その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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48話 24階層の異常

 ダンジョン、13階層。太陽もしっかりと仕事をした昼下がりも過ぎた頃なのだが、ダンジョン内部に日の光は届かない。魔石灯により辺り一帯は明るいが、照らされていない場所には、常に暗闇が残っている。

 その階層でモンスターを相手にしているのは、整った容姿を持つ一人の少女。神の嫁と陰で言われるロキ・ファミリア所属のアイズ・ヴァレンシュタインは、一人13階層で、せっせと魔石とドロップアイテムを集めていた。

 

 

「……すごく、遠い」

 

 

 かつて闇雲にダンジョンへと潜っていた時とは、気合の入れように関して随分と差が生まれている。どちらかと言えば今の気持ちは沈んでおり、その影響か、時々にわたって溜息が漏れている程だ。

 ベルとの鍛錬が楽しく日々が流れていたことが原因で、すっかり忘れていたこと。かつての怪物祭で折ってしまった代用の剣の支払い4000万ヴァリスのことを突然と思い出し、「早く稼がなきゃ」と焦っている状況だ。なお、漏れた言葉のように、先は長く遠いものがある。

 

 本音を言うならばベルと一緒に行いたかったところだが、よくよく考えると、それはできない。かなりの額の借金を己が背負っていることを知られれば嫌われてしまうかもしれないという怖さが、ソロで活動している理由の1つだ。

 もっとも、借金のことを隠して一緒に狩りというのも良いなと考え、自然と薄笑みが浮かんでいる。そのまま複数のドロップアイテムを手に取ると、表情は一転して眉がハの字になってしまった。

 

――――どのアイテムが、(売値が)高かったっけ。

 

 リヴェリアの教導である程度の金額は習ったはずだが、不覚にも答えが出てこない。多分コレか、いやコレかと悩んでいるならば魔石を集めようという答えに達し、けっきょく持てるだけのドロップアイテムを保持する程度となっている。

 レベル6である彼女からすれば、ここ13階層のモンスターなど敵にすらなり得ない。文字通りに稼ぐことが目的であり、ファミリアから借りてきた簡易的なバックパックに、たった今倒したモンスターの群れがドロップした魔石などを詰め終わったタイミングであった。

 

 

「……誰?」

 

 

 何もない暗闇に向かって剣を向け、問いを投げる。すると、煙が晴れるかのように、黒衣のローブを纏った一人の人物らしき姿が現れた。

 

=====

 

 アイズ・ヴァレンシュタインが手紙の送付・アイテムの換金と引き換えに、その者から24階層での冒険者クエストを受けたのは、とある大きな理由が関係していたから。現状においてはオラリオにおいてロキ・ファミリアしか知らないことながらも、彼女の興味を引くには十分な大きさであったと言えるだろう。

 どこぞの装備キチも、実はすでに、その理由に少しだけ絡んでいる。かつての怪物祭において対峙した、花のモンスターが関係している内容だ。

 

 かつて助けてもらった青年を探している過程において、ロキ・ファミリアが18階層の安全地帯(セーフゾーン)で遭遇した異常事態。殺人事件ののちに対峙して戦闘へと発展した“赤髪のテイマー”が絡んでいるとなれば、居ても立っても居られない。

 その者は、アイズの(エアリエル)を見て“アリア”と呼んだ。他ならぬ彼女の母親の名であり、何故その名を知っているのかと問いかけるも、答えとなる回答は示しておらず、戦いには勝ったが取り逃しの結果に終わっている。

 

 此度のクエストである24階層と言う数字など役に立たず、決して安全な内容ではないだろう。下手をすれば、己が命を落とすこともあり得るかもしれない。

 それでも彼女とて、あのベル・クラネルの雄姿に焚きつけられた一人なのだ。危険を承知で、より強く、そして事の真相を知るために、アイズはクエストを受け入れたのである。

 

 もっとも時間も遅いことと、此度のクエストには協力者が居るらしく、まずは18階層にある酒場へと赴くことが内容である。此度におけるモンスターの大量発生という問題を解決できれば、その他については特に指定されていないのが現状だ。

