・マジックとレア装備には”〇〇 アイテム名 オブ ◇◇”と言ったようなアイテム名の前後に2種類の”Affix(〇〇と オブ ◇◇)”が付属するガチャシステムが存在する。
例)インコラプティブル(〇〇)・クリーピング リング(アイテム名)・オブ アタック(◇◇)
ベル・クラネルが進むべき道を見つけた日の昼、時間的に食事を行う者が多い頃。一人の男が私服姿で、バベルの塔を訪れていた。目的は、他ならぬ弟子であるベルが使う短剣もしくはナイフの類を調達するためだ。
この塔は街の中心部にあり、ダンジョンの蓋の役割を担っている、神々が最初に降りてきたとされる由緒あるタワーである。中身は空洞ということもなくさながらデパートのようになっており、上層部は神のための設備がいくつか整っているようだ。
基本として、この塔に店を構えるファミリアは第一級である。例を挙げれば鍛冶を主業務とするヘファイストス・ファミリアが該当し、4~8階層が当該ファミリアのフロアとなっている。昨夜ヘスティアに対して武器の相談をしたタカヒロだが、かつて彼女が居候していた場所ということと主神ヘファイストスとの信用もあり、お勧めされた形である。
一階入り口にある案内図を見る限り、やはりデパートと似た様相を醸し出している。階層案内図で各階層を確認するタカヒロは、“至高の武具を貴方に”というキャッチコピーにホイホイと釣られて目的地のフロアを確認していた。装備コレクターの血が疼きかけている。
「階段かと覚悟したが、まさかのエレベーターがあるとは……」
ヨーロッパ風味溢れる街並みとは似ても似つかない、垂直型の昇降装置。どう見ても人力どころかワイヤーの類すらないソレは、魔石の力で動いているという説明書きが誇らしげに飾られていた。
しかし、箱が上下するわけではなく板状の足場が上下するもの。かつ昇降側には手すりもないという中々にアブナイ仕様であり、どうやら初めて乗るのであろう子供らしき人物は母親にしがみついて泣き出してしまっている。
エレベーターの感覚に慣れているタカヒロは特に何も思わず、4階で降りてゆく。同乗していた子の親が謝罪と共に頭を下げてきたが、“気にしない”というジェスチャーをしてテナントの入口へと歩き出した。
入り口を飾るようにショーケースの中には様々な武器が展示されており、それこそナイフから長剣から槍、斧、なんだかわからないジャンルの武器まで多種多様な賑わいを見せている。まるで、オラリオで暮らす様々な種族の人々を表しているかのようで見ているだけでも飽きない程だ。
とはいえコレクターな彼の目線でいえば、ほとんど全てが基礎攻撃能力が高い“ただの武器”。基本として、特殊効果が付与されたマジックアイテム以外は一律な評価なのである。一般世間に流通されているモノによっては鍛冶師の気持ちが強く籠って若干のマジックアイテム化している代物もあるのだが、彼も見ただけでは“何か付与されている”程度にしか把握することができず、詳細までは手に取らないと分からない。
前の前にある短剣のお値段は、値引き表記無しで3000万ヴァリス。その横にある彼の身長程ある大きな両手斧に至っては2億ヴァリスとなっており、今回の予算である1万ヴァリス程度では頭金にすらならないだろうと溜息をついていた。
しかし物理的な大きさは違えど、随分と値段の開きがある。何が違うのかと斧の商品を見ればAffixが2つついており、売り文句を読んでいくと、これまた明確な違いが記載されていた。
「ああ、斧の方はエンチャント……
説明文からアイテムにある見慣れぬAffixの片方は
そして、到底ながら手が届かない値段となっている。彼が持ち込んだ予算は1万ヴァリス、これらを買うための頭金にもなりはしないだろう。もし消費税というものがあれば、それすらも払えない。
また、ベル・クラネルが持つにしては品質が“良すぎる”。ステイタスに頼ってしまいそうな状況下にあるというのに武器まで良くしてしまっては、その兆候に拍車をかけてしまう恐れがあるために厳禁だ。故に、
そうは言っても、やはり最低でも数千万ヴァリスの品々しか置いていないようだ。物の扱いも骨董品を扱うかのような丁寧さと保管状況に溢れており、下手をしたら一見さんお断りといわれても不思議ではない。
