二課の会議室には俺を含めた七人がテーブルを囲っていた。シンフォギア装者も勢ぞろいしている。ちなみに、響ちゃんとクリスちゃんとはすでに面識がある。奏に誘われてお好み焼き屋に行ったら、ふたりもそこにいたわけだ。もうひとり、小日向未来という娘がいたが、ここにはいないようだ。
「まずは説明してもらいたい。何故貴方があの場所にいたのか」
「職業柄、独自の情報源は持っています。米軍の動きを追いかけていたら、あの場所に辿り着いたというわけで」
「では大量に残されたノイズ被災者の痕跡は……」
米軍の、という言葉は飲み込んだようだ。まあ、響ちゃんとかは敵味方問わず犠牲者が出ることを悲しむ性格だからねぇ。
「あ、あの! 紫音さんがマリアさんと戦ってる映像見ました。あれってガングニールですよね」
まあ、傍目にはそう見えるよな。見た目は全く同じだし。
「実は、俺もガングニールの適合者だったんだよ」
「えぇぇっ! そうだったんですか!?」
「……はぁ。ボス、堂々と嘘吐くのはやめてくれよ。それでなくともこいつは信じやすいたちなんだから」
「すまんな、響ちゃん。さっきのは嘘だ」
「……なんでそんな嘘吐いたんですか?」
あらま、むくれちゃったよ。
「アメリカンジョークだよ。俺はアメリカ人だからな」
「えっ、紫音さんってアメリカ人だったんですか?」
ああ、そういえばあのとき響ちゃんはいなかったか。
「そうなんだよ。日系二世のアメリカ人」
「へー、見えないですね」
……この娘はちゃんと意味が分かってるのかな?
「おほんっ! で、これから貴方はどうするんだ?」
「とりあえずは様子見ですね。連中の目的が分かるまでは大人しくしてますよ」
「ふむ。では……」
「共闘の提案ならまだ早いですよ。そっちには奏も加わって、戦力的には優位な状態でしょう。俺だっていつまでも日本に居るとは限らないんだ。経験を積ませるのは必要でしょう」
「確かにそうだが……」
「子供を戦わせたくないって気持ちは分かりますが、部下を信じるのも上司の務めですよ」
「へっ、そうだぜおっさん。今更引っ込んでろって言われても納得できるか!」
「そうですよ、師匠! 私もマリアさんたちと話し合いたいです」
「……また甘いことを。だが、防人として、私も引き下がるわけにはいかん」
なんだか皆に火を付けてしまったようだ。
それから数日後、俺は奏からの連絡を受けていた。
「ふむ、響ちゃんがねぇ」
「ああ、かなりマズい状況らしい。うちの医療班も言葉を濁してやがる。ダンナが言うには、これ以上戦わなければ浸食を抑えられるらしいが、あいつが大人しくしてるとは思えねぇ。で、ボスならなんとかできるんじゃねぇかと思ってさ」
「随分と気にかけているようだな」
「……あたしの責任でもあるからな」
「そうか。分かった、本人と話してみよう」
そんなわけで、俺は今、響ちゃんと喫茶店にいるわけだが。
「誘ったのは響ちゃんだけなんだけどねぇ」
「響の身体のことですよね。私が居ちゃいけませんか?」
「俺は別に構わないが……」
そう言って響ちゃんに目を向けると、響ちゃんと未来ちゃんは見つめ合って頷き合う。
「……お願いします」
「では、結論から言おう。君を元の身体に戻すことはできる」
「――本当ですかっ!?」
未来ちゃんが身を乗り出して詰め寄ってくる。本当に心配していたんだな。
「響ちゃんの身体からガングニールの欠片、及びその痕跡だけを除去することは可能だ。そうすれば君は普通の女の子に戻れる。装者は引退だ。普通の女子高生として青春を謳歌すればいい。戦いの事なんか忘れてさ」
「……そう、ですか」
響ちゃんは沈痛な表情で俯いてしまった。未来ちゃんが心配そうに覗き込んでいる。我ながらちょっと意地悪な言い方しちゃったかな。響ちゃんの性格上「やったー! じゃあ早速治療をお願いします!」とは言わないだろうと思ってはいたが。
しかしこれは重要なことだ。理解して納得しなければならない。奏の言った通り、この娘は無茶をするタイプだろうから。
「俺はね、大抵のケガや病気は治せるんだ。でも、死んだ人間を蘇らせる事はできない、当然ながらね。まあ、猶予が全くないというわけでもないし、少し考えてみるといい。俺は君の意思を尊重する」
俺は伝票を取って、店をあとにした。そして、ホテルに帰るまでの道すがら、奏から受けたもう一つの報告について考える。
あの男、ドクター・ウェルの言っていた「人類の救済」について。いわゆる月の落下だ。米国の発表に如何ほどの信憑性があるだろうか。発表されたのが真実とは限らないわけだが、あの男が人類の救済などという崇高な目的で動いているとは到底思えない。それが本意かどうかはまだ不明だが、月の落下軌道については調べる必要があるだろうな。