マスターと呼ばれる彼女たちの上位存在、創造主。それは彼ではなく彼女だった。見た目は就学前の幼女に見えるが、その身に纏う覇気と威風堂々たる態度は年相応とは言い難い。
「レイアから話は聞いた。思い出の採集を止めてほしいそうだな」
話し方も堂に入っている。外見通りの年齢ではなさそうだ。
「ええ、端的に言えばそうです」
「聞けぬ相談だな。思い出のエネルギーはオレにとって必要不可欠。要件はそれだけか?」
やはりだ。必要なのは思い出ではなくエネルギー。それならやりようはある。
「無論、代案なしに提案しているわけではありません。必要なエネルギーは私が用意します」
「ほぅ、面白い事を言う。具体的にはどうするつもりだ」
「そうですね、彼女をお借りしても?」
「――ミカか。いいだろう、だがおかしなマネをすれば殺す」
あの赤髪の少女はミカというらしい。彼女の了承を得て、俺はゆっくりとミカに近づいた。右手でミカの唇に触れる。あとはエネルギーを流していくだけだが、小柄な割に容量が大きい。充溢させるまでに、いささかばかりの時間がかかった。
俺が手を離すと、ミカがゆっくりと動き出す。
「あー。あぁー。この感じ、久しぶりだゾ」
動き出したミカが悦に入ったように笑っている。その目はとても煌びやかだった。
「――お腹いっぱいだゾ!」
余程に嬉しかったのだろう。ミカはその場で踊りだした。
「ガリィ、ありがとうだゾ」
「――チッ、アタシじゃないわ。そいつよ」
「ん? オマエだれだゾ?」
「神宮寺紫音だ。よろしくな、ミカ」
「おー。よろしくだゾ、シオン」
他の三人に比べると随分と素直だな。警戒心がないともいえるが。
「ミカ、具合はどうだ?」
「絶好調だゾ。これでマスターの役に立てるゾ」
「ふむ、一度の補給でミカが……な。いいだろう。おまえがオレに協力するというのなら、思い出の採集を止めてやってもいい」
「正確に言うのなら、人的被害を出さないでほしいんですよ」
「……殺すな、と言いたいのか?」
「ええ」
俺がそう告げると、彼女はしばし考え込んだ。
「……いいだろう。受けてやる」
「感謝します。では、これからよろしくお願いしますね、マスターさん」
「キャロルだ。キャロル・マールス・ディーンハイム。それとその気色の悪い喋り方も止めろ」
どうやら営業トークはお気に召さないようだ。
キャロルとの交渉に成功した後、俺に部屋が用意された。この場所はチフォージュ・シャトーというらしく、なんと亜空間にあるらしい。俺の持つ亜空間よりかなり広い。というか相手にならないってくらいに広大だ。
オートスコアラーの四人とも親睦を深めている。ミカにはかなり気に入られた。
「オマエ、強いヤツの匂いがするゾ」と言われて連日鬼ごっこをしている。ちなみに、カーボンロッドは使用禁止だ。施設が壊れるのでキャロルから厳命されている。そして、エネルギーが無くなれば俺が補充するという悪循環ができてしまった。断ればいいんだが、ミカのショボーンとした顔を見るとついつい付き合ってしまう。
ファラは外の文化に興味があるらしく、映画や小説、ファッションや音楽などの話をよくする。レイアと一緒に、俺が贈ったファッション誌などをよく見ているらしい。
レイアは絡みだけなら一番多い。彼女はキャロルの秘書的役割をすることが多いから必然的に接触の機会は多くなる。だが、基本的に真面目で無駄口を嫌うため、中々距離は縮まらないといった感じだ。
ガリィは最初の印象や、思い出の採集という仕事をとられたと思っているのか、会うたびに口をとがらせている。まあ、ガリィはキャロルの命令で外出することも多いので、接触自体が一番少なかったりするのだが。
慣れてしまえば、亜空間での生活もそう悪いものではなかった。