その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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ヒロイン枠がお預け食らってますがもうしばらくお待ちください…


8話 厳しい師匠

「ただいま戻りました!」

「ベル君おっかえりー!今日は随分と早かったじゃないか」

 

 

 交わされる、いつものやりとり。言いつけを守って2階層で魔石を稼いできた白髪の少年は元気よくホームのドアを開き、主神もまた元気よく出迎えた。地下室であるためか、互いの声がよく響いている。

 なお、少年が帰ってきたのは夕方と呼べるにはまだまだ早い時間帯。いつもならば夕飯直前だったりと日が沈んでからであるために、早く帰ってきたことについてはヘスティアも不思議に感じていた。

 

 とはいえ、少年が無事ならば彼女にとってはあまり関係のないことである。互いに椅子に腰かけると、今日の事を話題に出した。

 

 

「ところでベル君、午前中はタカヒロ君と鍛錬していたんだろ?どうだった?」

「はい、目指すべきところは見えました!それにしてもタカヒロさんって、ものすごく強いんですね」

「へぇ、でも確かに装備は整ってたもんね。タカヒロ君って、そんなに強いんだ」

「ええ、それはもう!なんで冒険者にならないのか不思議です」

 

 

 なお、この会話には擦れ違いがある。ベルがレベル1の駆け出しとはいえ、ヘスティアは恩恵無しのタカヒロが勝つなどとは微塵にも思っておらず、逆にベルの言い分は馬鹿みたいに強い相手を単純に称賛しているのだ。

 そして少年は、明日からは本格的な鍛錬の開始となることを告げている。彼が今日の探索を早めに切り上げてきたのは、しっかりと休むための選択だ。

 

 それでも何かできることは無いかと考え、ダンジョンに関する知識が詰まった本を手に取って読み始める。そんな少年の姿を優しく見つめる女神もまた読書が好きな女神であり、和やかな空気で共に本へと目を向けた。

 そうこうしているうちに、やや疲れた表情のタカヒロも帰宅する。彼がベルの読書姿を見て後ろから覗くと、少年は魔法に関する内容が書かれたページにくぎ付けとなっていた。しばらく見守るも、同じページを行ったり来たりしている。

 

 

「なんだベル君、魔法に興味があるのかい?」

「あ、はい。やっぱり、魔法を使えるのは憧れがありまして……。師匠って、何か魔法を使えるんですか?」

 

 

 いいや全く。と答えようとした彼は、エンピリオンの使徒を呼び出す“サモン ガーディアン・オブ エンピリオン”と“メンヒルの盾”というスキルは魔法扱いだったことを思い出した。

 しかし、逆に言えばそれだけであり魔法に関する知識もない。この世界における魔法にしても本当に世間一般における基礎程度の知識しかなく、書物で得た程度のものであり、弟子の期待には応えられそうにもない状況だ。

 

 

「魔法はからきし疎くてね、力になれそうもないかな。ところで、どんな魔法を使いたいんだ?」

「実用性も全く分かって居なくて聞いた話程度なんですけど、武器に何かしらの力を乗せて使うやつとかですね!」

 

 

 目をキラキラさせて声を強くする少年は本当に知識も無いのだろう、憧れの感情しか抱いていない。しかしヘスティアはその手の魔法を知っているのか、本を閉じて口を開いた。

 

 

「ベル君、それはエンチャント、つまり付与魔法の類だよ。タカヒロ君からも時たま不思議な力を感じるけど、何か詠唱して使っているんじゃないのかな?」

「ホントですか!?師匠、よかったら詠唱を見せてください!」

 

 

 ヘスティアの感覚は意外と鋭いようで、タカヒロがトグルスキルの中で唯一常時発動させているカウンターストライクのことを言っている。とはいえ兎の少年にシイタケお目目でそう言われても、非常に難しいところがある内容だ。

 できないものは、どう足掻いてもできないものだ。元々において魔法攻撃など素人以下であるウォーロードであるうえに、詠唱が必要なスキルなど存在しない。

 

 

「……ライフ排出死すべしバフ解除死すべし滅べ滅べナーフされろ朽ち果て」

「それ絶対に詠唱じゃなくてただの悪口だよね!?」

「バレたか……!」

 

 

 そのため、真顔で即席のでっち上げを披露している。ヘスティアのツッコミは正解であるが、これらは最早、彼が発する呪いの類だ。この2つが報復型ウォーロードの天敵というだけの話であり、彼が毛嫌いしている攻撃である。

