その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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装備キチの秘密(爆弾)が1つ明らかに


73話 出頭要請

「あと二日、か」

 

 

 そんなことを考えると、青年の中で柄も無く緊張感が芽生えてくる。無事に約束を交わすことはできたものの、己が気に掛けるハイエルフが相手となれば、自然と抱いてしまう緊張感は一入(ひとしお)だ。

 今日は当日ではないものの、ただ無駄に日々を過ごすと言うのも考え物。“彼女”が耳にしたならば口酸っぱく説教されることだろうし、少し浮ついてしまっている心を落ち着かせるついでに、僅かな緊張感も解いておく必要があるだろう。

 

 

 故に――――

 

 

『■■■■――――!!』

「……お、皮ドロップ。これで8枚目か」

 

 

 本人曰く“カドモス・タイムアタック”という、オラリオ基準において訳の分からない蹂躙が行われていた。

 

 もっとも緊張感を解くためだけが理由ではなく、本来ならば、これは“セレスチャル級”を相手に行われる内容だ。何をしているかというと単純であり、対象を倒すまでに掛かる時間を計測するワケである。

 基本として、装備を更新した際に行われてきたこの内容。複数体いるセレスチャルのスーパーボスが合計でどれだけ犠牲になってきたかとなれば、4桁を突破しかねない勢いという惨状だ。

 

 

 ――――我々、神とは無限である。故に、如何(いか)にして殺したところで何度でも蘇るぞ。

 ――――神が無限の存在であるならば、それを殺す(ドロップ厳選の)喜びもまた無限にある。

 

 

 神々が負け際に言い放った煽りに対してタカヒロが残したこの言葉は、敵対関係となった神々の瞳からハイライトをどれだけ奪ったかは定かではない。敵対した神に対してソレ(装備キチ)を鉄砲玉にした神々(ドリーグ達)もドン引きし、全力で冷や汗を流した程だ。故に、ドリーグは機嫌取りのために“とあるモノ”をタカヒロに贈呈している。

 

 

 そんな話はさておき、ヘファイストスが作成したガントレットによって、少量のデメリットはあれど火力については1割程の向上が確認できていた。元々がディフェンシブなビルドであるために、自発的な火力面については上がりにくいというわけだ。火力については、他の装備や星座を変更する必要がある。

 ともあれ結果としては明らかで、良い方向に対してバランスが崩れている。過剰となっている防御性能は装備変更で火力に回すことができる可能性が生まれるために、うまく噛み合うパズルを組むことができれば、己が更なる高みへ昇ることができるだろう。「ちょっと待って」と、背中から猛者の声が聞こえてきそうだが気にしていては進まない。

 

 実は此度においては取得している星座を一部変更しており、そのうち更に一部だけをテストしてカドモスを討伐している。先程の火力バランスの調整もさることながら、3レベル減った“カウンターストライク”、以前よりも1割ほどがダウンした耐遠距離火力を補うための星座構成だ。

 そのついでに1億ヴァリス分のアイテムがポンッと手に入っているのだから、ファミリアとしても悪いことは無いだろう。もっとも、炉の女神ヘスティアが抱える胃という臓器については触れないこととする。

 

 テストと言えど抜かりなく、実戦においても十二分の性能を確保しているのだから隙が無い。今現在においてはガントレット装着前と比較して防御力は同等か僅かに上、対スーパーボスへの火力については2割増し、対集団となれば更に上回る結果となっているのだから侮れない。

 純粋に考えると「この装備を別の部位でもう1個欲しい」となり実際に考えが浮かんでいるタカヒロだが、あの黒いドラゴンが階層主だというならば暫くは“おあずけ”となるだろう。49階層のバロールで半年となると、下手をすれば年単位のリポップだ。

 

 

 

 そして話の流れは自然と、ハイエルフがヒューマンの男とデートするという点に対するエルフ一行の猛抗議となるわけだ。こうなった訳が分からないタカヒロだが、訳も分からず討伐されていたカドモス達も似たような心境だったので因果応報と言った所だろう。

 

 昼食前にヘスティア・ファミリアへと帰還すると、ロキ・ファミリアのエルフ数名が入口で待っていた。簡潔に説明すると出頭要請が出ているらしく、ロクなことではないと直感で認識したタカヒロながらも、相手方がロキ・ファミリアということで無視はできないために黄昏の館へと赴いている。

 館の中へは入らず裏手に回されると、神妙な表情をしたロキと、少し険しい表情のエルフ一同がタカヒロを迎えることとなる。当人のリヴェリアとレフィーヤは居ないが、今日は朝から夕方まで、どこかへ出かけているとのことだ。イレギュラーが起こらなければ、鉢合うことはないだろう。

