その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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>>(ご感想より)
 :たしか???は犬人じゃなくて狸人(ラクーン)だったはず。
>>ggr
 :【ソーマ・ファミリア】末端構成員の狸人(ラクーン)

…!?
犬人と思っていました、修正しました。


59話 最高の舞台

 この先で狩りを行おうと、新たなパーティーのリーダーが決定を下したタイミングであった。突然3人の冒険者らしき人物が現れて10メートルほど先の位置で止まり、下種な発言を放っている。

 

 

「そろそろ、あの白髪のガキを見捨てる頃かと思っていたんだよ。それどころか、“どこの誰だか分からない丁度いいエモノ”を連れてきてくれたじゃねぇか、感謝するぜ」

 

 

 そのような内容を続けざまに発言したガタイこそ良い中年の狸人(ラクーン)は、どうやら今までリリルカを恐喝していた者のリーダーらしい。彼女の顔が明らかに敵意に変わり、しかしながら手を振り上げる程の力は無いために、歯ぎしりしている状況だ。

 そんな表情を目にした3人衆は、彼等にとっては獲物らしい一行を舐めまわすように見て、ニヤリと口元を歪めている。

 

 

 ところでなぜ、この余計な3人組(自殺志願者達)は、数で勝る相手に喧嘩を吹っ掛けたのだろうか。理由として、大きなポイントを挙げるならば3つある。

 まず、10名を超える人数でここ9階層にてパーティー行動を行うのは、レベル1に他ならないという先入観。加えてパルゥムが4人もいるために、落ちこぼれのパーティーだと“勘違い”している。

 

 2つ目は、ロキ・ファミリアにおいてはすっかり有名人。かつミノタウロスの強化種をレベル1で倒し、一躍時の人となったベル・クラネルを見ても何も思っていない点。

 普通ならば避けるであろう理由になるのだが、ランクアップから一カ月が経っているのと当時におけるソーマ・ファミリアの構成員は相も変わらずヴァリス稼ぎに勤しんでいたために重大事項と認識しておらず、“人の噂も七十五日”のように、すっかり記憶から情報が消えているのだ。良くも悪くも守銭奴を貫いた結果であり、名前を聞けば思い出すことだろう。

 

 3つ目は、引率の者が掲げていたロキ・ファミリアのエンブレム。主神の影響か、運命の“悪戯”とは悲しいかな。

 ロキ・ファミリアとは無関係の者も一緒になったために純粋なロキ・ファミリアのパーティーではなくなっており、そのために“片付けて”しまっていたのだ。つまり、判断材料が綺麗さっぱり消えていたわけである。

 

 

 理由はどうあれ、明らかな敵対行為であることには間違いない。最早、言い訳はできないと言って良い程だ。

 ならば、実質的なこのパーティーの保護者役。一番後ろで突っ立っているまま動きを見せない“ぶっ壊れ”は、突如現れた相手のことを、どのように思っているのだろうか。

 

 

――――ただの案山子(カカシ)ですな。

 

 つまるところ、口だけは達者なトーシロー。表情にこそ出さないが、まったくもってお笑いだ。相手が瞬きする間に、“堕ちし王の意志”で即死させることもできるだろう。

 

 いや、そうではなく。と、突如湧いたおかしな考えを振り払い、相手を殺したところでロクな装備が得られないだろうこと――――でもなく。まったくもってやる気の欠片も見つけられそうにないが、とりあえず状況を確認する。

 実質的な戦力差としては、ベル君一人で十分に相手をすることができるだろう。どう頑張っても負ける方が難しいが、実のところドッキリ目的で“時間差で呼んでおいた者”がそろそろ来るために、タカヒロとしても、わざと状況を動かしていないのだ。

 

 むしろコトが動きそうならば、青年は延命処置に動くだろう。そして、どうやら予定外の人物も近づいてきているようで、ベルもまた、その気配を感じ取ることとなった。

 

 

 

 一方で三人衆からすれば、事前に準備していた“とあるモノ”も、己が有利だと思えてしまう材料の1つだろう。その問題に気づいたロキ・ファミリアのパーティーリーダーが相手に向かって声を上げた。

 

 

「おいお前等。発言もそうだが、その手に持ってるモノが何なのか分かっているのか!」

「知ってるぜ?だからだよ」

 

 

 3名の手に持たれているのは、切り取られたキラーアントの上半身。その歯からは弱々しい「カチカチ」とした音が放たれており、仲間を呼び寄せる符丁となる。中央に居た男が、その上半身をパーティーの前に放り投げた。

