その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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GrimDawnミニ知識:攻撃能力・防御能力って何?
A.攻撃能力は、相手への命中率、クリティカル発生率に影響する。防御能力はその逆で、被打率と被クリティカル率。
 本作品での攻撃能力の扱いはステータスの“狡猾さ”と合わせて“相手へ攻撃を当てるため、急所を狙う技術”、防御能力ならば“受け流しなどの被打回避技術”としており、ゲームとの意味を近づけています。
 (例として“防御能力からくる小手先の技術”など、時折本文中に出てきます。)


9話 頑張る弟子

「ッセイ――――!」

 

 

 少年が手に持つナイフが走り、一つ目のカエルのようなモンスターの急所を容易く切り裂く。3匹がかりで飛びかかってきた有象無象の群れに対して行われた流れ作業のようなその光景だが、作業者が見せる集中力は、もし見学者が居たとしても計り知れないものがある。

 

――――いかなる手数、いかに強靭な攻撃も、通じない相手には隙となる。

 

 師が口にし指導した、この言葉を使う実践。わざと相手に攻撃をさせて、自身は受け流しなどを使用して最小限の動きで回避することで隙を作らせ、反撃する。

 相手を広く見る洞察力もさることながら、高い攻撃能力と防御能力、そして狡猾さが成し得る高等技術の賜物だ。単身で数多の死線を潜りぬけたウォーロードが身に付けた効率よく戦闘を進めるための実践的な技術を、ベル・クラネルは学び試している。なにも、自ら攻めるだけが攻撃ではないのだと学んでいた。

 

 攻撃者に対して電光石火の速さで反撃を浴びせるために、極めて鋭い準備状態に入る。いわば“カウンターストライク”、その少年バージョン。

 

 青年が愛用するトグルスキル型の“カウンターストライク”のように自身の攻撃とは別枠かつ常時確率発動はできないものの、逆に任意に発動できる点がメリットだろう。もっとも、使用者が持つ技術に左右される点は致し方ないだろう。

 少年が使った際の成功率、現時点で8割程度。そのカウンターから急所を穿つことができればモンスターを屠るのは容易いものであり、逆に己の運動量は格段に少なくなってることは明らかだ。

 

 最初は二刀流が魅せた暴風に焦がれた少年だが、一方でこんな立ち回りがあったのかと、技術を習得するたびに興奮を覚える。盾や鎧で受けてから行うものがカウンターとばかり思っていた少年にとって、最初に目にした時の衝撃の大きさはいかばかりだろう。

 むしろこの戦い方は、ライトアーマーの高い機動力だからこそできる代物だとすぐに分かる。ヘビーアーマーかつ2枚の盾を使う己の師は対極に居るために何が学べるのかと不安もあったが、そんな感情を抱いてしまったことを恥じていた。

 

 

「でも、カウンターを意識するだけじゃダメだ。こっちから仕掛けた方が良い場合もある、広く見なくちゃ務まらない。複数体が相手なら、その次までをちゃんと意識して見なくちゃ……!」

 

 

 己の師匠、タカヒロという青年の実践訓練が始まってはや一週間と少し。ただナイフを殴るように使っていた、駆け出しの少年はもう居ない。相手の攻撃を右から左へと受け流し、自身は最小の力でもって相手に致命的なダメージを与えている。

 

 

 少年は、技術の習得が早かった。まるで天賦の才と表現して過言はないほどの上達速度に、少年の師匠の視点においても驚きを隠せない。

 攻撃と防御において相手の動きの全てを見て、最も通用するであろう箇所に一撃を叩き込む狡猾さ。そのイロハを、少年は恐ろしいほどの速度で吸収しているのだから無理もない。

 

 

 だからこそ第一の壁を乗り越え、地獄が来るのも早かった。

 

 

 一言で言えば、その鍛錬のほとんどが地獄だった。殺気を向けられただけで本当に死を覚悟する程に容赦がなく、それこそ死ぬ覚悟でナイフを振るえど幾度となく蹴り飛ばされる。ポーションで応急処置はしているものの、心身ともにボロボロの状態でホームに担ぎ込まれることも毎日のことだった。

 少年が今思い返せば実戦における窮地を再現するためなのだろうが、徐々に徐々に体力を削る嬲るような攻撃や、気絶しかけの所に弱い蹴りを入れて意識を覚醒させられ、苦痛と絶望を同時に、何時間にも渡って味わうことも何度もあった。

 

 逃げれば死ぬ。刃向かわなければ死ぬ。畏れを抱きガクガクと貧乏ゆすりよりも速く動く両足に鞭を入れ、効かぬと分かり切っている相手に向かって、少年は身を削りナイフを振るう。

