話が一段落したタイミングで、教会の玄関ドアがノックされる。立っていたベルが扉を開けると、よく知る鍛冶師と、ヘスティアとタカヒロが最もよく知る神の一人がそこに居た。
ベルは顔程度しか知らないものの、タカヒロもまた顔見知りであるヘファイストス。ベルに対してヨッと言わんばかりに右手を上げるヴェルフだが、どうやら、いくらかの話があるようだ。
狭いながらも、二人をソファーへと案内する。ちょうどよくタカヒロがお茶を淹れており、ベルは菓子類が無いかと探すも無かったようである。
零細ファミリア“あるある”の光景だ。許可を得てヘファイストスが贈り物として持ってきた焼き菓子を並べて、その場を何とか凌いでいる。そして彼女は、訪れた理由を口にした。
「ヴェルフがレベル2になれた件について、お礼を言いに来たのだけれど……。何をしたのかを聞いたら、ねぇ……?」
彼女は呆れた表情で、ニッコニコな顔を見せるベル・クラネルを見つめている。もちろんレベル4になっているなどとはつゆにも思っておらず、「なんでレベル2がゴライアスを倒せるのよ」とヘスティアに言葉を掛けていた。
いきなりの急所攻撃を受けてキリキリと痛み始める胃を摩りながら、彼女は視線を合わせない。当時はレベル3だったとしても、僅か2ヶ月でレベル3になりましたなど、例えヘファイストスが相手でも話せる内容には程遠いのが実情だ。繰り返すが、現状はレベル4というオマケつきである。
いくら仲が良くても他のファミリアだぞ。と呟いたタカヒロの助け船には道理があり、ヘファイストスも納得して、とりあえずその話は終了となった。
そして話はヴェルフの内容となり、具体的には鍛冶の話。ベルが使う彼の武器を、今後、どうしていくかという内容だ。
先ほど彼女が口にしたのだが、レベル2になって発展アビリティの“鍛冶”を取得したがために、打つことができる武器の性能が飛躍的に向上する。もちろん、彼のウリである芯の強さも例外ではない。
ランクアップの試しにナイフを打っていたヴェルフを見ていたヘファイストスの感想としては、レベル1の頃から引きこもり宜しく技術の向上に取り組んでいた彼だけに、既に目を見張る程のものがあるらしい。積み重ねてきた努力が、ついに開花したということだ。
わるーい顔をしながら放たれたその言葉につっかかるヴェルフだが、照れ隠しでコホンと咳払いをして、一振りのナイフを取り出している。位置づけ的には試供品としてホルスターに入れられた一品を手渡されたベルは、戦う戦士の目で、その得物を見つめていた。
鍛冶師ではない己が口にするのもおこがましいと思いながらも、抱いた感想としては「比較するまでもない」程。流石にヘスティア・ナイフのレベルには全く届かないが、素材がかつての“兎牙MK-Ⅲ”と同じだと言うのに、品質的には“ミノ短”とタメを張れるほどのものであった。技術力だけでこのレベルに到達しているのだが、その分、製造時間は倍以上がかかっているらしい。
そんな言葉を耳にしたタカヒロがチラッと顔を向けてナイフを流し見ると、ベルと同じ感想を抱いている。実際に手渡されて触れたのだが、感想は変わらない。色々な角度から眺めている。
夢中になっている青年はさて置かれ、装備更新の話が続けられた。先日の通りヘスティア・ナイフのメンテナンス代金は掛からないのとあと2回分はストックがあるために、装備更新となると、取り得る選択肢はいくつかある。
飛びぬけて強力なヘスティア・ナイフに全額を注ぎ込んで、消耗品の左手で防御面を担当しながら技術を稼ぎ、メンテナンス期間を伸ばす方法。左手のナイフに投資・新調して攻撃力を向上させ、最低限の戦闘能力を底上げする。
どちらが好みかとなれば、会話を耳にしているタカヒロ的には前者だが、個人の自由だ。正解などはどこにもなく、青年としてはベルに決定させたいと考えているために口を閉じたままである。
「僕も素人なので見当違いだったらすみませんが、そこまで変わると言うのでしたら、“打ち直し”はどうでしょうか?」
良いかもしれないわね。と間髪入れずに呟かれたのは、ヘファイストスの言葉だ。そのまま二人はヴェルフに視線を向けるも、相手の目は力強く堂々と頷いている。
壊れた鎧については元々の設計も古く、新作となる想定だったために特に問題は無い。今現在はその素材を発注している最中とのことだが、“鍛冶”のアビリティを取得したために、より一層の品質向上が期待できることだろう。
打ち直し。簡単に表現するならば、柄から抜き取った刃物を再成型する行為。言葉の対象となる範囲は色々とあり、例えば、使わなくなった長剣を短剣に再成型するようなことも含まれる。