 彼等3人はレベル2、うち一人は後半であるために、キラーアントの群れならば、よほど多くなければ突破できる。モンスターを使って脅し、一行の装備も剥ぎ取る気で居るのが実情だ。

 

 案の定、キラーアントの数が確実に増え続けている。モンスターとしても多勢が相手であるのと敏捷性は低いためにすぐに飛び掛かるようなことはしておらず、数だけが凄まじく増えている状況だ。

 流石にレベル1では荷が重い物量となっており、パーティーリーダーにも冷や汗が伺える。ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえ、あまりにも多くの数を目にし、リリルカも恐怖を覚え――――

 

 

「大丈夫だよ、リリ」

「えっ……?」

「風が……近づいてきている」

 

 

「さぁ、揃ってキラーアントに食われたくはないだろ?わかったら、先ずはそこのパルゥムのサポーターをこっちに――――」

「……それは、ないよ」

 

 

 軽やかな声。そして特徴的なイントネーションでもある言葉と共に、突如として突風が吹き抜ける。視界を覆いつくすキラーアントの群れを数秒で葬り去る精霊の風が、轟音となって一帯を支配した。

 レベル2程度では目にすることも無いだろう、場を支配し制圧する程の圧倒的な暴風。強力な一撃は、場を埋め尽くしていたキラーアント程度の有象無象を一掃し静寂を生み出した。残るはただ、洞窟に反響する風の音だけである。

 

 腕でもって目を隠した三人衆が腕を下ろしてみれば、そこには一帯を囲っていたキラーアントの死体の群れが築かれている。文字通りの一瞬の出来事であり、何が起こったかが見当もついていない。

 しかし、ベル・クラネルにとっては話は別だ。その状況を作った風を使う焦がれた姿を、その情景を、ここに居る誰よりも知っている。

 

 

「来てくれたんですね、アイズさん」

「ん……おまたせ、ベル」

 

 

 互いに顔を合わせ、自然と薄笑みが交わされる。しかしそれも数秒であり、すぐさま問題の相手に向き直った。

 

 相手に現れた援軍はたった一人ながらも、ソーマ・ファミリアの三人衆からすれば地獄絵図の状況だ。状況など忘れて思わず生唾を呑んでしまう程の容姿は有象無象でも知っており、オラリオにおいて有名すぎる、レベル6の第一級冒険者。

 “剣姫”アイズ・ヴァレンシュタイン。そして名前を耳にして思い出した存在、レベル1でミノタウロスの強化種を屠るレベル2、“リトル・ルーキー”ベル・クラネル。

 

 この二人だけでもって、戦力差は火を見るよりも明らか。対峙しようという心意気など、一瞬にして空の彼方へと飛んで行ってしまっている。

 勝てる気が起こらないとは文字通りであり、故に取り得る手段もただ1つ。すぐさま振り返って逃走を図ろうと、上体に力を入れた瞬間の出来事だった。

 

 

「おや、逃げるのかい?」

 

 

 コトンと地に付けられる槍の石突が発せられる軽い音が、相手の足に枷を付けるかのようにして洞窟に響く。直後に響いた、見た目にそぐわぬ据わった声は、その威圧が向けられるだけで身体が縮こまってしまうというものだ。

 それは、そちらに目を向けた4人のパルゥムも同じこと。身体は一瞬で硬直してしまい、目と口は見開き、微かに動く気配すらない。

 

 その者と同じ種族ならば、一目見ただけで誰であるかが分かり、畏怖と敬意の両方が籠った瞳を向けてしまう。この場に居てパーティーに参加しているパルゥムの4名も、ブロンドのショートヘアが特徴な、その人物の名前は知っていた。

 否。知っているどころか、全ての世界に轟いている。パルゥムと呼ばれる種族ならば、その英雄の名を知らぬのは、まさに物事を知らぬ赤子ぐらいの者だろう。

 

 

「それにしても、見間違いだったろうか?僕が率いるロキ・ファミリア、そして4人の同胞に対し、明らかな敵対行為を加えた三人組のパーティーが居るんだけれど」

 

 

 自殺志願者3人組が振り返ると、そこに君臨するのは紛れもない勇者(ブレイバー)。どこぞの青年が昨夜に誘っていた、ロキ・ファミリア団長であるレベル6、フィン・ディムナが立ちはだかる。

 なお、その表情は非常にお怒りだ。発せられた据わった声にも普段の穏やかさは一切なく、相手を貫く薄青い瞳は力強く、それだけで相手の戦意を圧し折っている。一緒に訪れていた、両サイド少し後ろにいるお怒りな二人のアマゾネスも、そんな感情に輪をかけて抱かせるには十分だ。