中身が日本人である彼は、その答えにたどり着く。いくらかマジックアイテムらしきものを興味深げに眺めていたが、ここに目的の武器は無いと判断し、出口へと足を向け――――
「お客さん、お帰りかしら?」
凛としながらも透き通った女性の声を背中に受け、足を止めた。
やや警戒しながらも振り返ると、5メートルほど先に一人の女性が立っている。ウェーブのかかった腰までの長さの赤髪をポニーテールで纏める容姿は、Yシャツ姿と相まってスレンダーな外観と合っている。右目に大きな眼帯をしているものの整った容姿を持つ女性が、まるで品定めするかのような目をタカヒロに向けていた。
その品定めの視線すらも、声に似て透き通っている。まるでヘスティアが時折向けてくる視線と似たように感じてしまい、「神か?」と内心で疑問符を抱いている程だ。
どちらにせよ、タカヒロが嘘や誤魔化しを言うような状況ではない。そのために、本当の事を口にしようと言葉を発した。
「ナイフ・短剣の類を探しているのですが、残念ながら予算1万ヴァリスな自分には身の丈が過ぎましてね。敵前逃亡というやつです」
「あら、そのわりには真剣に品定めしていたようだけど?」
「はは。不本意ながらも迷い込んでしまったので、どうせならばと第一級の品々を堪能させてもらいました」
ふーん?と、やや艶やかさを滲ませた穏やかな顔を向けながら、カツカツと靴の音を立てて女性はタカヒロとの距離を詰める。対峙する青年は疑問符を抱いているが、焦ることなくいつも通りの対応を見せている。
そして女性の動向を眺めていると、彼女はその人差し指を滑らかに動かして彼の鼻先につけ―――
「じゃあなんで、斧を見た時に
そりゃ自分にしか見えないだろうAffixが2つ付いているからですよ。
そう心の中で答えたタカヒロは、逃走を図った。
「おぬし、どこへ行く?」
「ぐっ……」
赤髪の女性と話をしている時に気配は感じていたが、その第三者に回り込まれたが故に走り出せない。特徴的なイントネーションで言葉を発する女性、こちらも眼帯で左目を隠しており褐色肌で何故かサラシ一丁で豊満な胸を隠しているサムライのような相手は並み大抵の実力ではないことは分かるが、彼の実力ならば強行突破することも可能だろう。
ただし、周囲にある武器のいくらかは確実に犠牲になる衝突となる。それを弁済できるのかとなれば、答えは否だ。そして己が捕虜の類だと諦め、肩を落として息をついた。
「私はここの主神、ヘファイストス。貴方も嘘は言っていないようだけれど、探るような真似をして悪かったわね」
「手前は椿・コルブランド。ヘファイストス・ファミリアの団長をしておる。レベル5、ハーフのドワーフだ」
「……ヘスティア・ファミリア所属、タカヒロ。主神がかつて世話になったようだが、自分もお手柔らかに願いたい」
炎と鍛冶を司る、やはり神か。と、彼は内心で思いながら溜息をついて、降参と言いたげに両手を軽く上げる。
その一方、余裕を持った表情を浮かべていたヘファイストスは、まさかのファミリア名を耳にして驚いた顔に変わっていた。
「ヘスティア?貴方、ヘスティアのところの眷属なの?」
「ええ、自分もまさか神ヘファイストスとお会いすることになるとは思いませんでしたが。とは言っても現在のヘスティア・ファミリアは、自分ともう一人の眷属しかいない零細というやつです」
何かしらあるのだろう理由で悔しそうな顔をするヘファイストスだが、コホンと可愛らしく咳払いし。タカヒロに声を掛けた時の、やや穏やかな表情に戻っていた。
「せっかくだから、この斧、手に取ってみない?なんなら振り回しちゃっても良いわよ」
「……いや、これ2億ヴァリスでしょうに。何かあっても弁償できませんが」
「その時は私が責任を持つわ。あと、別に敬語もいらないわよ。堅苦しいのは苦手でね」
「……それは了解したとして、何をすれば?」
「この斧は、そこに居る椿が鍛えたのよ。
そう言われて彼が椿へと顔を向けると、彼女はニカッとした気持ちの良い笑顔で応答する。
どうやら彼女もヘファイストスも、
話しついでの説明がヘファイストスから続けられるが、ソレを明確化できるのは遥か遠方に居ると言われている賢者の類のみのようである。もっとも、そこに頼らなくても判明しているエンチャントはいくつかあった。
