事態が大きく動いた。二課の調査によって米国政府の発表した月の公転軌道のズレを鵜呑みには出来ない事が分かった。次いで起こったスカイタワーのノイズ襲撃。そして偶然訪れていた未来ちゃんが行方不明になった。すわ巻き込まれて死亡かと大騒ぎになったが、事後調査により、何者かに拉致された可能性が高いことが判明した。何者かって、間違いなくあいつだろう。未来ちゃんは響ちゃんの明確な弱点だし。まあ、あの男の独断かどうかは不明だが。
そんなわけで、俺は今森の中にいる。目の前では二人の少女が洗濯物を取り込んでいるところだ。
「こんにちは」
「……誰?」
「――デデッ!? し、調! こいつマリアの言ってたデタラメ男ですよッ! 映像で見た奴デスッ!」
「――ッ! 思い出した」
調が驚きながら飛び退った。俺はデタラメ男と呼ばれてるのか。
「あーあ、せっかく回収したのにぶちまけちゃって、もう一度洗濯しないとなぁ。ああ、そう警戒しなくてもいいぞ。今日は戦いに来たわけじゃないからな」
「じゃあ何しにきたデスかッ!」
「話し合いさ」
「……話すことなんて、ない」
「米国政府の発表した月の軌道計算がデタラメだってことが分かった。テロという行為は褒められたものではないが、君たちの行いにも三分の理くらいはあるんじゃないかと思ってな。こうして足を運んだというわけだ」
「そ、そうデスよッ! 私たちは正しい事をしてるんデスッ!」
「………」
調は無言だ。だが心なしか表情が緩んだようにも見える。
「ひとつ聞かせてほしい。マリアはフィーネなのか?」
「――ッ!」
「マリアはマリア。私たちの大切な仲間。そうでしょ、切ちゃん」
「そ、そうデス! マリアは大切な仲間デスよッ!」
ふむ、これは……。
「もう気付いてるかもしれんが、米軍が本気になってきた。気を付けたほうがいい」
そう言い残して、俺は二人に背を向けた。
それから数日後、哨戒に出た米軍の艦艇がノイズに襲われているという情報が入った。現場に着いてみれば、よく分からない状況だった。眼下では装者たちが入り乱れている。調はギアを纏っておらず、切歌は翼さんに抑えられている。奏とクリスちゃんが二人がかりで相手取っているのは、見たことのない装者だ。バイザーのようなもので顔が隠れているが、あれは未来ちゃんか? 二人の攻撃にいまいちキレがないのもそれが理由か。だが、さすがに二対一の不利は覆らなかった。これで終了かと思ったが、そう簡単にはいかないようだ。
「あのエネルギー量はマズいな」
未来ちゃんのギアが変形し、エネルギーを充填していく。クリスちゃんの位置も悪い。背後にギアを解除した調がいる。
仕方なく俺はクリスちゃんの目の前に着艦した。
「――ア、アンタはッ!」
「伏せてろ」
未来ちゃんのギアから集束された高エネルギー砲が発射された。まずは前面に展開した大型ミラーでエネルギーを拡散させる。それを周囲にばらまいた小型ミラーで反射。それが未来ちゃんの足元に突き刺さる。足場を崩して自由を奪うつもりだったが、そう上手くはいかなかった。
「飛行機能か。中々優秀だな」
「――またアナタですかぁ! 僕の邪魔をするのはぁッ!」
何もない空間から突然ヘリが現れた。あれも異端技術か。
「よぉ、久しぶりだなドクター・ウェル。アンタはいつ見てもテンション高いな。悩みが無さそうで羨ましいかぎりだ」
「余裕ぶっこいていられるのも今のうちだッ! 僕にはこのぉ、ソロモンの杖があるぅぅ!」
ヘリから乗り出したドクター・ウェルは、ソロモンの杖を振りかざして次々とノイズを生み出ていく。本当にろくな事しねぇな。
展開ミラーを使い、拡散ビーム砲で撃ち落としていくが、それでも追いつかない。
「くそったれがっ!」
クリスちゃんがミサイルをばらまいていくが、それでもノイズは減る様子を見せない。かなりの数を呼び出したようだ。
気が付けば未来ちゃんが移動を始めていた。どこに行く気か知らんが、自由にさせるのはマズい。かといってこの場の指揮権は俺にはない。ノイズの殲滅と未来ちゃんの追跡。さて、どちらを優先するべきか。
逡巡しているうちに動きがあった。突然現れた緒川君が調を連れ去り、奏と翼さんのタッグが切歌と戦闘を始めた。既にヘリは消え去っており、ノイズの増加も止まっていた。なら、まずはノイズを片付けるか。