サポーター。冒険者と呼ばれる括りとはまた違う、支援役。基本として大きなバックパックを背負っており、戦闘能力で言えば冒険者よりも乏しい、という点が特徴だ。
ドロップアイテムや魔石の収集、冒険者に対するポーションの支給などを行うのが主業務と言って良いだろう。その程度は、タカヒロも本や教導で学んだ内容だ。では青年にとって、そんな彼女が必要かとなると――――
――――関係無いね、君は依然として犯罪者だ(攻撃)
――――構わんさ!(攻撃)
――――信じられない(彼女を燃やす)
さて、どうしたものかとタカヒロは内心で溜息を吐く。初対面となる淑女に対して、流暢な本場ケアン流儀にのっとり言葉を返そうかと思い、直感的に出てきた文章がこの3つだ。どれもこれもが、選択肢として中々に物騒極まりない。
単に彼女だけを見て生まれた感情、つまるところの直感だ。己の直感がここまで不快感を示すなど、相当の事――――と考え、ケアンの地では割と日常茶飯事だったことを思い出す。
しかし、ここはオラリオ。平和とは言えないが、ケアンほど物騒なことはあり得ない。また、無駄に騒動を起こせばヘスティアに迷惑をかけることになるだろう。
昼間に遊びがてら一戦交えた影響かと考え、とりあえず落ち着いて、再度考えを巡らせる。己が置かれている立場を中心に数秒だけ考え、シンプルな答えを口にした。
「不要だ」
「えっ」
一方の彼女はサポーターが必要かと問いを投げたら、まさかの回答が返された状況だ。予定していたプランから外れたのか、クリッとした瞳が左右へ忙しなく泳いでいる。
どこか幼さの残る顔立ちは、身長と似合ってあざとく整った部類。故に男受けは悪くなく、過去にこのようなパターンは無かったのだろうかと勘繰るタカヒロだが、余計な感想だったかと考えを消し去った。
実年齢は不明なものの、外観だけで答えればベルと同じ程度と言ったところ。しかしながら、単に、興味本位で話しかけてきたワケではなさそうだ。
外観と似た可愛らしさが覗く一方で口調には落ち着きが見られており、非常に場慣れしている。意を決したようなそぶりも無く、初心者に在りがちな“緊張”も見られない。
当たり外れが激しいだろうパーティーをコロコロと変えるなど、サポーターにとってはリスク以外の何ものでもないだろう。ましてや彼女は女性であり、“そういう趣味”ではないならば、猶更の事、安定を求めるはず。
となれば、なぜ自分を選んだのかとタカヒロは疑問に思う。自分自身が相手に与える第一印象を含め、置かれていた状況から推察を行っていると、相手の女性が声をあげた。
「あ、も、もしかして突然で混乱していらっしゃるんですか?む、難しいことは何もありませんよ!?冒険者様のおこぼれに与りたい貧乏で無力なサポーターが、自分自身を売り込んでいるんです!」
「ああ、難しいことは何もない。自分は、冒険者ではないのでね」
「えっ……」
パチンと音を立ててナイフをホルスターに仕舞い、嘘偽りのない事実を口にする。呆気にとられた少女の顔を笑うかのように、巣へと帰る鳥の声が響いていた。
タカヒロとしては、この誘いについて疑問に思うところがあったことと、口にした事実があるために即答で返事を行っている。とはいえ流石に無礼かと考え、軽い冗談でお茶を濁すこととした。
「夕飯時の冒険者を狙い襲う、市場という名のダンジョンに向かった弟子を待っているだけだ。はて、無事に生きて帰ってこれるやら」
「な、なるほど。面白い表現ですね。あ、私はリリルカ・アーデと言います!」
「ヘスティア・ファミリア所属、タカヒロという。苗字は無い。そして丁度いいが、弟子も戻ってきたようだ」
容器の中にある総菜が崩れぬよう静かに走りながら、ベルが市場から戻ってくる。師の隣に居る人物は誰だろうかと疑問を抱きつつも、大きなバッグから、サポーターなのだろうかと勘繰っていた。
そして自然と、ベルとリリルカの間で自己紹介が交わされる。互いに自分の名を口にし、相手の名を聞いたリリルカは、まさかの名前を耳にして声をあげた。
「ベル・クラネル?白髪、赤目、えっ?ひょ、ひょっとして、リトル・ルーキーですか!?」
「え、あ。はい、そうですけど」
ベル・クラネルという冒険者の話はリリルカも知っている。まこと在り得ぬと言い切って過言ではない偉業を成し遂げ、僅か一か月程度でレベル2となった、最も話題となっている冒険者の一人。
見た目、やはり噂通りに“白兎”。身長こそ年齢の割に高いと思うが、顔だけ見れば白兎、モンスターで言うならばアルミラージと表現しても問題は無いだろう。
それはさておき、今のリリルカにとって大事なのは“客”を見つけることである。手段はさておき、冒険者と言うのは稼ぎを得るために必要な存在だ。どうやらナイフも少年の物らしく、彼女の中において、ターゲットはベル・クラネルにスイッチしている。
