マリアの全世界テレビ中継が始まった。一部の特権階級の非を告発し、月の落下を食い止める為に、皆の力を貸してほしいと。
セレナ、見ているか? おまえは正しかったよ。
マリアは今でも、おまえが言っていた通りの「優しいマリア姉さん」だった。
歌が、聞こえる。
マリアは歌い切った。だが、何も変わらなかった。
「月の遺跡は依然沈黙……」
何も変わらない。何も変えられない。そして、悪い事というのは重なるものだ。押し入ってきたドクター・ウェルがマリアを殴り飛ばす。しかも左腕でだ。
ナスターシャ教授はドクター・ウェルを説得しているが、聞く耳持たないといった感じだ。
「そんなに遺跡を動かしたいのなら! あんたが月に行ってくればいいだろっ!」
部屋全体が大きく揺れた。打ち出されたのか。宇宙に打ち出されたのなら強力なGがかかるはずだが、かなり軽減されている。それでも完全とはいかないらしく、部屋は揺れ、瓦礫が舞う。そろそろ潮時か。
俺は不可視化を解除した。ナスターシャ教授の車イスに手を添え、ミラーバリアを展開する。
「――あなたはっ!」
「喋ると舌を噛みますよ。落ち着くまでそのままに」
しばらくすると揺れは治まった。安定軌道に乗ったようだ。
「いつからいたのですか? 神宮寺紫音」
「名前を憶えてくれて光栄ですよ。マリアから聞いたんですね。ですが問答の時間はありません。貴方にはやるべきことがあるでしょう?」
俺の言葉にハッと我を取り戻し、ナスターシャ教授は動き出した。通信を繋いで、優しくマリアを諭している。
「フォニックゲインか。届くかな、ここまで」
「マリアを、そして人類を信じます」
ナスターシャ教授は忙しなくコンソールを叩いている。程なくして、高まったフォニックゲインが月へと向かって照射された。
「月遺跡、バラルの呪詛。管制装置の再起動を確認。月軌道、アジャスト開始」
そう言い終えると、ナスターシャ教授はコンソールへと倒れ伏した。口の端からは血が零れている。
「上手くいきましたか?」
「ええ、これで私の仕事も終わり」
「それは重畳。では、帰りますか」
「貴方を巻き込んで……えっ、かえ、る?」
ナスターシャ教授が呆けたようにこちらを見る。別におかしな事は言ってないだろうに。
「仕事が終わったら帰る。当然でしょう」
「ですが、帰る手段は……」
言い終える前に【八咫鏡】を装着した。薄暗い室内が、金色の鎧から発せられる光で満たされる。俺ひとりだけなら通常形態でも十分なのだが、今回は連れがいる。宇宙ということも勘案してフルアーマーで展開した。
「では行きましょう。なるべく快適にはするつもりですが、不手際があればご容赦を」
ナスターシャ教授を抱き上げると、金糸の繭で包んでいく。何か言っているようだが、後で聞くとしよう。
制御室の扉を開くと、眼前には星の海が広がっていた。中々に幻想的だが、浸っている時間はない。制御室を蹴飛ばし、推進力を得る。数分後には地球の重力に引かれ始めた。ここから本格的に繭の中の状態に気を配らなければならない。大気構造、温度、重力加速度を調整していく。
そろそろ成層圏に入るな。日本はこっちか。装者たちの気配が感じられない。ギアを纏ってないのか。ならばアスカロンを探る。こっちも装着はしてないようだが、ギリギリ探れる。こっちか、浜辺だな。よし、目視できた。全員いるようだな。
あまり近いと危険なので、ある程度の距離を取って着水する。そのまま滑空して近づいていくが、どうも警戒されているようだ。慌ててギアを纏った翼さんを、奏がちょっと躊躇いながら押しとどめている。ああ、顔が確認できないからか。
仕方なく、頭部の【八咫鏡】を解除する。するとようやく皆の警戒が解かれた。
「やっぱりボスかっ! 今までどこで何やってたんだよっ! こっちは大変だったんだぞっ!」
「ああ、ちょっと宇宙で、なっと」
金色の繭の中から現れた女性に全員が驚愕した。
「「「マムッ!?」」」
一際大きく反応したのは、やはり例の三人だった。
「マリア、調、切歌。心配をかけましたね」
感動の再会だな。でも俺を取り囲んで喜び合うのは勘弁してくれ。ナスターシャ教授を降ろせばいいのだが、流石にいきなり歩くのは厳しいだろう。などと思っていたら、緒川君が折り畳み式の車イスを持って走ってきた。
「何故、私を助けたのですか?」
「別に死ぬことはない、そう思っただけですよ。それに貴方が亡くなると、セレナが悲しみますからね」
「……どういうことですか?」
ナスターシャ教授は一瞬驚いたものの、すぐさま俺を睨みつけてきた。そこには小さな怒りが感じられる。マリアは怪訝顔だ。何言ってんだこいつ?ってところか。
だから俺は言ってやった。
「いつからセレナが死んでいると錯覚していた?」
ネフィリム・ノヴァ戦を丸々カットするという蛮行。主人公視点での進行なので仕方ないですね。
ようやく主人公の能力が開示されました。聖遺物との完全融合生体です。詳細は話が進むと明らかになります。
完全融合症例の奏と同じく、発動と行使に聖詠も歌も必要としません。
これにてG編完結。次回よりGX編開始。