Act.8:Gods and Spirits(神々と精霊達)
Act.8-1:アイズ・ヴァレンシュタインを探しに24階層へ向かえ
Act.8-2:とある神の使者と会って会話せよ
Act.8-3:とある神と会話し、力を貸せ
Act.8-4:50階層を調査せよ
Act.8-5:59階層にてリヴェリア・リヨス・アールヴを守り切れ
Act.8-6:精霊の分身を殺し、ロキ・ファミリアの安全を確保せよ
Act.8-7:【New】59階層における出来事について、神ウラノスと意見を交わせ
「毎度立ち話もなんなので、椅子を用意させて頂いた」
「約束した装備の件から意識を逸らそうとしても無駄だぞ?」
「hahaha...」
此度における彼の立ち位置は、語り部でもある。アイズに預けたアミュレットにより序盤の光景を目にすることが出来ていた二人だが、精霊が放った二連続の大魔法によって映像を転送するマジックアイテムは故障してしまっていたのだ。
闇に溶けるような黒衣の人物フェルズと、闇の中でも微かな光に輝くような黒い鎧――――ではなく、本日は御洒落したワイシャツ姿である青年タカヒロが、祈祷の間でウラノスの前に座っている。いつかのデートの時と似て相変わらずのスタイルだが、気に入った
それはさておき、話の内容は、他でもない59階層でロキ・ファミリアが遭遇したイレギュラー。アイズが持っていた水晶のアミュレットを通じて序盤の映像だけは全体を把握していた二人と、一方で実際に戦闘を行った一人が、各々の意見を交わしている。
「さて戦士タカヒロ。君は、精霊とやらをどこまで知っている?」
やや気さくさを残し、フェルズはタカヒロに質問を投げた。
もっとも、タカヒロが口にできる精霊に関する知識など素人程度でたかが知れている。固有名称となっても有名どころしか知らないし、この世界における精霊の存在などサッパリだ。
精霊とは自然現象を崇め讃えた存在であり、基本として一つの精霊につき一つの属性を有している。例えば有名どころで言えば火(炎)の精霊であるサラマンダーがそうであり、複数の属性を持つ者は存在しない。
その他の特徴としては、存在としては神に近いところがある。ここまでは、セオリー通りながらも基礎程度の知識。これを知っているとなれば話は早いなと呟くフェルズだが、タカヒロの報告を耳にした3人は、揃って気になるところがあるようだ。
「戦士タカヒロが口にした、精霊の分身が放った詠唱の内容なのだが……皆も、気づいただろうか」
力強く、静かにウラノスが呟く。少しだけ陽気さが見えていたフェルズの気配も影を潜め、ウラノスの問いに対し、タカヒロが据わった口調で言葉を発した。
「四大精霊、またの名をエレメンタル。そのうち2つの存在の名前が、詠唱の文面に組み込まれている点だろう」
「ああ、その通りだ」
四大精霊と呼ばれる存在がある。四大元素である火・水・地(土)・風を司ると言われており、これらは“エレメンタル”とも呼ばれている代表的な存在だ。
それぞれ“サラマンダー”、“ウンディーネ”、“ノーム”、“シルフ”との名前が付けられており、例えば炎属性攻撃を大幅にカットする羽織りもの“サラマンダー・ウール”は有名な装備だろう。タカヒロが引っ掛かったのは、これら4つのうちサラマンダーとノームの部分だ。
4つの元素は世界の柱。創造主の手によってカオスの中から放出され、様々な物質がかたどられたと言われている。
互いに反撥しながら混ざり、固まり、現世の均衡と調和を保つ存在。天界の及ぼす力をとおして、それらは世界の上と下の全てのものを生み出すと伝えられてきた。
50階層においてヘスティア・ファミリアの二人が到着する前の光景をフィンから聞いたタカヒロは、フィンが口にした、相手が放った詠唱の内容が気になっていた。ファイアーストームを受けた際も詠唱は耳にしており、一字一句までは覚えていないが、重要と思われる点は復唱できる。
先の四大精霊のうち、炎属性魔法の時はサラマンダーの化身。岩による攻撃の時はフィンからの又聞きながらも、ノームの化身との呪文を唱えていたのである。また同時に、トニトルスの化身として雷の槍、ルクスの化身として光の咆撃を使うことができたことも当時聞いており、この場において伝えられている。
トニトルスとはラテン語で雷を示すのだが、この精霊となるとタカヒロも知らない内容だ。ルクスも同様であり、光の精霊となるとウィル・オー・ウィスプならば知っているが本来の意味は人魂の類である上に、ルクスは聞いたことがない。
とはいえ、自然界における様々な属性の魔法を使う存在となれば輪をかけて謎である。どちらかといえば精霊ではなく魔導士や魔術師と言われた方がシックリくるのだが、今だ正体は不明のままだ。
例えばイフリートの分身が、弱火・中火・強火と強さを変えた炎の魔法を使い分ける、となれば特に不思議なことではないだろう。先ほどの疑問のように、最低でも4属性の魔法が使える精霊、というのが、精霊と言う存在の定義から矛盾しているのだ。
