わせて拝んでいる始末だ。そして感謝される少年の顔は大変にご満悦。

 説教と言う名のアクティブスキルを中断されたリヴェリアは、もう一人の指名相手である青年に顔を向ける。そんな青年も彼女に顔を向けており、まずは青年が「ここ」と言える場所へと移動した。

 

 ついでに、ハンドサインなどがあれば声に出さなくても後ろに意思を伝達できるとして、例を作ってベルに指導している。こうすれば撤退、こうすれば魔法攻撃の詠唱開始の指示、などが内容として挙げられていた。

 少し脱線したものの、本来の目的は立ち位置の確認である。青年も話を戻し、自分の考えを口にした。

 

 

「状況にもよるから一概には言えないけど、後衛の更に後ろからイレギュラーが発生しないとも限らないからね。あくまで守る側の話だけど、このぐらいの位置だと気楽かな」

「では、ここで後ろから魔導士に裏切られたならばどうする?」

「なにっ……?」

 

 

 突然の言葉を背に受けて背中越しに振り返ると、そこには杖を構えて詠唱の超初期段階を行って悪ーい表情を浮かべるリヴェリアが居る。詠唱の一節だけを口にした段階であるものの、明らかにタカヒロの背中を狙う仕草を見せているのは、いつもの“おかえし”と言ったところだ。

 ハァ。と深い溜息をついて、彼は正面に向き直る。高所故に少し強く風が吹いたが、この空気を持っていけるまでのものは無かった。まさかの展開にポカンとするアイズとベルを横目見て、青年は重そうな口を開くことになる。

 

 

「……さてベル君。内容が変わるが、これが“背中を刺される”と言うやつだ。知らない者とパーティー行動を取るならば、ダンジョンでは気を付けるように」

「は、はい……。凄い、そうやって魔力を瞬間的に練り上げるんだ……。で、ですがリヴェリアさん、何故こんなことを?」

「なに、イレギュラーというやつだ。しかし聞くに、いかなる状況においてもイレギュラーを意識することは、君が師から学んだ内容では――――」

 

 

 言葉が終わらぬうちに、“全く普通の盾”の先が杖を押しのけ、無防備な喉元に突き立てられる。紙一枚あるかないかという隙間で止められたソレは、そのまま放たれたならば喉どころか彼女の顔と身体を分離させるほどの威力を秘めていたことは明らかだ。

 目と鼻の先よりは少し遠い、5メートルほど先に居たはずの青年の身体はすぐ横に。金属独特のひやりとした気配が間近にあるその光景は、瞬くよりも速く作られた状況である。

 

 文字通り、見えず反応すらもできない速度で放たれる突進の一撃。初速から最高速に達していると思われる今の一撃が、花のモンスターから自分自身を助けてくれた時の技ということはリヴェリアもアイズも読み取れている。

 しかし、狙いを定めるならば無防備なわき腹かヘソの部分、杖を弾き飛ばすならば手というのがセオリーだろう。わざわざ杖で防ぎやすい喉を狙った理由を知りたく、リヴェリアは問いを投げた。

 

 

「……なぜ、わざわざ喉を」

「言葉をもって魔法の詠唱を成すならば、喉を潰せば魔導士としての機能を殺せるワケだ」

 

 

 ゴクリ、と、詠唱者の喉が鳴る。威力や速度に驚いている余裕は無い。すぐ右横に身体があり自分自身に盾先を突きつけるこの青年は、魔法攻撃における本当の弱点を的確についてきたのだ。

 たとえ詠唱者の喉を潰すことができなくても、ここに一撃をもらえば確実に言葉は止まる。詠唱が止められれば魔力が乱れ暴発の危険があり、その暴発を防げたとしても、当然ながら最初からやり直しとなるのは明らかだ。

 

 

「言葉を返すが、これは君から学んだ知識だ。言われたままというのもツマランので悪知恵を働かせてみたんだが、どうやら中々に有用かな」

「フフ……本当、君は出来の良い生徒だよ。後ろから狙ったのは悪かったな」

 

 

 フードの下で不敵に笑いながら答える青年と、こちらも目を閉じて笑いながら両手を挙げ降参するナインヘル。魔力の気配も消え去り、それを確認したタカヒロも鎧の音と共に構えを解いた。

 

 

「タカヒロさん、凄いね。リヴェリアが褒めるなんて……」

 

 

 本音を呟くアイズだが、教導だの生徒だのの単語により、かつて幼い頃に受けたリヴェリアのスパルタ教育を思い出してベルの後ろに隠れている。少年の両肩に手を置いて身体を隠しつつ、肩越しに二人を覗いていた。

 そんな彼女の反応を可愛く思いつつ、またショルダーアーマー越しながらも手が触れていることをやや恥ずかしがりつつ。あのナインヘルに褒められる自分の師匠を凄いと感じて、ベルもうんうんと頷いていた。

 

 

「ありがたい言葉なのは事実だが……当の本人にいきなり後ろから狙われなければ、大手を振って謝礼を返せたのだがね」

「ムッ。だから、それは悪かったと言っているだろう。当てるつもりもない」

「はて気のせいか?魔力を絞りに絞って当てにくる気配がしたのだが」

「っ――――!」

 

