その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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姿形を文章で表すって、とても難しいですね……。


5話 白兎が現れた(2/2)

 それはともかく!と強引に話題を逸らされ、タカヒロは1つの空室へと案内される。どうやら、そこが彼の部屋となるらしい。

 

 感想を言うなれば、ビジネスホテルのシングルワンルームから水回りを取っ払って一回り程小さくした様相。文字通り寝て起きる場所とベッドの横を歩ける程度のスペースしかない場所で、本来は物置の類として使われていたことが読み取れる。

 ともあれ彼は、そこが自分の部屋ということで承諾する。基本として一か所にとどまらずにアイテム収集に勤しむ彼からすれば、この程度のスペースがあれば十分なのだ。さっそく着替えを行い、身軽になってリビングへと姿を現した。

 

 

「ほほー?」

 

 

 ヘスティアは出てきた彼に目を向けると、思わず感心してしまう。

 

 青年の服装は灰色の長袖ワイシャツに、安物と思われる藁色のズボン。かなりルーズなスタイルであるが、鎧から解放されてなお面倒な服を着たくないという彼の好みである。なお、この世界においてもワイシャツは存在しているために問題は無い。

 普段が全身鎧であるためか肌の色は白く、体格は言うなれば細マッチョ。マッチョと言っても筋肉の線だらけというようなこともなく、程々に収まって居る点は女性から見れば好印象だろう。

 

 男性らしいややゴワっとしたショートヘアの白髪は、ベル・クラネルの“もふもふ”とは違えど揃いだ。もっともこちらはオールバックとなっていることもあり、これだけで双方が与える印象は大いに違うから不思議なものである。

 細い線から作られる中性的な顔とまでは言えないが、若い男性のなかでも整った顔立ちと言えるだろう。深い、とまではいかないが深めの彫りであり目付きはやや鋭さを備えており、鎧と似た漆黒の瞳は時折ギラリと光るような様相を見せている。

 

 

「ふふーん?ボクが言うのもなんだけど、カッコイイじゃん!フードで隠すのは勿体ないよ、普段から取っちゃったらどうだい?」

「はは、世辞として受け取っておこう。フードに関しては完全な趣味だ、気にしないでくれ」

 

 

 それでいて、やはり愛想や受け答えも良い方だ。落ち着きがないというレベルには程遠く、ヘスティアの評価としては中々どころか上々の好青年である。

 まだ出会って1時間も経っていないが、今のところは好印象。もし彼がファミリアに居たならば、彼を目当てにやってくる女性も少しは居る……かもしれないと考えたところで、ヘスティアは己の眷属予定者で人を釣ろうという考えを恥じていた。

 

 かわいらしくフルフルと頭を振るい、話を本題へと進めている。内容としては本格的にタカヒロを勧誘するものであり、もしここでなければ、彼がどこのファミリアに入るかであった。

 

 

「自分がヘスティア・ファミリアに所属する点については異存ない。でも、今のところ冒険者になる気は更々無いかな。恩恵はその時に貰いたいね」

「あれ?さっき、ベル君から冒険者志望だって聞いたんだけど」

「そう言えば言っていたな……ああ、そういうことか。出会った時に、もしかして冒険者志望ですか、とは聞かれたよ。そのあとすぐにファミリアの紹介願いを返事してしまったから、思い込んでいるだけだろう」

 

 

 ありえるー。と額に手を当て、小柄な神様は溜息をついた。

 とは言っても、当初彼が着ていた鎧は棘の類こそ多けれど万全のように見て取れる。今の彼女の目標はとりあえずファミリアの人数を増やすことであり、冒険者志望の者だけを得るとは限らない。

 

 

「本当は今ここで恩恵を刻みたいところだけど、君の希望もあるしね。ボクも神様だ、無理にとは言わないよ」

「なるほど。で、本音は?」

「そっちの方が好感度を稼げそうだから!」

 

 

 真顔で返事をした後に腕を組んでケラケラと笑うタカヒロと、ヘスティアの笑い声が地下室に響く。出会ってすぐの二人だが、相性が悪いということは無いらしい。

 決して広いとは言えない教会の地下室だが、清潔さも中々で適度なプライベートスペースも確保されている。タカヒロも他のファミリアには入らないという旨の口約束を交わし、とりあえず恩恵無しでの生活と相成った。そのタイミングでベルも帰宅することとなり、タカヒロの容姿に驚くこととなる。

 

 

 時刻は夕暮れで、じき夜になる。オラリオの街並みはダンジョンから帰還する冒険者の熱気で溢れかえり、扉を開ける店は各々の蜜でもって甘く誘う。

 とはいえ、それは懐具合に余裕がある場合のみ。零細ファミリアであるヘスティア・ファミリアに余裕は無く、ひたすらに自炊あるのみだ。

 

