その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

6 / 255
6話 目指す形

「それじゃ、ボクは可愛い可愛い二人のために頑張ってくるよ!」

「はい神様、行ってらっしゃい!」

「ヘスティア、弁当を忘れているぞ」

「ああ、ごめんよ!」

 

 

 ヘスティア・ファミリアが結成されて以降、珍しい、と言うよりは初めて起こる朝の光景。いつもの逆で、ベルがヘスティアを見送る構図である。

 理由としては単純だ。二人目の眷属である青年、タカヒロに対し、ベルが師事することが決まったためである。二人して彼女を見送ると、テーブルを挟んで椅子に腰を下ろした。

 

 

「さて、師と呼ばれる程出来た男ではないが……頼まれ請け負ったからには全力でやらせてもらおう、宜しくなベル君」

「はい、師匠!」

 

 

 互いに右手を出し、握手を交わす。少年さが抜けきらない柔らかな手と、幾度の危険を乗り越えてきた青年の少しゴツゴツした掌が合わさった。

 

 とは言っても、初日から武器を使ってドンパチする気は持ち合わせていない。まずは午前中を使って、いくらかの対話というところから入るようだ。午後はいつものダンジョン探索であり、本格的な訓練は明日からのようである。

 青年が最も大事と考えるのは、少年にとっての戦う理由。“装備集めの結果として世界を救った”と言うバカバカしいにも程がある過去を持つ人間が言える立場ではないと本人も自覚しているが、それでも、今後を左右する重要なカテゴリだ。

 

 人間とは、目標や欲望を持って生きるモノである。それが明確であるうちは、我武者羅になって。それこそ、死ぬ気になって頑張れるというものだ。冒険者でなくとも、日々の仕事や暮らしにおいても似たようなことが言えるだろう。

 逆に、道を見失えばどうなるか。気力は下がる一方で堕落の限りを続け、やがて生きる意味すら見失うだろう。故に青年としては、まず少年が剣を取る理由を知らなければならなかった。

 

 

「……だからって、“ハーレム”か。いやまぁ、男だもんね。人によっちゃそんな情景を抱くかもしれんけど……男女関係の難しさって、知ってる?」

「え、えへへ、分かりません……」

 

 

 そして予想外にも程がある目的を知った青年は、思わず眉を伏せて溜息を吐くこととなる。もちろんそんな難しさなど微塵も知らず正直に話す少年だが、笑って誤魔化す他に道が無い。

 この師にして、この弟子の戦う理由である。案外、毛髪以外でも根っこは似たもの同士の二人なのかもしれない。

 

 

 その後、希望する戦闘スタイルとしてナイフによる攻撃型を想定していることが少年の口から告げられる。速度と手数にモノを言わせるタイプであり、タカヒロの中では1つのビルドが思い当たっていた。

 もっとも、それを実現するならば専用の装備などが必要であるために無理難題となるだろう。しかし真似事はできるかと考え、彼は一つの提案を行った。

 

 

「ベル君、戦いに使うナイフは一本?」

「一本……?あ、双剣のスタイルですか?」

「ああ、双剣のスタイルなら“質の悪いお手本”が1つあってね。こんなスタイルはどうかと思ってさ。参考までに見せてあげるよ、ちょっと外に出ようか」

 

 

 ガチャリとドアを開け外に移動し、昼手前となった日差しの下で二人は向き合う。人気のない廃教会前の広場は、遠くからの活気が微かに木霊する程度の静かさだ。

 もっとも、対峙するとは言っても互いに私服であり武具の類は一切無い。戦いとは程遠い状況ながらも、彼はどこからか2本の剣を取り出した。

 

 そしてまた、別の装備を使用することとなる。装着されるアイテム名を、“ベルゴシアンの修羅道”。

 二刀流装備を有効化する“レリック”と呼ばれる部位の装備であり、これを装備すれば、シナジーはどうあれ二刀流の運用が可能となる。もちろん、盾と片手武器に特化、と言うよりはそれ以外がからきし使えないウォーロードが二刀流になったところで大幅に弱体化するだけの代物だ。

 

 どうやらタカヒロは、ベルに対して攻撃を仕掛けるようである。もっとも当てるようなことは一切行わず、単にその目で見て欲しいというだけのことを口にした。

 

 

「――――さて、思い出せるかは怪しいが」

 

 

 そして、彼曰く質の悪いお手本。2本の短剣による、雅な情景とは程遠い“舞い”が始まった。

 

 この場において大事なのは強さではない。かつて彼が組み上げた物理・刺突特化の攻撃ビルド、“ブレイドマスター”を使っていた際の双剣による攻撃スタイルを再現するためだ。そこに何かしらのヒントがあれば取り入れて欲しいというのが、鍛錬の面はさておき今の彼の願望である。

 一方のベルからすれば、彼が見せる“質の悪いお手本”ですら1つの完成系として纏まっている。2本の刃は踊り舞い、そこには振りによる隙などありはしない。身体そのものも剣の一部だと言わんばかりに使いこなし、雨粒よりも早く密度の高い剣戟の暴風が吹き荒れる。

 

 攻撃は最大の防御と言わんばかりに、手数に任せた暴力的なまでの攻撃スタイル。まるで御伽噺に出てくる英雄が放つ圧倒的な攻撃であり、ベル・クラネルが憧れ続けた理想の1つが間違いなく具現化されていた。

 そんな情景も、演習という事で長くは続かない。時間が経つにつれて見惚れてしまう程であったものの、一段落したタイミングで、思わず質問を投げかけた。

 

 