言葉では“再成型”という三文字で済まされるが、内容としては、非常に高い繊細さと技術が要求される。鍛冶師の中には、新造よりも難しいと言う者もいくらかいる程だ。
もちろん基本設計は踏襲するために完全に一から新造したものよりは劣るが、そこは職人の腕の見せどころ。今まで慣れ親しんできた武器であることに変わりはなく、それがもたらしてくれる安心と信頼は、逆に新造品より優れるところだ。
そしてヘファイストスとの共同作業となった、そこの“ぶっ壊れ”用のガントレット制作作業。超一流の素材を前にした神の本気を目の当たりにしたヴェルフのスキルは、確実に向上を遂げている。
もしも他の鍛冶師がその内容を耳にすれば、途端にヴェルフに対して嫉妬の念を抱くだろう。新しい素材を前にして少女のようになっていたが、ヘファイストスとは、鍛冶を司る神なのだ。
そんな彼女の姿を見たヴェルフの考えとしては、無理に新たなことはせずに、既存の強化版に徹することを口にしている。契約者となるベルも頷いて同意しており、二人は目に力を入れつつ口を緩め、契約と相成った。
本日からヘスティア・ナイフが預けられることとなり、相変わらずの綺麗すぎる摩耗具合にヴェルフもヘファイストスも唸り声を上げかけている。元々のメンテナンス用素材に加え、ベルが貯めたお金の半分である追加料金70万ヴァリスの範囲内で、打ち直しが行われることが決定された。
とここで、ベルからヘファイストスへと質問があるようだ。何かしら?と返す彼女に対して、少年は疑問をぶつけている。
「ヘファイストス様。冒険者の武器は、やっぱり鍛冶職人が作っているのですか?ふと思い浮かんだことが何度かあるのですが、敵が持っている武器などを奪取して、っていうのは……」
「モンスターが使う武器、
「なるほど……。やっぱり最良となると、鍛冶師が一から作った武器が一番なのですね」
「基本的には一から作るけど、全部がそうでもないらしいわよ?風の噂だけど、猛者オッタルが使っている剣が、37階層の階層主、ウダイオスがドロップする固有の武器がベースって」
「やめてヘファイストス!!」
ヘファイストスの顔にダイブして口をふさぐヘスティアだが、時すでに遅し。約1名の顔は、文章の後半が出た瞬間に“堕ちし王の意志”の移動速度をも上回る速さで首が回っており。顔はヘファイストスに向いており、パチンと“兎牙MK-Ⅳ”がホルスターに収められる小気味よい音の余韻と共に、青年は自室へと消えていった。
昔と比べて戦う理由が大きく変わった彼とはいえ、遺伝子レベルに刻まれた本能には逆らえない。モンスター・アイテム、略してMI。彼にとっては麻薬のような存在であり、それが武具となれば反応度合いは猶更だ。
そしてすぐさま、一糸乱れぬ鎧姿となって姿を現す。バサリと布地特有の音を立てフードを被って鎧を鳴らし戦闘態勢を整えると、シイタケおめめをしながら待っていた少年と対峙した。
「ベル君……」
「師匠……」
会話は、たったそれだけである。しかし師弟は以心伝心、互いの考えは既に合致しているのだ。
「37階層ですね!」
「いつ行くのだ!」
「今でしょ!!」
神ヘスティア、己の命日は近いと悟る。装備キチを筆頭とした問題だらけの師弟コンビは、新たな問題が1つ2つ増えたところでまったくもって他人事ムーブを決めていやがるので質が悪い。
流石にリフトは見られては宜しくないので教会の外で使い、二人は50階層へと消えてゆく。虫の息となったヘスティアは、己の肩を揺らしながらも超一流以上の鎧姿に顔を向けてしまうヘファイストスに胃薬を求めるのであった。
=====
その者の姿は、上半身しか知る者が居ない。なんせ、下半身はダンジョンの地面に埋まっているのだから無理もない。蛇足としては、その埋まっている部分を見たことがある者は誰も居ないと言うのが実情だ。
濃い紫色とも表現できる骨で構成された外観であり、基本として人間の骨格と似た様相を成している。周囲には己の眷属である人間骨格を成した骸骨のモンスターが群れを成しており、いつかは来るであろう冒険者を屠らんと待ち構えている。
ガチャリ。
鎧の鳴る甲高い音が、通路にも似た広いフィールドに木霊する。鎧を着ぬモンスターにとっては異音の類であり、すぐに反応を示すこととなる。
1つしか響かぬその音を聞いた37階層の主“ウダイオス”。この階層を統べる主は、屠るべき愚かな敵が、“何故か下の階層から来た”のだと振り返り――――
――――アレって“エンピリオンの化身”じゃね?