 ちなみに付け加えると、ウォーロードを含めた全ての職業がこの攻撃を苦手としている。最大ヘルス(ヒットポイント)の割合で削ってくるヘルス排出は脅威が高く、様々な恩恵のあるバフを消す攻撃を受けたならば、最上級防具で身を固めようがヘルスが夏場のアイスのように溶けるのだ。

 

 そんなこんなで話は弾み、気づけば良い時間となっていた。明日のこともあって早めに布団へ入る師弟のうち、弟子の方は興奮と共に不安を覚える。

 覚悟はしているが、辛い鍛錬を想像するとやはり気落ちするものである。それでも「なるようにしかならないだろう」と心の中で吹っ切れると、不思議と睡魔は襲ってくるのであった。

 

=====

 

 翌朝、オラリオ北にある外壁の上。1年を通して一人二人程度しか訪れない場所であるここに、白髪を持つ二人の男がやってきていた。

 5階建てほどある防壁の屋上は通行できるようになっており、高さに比例してか幅も広く、片側2車線道路程のものがある。つまり、鍛錬するには絶好の秘密スポットとなっていた。

 

 まず始まる前に、タカヒロは一本のナイフをベルに渡す。嬉しさのあまり飛び上がって喜ぶ少年を見て、思わず表情が軽く緩んでいる。

 

 

「そこまでされると大袈裟と言いたくなるぞ。昨日渡しても良かったんだけど、興奮して眠れないと今日に差し支えると思ってね。結果として正解だ」

 

 

 流石は自分の師匠だ。と、少年もまた穏やかな顔になる。しかし直後、「真面目な話をする」と告げられ、少年の顔にも力がこもった。

 

 鍛錬と言うのは手を抜いて行っても身にならない。そして少年は、身に付けるべきことが多すぎる。

 これが今現在におけるタカヒロが持つベル・クラネルに対する評価であり、少年も自覚しているのか静かに頷いて肯定した。フードの下から見える相手の口元に穏やかさは一切無く、緊張が痛いほどに伝わってくる。

 

 

「最初のうちは楽しいだろう、しかしそのあとすぐに地獄が来る。ダンジョンにおいて隣り合わせになる死と言うものを身近に感じてもらうために容赦はできない、君を蹴り飛ばすこともあるだろう。血に塗れ骨にヒビが入り、目標なんてどうでもよくなって逃げだしたいと思うこともあるはずだ」

 

 

 耳にする言葉で目は開き、緊張からゴクリとつばを飲み込む。覚悟はしていたがいざ言葉で表されると、恐怖の感情が沸き上がる。

 とはいえ、駆け出しの少年が恐怖を抱くことは当然であり彼とて承知している感情だ。故に、退路はなけれど逃げ道も設けている。

 

 

「今から始まる鍛錬は続けるのも君の自由だが、諦めるのも君の自由だ。もし本当に心が折れたならば言ってくれ。……もう、二度と立ち上がれないと」

「……お願い、します!」

 

 

 せめて、最初ぐらいは覚悟を示し堂々と。己の師を睨みつけ、少年は頭を下げた。ここに、ベル・クラネルが体験する地獄が幕を開けることとなる。

 

 

 青年が言った通り、最初の3日間は少年にとって楽しかった。素振りも含めてナイフの扱いの基礎を叩き込んでいるタカヒロだが基本として優しく指導しているし、肉体的な負荷はかかっているが、昼食だって笑顔が生まれる。

 相手の攻撃を見て力が入っているポイントを判断し、この世界においては漠然としている力学的なエネルギーが集中する場所を把握し相手の攻撃を把握する。まだ防衛という段階までは進んでいないが、非力な腕で渡り合うためには重要なことだ。

 

 

 一方のタカヒロからすれば、「この少年は異常である」と言って過言ではない。

 

 基本として、呑み込みが早すぎる。本当に把握できているのかと疑問を抱くことが多々あったが、模擬戦闘やダンジョンでモンスターを相手にテストをしてみれば基準点はクリアしている。応用となればまだまだ怪しいものだが、こればかりは場数が足りていないために仕方がない。

 スポンジが水を吸収するように、次々と戦いの基礎を。相手や周りの状況を広く見て、“弱点”と言うよりは攻撃が通じやすく、逆にこちらが受けるに適したポイントを見つける術を身に付けている。

 

 加えて少年は零細ファミリアの特権を活かして毎晩ステイタスを更新しているのだが、タカヒロからすれば全くの別人と判断してしまう程のアビリティの伸び具合を見せている。力や速度が前日までとは全く変わっており、書物で身に付けたアビリティの成長に関する内容とは程遠い。

 とはいえ少年を否定していては始まらない上に現実であるために、彼もそのイレギュラーを受け入れている。まるで、成長ではなく飛躍を見せる少年に応えるために、彼も鍛錬の内容を吟味し返した。