例えば“傷口が治らない”や魔剣のように“炎の渦を出す”と言ったような、目に見えて明確なものこそ
国宝級のアイテムを鑑定する時に用いられる賢者の力を使えばわかるものの、そうなれば斧の販売価格以上の大金が必要だ。それこそヘファイストスの
ともあれヘファイストス・ファミリアにおける目玉商品ということでショールームに堂々と展示した日の昼間、まさかの事態が起こる。ホイホイと誘われた青年がやってきて先ほどの言葉を呟いたために、結果としてお縄となってしまったのだ。
彼としても今更色々と隠すこともできず、ここまでくれば成るように成れとふっきれている。大人しく背丈ほどある大きな斧、レア等級“マジック”を手に取り、許可を得て周囲のショーケースに当たらぬよう数回にわたって素振りした。
「おお……」
連続で素振りされる光景に目を奪われたのは、戦闘員として前線に出ることのある椿である。重量級の斧だというのにまるで軸がぶれない振り回しと、その際に発生してしまう風を二人に当てることのないよう軌道を調整していることは読み取れるが、それがどれ程の技術を要するかは想像に難しくない。
オラリオにおいても、これが出来る冒険者はほんの一握りの者だけだろう。それこそ、レベル6クラス以上の冒険者に他ならない。4-5振りして構えのようなポーズを取ったタカヒロは、刃先を上に向けると回答を口にした。
「武器の外観や運用もあって重心は一撃の威力を重視したパワーファイター向けだが、重量バランスは完璧だ。エンチャントとしては物理攻撃力5%、急所命中時のダメージ10%を加算。攻撃命中時にいくらかの体内損傷と出血によるダメージを付与。エンチャントはどうあれ打ち手の覚悟が籠った良い武器だが全てにおける最終ダメージ修正が12%減となっている、これが
武器の扱いが凄いな、という程度の考えは、直後に出てきたこの一文で消し飛んでしまう。自信を持った表情でエンチャントされているらしき内容と数値をスラスラと読み上げるその姿は、鍛冶職人ならば耳にするだけで目を見開いてしまう光景だ。
場に居た二人も、表情は同様である。興奮を隠しきれない様子で、ヘファイストスが声を発した。
「あ、貴方、エンチャントの解析ができるの!?」
「ご、御仁、嘘ではないのだな!?」
「神の前で嘘は吐けんさ。まぁ自信があるとはいえ、自分の出した数値が合っているかと言われれば保証はできないけど……」
言っておきながら保証できないことを思いつき、青年は仏頂面のまま人差し指でポリポリと頬をかく。照れ隠しなのか斧をグルグルと振るい回し、「これが2億ヴァリスの重みかー」と呑気なことを考えながら堪能していた。
サラっと行われているが、まるで短剣を振り回すかのような気軽さである。希少鉱石をタップリと使ったそれはかなりの重量をもっているのだが、影響を微塵も感じさせない。
「さて神ヘファイストス。正直に言うと適当に誤魔化して去ろうかと思ったのだが、かつて自分の所の主神が世話になった義理は果たしたつもりだ。これで十分かな?」
「え、ええ、十二分だと思うわ。こちらも正直に言うと、無理やりにコンバートしてでも迎え入れたいところだけど」
「それは遠慮願いたい。鑑定して欲しいものがあれば、お忍びとやらでなら承るよ」
「ありがとう、貴方の秘密は守るわ。そういうことよ椿。……椿?わかったら返事を……」
そう言いながら顔を動かすヘファイストス、つられてタカヒロもそちらを向いた。返事がないと思っていた双方だが、その先に居る一人の鍛冶師の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
ヘファイストスですら、泣いていることに対してとやかく言う権利はない。
「48時間連続で滝に打たれて精神を整え、精魂込めて希少金属を鍛えた苦労が報われたというものだ……」
――――よく死ななかったな。
――――たぶんそれ、滝は関係ないわよ。
と、彼もヘファイストスも呆れた表情で感想を浮かべている。どうやらヘファイストスはその時に椿が行方不明になっていたのを知っているようで、まさかの理由を聞いて溜息をついていた。