 

 

「ティオナ。ホームに戻って、ロキにこのことを伝えてくれ」

「おっけーい!」

「ティオネ、あの3人を縛り上げろ」

「ご指示のままに!」

 

 

 恐怖とストレスで翌日未明には禿げ上がりそうな3名を秒で捻じ伏せ、ティオネは手際よく縄を巻いて拘束する。やたら慣れている光景に対してフィンが理由を問うと、「将来のためですから!」などという、親指が携帯電話のバイブレーション並みに震える回答が示されていた。

 突然とサヨウナラ、シリアスさん。突然とコンニチワ、コミカルさん。怒りなんぞ消え失せてしまい、親指が震えるとともに、フィンの額に冷や汗が滲み出した。

 

 アイズ、ヘルプ。壁に寄りかかっている謎の青年に対してはこれ以上の借りを作れないフィンは、残る一人に縋る思いで視線を投げる。天然少女ならば何か突破口があるのではないかと、僅かな期待も乗せられていた。

 そんな視線が黄金の少女に向けられるも、繊細な顔は、プイッと明後日の方向に向けられてしまった。ソーマ・ファミリア三人衆のついでにフィン・ディムナも禿げ上がりかねないが、助け船などどこにもない。アイズはキョロキョロと辺りを見回し、追撃が来ないうちに、居心地の良さそうな場所を検索する。

 

 ――――冒険者パーティー内部、流石に自重。

 ――――ティオナ、既に帰宅。

 ――――やっぱりフィン……ティオネが殺気立っててアブナイ。助けを求める視線が痛いけれど、却下。

 

 ということで、トテトテとしたあざとい足取りで歩みを進める。なぜか本能的に遠慮の心が働いて後回しの選択肢になったのだが、何かと親しいタカヒロの横が落ち着いたらしい。青年もよく知っている“彼女”のように壁にもたれ掛かり、前の方を向いている。

 とうとう耐えきれなくなったのか、パーティー一行を見ていた青年に向かってフィンから視線が飛ぶも、アイズに倣ってスルー安定。そして己の横に彼女が来たというのに流石に無言の対応はどうかと思い、彼女に対してやや顔を向けて言葉を発した。

 

 

「同じパルゥムということで彼には協力願ったが、アイズ君も来るとはな。先輩冒険者として、新米に(げき)を飛ばしに来たか?」

「むーっ。違うよ……」

 

 

 アイズをいじっているようで、実のところは誘導尋問。可愛らしく頬を薄く染め片頬を膨らませて反論すると、その顔は白髪の少年の後ろ姿へと向けられた。

 アイズとベルの間で色々とあった案件の半数ぐらいは、タカヒロも知っている。彼女の本能に沿った露骨な内容でもあったために、青年も彼女の気持ちには気づいているというわけだ。

 

 そして、その逆も然り。例えば先日のサーキュレーターの一件など、陣取っていた位置が露骨である。目当てが本当にサーキュレーターだったのか怪しいほどに、アイズの真後ろにくっついていたことは記憶に新しい。

 格好良く振舞っても、その実、好きな人が目の前に居る14歳。風向きと位置関係を考慮すれば、当時における真の目的はお察しだ。

 

 

「……口にせねば伝わらんぞ?」

「……恥ず、かしい」

「……別に、会いに来た事ムグッ」

 

 

 それ以上は言っちゃダメ。と言わんばかりに、どこから取り出したのかジャガ丸君の先端が、タカヒロの口に突っ込まれた。いつの間にか本人も別個体を口にしており、オーソドックスなジャンクフードをかじりながら時が流れる。

 ダンジョン内部で壁に寄りかかりながらジャガ丸君を食べつつ冒険者パーティーを見守る剣姫と、その横で同じものを口にするフードを被ったフルアーマーの不審者。なんとも不思議な構図である。

 

 タカヒロはヘスティア・ファミリア故に食べ慣れているジャガ丸君だが、聞いてみるに、アイズもまた食べ慣れているとのこと。むしろ好物とのことであり、色々な味を試しているらしい。

 青年が横目見るに、リヴェリアに似て整った繊細な顔立ちは、食に関して言うならばレストランの上質なコース料理が似合うだろう。だというのに食べているのは油ギッシュなジャガ丸君なのだから、見た目の違和感が凄まじい。

 

 