 そして18階層の酒場の場所を突き止める。何度も利用したことのある街だったのだが、彼女自身が酒を飲まないことを除外しても、このような酒場は知らなかった。その場所において、彼女は協力者と出会うこととなる。

 

 

「剣姫、あなたが協力者でしたか……」

 

 

 どうやら、相手方にも既に、協力者がいることは伝えられていたようだ。酒場において、とある符丁をアイズが口にした途端、後ろに居た冒険者たちが立ち上がる。

 その誰もが、真剣な眼差しをアイズに対して向けている。決して敵意は無いものの、力のこもった眼差しを向けられていた。

 

 酒を飲んでいたヒューマン、声を上げながらカードゲームに勤しんでいた獣人等。男女それぞれ一名のエルフやパルゥム、合計15名。ほとんどがレベル3、第二級の冒険者ながらも、名の知られた人物が一人だけ交ざっている。

 一房だけは白髪ながらも、全体的に透き通りそうなアクアブルーのショートヘアーを持つヒューマンの若い女性。整った顔に掛けられる銀色の眼鏡に覗く瞳は毛髪と似ており、手のひらで眼鏡を上げれば、さも知的に映ることだろう。

 

 アスフィ・アル・アンドロメダと言う名前を、アイズは思い出した。【万能者(ペルセウス)】の二つ名を持つヘルメス・ファミリアの団長であり、“神秘”の力より彼女が生み出した万能アイテムの数々は、オラリオどころか世界各国で使われている。事実、アイズがロキに送った手紙も、彼女が発明したペンによって書かれたものだ。

 と、ここまでは中々に品位を感じるのだが、蓋を開けてみれば評価は一転する。金儲け主義の獣人が持ってきたクエストの依頼者が、なぜかヘルメス・ファミリアのレベル申告詐欺を知っており、協力しなければ露呈させると脅されているらしい。早い話が“脱税”真っ盛りであるという、品位がナイアガラ並みに下がる内容だ。そしてどうやら、メンツの全員がヘルメス・ファミリアの所属らしい。

 

 とはいえ会話の内容としてはアイズからすればクエスチョンマークの付くものばかりであり、とりわけ気にもしていない。「これからどうするの」と口にすると、アスフィは少し頬を赤らめて、コホンと咳払いを行うと品の良さが戻ってくる。

 目標は、24階層の食糧庫。アイズが受けた依頼内容と一致しており、今宵はこの街で一泊し、翌朝から出発するという内容だ。

 

 積極的に剣姫に絡んでいるのは、ライトアーマーとヘビーアーマーの中間と言えるような鎧に身を包む、パルゥムであるポック、ポットの二人。そして、出会った際に酒を飲んでいたキークスだ。

 しかし、相手が悪い。アイズ恒例の薄い表情と、難攻不落である“アイズ語”を前にして双方ともに撃沈の結果となっている。もっとも、それでも少しばかりは近づけている様相だ。

 

 

 さっそく少しの不安を抱えるアスフィながらも、クエストである以上は、のっぴきならないことが発生しない限り撤退は在り得ない。合流した集団は、道中のモンスターを倒しながら24階層へと到達する。

 ところが、ここにきて大きな問題が立ち塞がった。24階層に三ヵ所、北・南東・南西にある食糧庫のうち、モンスターの流れから北へと辿り着いた集団だが、地図に載っていない、肉のような大壁が存在していたのである。

 

 こんなものは無いはずだと意見を交わす集団に対して「ぶった斬ればイイんじゃね」的なことを呟くアイズの意見に同意したアスフィは、魔導士のパルゥム、名をメリルに対して詠唱を指示している。攻撃を当てることで、大穴を空けて突入しようという算段だ。

 アイズの腰ほどの背丈である彼女はパルゥム用の金属杖を掲げ、詠唱を開始。攻撃は成功し、肉の壁に大穴が空いている。修復しかけているものの、パーティーメンバーはその先を歩き続けた。

 

 

「ここ、ホントにダンジョンだよな……?」

「き、気味が悪い……」

 

 