 

 

 口を開いたロキが言うには、どうも食事の約束をした件がロキ・ファミリアのエルフ達に漏れているらしい。しかしどう見ても、「リヴェリア様をよろしくお願いいたします」的な雰囲気ではない事は明らかだ。

 エルフ一行の先頭に居るのは、ウェーブのかかった腰ほどまでの髪を持つレベル4の冒険者、前衛~中衛を務める“アリシア・フォレストライト”だ。落ち着いた敬語、しかしエルフらしくしっかりとした口調が特徴的であり、こうして面と向かって話すのはタカヒロも初めてである。

 

 

――――教導を受けることはいい。

 

――――黄昏の館での食事や、食事会で一緒にドリンクを飲むのは仕方ない。

 

――――だがベート……ではなくデート、テメェはダメだ。

 

 

 エルフ一行の言い分を纏めると、そんな感じ。“デート”なる単語を言い慣れていないアリシアが割と真面目にベートとデートを言い間違えて少し頬を赤らめているが、微塵も揺るがぬ相手の仏頂面を目にしてすぐに収まる。

 相手は肯定もせず、否定もせず、感情すらも示さない。力の籠った黒い瞳がアリシアを貫き、緊張を抱いた彼女はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

「……つまるところ、似たような言葉が欲しいと」

「違います!怒りますよ!!」

「怒っとるやないけ」

 

 

 “あの清楚で穢れを知らないリヴェリア様が、異性、更には他種族であるヒューマンの男と交際するなど――――”

 

 ようやく口を開いたタカヒロの適当にも程がある応対に対し、多少は違えど、睨んでいるエルフ全員の感想はこのような内容だった。まだ交際へは至っていないのだが、そこはリヴェリア本人と似た恋愛方面最弱のベクトル(ポンコツ)と同じである連中のために認識の齟齬は仕方がないことだろう。

 あまりの露骨さに、流石のロキも溜息を吐いている。彼女としてはどちらかと言えばリヴェリアを応援してあげたいだけに、なんとも複雑な心境だ。

 

 ――――とりあえず、何があろうともそこの男は絶対に敵に回したらアカン。

 己の直感が発するこの考えが付きまとうだけに、猶更である。直感を無視したとしても、そうなったならば自然とフィン、ガレス、リヴェリアの最古参は己の評価を大きく下げることとなり、アイズも良い気はしないことだろう。

 

 

 主神ながらもエルフ達の剣幕を前にして口に出来ることがなくなったため、ロキは大人しく相手方の言い分を聞いている。

 

 曰く、彼女達の視点におけるリヴェリアとは“穢れを知らぬ聖女”とのことらしい。聖女との表現に思わず鼻で笑いかけたタカヒロだが、本人の耳に入るとまた背中から魔法をぶっ放されないために喉元に留めている。

 曰く、異性との付き合いが“穢れ”らしい。強引(見合い)か自然発生かの形式はどうあれ「そんなものは遅かれ早かれ発生するだろう」と内心で持論を展開するタカヒロだが、せっかくなので、そこにいるロキに話を振ることとした。

 

 

「ロキ、1ついいだろうか」

「なんや?」

「彼女達の説明を考慮すると……ハイエルフってのは、キャベツ畑から生まれるのか?」

 

 

 つまるところ、程度はどうあれ“男女の営み”を“穢れ”だというならば、そういうことだ。ではエルフ達は、ましてやリヴェリア本人もどこから生まれてきたのかとなった際、それを“穢れ”だと口にしているワケである。

 もっとも直接的に口にすると色々と問題であるために、タカヒロは先の言葉で濁したのだ。意味を理解したロキは文字通りの大爆笑でタカヒロの肩をバシバシ叩いており、「おどれサイコーやわ」と笑い泣きの真っ最中。

 

 確かに、それが穢れだというならば王族ですら子孫は残せない。矛盾を極めている内容は把握しているとはいえ、普通のエルフからすれば“ハイエルフとは穢れを知らない存在だ”という信仰のレベルに達している故に否定できない。故に、認められない存在と王族の付き合いを否定するとなると、その信仰内容を口にせざるを得ないのだ。

 エルフ一同からすればリヴェリアは、ハイエルフの英雄であり王女である“セルディア”と同じ血筋である王族だ。王族という括りの中でもそれ程の立ち位置に居る人物が、よりにもよってヒューマンの男とデートするなどと過剰反応を示しており、聞く耳を持つ気配が全くない。

 

 なお、ここでタカヒロが「既に2回ほど二人で行動しているが」と燃料を発言したためにボルテージは最高潮。蛙の合唱の如き様相で主観をぶつけており、時折ヒューマンを否定するような言葉も混じってしまっている。