リトル・ルーキーならば、“どちらの手段にせよ”大口の客となるだろう。まだ本契約とはいかずとも、とりあえず少年との再会の約束を取り付けることに成功した彼女は、怪しい笑みを浮かべながら帰路につく。
その日の夜。色々あって疲れていたベルが寝静まった後、タカヒロはヘスティアに対して夕刻の出来事を告げている。そのまま二人は、ベルを起こさぬよう小声で話し合っていた。
出来事を聞いたヘスティアは、相手がベルと同じぐらいの少女と言うことでプンプンした対応を見せている。しかしそれも最初だけであり、また、形だけ。相手が同い年の女性という点については、あまり大事とは思っていない。
「君の話を聞く限りだけれど、ボクは、純粋に自分を売り込んでいるって感じ取れるね。タカヒロ君は、どう思っているんだい?」
「何かしらの裏があると捉えている。冒険者ではない、一般人の自分に絡んできた点が引っ掛かっていてね」
「……一般、人?」
「……何故、そこで疑問符を浮かべている」
「あ、う、うん。そうだね、タカヒロ君は一般人だね」
そう問われ、タカヒロは呼びかけられた時に思ったことを口にする。出される言葉の数々は本当の事であり、尾びれ背びれすらも一切ない。
ワイシャツ、適当なズボンである青年に対し、「サポーターは要りませんか」と声をかけた彼女の心理。ベルやヘスティア達でこそ彼が冒険者として活動できることを知っているが、傍から見れば、そこらへんの一般人と変わりない服装にも拘わらずだ。なお、青年が一般人と変わりないと口にして居る点については“自称”であることを付け加えておく。
唯一の一般人との違いは、立派なナイフを持っていたこと。それで冒険者と判断した可能性も捨てきれないが、あのような時間帯に冒険者装備とは程遠いワイシャツで居る男を冒険者と判断するかどうかとなれば、ヘスティアも唸って答えを濁してしまう。
もっとも、それらはタカヒロの素人推理と言うだけであり、純粋に売り込みに来た可能性もゼロではない。あのような時間に一人でいたからこそ、パーティーを組んでいないと捉えて声をかけたとも読み取れる。結局のところ最終的には、己の直感による判断だ。
とはいえヘスティアからすると、そう思っているならば不思議なものだ。ならば、そうならないようベルの手を引いてあげるのが、師である彼の役目だろうと意見を述べている。此度の場合は、再会の約束を取り付けたベルに叱りを入れるべき事柄だ。
しかしながらタカヒロとしては逆であり、色々あったが結局のところ、パーティーを組まないかと誘われているのはベルとなっている。そのために、今回の事の成り行きは、ベル自身の判断に任せたいと思っているのが実情だ。
純粋にパーティー活動を行えるにしろ、何かしらのトラブルに巻き込まれるにしろ、成長に必要な糧となるだろう。仮に相手の目的がタカヒロが持っていたナイフ狙いだとしても、出来こそいいものの殺してまで奪うようなナイフではないために、そうなる可能性も極めて低い。
「知っての通りベル君は、良くも悪くも純粋だ。此度程度の話ならば何をやっても取り返しがつくだろう、何かあれば自分が出張る。しかし自分としては、今回の一件は“彼”のためになって欲しい」
元より青年が少年に対して教示できるのは、刃物の扱いだけである。かつての経験から色々と少年の手を引っ張ってきた経過となっているタカヒロなれど、それがいつまでも続くかとなれば答えは否だ。
仮に手を引っ張り続けてきたところで、やがて意見が食い違うことも出てくるだろう。そうなった際にどうなるかとなれば、少年はそこで止まってしまう。自分自身で考え、判断し道を見つけることを諭すのは本来ならば本当の親がするべき仕事なのだろうが、居ない以上は仕方がない。
もっともヘスティアの意見としては、ベルという少年は優しさの塊であるが故に、たとえその少女が犯罪者の類だったとしても、手を差し伸べて助けてしまうのではないかと口にしている。
分別を知った大人にとっては、眩しすぎる純粋さ。それが良いのか悪いのかとなれば誰にも判断できないが、ベル・クラネルが持っている優しさであり、少年の魅力の1つであることには変わりない。
「犯罪の度合いにもよるが、綺麗事だけで生き抜けるならば誰も苦労はしない。ヘスティアとて、罪を懺悔し、改心した者ならば許せるのだろ?」
「ボクはシスターじゃないんだけどなぁ……。だけれどボクも、ベル君が許した相手なら、なんだか許せちゃう気がするよ」
「待て待て、全てを許容してどうする。叱るべきときは叱らねばならんだろう」
「も、もちろんだよタカヒロ君」
「……君はベル君を相手に、しっかりと叱れるのか?」
「……怪しいかも」
だって可愛すぎるんだもん!と駄々をこねる駄女神を見て「ダメだこりゃ」と考え、タカヒロは溜息を吐く。もっとも、正直に問題点を自覚しているだけ、まだマトモだ。本当に必要な時が来れば、恐らくは叱りを入れてくれることだろう。