 ベルが加入した時とは違い、流石に蒸した芋をすりつぶして揚げた“ジャガ丸君”、ようはコロッケの親戚がズラリと並ぶようなことはない。ファミリアの貯金を少し切り崩して総菜を買ってきており、果実ジュースでパーティーが行われた。ちなみにタカヒロは素人程度の料理はできるが、今回は持て成される側のため大人しくしている。

 なお、やはりジャガ丸君の姿はそこにある。ご飯おかわり自由のノリでジャガ丸君おかわり自由という、ヘスティア・ファミリアにおいては恒例の内容だ。雑談交じりに箸が進み、内容は食の話となっている。

 

 

「それにしても、二人して普段からジャガ丸だけなのか?」

「はは……毎日ってワケじゃないんですけどね。お金が無いのと、神様のバイト先がジャガ丸君の屋台でして。売れ残りってやつです」

「そうは言ってもジャガ丸だけでは栄養が偏るだろう。ベル君はまだ育ち盛りなんだし、ちゃんと肉類も食べなきゃ大きくなれないぞ?」

 

 

 まるで、少年の父親が口に出すような言葉。ポロっと漏れた青年の本音を耳にし、二人の手が止まる。

 

 

「タカヒロさん、詳しいんですね」

「ん?そんなことはない、全くもって素人だ。機械系は得意だけれど、そっちも素人に毛が生えた程度がせいぜいだろう。先の話だが、ベル君は身長とかは気にしたことないかな?」

「実は気になってました!あの……体格と言いますか、おっきくなるには、どうした方がいいでしょう?」

「体格か……その栄養面となると、やっぱり肉かな。そう言えばベル君、年齢は?」

 

 

 14歳です!とハキハキとしながら続けて165㎝だと答える少年だが、てっきり12歳ぐらいかと思っていたのがタカヒロの本音である。また、14歳となれば骨が伸びる最終期に突入した頃であるが、165センチ程もあれば十分に高い部類だというのが彼の知識だ。なお、そんな彼が「いったいどれ程までに伸びる気だ」と尋ねれば惚けた顔で「2メートル」と答えるこの少年、割と真面目に何も考えてはいない。

 なお、体格については文字通り筋トレとタンパク質がモノを言うが、太ければ良いというワケでもない。彼も同じ男であるために男らしい体格に憧れることはよくわかるが、戦闘が絡むとなれば話は別だ。戦闘スタイルによって、体格の向き・不向きは存在する。

 

 話の流れもこれらと似たようなものとなり、タカヒロの過去へとシフトした。

 しかし、謎は深まるばかりである。本人が言うことを鵜呑みにするならば基本として単独での戦闘を熟してきており、戦闘経験も豊富だと言う。冒険者と言って良い装備だった割に時折学者と似たことを口走っているために、ヘスティアとベルの中では彼の立ち位置が定まっていない。そこでベルは、掘り下げて問いを投げることにした。

 

 

「立派な鎧でしたけど、オラリオに来る前は何かされていたんですか?」

「かい摘んで言うなら……魔物退治をしていた」

「魔物退治!?お、恩恵無しでですか!?」

 

 

 少年が驚くのも無理はない。オラリオのダンジョン一階層に出現する一番弱い魔物、コボルトを生身の人間で相手しては、非常に危険とされるのが一般的だ。

 ヘスティアが二人を見守るも、青年に嘘を吐いている様子はない。そうなればベルが驚いている内容は彼女も同様であり、このオラリオのダンジョンにおける一階層ならば恩恵無しで潜れるという事だ。

 

 

「あ、あの、タカヒロさん!」

 

 

 とはいえ、そんな考えも少年の強い声で中断することとなる。少年は意を決したように立ち上がり、両手を太ももに揃えて礼儀正しい姿勢になると――――

 

 

「ぼ、僕に、戦い方を教えてもらえませんか!?」

 

 

 真剣な眼差しで、青年に教えを乞うた。




・星座
 ゲームMAPにおいて各地点に散らばっている”祠”を解放することで1ポイントを入手することができ、最大で55ポイント(DLC導入時)を振り分けることで強力な加護を得ることができる。
 のだがこの55ポイントというのが中々にミソで、「1ポイント足りない!」と地団駄を踏んだプレイヤーも多いはず。文字では表しにくいので実際にプレイして確かめて頂きたい。
 大規模セール中だと本体500円ほど、DLC込みでも10連ガチャぐらいの値段のためお勧め。ノーマル難易度なら気軽にクリアできるはず。ただし、時間の在庫は十分か?


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(オラリオの外で)恩恵無しでの魔物退治⇒ものすごく強くなければ普通は無理。
という認識なのですが、間違って居ましたらご指摘頂ければと思います。

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