 もっとも、古典博覧会と24階層の件を抜かしたとしても、タカヒロとリヴェリアが二人で過ごしてきた時間は非常に多い。故に、エルフ一同が気にしたところで、タカヒロにとっては「今更」なのである。

 

 

「食事の件については相手の了承も得ている、今更こちらから破棄する真似はできん」

「ですが――――」

「今口に出された意見が、リヴェリアから出たならば従おう。自分ができるのは、それだけだ」

 

 

 珍しく相手の言葉を遮って、タカヒロは己の考えを口にする。道理のある強い口調の言葉に、相手も言い返せずに黙ってしまった。

 

 青年としても、リヴェリアが嫌がるならば無理に誘うことは絶対にない。当時において誘った時はポカンとした表情からしばらく変わらなかった相手だが、我に返ってからはアタフタとした慌て具合の後に顔が茹り熱気は湯気となって圧力解放。

 直後、集合場所と時間を口にすると共に「お前も準備をするのだ!!」と照れ隠しの八つ当たりをされて部屋から追い出されている。ただの食事に対して三日前から何を準備するのだと溜息が出てしまったが、部屋へと戻るわけにもいかなかったので大人しく帰宅したのだ。

 

 

「なぁアリシアー。リヴェリアの幸せよりも、自分らの信仰を優先するんか?」

 

 

 見かねたロキが大きな助け舟を出し怯むエルフ一同ながらも、やはり「それでもヒューマンの男とデートなど」と振出しに戻っている。埒が明かない状況に、かつてリヴェリアが「王族と扱われるのは荷が重い」と愚痴っていたことを実感していた。

 とはいえロキも、リヴェリアがタカヒロと二人で行動していたことは知っている。そして彼女が本気で嫌っていたならば、そのような状況には成っていなかっただろう。少なくとも、彼女本人の気持ちは伺えているのだ。

 

 

「ハァ、予想はしとったけど結局こうなるんか……。未だ、なーも始まってすらおらんっちゅーに……。ホンマ、エルフってのはこういう方面で面倒やわ」

「だからと言って放置するべき問題ではない、どうすれば認められる」

「んー……。相手方、今回はタカヒロはん側に、アリシア達が“ぐうの音”も出ーへん程の何かが有ればええんやけどなー。せやかて、“エルフを納得させるモノ”なんてあらへんやろうし作るにしたって」

「自分は“ドライアド”の祝福を受けているが、これでは足りんかね」

 

 

 ギリシャ神話に登場する樹々の精霊“ドライアド”は、自然の精神と純粋を具現化した精霊を指す言葉。また、エルフの全てが敬拝する大精霊であり、サラマンダーなどと並んで知名度も非常に高いものがある。

 ドライアドを象り天に並ぶ星々の恩恵は様々な効果をもたらしており、タカヒロとも付き合いが深く永い。取得するためには祈祷ポイント5つを使うが、CT、効果時間共に非常に使い勝手が良く、防御面において強力なスキルの1つと言えるだろう。

 

 5つの星々のうち1つはスキルを授けており、攻撃時において33%の確率で発動するそれは約1割のHPを回復した上で装甲値を高め、出血と中毒時間を36%削減する効果を持っている。その他4つの星々の恩恵も、報復型ウォーロードにとって無駄が見当たらない構成となっているのがドライアドの星座が持つ特徴だ。

 

 もっとも、今現在において耳にした者達からすればそんな事は二の次だ。糸のような眼をいっぱいに開いて丸くし、ロキはタカヒロに顔を向ける。ピタリと合唱が止まったエルフ一行の表情もまた目を開いて青年を見ており、徐々に浮かび上がる冷や汗を隠せていない。

 そのような大精霊の加護どころか祝福を得ているとなると、先ほどまでエルフ達が抱いていた考えは一変する。大樹を祀り信仰するエルフにとってのドライアドとは唯一神に近いものがあり、その祝福がどれほどの権力を発揮するかは言うまでもないだろう。今までの長いエルフの歴史においても、王族においてすら、その大精霊の加護を得た者すら存在しないのが現状だ。

 

 

「う、嘘は言うとらん……精霊の“加護”やのうて“祝福”やと!?それにドライアドいうたら、限りなく神に近い正真正銘の大精霊やんけ……!」

 

 

 そして嘘発見器の視点においては、驚きの白さ。今まさに朝食の献立を語るかの如き気軽さで口に出されたことが嘘偽りない証明であり、ロキはタカヒロを指さしたままワナワナと震えていた。