重い空気が軽くなり、ともかく此度の件については基本として、直接的な被害が出ない限りはベルに一任することで互いに話が付いた。結果がどう出るかは、それこそ神であるヘスティアでも分からない。
此度の二人は、少年を見守る親の役だ。
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アイズとの鍛錬が終わった翌日の午後、ベルは集合地点でリリルカと合流する。その場での会話により、とりあえず10日間程度のお試しと言うことで、口約束程度ながらも正式な契約と相成った。なお、契約しやすいようリリルカの提案で、いつでも解約できる条件が付け加えられている。
そして二人の足はダンジョンへと向かい、現在2階層。向かう階層はどこかと陽気なリリルカに尋ねられ9階層と答えたベルに対して、彼女は一転して困惑した表情を見せている。
何せ、ベル・クラネルは己と違ってレベル2なのだ。この階層の推奨レベルは1の中盤~後半であり、適正レベルは過ぎている。レベルが1つ上がることで身体能力は大きく変わるために、準備運動程度にしかならないだろう。
そして、もっと下の階層で狩りをすれば稼ぎが更に良くなることは明白だ。それを行わないのは何故かとリリルカが聞いてみるも、回答は思ってもみないものだった。
曰く、まだ技術が追い付いていない。己の中に一種の基準点があるらしく、それをクリアできない限りは、更に下へと潜ることはないのだと口にしている。
もっともその基準点とは、レベル1の頃にタカヒロが行っていた階層制限の基準を真似たものだ。今となっては制限がかかっていないものの、教えの重要さを理解しており、こうして自ら設けているわけである。
「あと、これも師匠に学んだことなんだけど……下に潜って危機が迫った時、後ろから刺されないとも限らないからね」
――――ゾクリ。目的は命ではなくナイフなれど見切っていたのかと、その気配は欠片も見せていなかったはずの少女の背中に静電気が流れた。
冷や汗が首筋を伝うも、ローブによって隠されているのが救いだろう。少年からすれば単に学んだことを口にしたつもりであり、刺してくるのはモンスターと思っているのだが、口に出されていないそれを相手が知る由もない。
蓋を開けてみればレコードホルダーが持ち主だった、逸品のナイフ。警戒された今となっては、純粋にドロップアイテムや魔石を換金する方が賢明だろうと、リリルカは考えを改めた。
話を逸らすために、リリルカはベルの事を聞き出すように会話の流れを変えている。男と言うのは、基本として自分の事を語りたく、それで機嫌が良くなる生き物だ。
だというのに少年の口から出てくるのは、自分ではなく師が凄いという内容ばかりである。褒め讃える中に仲睦まじい姿が想像できる少年の嬉しそうな言葉は、彼女の心に刺さっていた。
己があの時に声を掛けた青年が師なのだと言っていたが、そんな二人の関係を羨んでしまう。己にはない親密な関係は、彼女にとってはひどく眩しい。
「ベル様には……よき師匠が、ついていらっしゃるのですね」
――――嗚呼、まただ。そう内心で呟き、つられて少年の眉が僅かに下がった。
ベルとしては聞かれたことに対して正直に答えているだけなのだが、その純粋さもまた、彼女にとっては清らかすぎるものがある。今までの会話でも何度か見せた表情だが、此度のものは一際厳しい。
その光景が過ぎても瞼を閉じれば、どこかベルの脳裏に、俯き悲しさ滲む彼女の顔が浮かび上がる。実力が伴っておらず右も左もわからなかった、かつてのベル・クラネル自身の姿が、少女に重なったのは偶然ではないだろう。
主神ヘスティアに、師に出会う前の己と同じ。オラリオに来てすぐで、一人で迷い、押し潰されそうになっていた駆け出しの頃。支えを求めて、街中という迷宮を彷徨っていた頃と、よく似ている。
彼女が抱えている、自分自身ではどうにもできない弱さがあるならば。そして己にできるならば、今度は自分が支えてあげたい。
それでもまずは、リリルカ・アーデという人物を知るところからだ。“指示を出した仕事内容”を後ろでテキパキとこなすサポーターを時折流し見つつ、危なげのない基本に忠実なパーティー活動は、今後も続くこととなる。
①:主人公が“乗っ取られ”に似た別人であるために(攻撃)を行わなかった
②:納品クエストは終えているために、サポーター需要も不要と判断→50階層行きを回避
③:ナイフ狙いが今のところバレていない+リリ助側が警戒して意欲ダウン
④:直接被害がなければベルに一任された
⑤:ベル君の女たらし(いろんな意味で純粋なやさしさ)が発動
主人公の直感が犬みたいに吠えてます()
とりあえず地雷回避とフラグ設立は問題なく、まだ今のところ生存ルート。頑張れリリ助……