 明らかに手を抜いているということが分かる相手は少年に合わせた攻撃を行っており、一方で不意の一撃や実際に蹴り飛ばすようなことも行っている。身体が“死ぬぞ”と警告を発するなかで続けられる戦闘は、少年からすればダンジョンとすら比較にならない極限状況での練度の高い鍛錬となっていた。

 

 それでも恐怖に負けて理性を捨ててしまい昔のようにナイフで殴るようなことをすれば、少年の師は容赦をしない。相手の足が動いたかと思えばすぐさま肺の空気がすべて押し出され、待っているのは苦痛と絶望の焼き直しだ。

 その蹴りを受けないために、少年は体に鞭を打って立ち上がる。これが実戦ならばとっくに死んでいるのだと己の心に活を入れ、心に灯る炎を表すかのような赤い瞳に力を入れる。

 

 

 そんな死と隣り合わせの鍛錬を乗り越えてきたからこそ、今のベル・クラネルがそこにある。

 

 

 よくよく考えれば冒険者になって数日、そこから師を得てたったの一週間だ。例えレベル5や6の冒険者が師になろうとも、ここまでの成長は望めないだろうと思えてしまう。

 どれだけ大きな尾びれを付けても優しくは無い鍛錬だが、彼だからこそ今の自分があるのだと強く思える。そして鍛錬においては温さが全く無い己の師が放つ言葉は、いつも少年の心に突き刺さる。

 

 

――――例え階段を往復する鍛錬でも、ダラダラと行う100往復なら辞めるべきだ。

 

 

 少年にとっては、その言葉の意味が分からなかった。反論するわけではないが、手を抜いているつもりはなく全力で走っている。終わった後は息が上がるし、足だってパンパンだ。

 それが全力では無かったと知ったのは、鍛錬で“死ぬ”と覚悟した時だ。師が言うように、本当の限界と比べれば、今までの鍛錬などは“ダラダラ”と表現するに相応しい。

 

 だから、少年は20往復に変更した。ステイタスの向上もあれど一往復にかかるタイムは3割ほども速くなり、しかし終了後は両足を鎖で固定されているかのような激痛に襲われる。とてもではないが、いつもは次に行っているスクワットなど出来る状態ではない。

 しかし、上半身はまだ動く。腕立て伏せができるならばと考えこちらも全力で実施すれば腕もまた鎖で縛られることになり、自然と身体は動けなくなっていた。

 

 大の字に倒れ込んで空を見上げ、休憩すること3分程度。本当に少しだけ足の感覚が戻ってきたと同時に、ベル・クラネルの身体に蹴りが入れられ宙を舞った。

 吹き飛ぶ際に肺から熱い空気が絞り出され、力を入れるために呼吸をしたら壁に打ち付けられて再び肺の空気が押し出される。体中に激痛が走り、痛いと感じる前に涙が出た。

 

 まるで嫌がらせ、控えめに言っても“虐め”である。動けない相手、それも格下で年下である少年にするようなことではない。

 力が入らない、と感じていた両足に鞭を打ち、顔をぐしゃぐしゃにして少年は立ち上がる。辛うじて感覚を取り戻した足を使って、何度も何度もつまづきながらも間合いから逃れねば。止まったままでは、あの苦痛と絶望が待っているのは明らかだ。

 

 だから、少年は抵抗した。鍛錬で使っている武器は無いが、相変わらず少年の限界に合わせて加減してくれている相手の一撃に存在するであろう隙を見逃さぬよう広く見る。

 相手がメイスによる攻撃のために力を入れるであろう、腕を振り降ろし始めた一瞬。針金で固定されたかのように痙攣する腕に無理やり力を入れてナイフの側面を当て、メイスが辿るラインをずらすという完璧な受け流しを行い精一杯の抵抗を行った。

 

 

「見事――――!」

 

 

 掛けられた言葉は、たったそれだけ。少年自身何をやっているか理解せずに半分ほど条件反射で行われたこの一撃は、ベル・クラネルの成長を嫌という程に示していた。踏みぬかれた麦が伸びるかのようにして、少年は確実に自力を身に着けている。

 到底ながらレベル1が反応できる速度でも状況でもなければ、内容でもありはしない。ステイタスに影響される速さはさておき、満身創痍で気絶寸前という極限状態を前提として言えばレベル5ですら行えない者がどれだけいるかとなれば大半が占めるだろう。タカヒロ自身も、見事と表現する他に言葉が無かった代物だ。

 

 しかし、ここまでだ。一度限界を超えた少年の身体は今度こそ言うことを聞かず、青年の腕の中に倒れ込む。

 意識を手放す寸前に聞こえた称賛の声に、己の頬が緩くなるのを感じながら。少年は満足げに、安らかな顔で眠りについた。

 

 

 

 これが昨日の話であるなどと話したところで、誰が信じる中身だろうか。師であり目撃者でもあるタカヒロですら、未だに現実として受け入れることに若干の抵抗を示している。

 