 

 

 そして内容は進み、佳境の1つを迎えることとなる。タカヒロはダンジョンでも使用していた2枚の盾を用意しており、今までと違う態度に少年も覚悟を決めていた。

 楽しい時間は終わったのだと。正直なところその時間だけでも大きく成長できたことを実感できているが、真に迫るならば乗り越えなければならない壁がきたのだなと、恐怖に震える心に鞭を打つ。

 

 “全く普通の盾”を仕舞って鎧と似たトゲのある金属製のメイスへと持ち替えたタカヒロは、防いでみるよう少年に指示を出す。軽く振り下ろされた一撃ながらも少年は教えの通りに最も力が働きにくいメイスの根元にナイフを当て、攻撃を防いだ。

 速度も力も込められていないため、振り下ろされた先ほどのメイス“神話級 アゴニー”はそこで止まる。これが例えばオークというモンスターが持つ大きな棍棒だったとしても、少年は同じ防御手段を取るだろう。

 

 

「回避という選択を除いたとして、攻撃の防ぎ方には大きく分けて二種類ある。今のベル君のように真正面から止めるのと、相手の力を受け流す方法だ」

「受け流す……?」

 

 

 もう一度前者を試してみようと言って、彼は武器を振り上げてベルに向かって歩き出す。振りかぶられたメイスの非常に遅い一撃を防ぐために、少年は短剣を構えて真正面から対峙した。

 

 

「ぐああっ!?」

 

 

 しかし、襲い掛かったのは少年の身体ごと吹き飛ぶ衝撃だ。スキルを調整した彼の一撃は、例えゆっくりとした動きでも、レベル1のベルでは到底ながら受けられない程の威力を発揮する。

 吹き飛んだ身体を起こそうにもマトモに受けた右手は痺れており、右肩から先が千切れ飛んだのではないかという衝撃に息が上がって瞳孔が縮み上がる。視線に映るは、敵・味方を含めて今までに見たことのない戦士の姿。

 

 

――――怖い。

 

 

 彼に対して抱く、初めての感情。明確な殺気を向けられ足が竦み、立ち向かって戦うという意識は容易く刈り取られ消え失せる。強くなるために足掻くと決意したはずの心が、まるで茹でる前の冷麦のようにいとも簡単に折られてしまう。

 しかし、そう泣き言を口に出す暇はない。これが実戦ならば、自分は既に死んでいる。そう考え、目の前に立ちはだかる壁を倒すために今まで以上の覚悟を決めた。

 

 良い傾向だ。と、威圧を掛けていたタカヒロも安堵する。強くなるためには立ち向かうことを知らなければならず、負けると分かっていて挑むことも1つの経験なのである。反撃の鍛錬はまだ先なのだが、タカヒロは相手の攻撃を受けることを選択した。

 もっとも、ダンジョンという実戦において負ける相手に挑むのは阿呆の類だ。今現在は死ぬことのない演習であるために憂いは無い。同じことを考えているベルも、タカヒロにダメージを与えるためにひとまず右の脇腹に一撃を入れ―――――

 

 

――――自分は今、何を攻撃した?

 

 

 手に持つナイフから伝わる衝撃に、頭の中が空になった。

 ゴブリンやコボルド等を切り裂いた時とは程遠い。かつての独学の鍛錬で、そのへんの金属の鎧を殴った時ともまるで違う。今の一撃で受けた精神的な衝撃は、言い表すに難しい。

 

 立ちはだかる巨壁は、物理的には2メートルも無い程だ。しかしその実乗り越えるならば、いかなる類の防御壁を超えるよりも難しいことは読み取れる。

 ホームの外で見た、圧倒的とも言えるナイフの扱いを見て勘違いしていたのだと。この人が持つ真の立ち回りは強靭な防御力があってこそ成立する物なのだと、ベル・クラネルは報復型ウォーロードの神髄を見出していた。

 

 

「防御力が絶対と言うつもりはないが……いかなる手数、いかに強靭な攻撃も、通じない相手には隙となる」

 

 

 そんな基本的なことは分かりきっている。それでも、彼に言われると重みが違う。

 では、どうすればいいか。否定という前座で始まった彼の実戦講義は、ベルが用いる戦闘スタイルのおさらいと利点・欠点の明確化で幕を開けた。

 




次回、ヒロインの一人がようやく再登場。
ゲロ甘惚気パートが書きたいですが、まだまだ先になりそうです。

それにしても世界観のクロスオーバーは、どんな風に実装しようか迷いますね。
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