 

 照れ隠しから放たれる言葉の“カウンターストライク”、しかし彼が口にした内容も事実である。口をへの字に曲げつつある彼女だが、その次の言葉で真意を見抜かれていることを知り、やや顔を赤らめてそっぽを向いた。

 アイズが彼女に学んだ弟子だというのならば、いつか盾をバシバシしたこの弟子にしてこの師匠である。タカヒロに対して自分の攻撃が効くのか見極めたい、という本心は同じのようだ。

 

 

「いや結果として大ダメージだ。いつかの52階層のポーション然り、心はすごくキズツイテシマッター」

「お、お前はまた、そういう心にもないことを!」

 

 

 右手のひらを額に当ててフラフラとするタカヒロに対し、リヴェリアが声を荒げて真正面から突っかかる。真正面という言葉の比喩に沿うようにして二人の距離は非常に近いのだが、そこまで気が回ってはいないようだ。

 非常に高い貞操に対する意識、悪く言えば潔癖症であり本当に気を許した者としか握手すら行わない者がほとんどであるエルフ。しかもその王族だというのならば、彼女が見せている行動は異例と言えるだろう。面白がって相変わらずフラフラとしている彼の肩を右手で掴み、「演技を止めろ」と叫びながら揺さぶりをかけている。

 

 なお、それを見る二人のうちアイズも相変わらずベルの後ろから肩に顔を置くようにして覗き込む格好だ。彼女ですら見たことのない仕草を見せるリヴェリアを不思議な目で眺めており、そろそろ恥ずかしさが限界となってきたベルだが、横目ながらもそんな彼女の表情から目が離せない。

 そうこうしているうちにリヴェリアも息を荒げており、アイズの視線に気づいたのか咳払いをして足を一歩引いている。一方の青年は相変わらずフードの下で不敵な笑みを浮かべており、状況を楽しんでいる様子と言っていいだろう。

 

 

「まったく……これほどまでに叫んだのは本当に久しぶりだぞ。周りに誰か居たら、どうする気だ」

「己の所為だ諦めろ。しかし叫ぶという行為は、溜まった苛立ちを知らずのうちに軽減する。理由は知らんが今朝はいつもより表情に力が入っていたぞ、少しは和らいだか?」

 

 

―――それに気づいていて、だから煽るような……?

 

 驚きと共にそう思う彼女だが、確かに朝方抱いていたモヤモヤした気分は消えている。他でもない、どこぞの主神によって生まれたものだ。もっとも、原因は異なれど似たようなことは過去に何度も起きている。

 それでも、一度たりとも見抜かれたことは無い。よく近くに居るフィンやレフィーヤですら気付かないよう振舞ってきた彼女の演技は、並大抵の事では看破されない程のモノがある。だからこそ結果として、常にクールに立ち振舞う彼女のイメージが出来上がっているのである。

 

 しかし、青年を相手にはコレである。かつての花のモンスターにおいては隠していた損傷を見抜かれ、今回はさらに難しい気分の違いを見抜かれた。

 思い返せば、先のような言葉が出てくる時は確かにモヤモヤとした気分を抱いていた日かもしれない。ここまでくると、逆にどのようにして見抜いたのかが気になるレベルである。むしろ、それに気づく程に見られていたのかと思うと不思議と恥ずかしさが湧きかけた。

 

 もっとも、真相となれば聞くしかない。どうなのだ。と顔を斜め横に向けたまま目だけで訴えるも、フードの下の口元は怪しく歪んで、彼女を煽る時に見せるニヤリとした表情を浮かべるだけであった。

 

 

「さぁ?受け取り方はお任せするよ」

「……気持ちは受け取るが、素直ではないな君は。本当の事だが思ったことを口にしやすい所も私は気になる。まだ更生が利く若さだろう、性格が歪むぞ?」

「なるほど性格云々か、味方の背中に魔法を放つ君に言われたくはないねぇ?」

「っ―――!!」

 

 

 煽る表情で口にするタカヒロと顔が火照り血圧が上がるリヴェリアは、先ほどの焼き直しを行っている。ああ言えばこう言うこの男、やはり、ひねくれた性格を持っている。

 そして、彼女を叫ばすために煽っているということは、その分のヘイトは彼自身に向いているということだ。分かってやっているのか、それとも無意識か、それは誰にも分からない。

 

 

「さてベル君、そろそろ時間だぞ。今日はヴェルフ君と潜るのだろう、待たせるなよ?」

「へっ?あ、まずい!」

 

 

 彼女をいじるだけいじって、さっさと話題を変えてしまう点も特徴だろう。3人に頭を下げ、ベルはバベルの塔へと駆け出していく。その背中に思わず手を伸ばしたアイズだが、自分は何をしているんだろうと思い返して、胸の前で拳を作った。

 駆けだす少年にエールを送るようにして、北区にある鐘が鳴る。思わずそちらを向いた2名の女性の横顔を流し見て、青年もホームへと戻るのであった。

 

 

 自室において、念を入れて、ポーションも含めた全ての装備をチェックする。明日は深層にて、朝から“掘り”作業が待っているのだ。




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