 そんな二人はさておき、実践訓練となるパーティー一行は真面目な雰囲気を出しており、所々に緊張感が漂っている。己が尊敬する第一級冒険者達が見ているのだから、その反応も仕方ないだろう。

 緊張しているのはリリルカも同じであり、まさか、あのフィン・ディムナが直々に来るなど思っても居ない。彼は実のところタカヒロの念押しに応えているのだが、彼女がそれを知る術は無いだろう。

 

 

「最初に言っておくけど、この実践訓練は、悪いところがあったらすぐに知らせてくれるんだ。手を抜けばあの人、ロキ・ファミリアの引率者から、厳しい指導が入っちゃうよ」

 

 

 少年が自身の胸の前で指さす方向をリリルカが追うと、そこに居たヒューマンの女性が可愛らしく手を振っている。この者とベルはレベル2なれど、レベル1相当の動きで戦いに参加し、周囲を観察することとなるのだ。

 

 

「前々から薄々思っていたんだけど……リリは荷物持ち以外に、本当のサポーターの仕事を、したことがないんじゃないかな?」

 

 

 参加者は全員がレベル1といえど、ロキ・ファミリアで学んだパーティー行動。その中に、二人のサポーターが居たことはベルも知っているし目にしている。独学のリリルカとは違い、一流の先輩達から数多くのアドバイスを貰ったエリートだ。

 序盤は参加せずに全体を見ていたからこそ、猶更の事、よくわかる。戦闘時においてもポーションを渡したり後方を警戒するだけではなく、遠距離武器で援護しながら周囲を警戒し、モンスターの死骸などを的確な位置へ移動させて戦闘をアシストする特殊な職業。

 

 広く浅く、と呼ばれる表現があるが、到底ながら、その程度の付け焼き刃な知識では成し得ることはできない立ち回り。複数にわたる非常に高レベルの次元の知識が、それを駆使して瞬時に判断できる決断力が、当たり前のように要求されるジェネラリスト。

 誰よりも深い知識と知恵を駆使し、誰よりも広い目を持ち、誰よりも仲間の特性を理解し、イレギュラーな展開すらも視野に入れて行動しなければ務まらない。攻撃職が安心して戦闘に集中できるための、決して派手さは無いながらも、パーティーには絶対に必要なポジションだ。

 

 

「それが、僕の中のサポーターの位置づけだよ。戦う力がないからサポーターだって言う奴は、ホンモノに出会ったことがないだけだ。絶対的な力なんて無くたって、強いサポーターは存在できる」

 

 

 嘘だ。と、今の言葉を己の中で否定した。そんな事を口にした冒険者は、今まで一人たりとも居なかった。いつか手の平を返すのだと、当たり前のように決めつけた。

 “大切だ”と、建前でこそ似たような言葉を口にした者は幾つか居た。それでも結局、戦いのさなかにおいては腫物を見る目を向けてきた。この少年が発した言葉に惹かれたが、結局は今までと同じだと考えようとしてしまっていた。

 

 

 でも、此度は違う。目の前の少年は上部だけではなく、今の状況を作ってくれた。

 結果は終わってみなければ分からないが、リリルカ・アーデを評価してくれる、ホンモノの冒険者達で作られるパーティーを組んでくれた。そして更には、なぜだか必死な顔をしているが、見守ってくれるパルゥムの英雄すらもそこに居る。

 

 

――――これ以上の舞台が、どこに在ると言うのですか。

 

 

 舞台は整った。ふと一度だけ、今までとは違う涙である嬉し涙を少しだけ目に溜めて、リリルカは戦闘に集中する。

 小規模な戦闘と共にパーティーも歩みを進めており、10階層の奥地へと到達していた。このまま行けば、11階層が目と鼻の先という開けたエリアへと辿り着いている。

 

 

「前方よりモンスター多数、把握できない……!多すぎます、怪物の宴(モンスターパーティー)かもしれません!」

「おい待て!11階層に近いとはいえ、ここは10階層だぞ!?」

「下から上がってきたのかもしれん、兎も角うろたえるな!総員、最大限に警戒して処理するぞ!」

「「応!」」

「やってやるさ!」

 

「さぁ、団体さんのお出ましだ。始まるよ、そして見せてよ。暫定だけれど僕の師匠が認めてくれているサポーター、リリルカ・アーデの全力を」

「っ……はい、ベル様!」

 




原作だとレベル2→3も一か月だったので、レベル的には抜かれていますね。
ご感想にもありましたが、このように集まってワイワイガヤガヤとパーティーを組むのは珍しいと思います。原作じゃ在り得ない、かな……?そう言った意味でも“IF”となります。

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