「し、師匠。そのレベルで真似事とのことでしたけど、ものすごく完成されていたように見えます。いったい誰の真似なんですか?ご両親ですか?」

「いや、両親は普通の暮らしをしていたよ。とは言っても、もう顔も思い出せないぐらい子供の頃の話だ」

 

 

 青年は目を瞑り、懐かしさのなかに悲しさを滲ませる。謝るベルだが自分も親の顔も声も覚えていないことをタカヒロに伝えると、彼は「似た者同士だな」と口元を緩めた。

 両親から受け継いだものは、何もない。しいて言うならばその身ぐらいのものである。英雄のように強くなりたいと言った少年に、その老人は「ワシが死んだらオラリオに行け」と言葉を残しており、少年は事実上の遺言に従ってこの街に来ていたのだ。

 

 

「……そうか。だったら君自身が否定しないのであれば、記憶にある姿は大切にするべきだ。親と言うのはいつかは子を置いて先に逝くものだが、育ての親の顔というのは、不思議とつらい時に元気をくれる。そして君の祖父は、もう君の中にしか生きていないのだからな」

「……」

 

 

 そう言われ、当たり前に思い浮かべてきたことが今一度脳裏によみがえる。傷ついた自分の背中と頭を撫でてくれた大きな手の感覚は、己の師が言う通り確かに自分を元気づけてくれた魔法のような手だ。

 戦闘技術とは全く関係ないけれど、青年が伝えたかった事はしっかりと伝わった。ベルは大きな声で御礼の返事をすると、タカヒロの表情も数秒だけ緩み、再び険しさが蘇る。

 

 

「……話が逸れたね、自分が双剣を使っていたのも随分と昔の話だ。今とは似ても似つかない戦い方なんだけど、見ての通り二刀流のスタイルを使っていた時もあったんだよ」

 

 

 目を閉じて、懐かしそうに呟く彼。当時の人類から“大地(メンヒル)の化身”と謳われていた今のビルドとは、お世辞込みでも程遠いところに居たペラッペラな攻撃特化のそのビルド。

 

 防御なんて……一応ながら最低ランク程度は確保していたが、よく死ぬビルドだったなと内心で思い返す。故にマルチプレイの際は味方が最前線で敵の全てを引きつけヘイトを稼ぎ、脇から彼がチマチマと削る戦い方を続けてきた。

 なお、基本的なタンク職が苦手とする無数のキャスター型の雑魚が相手となれば、彼のブレイドマスターはバナナを得た猿状態。穴が空いて漏れているのかと思えるぐらいにゴリゴリと減るエナジーと引き換えに、敵は文字通り“溶ける”ようにして死んでいくのがこのビルドの特徴である。

 

 

「どうだろう?総合的な立ち回りも楽ではないが、自分はベル君に似合っていると思うよ」

 

 

 少し柔らかな顔でそう言われ、少年の中に燃える炎が強く昂る。その炎を表すかの如く赤い瞳は目の前の青年を捉えて離さず、目指すべき道標として捉えている。

 その感情はタカヒロも受け取っており、「決まりだね」と一言を残して地下室へと戻った。あとに続くベルだが、今のテンションでダンジョンへと駆けだしたい気持ちからソワソワとした態度を見せている。

 

 

「はは、気持ちが昂っちゃってるね」

「そ、そそんなこと……あります。僕も、あんな風になってみたいです!」

 

 

 お目目キラキラで夢見る少年だが、それも数秒。己の目を見返す青年の顔は、打って変わって厳しかった。

 

 

「最初に言っておくが、戦いのスタイルは様々だ。自分が教えるのは、大雑把に言えば相手を広く見て戦う立ち回り、つまり小手先の技術。この鍛錬を終えたからと言って、例えばナイフで岩を切れるようになるわけじゃない。そこのところだけは履き違えないでくれ」

「はい」

「しかし今後も長くにわたって使える技術、そして程度にもよるが格上にさえ通じる戦闘技術だ。その点、決して無駄にならないことだけは保証する」

 

 

 もはや数えきれない死線を潜り抜け身に着けた、攻撃・防御能力を基に発揮される技術面の指導。匠と呼んで差し支えないレベルにある技の数々を学ぶのは、尾びれを付けても決して楽な道ではない。

 そう間接的に告げられていることを悟り、少年の顔にも力が入る。しかし、答えるべき言葉は1つであった。

 

 

「お願いします、師匠。どんな辛い鍛錬でも、精いっぱい頑張ります」

「わかった、中々に厳しいぞ。それでは今日より階層の制限を設ける、実践訓練は明日からだ。今からダンジョンに行ってもいいけど2階層迄だ、わかったね」

「ハイ、行ってきます!」

 

 

 バタン、と強くドアを閉め。少年は、目の前にある夢に向かって駆け出していく。

 幸いにも道標はあれど、辿り着くまでがどれほど険しい道なのかは想像もできない。そんな少年でも分かるのは、生半可な努力では足りないということだけ。

 

 とはいえ、己は冒険者になって1週間。具体的に“何を頑張る”と言える程に知識も経験もないが、鍛錬に対して全力で挑むことを心に誓い。少年ベル・クラネルの冒険が、ここに幕を開けた。

 




・スキルポイント
 クラスレベル(最大値50)を上げるためと、スキルを取得、レベルを上げるために使われる。
 例えばソルジャーのクラスレベルを30まで上げれば、ソルジャーのレベル30で使えるように成るスキルにポイントを振ることができる、と言った具合。
 例によって”いやらしいバランス”となるように総ポイント数やスキルレベル最大値が調整されており、スキル分配のバランスが求められる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。