戦姫絶唱シンフォギア -月華の旅人-   作:乾燥海藻類

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第14話 ヤタノカガミ

マリアの全世界テレビ中継が始まった。一部の特権階級の非を告発し、月の落下を食い止める為に、皆の力を貸してほしいと。

セレナ、見ているか? おまえは正しかったよ。

マリアは今でも、おまえが言っていた通りの「優しいマリア姉さん」だった。

 

 

歌が、聞こえる。

 

 

マリアは歌い切った。だが、何も変わらなかった。

「月の遺跡は依然沈黙……」

何も変わらない。何も変えられない。そして、悪い事というのは重なるものだ。押し入ってきたドクター・ウェルがマリアを殴り飛ばす。しかも左腕でだ。

ナスターシャ教授はドクター・ウェルを説得しているが、聞く耳持たないといった感じだ。

「そんなに遺跡を動かしたいのなら! あんたが月に行ってくればいいだろっ!」

部屋全体が大きく揺れた。打ち出されたのか。宇宙に打ち出されたのなら強力なGがかかるはずだが、かなり軽減されている。それでも完全とはいかないらしく、部屋は揺れ、瓦礫が舞う。そろそろ潮時か。

俺は不可視化を解除した。ナスターシャ教授の車イスに手を添え、ミラーバリアを展開する。

「――あなたはっ!」

「喋ると舌を噛みますよ。落ち着くまでそのままに」

しばらくすると揺れは治まった。安定軌道に乗ったようだ。

「いつからいたのですか? 神宮寺紫音」

「名前を憶えてくれて光栄ですよ。マリアから聞いたんですね。ですが問答の時間はありません。貴方にはやるべきことがあるでしょう?」

俺の言葉にハッと我を取り戻し、ナスターシャ教授は動き出した。通信を繋いで、優しくマリアを諭している。

「フォニックゲインか。届くかな、ここまで」

「マリアを、そして人類を信じます」

ナスターシャ教授は忙しなくコンソールを叩いている。程なくして、高まったフォニックゲインが月へと向かって照射された。

「月遺跡、バラルの呪詛。管制装置の再起動を確認。月軌道、アジャスト開始」

そう言い終えると、ナスターシャ教授はコンソールへと倒れ伏した。口の端からは血が零れている。

「上手くいきましたか?」

「ええ、これで私の仕事も終わり」

「それは重畳。では、帰りますか」

「貴方を巻き込んで……えっ、かえ、る?」

ナスターシャ教授が呆けたようにこちらを見る。別におかしな事は言ってないだろうに。

「仕事が終わったら帰る。当然でしょう」

「ですが、帰る手段は……」

言い終える前に【八咫鏡】を装着した。薄暗い室内が、金色の鎧から発せられる光で満たされる。俺ひとりだけなら通常形態でも十分なのだが、今回は連れがいる。宇宙ということも勘案してフルアーマーで展開した。

「では行きましょう。なるべく快適にはするつもりですが、不手際があればご容赦を」

ナスターシャ教授を抱き上げると、金糸の繭で包んでいく。何か言っているようだが、後で聞くとしよう。

制御室の扉を開くと、眼前には星の海が広がっていた。中々に幻想的だが、浸っている時間はない。制御室を蹴飛ばし、推進力を得る。数分後には地球の重力に引かれ始めた。ここから本格的に繭の中の状態に気を配らなければならない。大気構造、温度、重力加速度を調整していく。

そろそろ成層圏に入るな。日本はこっちか。装者たちの気配が感じられない。ギアを纏ってないのか。ならばアスカロンを探る。こっちも装着はしてないようだが、ギリギリ探れる。こっちか、浜辺だな。よし、目視できた。全員いるようだな。

あまり近いと危険なので、ある程度の距離を取って着水する。そのまま滑空して近づいていくが、どうも警戒されているようだ。慌ててギアを纏った翼さんを、奏がちょっと躊躇いながら押しとどめている。ああ、顔が確認できないからか。

仕方なく、頭部の【八咫鏡】を解除する。するとようやく皆の警戒が解かれた。

「やっぱりボスかっ! 今までどこで何やってたんだよっ! こっちは大変だったんだぞっ!」

「ああ、ちょっと宇宙で、なっと」

金色の繭の中から現れた女性に全員が驚愕した。

「「「マムッ!?」」」

一際大きく反応したのは、やはり例の三人だった。

「マリア、調、切歌。心配をかけましたね」

感動の再会だな。でも俺を取り囲んで喜び合うのは勘弁してくれ。ナスターシャ教授を降ろせばいいのだが、流石にいきなり歩くのは厳しいだろう。などと思っていたら、緒川君が折り畳み式の車イスを持って走ってきた。

「何故、私を助けたのですか?」

「別に死ぬことはない、そう思っただけですよ。それに貴方が亡くなると、セレナが悲しみますからね」

「……どういうことですか?」

ナスターシャ教授は一瞬驚いたものの、すぐさま俺を睨みつけてきた。そこには小さな怒りが感じられる。マリアは怪訝顔だ。何言ってんだこいつ?ってところか。

だから俺は言ってやった。

「いつからセレナが死んでいると錯覚していた?」

 

 

 




ネフィリム・ノヴァ戦を丸々カットするという蛮行。主人公視点での進行なので仕方ないですね。
ようやく主人公の能力が開示されました。聖遺物との完全融合生体です。詳細は話が進むと明らかになります。
完全融合症例の奏と同じく、発動と行使に聖詠も歌も必要としません。
これにてG編完結。次回よりGX編開始。
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