 エルフ達も、そんなロキを見て今の発言が嘘ではないと感じ取っている。半数以上の口は開いたまま塞がっておらず、言葉が消えた空間は静寂を保っていた。

 

 

「お、おどれ、おどれは、どないなっとんのや!!」

「どうなってると言われてもな……ドライアドの祝福は、随分と昔から受けている。しかし別に、ドライアドと知り合いというワケでもないんだが」

「はぁ……当の本人がコレかいな。ともかく、そんな大層極まりないモノがあんならアリシア達は文句ないやろ。一応は解決やわ」

 

 

 正直に暴露するならばソレよりも更にヤベー星座が1つあるのだが、今この場においては秘匿されている。神聖度合は更に上となる星座なのだが、この場においてはドライアドの祝福だけで十分のようだ。

 そして、どないなっとると言われても“ケアン基準においては”普通となる“一般人”タカヒロとしては「別に?」としか返す言葉が生まれない。青年にとってのドライアドの祝福とは、在って当たり前の存在なのである。

 

 そんなことよりも、己がリヴェリアと並ぶかどうかの方が重要だ。突っかかってきたアリシアに対して「十分か?」と問いを投げると、相手は目を見開いたままコクコクと頷くことしかできない模様。背筋は伸び切っており、動作も機敏だ。

 とはいえ、それも仕方のない事の1つとなる。エルフにとってのドライアド、その加護や祝福を得ている者とは、それ程の者なのである。最悪、先ほどまでアリシア達がぶつけていた発言の数々が不敬罪の類に値する程だ。

 

 

 エルフ一行の許可も無事に下りたために事情聴取も終了となり、この場は他言無用との言葉を残してタカヒロは鎧の鳴る音と共に帰路に就く。もっともそれはスキルの秘匿のためではなく、単にリヴェリアがこの現状を知って良い気をするとは思えないための配慮だ。

 文字通りのぐうの音も出ない解決方法で呆れるロキは、頭の後ろをかきながら館へと戻って行く。リヴェリアに伝えた方が良いのか悩んだが、こちらも青年の言葉を厳守することとした。掘り下げたら更にヤベーものが出てくるからこそ敵対するべきではないと、彼女の直感がより強い警告を鳴らしている。

 

 一方、ようやく緊張の糸がほどけてその場にへたり込むアリシアは、イレギュラー過ぎるまさかの展開を未だ受け入れることができていない。他の女性エルフが腰を屈めてアリシアの肩に手を置くも、その者もまた言葉を発せずに放心している程のモノだったのだ。

 

 

「なんで……なんでヒューマンの男性が、ドライアド様の祝福を受け賜わっているのですかぁ――――!!」

 

 

 困惑の表情と共に出された一言は、大空へと吸い込まれる。その回答を示すことができる者は、天界の神々ですら存在しないことだろう。

 そして、そんな人物から秘匿と言われた内容はキッチリと守られることとなり。時系列は、問題の二日後へと達することとなる。

 




エルフ特攻の爆弾でした。
そこらへんのヒューマンがドライアドの祝福持ってるなんて思わんでしょうね。
ともかく、取り巻きエルフの問題は強引にクリア!

なおヘスティアは()



元々の効果 ⇒ ヘファイストスPowerrrrr!!!
■星座:ドライアド
・ドライアドは自然の精神と純粋の具現であり、対となるのはグールである。
+15 ⇒ +21 体格
+5% ⇒ +7% 精神力
+80 ⇒ +112ヘルス
+200⇒ +280エナジー
+1 ⇒ +1.4エナジー再生/s
-10%⇒ -14% 武器に要する精神力
-10%⇒ -14% 装飾品に要する精神力
+4% ⇒ +5.6% 物理耐性
+3% ⇒ +4.2% 移動速度
+10%⇒ +14% 毒酸耐性
+15%⇒ +21% 減速耐性
付与: Dryad's(ドライアドの) Blessing(祝福)

■星座のスキル:ドライアドの祝福
・ドライアドの祝福は、術者の傷を洗浄して毒を防ぐ。
・攻撃時33% ⇒ 46.2%の確率で発動
3.2秒 スキルリチャージ(影響なし)
10秒 持続時間(影響なし)
10%+598 ⇒ 14%+837.2 ヘルス回復
+70 ⇒ +98 装甲
36% ⇒ 50.4% 中毒時間短縮
36% ⇒ 50.4% 出血時間短縮

攻撃時3.2秒おきに46.2%の確率で約18%のヘルス回復とかやっぱあのガントレット頭おかしい(誉め言葉)
いやまぁ、ガントレット抜きにしてもクエスチョンマークが出るぶっ飛びっぷりの回復スキルなのですが。

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