つまるところ、あの精霊の分身はサラマンダーやノームから生まれた分身ではない。もっともフェルズとしては、それよりも気になる点があるようだ。
「……で。その四大精霊の力を使う者、つまるところ神の化身と呼んで差し支えないモンスターを、貴公は単独で葬り去ってしまったわけか」
「神の化身?小魚にクジラの尾びれでも取り付けるつもりか、笑わせるな」
そもそも化身とは、神や仏、はたまた精霊が姿を変えて現れること。この世界における精霊とは殴り合ったことがない青年だが、あの程度の有象無象が化身などとなれば鼻で笑う内容である。
戦いの際に
とはいえ、分身と言っても侮れない。超高速詠唱もさることながら、使う魔法が、リヴェリアが放った大魔法を上回っていたのもまた事実だ。
一般的な魔導士から見れば規格外の威力であるために、神のような、と表現してしまっても差し支えは無いだろう。少なくともフェルズはそちら側の立場にいるために、先の評価となっている。
そして、ロキ・ファミリアの突撃の時に現れた、地下から貫くようにして生えてきた防御壁。明らかに強力な防御力を誇っていたアレは2体目の精霊の分身のものではないと、直接目にしたタカヒロも感じ取っている。
ならば60階層より下に穢れた精霊の本体が居ると言うのが、ウラノスの考えだ。では誰がそんなところから宝玉を運べるかとなると、3人は揃って赤髪のテイマーを思い出す。
宝玉を生む存在と、オラリオを滅ぼす存在。何らかの目的があって、赤髪のテイマーと闇派閥は協力しているのだと予測できる。
あれ程の実力、かつモンスター所以の再生能力があれば、50階層以下へ赴くことは可能だろう。なぜ精霊と関わりがあるのかは未だ不明だが、謎は少しずつ解決しているように見て取れる。
「我が愛せし“カレの命の代償”……カレとは、かつての古代において、ダンジョンで散っていった英雄たちのことだろう」
嘆くようにウラノスが呟き、フェルズも顔を逸らしている。タカヒロも考えがそちらに向き、古代とは何を指すのか問いを投げた。
古代とは、かつて神がまだ地上へと降りていなかった頃、約1000年前の時代。天界に居る神の意志を聞き、モンスターを討伐するために立ち上がった地上の者へと力を貸し、共にダンジョンへと挑んだ存在が居た。
それが“精霊”。雑な説明をすれば、神の恩恵が無かった頃に、人がモンスターと戦うための力である。精霊そのものは普通に見ることができ、触れ合うことができ、人と似た姿かたちをしていたという。
理性が壊れた程度ならば未だ生易しいかもしれないと、ウラノスが言葉を発した。モンスターに“食べられた”ことで“存在が反転”し、“怪物”に取り込まれた存在は、食らう、奪う、溺れると言った原始的な感情に基づき行動する存在に成り下がっている為である。
他の生命を乗っ取り、己が持つ力の一部を使える存在。穢れた精霊の分身と表現したが、分類をするならば、もはやモンスターと表現して差し支えは無いだろう。
確かにタカヒロが対峙した精霊も、上半身だけだが人と同じ形を成していた。だとするならば精霊と捉えられるが、複数の属性による魔法は、先の精霊という存在の定義から矛盾する。
故に、1つの考えが浮かんでいる。恐らくはウラノスとフェルズも感じ取っているのではないかと思い、言葉を投げた。
「薄々感じているのではないか?蛙の子は蛙と言うだろう」
「いや、オタマジャクシでは」
タカヒロ、フェルズの返答に対して無言で盾を取り出し振り上げる。
「待て待て待て、言ってみたかっただけだ。ともあれ、あの分身が複数属性の魔法を使用できるとなると、その生みの親は――――」
精霊ではなく、その一歩先。限りなく神に近いような存在。恐らくは複数の精霊を取り込んでおり、下手をすれば神そのものである可能性もある。
それが生み出した宝玉とは、己の力の“化身”。そのようなものを生み出せるとなれば、それこそ神でなければ不可能のようにも思えてくる。
そもそもにおいて、原子と違って元素とは混ざるモノ。ならば精霊の力が混ざってしまっていても、理屈上は筋が通る。
問題は、“誰が混ぜたか”、もしくは“誰に混ざっているか”という点だろう。オラリオを破壊するという闇派閥と違って、こちらは意図が全く読めない。
「……フェルズ、極彩色の魔石を見せてもらえるか」
「もちろん、これだ」
何か思い立ったことがあるのか、タカヒロは魔石を手に取りつぶさに観察している。そして、目にしたことで疑惑が確信へと近づいたことを確認した。
かつて一度目にした時に感じた、違和感の正体。極彩色と表現できる程に鮮やかな色で塗りたくられているが、そこに、とある色をベースとしたモノが含まれていないことに気づいたのだ。
己にとっては、最も大切な者のシンボルカラー。弟子が好意を寄せる相手が使う“技”の属性が持ち得る、元素カラー。偶然だが己が秘密基地で作った“装置”も、その色がモチーフであるモノを発生させる。
タカヒロが口にした「ヒントは色だ」との言葉で、フェルズは、もう1つあった魔石をウラノスへと渡す。つぶさにに観察するウラノスは、全体像を見てハッとした表情を浮かべることとなった。