とんでもなくヤベーのが目を輝かせて来やがったことに、遅ればせながらも気が付いた。
エンピリオンとは、天界における原初の光。そこに居る神の名称を指し示す言葉でもあるのだが、“邪な者を屠る光”のことだ。
つまり早い話が、どう頑張ってもアンデッドな己にとっては完全な天敵であるということ。エンピリオンの星座によって得られるスキル効果にも、対アンデッドダメージが50%も増加するモノがついているのが特徴だ。
更にはウォーロードを構成する2つのジョブのうち、その片方。オースキーパーと呼ばれる存在は聖なる墓の守護者であり、エンピリオンとメンヒルという天の意思の忠実な執行者にして信仰に篤き番人である。
そして鍛錬を積んだ者となれば、まさに化身の如き権能を発揮するのだ。ケアンの地を支配せんとする邪な神の全てを屠ってきた彼がどれ程の鍛錬を積み如何程のレベルにいるかとなれば、説明するまでも無いだろう。
GrimDawnにおいて存在する、とある2つの宗教。ある者はアンデッドに、またある者はエンピリオンと呼ばれる原初の光に縋り。なんとかして“過酷な夜明け”に立ち向かおうと、“死の目覚め修道会”、“カイモンの選民”となり立ち上がった。
しかし、宗教あるところに戦争を起こしてしまうのが人間である。目的は同じはずの二つの組織は考えや信仰の違いにより、互いに殺し合う様相を見せたのだ。
カイモンの選民は辛うじて死の目覚め修道会に勝利したものの、エンピリオンは応えなかった。名声を失ったカイモン神父はなし崩し的に信頼を失い、結局のところは双方が壊滅し、希少な人類が減少することとなる。
ところで、その原因。エンピリオンがカイモンの神父に応えなかったのは、
オラリオの地に降りた神が示しているように、神様は気まぐれなので仕方ない。神と言う存在は、願えば応えると言うものでもないのだ。
結果として彼が持つエンピリオンの星座の加護の強力さは割合を増しており、最大値のレベル15へと育っているという結果が伴っている。その結果として更なる活躍、ひいては世界を滅ぼさんとした他の神々を薙ぎ倒すと言う偉業を見せており、加護を与えたエンピリオンもニッコリ顔で満足しているのであった。
そしてここにも、そんなエンピリオンの心を示すかのように
こちらも上機嫌でおめめシイタケな弟子が見つめる、ダンジョン37階層というフィールドで。圧倒的な理不尽さによる蹂躙が幕を開け、開幕から四方八方へと剣戟を放つウダイオスの絶叫と共に、数秒後に閉じるのであった。
第3話の前書きにあるアイズのレベルアップイベントが省略されたのはコレが理由です(白目)
リポップ時間的な意味で省略されたのですが、色々と話が挟まったために間に合うぐらいになってしまいました。
ところでGrimDawnにおけるエンピリオンとカイモンの神父の関係は違っており、ネタバレになるのと本作とは関係ないので、本作では捏造しております。
カイモンの選民の好感度を上げて神父と会話すると真相が明らかとなって「ええっ……」となりますので、是非是非お試しください。