 ダンジョンとはまた違った、ブヨブヨとした緑色の肉の床、肉の壁、肉の天井。各々のブーツ越しに伝わるその感触もさることながら、目にする光景は決して気持ちが良いものではない。

 むしろ、吐き気を催す程に気色悪いと表現して過言ではない状況。そんな環境に対し、全方位の警戒を緩めることなく、それでも肩の力を抜いて歩みを進めている。

 

 最も肩の力を抜いているのはアイズと、その横に居るパルゥムの二人だろう。実のところフィン・ディムナに憧れているポックは、フィンが持っている槍のレプリカを所持している。

 いつか自分も彼のようにならんと、ソコソコの金額で作成した代物だ。それにアイズが気づくこととなり、ピックから向けられるからかいの言葉などが交じって、陽気な雰囲気となっていた。

 

 

「ま、いくらこのレプリカを持ったところで、俺達パルゥム程度が活躍できる訳がないんだけどな」

「えっ……」

「分かってるんだろ剣姫、このパーティーメンバーのなかで俺達だけがレベル2なことは。例えば団長みたいなレベル4が相手する敵、そんな奴が放つ攻撃なんて、第三級冒険者程度が反応できるわけ」

「……居るよ」

「えっ?」

 

 

 言葉を遮って呟かれた一言に、ポックは目を開いて反応してしまう。不可抗力、かつ正直なところあまり思い出したくない内容ながらも、アイズは相手の言葉を否定した。

 アイズとて最後の最後にブレーキを掛けることができたものの、あの防御は間違いなく、己の攻撃を見切られていた。普段はレベル3程度に落としている手加減がレベル4になってしまった一撃だが、それでも少年は的確な防御を行えたのだ。

 

 

「完璧に……対処することは、できないけど。レベル2でも、レベル4程度の攻撃を、見切っている冒険者。確かに、居るよ」

「……す、すげぇな、ソイツ」

「うん。本当に、凄いんだ」

 

 

 故に、己も負けていられない。自然と瞳に力が入り、肉の通路を進んでいく。このやりとりで陽気な雰囲気は影を潜め、言葉なく歩み進むこととなる。

 流石に一本道が続くこともなく、二股に分かれたポイントが見えてくる。こうなれば既存の地図など紙切れ同然であり、パーティーメンバーに居た担当の者は、即席の地図を作り出した。

 

 今までが一本道だったためにすぐさま終了し、態勢を整えた集団は分岐地点へと近づいていく。真っ先に気づいたのはアイズであり、やや腰を落として静止する。

 先頭付近を歩くアスフィが全体に対して停止のサインを出したのは、そのタイミングであった。ピタリと一斉に止まったパーティーメンバーだが、分岐となっている双方の先、そして後方から、花のモンスターが複数近づいていることに気が付いたのだ。

 

 左はヘルメス・ファミリア、右はアイズ一人。とっさにアスフィが口にしたその戦力分配は、最も効率的な内容だっただろう。

 殲滅速度で上回るアイズが一掃し、防御布陣を敷けるヘルメス・ファミリアに合流するのだ。各々が瞬時に理解して駆け出し、アイズが右側の通路に突入したタイミングであった。

 

 

「っ!?」

 

 

 突然と天井から降り注ぐ、直径2メートルはあろうかという大柱、周りの肉に似た緑色。迫ってきた花のモンスターを切り裂く後ろでアイズの退路を完全に塞いでおり、パーティーは分断された格好となる。

 何が起こったのかと金色(こんじき)の瞳を見開くも、考えている余裕は無い。現在の状況だけを把握すると、すぐさま、唯一残された進路の先へと目を配る。

 

 なぜなら。前方から、己と拮抗した戦闘能力を所持する、しかし敵である“赤髪の調教師(テイマー)”、名を“レヴィス”が近づいて来ているのだから、無視をすると言う選択肢だけは行えない。

 もっとも、出会って1秒でハイ交戦などということもないらしい。いくつか質問を投げるアイズに対して知らぬ存ぜぬながらも回答を見せており、一方で、生かしてアイズを捕らえることが使命であることを隠そうともしていない。

 

 