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「レベル1のお弟子さんのナイフだったのね。それなら上のフロアにあるわ、案内するわよ」
椿のメンタルが平常運転に戻り、タカヒロはここで来店の理由を再び聞かれることとなる。まさかのヘファイストス直々の案内にやや困惑するタカヒロだが、右も左も分からないために彼女の後ろをついていく。何故だか椿まで一緒に歩いており周りの目を引いているが、彼女の姿は色んな意味で目を引くだろうと割り切り気にしないことにしていた。
案内されたのは、3つ上のフロアである。ここにはヘファイストス・ファミリアにおいて初級鍛冶師が制作した武具が並べられており、扱いは無造作ながらも値段としても非常に安い。
具体的にはナイフならば4000ヴァリス、ライトアーマー一式で8000ヴァリス程度からとなっており、これならばレベル1の冒険者でも買うことができるだろう。とはいえ、そんな価格帯を買う冒険者は軒並み稼ぎに出ている時間帯であり、店内は非常に閑散としている。
彼は武器、ナイフや短剣が置いてあるエリアに案内され、しばらく品定めを行っていた。ヘファイストスと椿は後ろからその姿を観察しており、彼がどこを見るのか、どのようなものに興味を惹かれるかをつぶさに観察している。
後ろからの視線を受け流しながらしばらくした時、彼は腰をかがめ、無造作に並べられていた一本のナイフを手に取った。価格は5800ヴァリス、大きさと使用されている金属の割には割高な部類となるだろう。
しかし、本人はえらく気に入ったように僅かに口元を緩める。今の今まで仏頂面が続いていただけに何かしらの訳ありかと思ったヘファイストスは、肩越しに声を掛けた。
「気に入ったようね、それも何かのエンチャントが付与されたマジックアイテムなのかしら?」
「いや、エンチャントの類は何もない。そもそも一通り見て回ったが、エンチャントが付いている武器はこのフロアには1つも無いさ」
そう言い捨てる彼だが、向けられる視線は真剣そのもの。素振りの許可をもらって軽く振るうも、数ランク上の装備と変わらぬ芯の良さが伺える。
素材も強度も大したことのない初級装備の一振り。通常ならば、素人の未熟な腕によって振るわれ折れるのを待つばかりの一品である。
しかし彼曰く、ここにあるなかで最も丁寧に作られている逸品の類。無造作に並べられると分かっていながらも、職人が丹精込めて作ったことが痛いほどに感じ取れた。
コモンランクの武器ながらも、コレクターである彼の眼鏡にかなう無銘の逸品。“
「神ヘファイストス、このナイフを打った職人に武器の作成を依頼をしても良いだろうか」
「もちろんよ、なんでも言って頂戴」
「ナイフの刃渡りを2センチ程度伸ばし、重量増は最小限に。軽くなる分には問題ない。今よりも多少良い金属を使って品質はこれ以上とし、2本の依頼として価格は一本1万ヴァリス」
「レベル1の鍛冶師が作るナイフに1万ヴァリス、なかなかの高評価ね」
そんなことを口にしながら不敵に笑い、ヘファイストスはメモを取り終えた。そしてそのナイフは先ほどの鑑定の御代として貰えるようであり、椿に対して梱包するよう指示を出している。
タカヒロからナイフを受け取った椿は作成者のサインを見つけ、「おお、こやつか!」と、何故か嬉しそうな表情を浮かべていた。どうやらレベル1と言えど、彼女も知っている鍛冶師のようである。
「その武器を作った鍛冶師の名前は“ヴェルフ・クロッゾ”。ヘファイストス・ファミリアに居るレベル1の鍛冶師よ。今日から3日もあれば出来上がるわ、お弟子さんにも宜しくね」
こちらも何故だか誇らしいヘファイストスの説明を受け、タカヒロは一人の鍛冶師の名前を知るのであった。
ここでベル君とヴェルフ兄貴に繋がりを持ってほしかったのと、ハクスラとのクロスなので他の細々したエンチャントがあっても良いじゃないかということでこのような内容にしてみました。
ちなみに手に持つまで内容がわからないのは、ゲームと同じくインベントリに入れないと詳細効果が分からない点を反映させております。
もっともエンチャント率も効果量も低く、(普通は)有っても無くても気づかない程度になっている設定です。
例外?原作にもある真っ黒ナイフに聞いてください…
滝の件は漫画11巻のネタより。