「まさか、この色彩は……」
「気づいたか?極彩色とは様々な色を塗りたくった状態を示す言葉。この魔石は確かに極彩色と言えるような色調だが、風のシンボルカラーである“緑”をベースとした色がない」
元素とは、それぞれに固有の色、シンボルカラーのようなものを持っている。サラマンダーならば赤であり、ウンディーネならば青、ノームならば橙、そしてシルフならば緑である。
穢れた精霊の本体は様々な属性が混じっているが故に、その影響を受けた魔石は“極彩色”。そう考えれば意外と納得できてしまう程の内容であり、タカヒロはそう口にした。
もっとも、シンボルカラーというのは絶対的な正解は無く宗教などによって変わるものだ。最も多いのが空気と地面の色が逆になっているパターンであるが、此度の場合は詠唱に“ノーム”が出てきており橙をベースとした色が魔石に在るために、風が緑を指すのだろうと推察している。
赤髪のテイマーがアイズのことを“アリア”と呼んで、執着したような動きを見せていたことは知っている。とはいえタカヒロも、アリアという名の精霊は聞いたことがない。
しかし、四大精霊の1つシルフと同類である“エアリアル”という単語ならば知っている。風の精霊を指す言葉であり、とある人物が使う技の名前とも類似していることも気づいていた。
アリアという名を聞いてみれば、古代の大英雄“アルバート”の生涯に寄り添った風の精霊だろうとフェルズは答えている。つまり1000年前に存在した者であり、アイズと何かしらの関係はありそうだ。
もっとも、だからと言って、どうということはない。たとえ何か秘密があろうとも彼女は彼女であり、それ以上でもそれ以下でもないことは明白である。
実のところ、ウラノスはアイズとアリアの関係に気づいている。もっとも、彼の口から言葉にして良いモノではないために口を閉ざしたままだ。
「風を示す色のない魔石……つまり風の精霊は、まだ犠牲になっていないということか」
言葉を零すフェルズ。あくまでもタカヒロの推察が正解という仮定の話だが、そう考えるのが妥当だろう。
事実、59階層においても風に関する魔法は無かった。そして複数の精霊の力を持った存在を相手にしては、風の精霊とて既にやられている筈だ。そもそもにおいて風の精霊がダンジョンへと挑んだのかも不明であるが、今となっては確かめようがない。
「そして、風の精霊を取り込むことで……エレメンタルという存在の化身として、神へ昇格しようと企んでいる」
「なんのために」
そう言われても、本人に聞かなければ見当もつかないのが実情だ。しかしタカヒロは、ここで24階層の出来事を思い出す。
「ダンジョンの封印を突破し、空を見るがために神になる、だと……!?」
「相手は獣畜生だ。思考回路は、最も単純に考えた方が正解かもしれん。コレが神の成り損ないだと言うならば……オラリオに居る神々とて、目的や程度はどうあれ、趣味に走るという似たような傾向はあるだろう」
今はモンスターであるために祈祷に従い大人しくなっているが、神となれば話は別。持ち得る“
そう言われると、神であるウラノスは何も言い返せない。身勝手な神々が多い事は彼もよく知っており、オラリオに降りてきた時も、煮え湯を飲まされたことは1度や2度では済まない程だ。
しかしタカヒロとしては、仮説が出来上がったとしても疑問が残る。かつて神が居ない時代の存在ならば何故、1000年もの間、表に出てくることがなかったのかという点が一番だ。
7年前の暗黒期、失われた7日間においては“
実の所の正解はアイズ・ヴァレンシュタインが原因であり、ウラノスは隠すべきではないと考えて正解を口に出す。9年前にダンジョン内部において初めて“エアリエル”を使用したことで、風の精霊の事を感じ取った穢れた精霊の分身が活動を開始したという内容だ。ならばあの穢れた存在は、やはり風の精霊を求めているとみて大きな間違いはないだろう。
活動の根源は分かったものの、ここから先は情報が無いために手づまりである。何かしら情報を持っているであろうロキ・ファミリアを少し突いてみることを口にしたタカヒロだが、そのタイミングで1つの事を思い出した。
「ところでフェルズ、魔石が無いモンスターというのは存在するのか?」
「いや?魔石とは文字通り、モンスターの核だ。それがなければ、1分も経たぬうちに灰に還ってしまう」
「しかしだな……いや、目にしなければ信じられんか。了解した」
呟きながら視線を背けるタカヒロは、何か引っ掛かるところがあるらしい。それでもフェルズが口にするように魔石が無いモンスターなどあり得ない話であるために、これ以上口を開くことはなかった。
そして何かティンときたところがあったのか、少し目を開くとその場をあとにして廃教会へと足を向ける。ウラノスとフェルズの記憶から“5年前の事件”が掘り起こされぬまま、よからぬ時間は流れるのであった。
本話はあくまでも解釈の1つですので、ご理解いただけますと幸いです。“極彩色”と言いつつ具体的な色が無かったり原作中のヒントが少なすぎるので、結果としては的外れかもしれません。