「ここで……何を、しているの」

「それもお前には関係ない、無駄話は終わりだ。お前を、連れていく」

 

 

 吐き捨てるように呟かれた言葉が、開戦の合図だった。

 

 知らぬものが平然として居る二人を見れば、思わず生唾を飲むことになるだろう。出るところは出ており引っ込むところは引き締まっている身体が織りなすプロポーション、神々曰く“ナイスバディ”を持っているのだから無理もない。際立たせるような服装も、そう感じ取れる要因の1つだ。

 だというのに目の前で繰り広げられているのは、目にも留まらぬ斬撃の雨。互いに引く様相を見せず、少し触れただけで切り刻まれる程の豪雨が、先の姿から放たれるなど想像するのも難しいだろう。

 

 文字通り、近づけば火傷するどころでは済まない猛攻。鳴り響く白刃の音は肉壁に反響し、鳴りやむところを知らずにいる。

 しかしながら、前回の戦いや普段においてアイズが見せる戦闘とは、違う点が1つある。相手もそのことに気づいたのか、戦いの最中なれど声を発した。

 

 

(エアリエル)を使わないのか」

「……」

 

 

 先ほどまでの連撃は何処へやら。言葉と共に、素早く、それでいて重い一振りが瞬く間にアイズの前へと現れるも、アイズは僅かにも動かず、僅かにも言葉を返さない。

 何かある。レヴィスは直感からそのように察するも、何が行われるのかが分からない。少なくとも前回の戦いにおいて、己と真っ向から力比べを続けてきた戦いならば、今回の相手は真正面から自分の攻撃に刃をぶつけ――――

 

 

「なにっ!?」

 

 

 剣の刃先を僅かに当てた瞬間、手首のスナップでもって、相手の振り下ろしを僅かにずらす。結果として渾身の一撃は不発に終わり、同時に多大な隙が発生。今回ばかりは加減も不要な全力の蹴りの一撃を叩き込んで吹き飛ばし、相手にダメージを与えることとなる。

 いつかアイズ自身とて体験し、驚愕した内容。あの時は相手も違う上に四連撃だったものの、根底としては変わらない狡猾さ。

 

 鍛錬においてベル・クラネルが見せている、パターン化すれば数えられない程の数を誇る小手先の技術。その者と毎日のように打ち合いを続けているうちに、アイズ・ヴァレンシュタインの技能も、少しずつながらも自然と高められているのだ。

 レヴィスが前回戦ったアイズは、暴論にて表現すればステイタスに任せた戦い方。それだけですら若干の優勢となっていたところに、此度の技術が合わさっているのだから、感じる強さの度合いは数段も違うモノがあるだろう。

 

 

(エアリエル)は……必要、ない」

 

 

 つまるところ、「お前程度の相手には必要ない」。そう受け取れる言葉は、まさに挑発の一言と表現して過言は無いだろう。

 基本として仏頂面の表情を崩さないレヴィスは、内心で怒りを覚えつつも、やはり変わらず。アイズの目を見据え、胸の内に抱く本音を口にする。

 

 

「――――私を、舐めるなよ」

「――――舐めたら、汚いよ」

 

 

 釘を刺したつもりのレヴィスながらも、天然少女という文字を炸裂させたような発言が追い打ちとして浴びせられる。発言者本人は至って真面目でも、相手からすれば侮辱以外の何物でもないだろう。

 表情は一変し、これでもかと言わんばかりに眉間に力を入れる様相は、烈火の如く。それこそ噴煙を高々と立ち昇らせて噴火した火山にも負けぬ程に、今のレヴィスは表情を歪めて怒り猛っていた。

 

 咲き乱れる白刃の音は空気を震わし、轟音となって肉壁の洞窟に鳴り響く。あまりの剣幕と覇気を見て、援軍として送られてきた花のモンスターも近づけない。

 まさに、何かしらの武具を極めた者にしか許されぬ第一級の領域。24階層で行われている戦いの1つは、アイズ・ヴァレンシュタインが若干ながらも優勢の状況で進むこととなる。

 




原作(漫画)だと短剣のレプリカですが、本作では槍となっております
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