 しかし、ベル・クラネルが歩んだ確かな道。それを示すかのようにステイタスも技術に負けじと飛躍的な向上を遂げており、この階層のモンスター相手では撫でるかのようにして命を奪うことができる程にナイフの扱いに長けている。

 本音はもっと下へと潜りたい少年だが、師の言いつけであるために断固として己の欲望を封じていた。とはいえ流石に心残りはあるのか、6階層へと通じる正規ルートに一度だけ顔を向けると、5階層のモンスターを倒すべく表情を引き締める。

 

 

 

 ズシンズシンという音が響いてきたのは、そのタイミングであった。この階層にしては大型のモンスター、それも足が速い。気づいたときにはまだ遠かったが、すぐそこの曲がり角にまで迫っている。

 戦うか、引くべきか。少年は咄嗟に退路を確認し、いざとなったらバベルの塔1階にまで駆け上がることのできるルートを思い出す。コンマ数秒でその処理は完了し、身体の位置だけ逃走ルート上に変更し、目の前に来るであろう敵を見定めた。

 

 

「ミノタウロス!?」

 

 

 驚きは隠せないが、そのモンスターは知っている。大きな角を持つ、牛の頭をもった筋肉質なモンスター。全長は2メートルを超えており体重も軽く100kgを超え、その身の丈のほどはある石造りの天然斧を持ち合わせ、5階層程度に居る冒険者では赤子の手をひねるよりも容易く葬られてしまうモンスターだ。

 本来ならば15階層付近に居るモンスターが、なぜこんな5階層という浅い領域に居るのかは分からない。しかし敵の目は明らかに少年をとらえており、抵抗しなければ死ぬであろうと痛い程に感じ取れた。

 

 野獣が吠える。次の獲物、死ぬのはお前だと知らしめるような咆哮が、少年の身体に突き刺さる。

 

――――来る!

 

 少年は咄嗟に身構え、バックステップで初手の縦振りを回避した。地面は軽々と割れており、マトモに受ければ己の身体は消えて無くなっていただろう。

 ゾクリと背が震えるも、それに意識を向けている余裕は無い。確かに死の気配は感じたが、“あの鍛錬”と比べれば生きる道は遥かに多く感じ取れる。ならば逃げるにしろ相手にするにしろ、目の前の脅威に立ち向かうだけだ。

 

 小石が舞う中、地面をたたき割った斧と、相手の目線や動作を見逃さぬよう広く見る。反動なのか斧は腕ごと宙に浮いていると思ったが、相手はやや姿勢を低くしており明らかに足に力を入れている。

 ならば、繰り出されるは突進術による突きの攻撃。先ほど見せたバックステップを繰り返せば、己は確実に吹き飛ばされることになるだろう。故に少年は、脱出ルート側である左へと回避するために足腰に力を入れ――――

 

 

「……えっ?」

 

 

 自分を襲うミノタウロスが、眼前で切り刻まれたことに驚愕した。真正面から返り血を浴びてしまうも、反射的に目から口の部分だけは手でガードできたのは幸いだろう。

 しかし、その感情もすぐに変わる。ミノタウロスを相手に放たれた切っ先は目で追えたが、反応することができなかったことに悔やんでしまう。これが実戦で切っ先が敵ならば、ベル・クラネルはここで死を迎えていただろう。

 

 魔石ごと斬ったのだろう、ミノタウロスという肉が灰へと還る。その向こう、少年から3メートルほど先に佇んでいたのは、血振りを行う一人の少女だ。

 

 

「……大丈夫、ですか?」

 

 

 此方を見つつ血振りを行う整いすぎた容姿は、なんという言葉でもって比喩すべきだろうか。ダンジョンの中という薄明かりに対しても輝きを発する程に綺麗な黄金の髪と、己を見据える同じ色の透き通った瞳。背丈は少年自身と同じぐらいだろう。

 例えるならば、人形という言葉が適切かもしれない。それほどまでに整いすぎた容姿を持つ少女、剣姫の2つ名を持つアイズ・ヴァレンシュタインを眼前で見上げた少年は――――

 

 

「だ……」

「……だ?」

「だああああああああっ!?」

 

 

 いくら精神と覚悟を鍛えても、己の師との特訓において男女関係が含まれる事はない。そして乙女にも負けぬ程の初心故に、そちら方面への耐性などゼロである。

 

 あまりの感動と少女の綺麗さ、そして己の感情から湧き出る一目惚れの情熱に理性が完膚なきまでに負けてしまい。少年は顔を真っ赤に染め上げると、脱兎の如く逃げ出した。

 

 




最後はセオリー通りですが原作リスペクトで纏まりました。
鍛錬の成果が出ており原作以上に成長していますが、まだミノタウロスには勝てません。
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