翌朝、奏から連絡が来た。曰く、マリアはフィーネだった。いやそれ最初に本人が言ってたよな。「私たちはフィーネ。終わりの名を持つ者だ」とかなんとか。そもそもフィーネってなんだよと思ったが、それについては弦十郎さんが説明してくれた。
先史文明の巫女で、転生を繰り返して疑似的に永遠を生き、ルナ・アタックを引き起こした張本人らしい。とんだとんでもだな。
「あー、つまりなんだ。マリアの魂は消滅して、今はフィーネになっていると?」
「現状では『可能性の一つとしてはあり得る』としか言えん」
今のところフィーネだと断言できる情報はないらしい。向こうが一方的に言っていることだと。ややこしい事になってきたな。もし本当にマリアが『死んでいた』場合、セレナにどう説明すべきか。
「米軍が動いている?」
翼さんから招待されていたリディアンの文化祭に行くか思案しているところに、情報屋から連絡が入った。どうやら米国政府もマリアたちを追っているらしい。正確にはナスターシャ教授が保有している異端技術のデータを狙っているようだ。だとすれば、ナスターシャ教授やマリアたちは『処理』される可能性が高い。ご丁寧に情報屋は米軍の動きを逐一報告してくれている。場所は、港の倉庫街か。
端末を懐にしまいこむと勢いよく地を蹴った。幸い距離はそこまで離れていない。タクシーを拾うよりは走ったほうが早く着く。
現場からふたつ離れた倉庫の屋上に身を伏せる。すでに戦闘は始まっているようだ。建物の中から派手に銃声が響いてくる。その音に釣られたのか、三人の野球少年たちが現場近くをうろついている。そこに不気味な笑みを浮かべた白衣の男が現れた。
男が腕を掲げる。
「あの男、本気か? 流石にそれは見逃せんな」
高みの見物をしている場合じゃなさそうだ。腕を振るい、斬撃を飛ばす。召喚されたノイズはなすすべもなく炭素へと還った。
男と少年たちの間に着地すると、後ろを向いて警句を発する。
「早く逃げろ。ここは危険だ」
警告すると野球少年たちは這う這うの体で逃げ出した。幸い腰が抜けたやつはいなかったようだ。
「何ですかぁ、アナタは?」
この男、錯乱しているわけでは無さそうだ。正常に狂っているのか。この手合いは厄介なんだよなぁ。
正直こいつに用はない。捕縛して二課に引き渡すか。
「通りすがりの探偵だよ。悪いが捕縛させてもらうぞ」
「ふはっ! できるものなら、やってみろよぉぉ!」
白衣の男、ドクター・ウェルは更に大量のノイズを呼び出した。
「はははははっ! いけぇ! そいつを殺せ!」
テンションの高い奴だな。だが、ドクター・ウェルの意思に反して、ノイズは一向に動き出さない。
「はぁ!? おい、おまえら何やってる! そいつを殺すんだよッ!」
それでもノイズは動かない。なぜならノイズたちは今、俺のこと認識できていないからだ。
「くそっ! なんでだっ! なんで動かないんだよぉ!」
「――退きなさい! ドクター!」
おっと真打登場か。
「ノイズも消しなさい。邪魔よッ!」
「くっ! ここは任せましたよ、マリア」
俺を睨み付けながらドクター・ウェルは建物の中に消えていった。ノイズも消滅している。
「貴方、何者?」
「神宮寺紫音。探偵だよ」
「……探偵?」
マリアは訝し気だ。なんでここに探偵が?ってところか。
「こちらは名乗ったんだ。君の名前も聞かせて欲しいな。君はフィーネ? それともマリア?」
「――貴様っ!」
おっと、一気に警戒度が上がったな。だが、マリアの名はもちろん、フィーネの名もテレビ放映されたのだから、一般人でも知っているはず。ああでも、フィーネが個人名だと知ってる人間は少ないのか。
だが、弦十郎さんから聞いたフィーネの印象とは違う気がする。
「そうだ! 私がフィーネだぁぁ!」くらいは言いそうなイメージだったが。
「迷っている?」
「な、なにを!?」
口を衝いて出た言葉だったが、こちらが驚くくらい動揺している。
これは……もう少し泳がせた方がいいのか? まあ、一度くらいは打ち合ってみるか。
「そ、それは!? ガングニールッ!?」
「ただのコピーだ。驚くほどのものじゃない」
俺は黒き槍を構えると、にやりと笑った。
「では始めようか」
コピー能力って一見強そうだけど、実はたいしたことないってパターンが多いような気がします。(一部の例外を除いて)
大抵はコピーする条件が厳しかったり、自分の能力を超えるものはコピーできないといった制限が付いたりしてますね。
主人公のコピーはガワだけです。そもそも自前の武器(能力)使ったほうが普通に強いので、相手の意表を突くときくらいしか使いません。