戦姫絶唱シンフォギア -月華の旅人-   作:乾燥海藻類

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第20話 アイアスの盾

俺は久しぶりに自宅にいる。アメリカではなく日本の自宅だ。アメリカの事務所兼自宅は酷い事になっている。米国政府の調査が入り、しっちゃかめっちゃかにされた挙句、盗聴器まで仕掛けられているらしい。

あの海上の戦いがマズかったかな。まず奏が引っ掛かり、そこから芋づる式に俺とセレナの存在がバレたようだ。当然だが、そこはもう引き払っている。

そしてここ、日本の自宅だが、正確に言うならセレナの自宅だ。更に正確に言うなら、セレナとマリアの自宅だ。俺は別に部屋を借りるつもりだったのだが、シャトーに入り浸ることになって、延び延びになっている。つまり現在日本に俺の拠点はない。そんなわけで、挨拶がてらここにきたわけだが、どうやら先にあげたふたり以外にも同居人がいるようだった。いや、同居犬か。

白い小犬がヒョコヒョコとこちらに近づいてくる。

「歩き方が妙だな。骨か?」

「はい、少し曲がっているみたいです」

俺が手を差し出すと、小犬は尻尾を振りながらペロペロと指を舐め始めた。

「人懐っこいやつだな。でもごめんな。おまえを治してやることはできないんだ」

「……ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんですけど」

俺の表情を察したのだろう。セレナは謝罪の言葉を口にした。

この優しい娘は、以前にも小犬を拾ってきたことがあった。おそらくは暴行を受けたのだろう。全身が血に塗れ、息も絶え絶えだった。セレナは瞳に涙を溜めて、その小犬を助けてほしいと懇願した。だが、俺にはできなかった。俺は人間しか治せないから。

けっきょく小犬は助からなかった。獣医の手に渡るまで、その命はもたなかった。

そのことを思い出したのだろう。

「S.O.N.G.の様子はどうだ?」

意図して話題を変える。

俺が不在の間に二課は解体され、超常災害対策機動部タスクフォースS.O.N.G.として再編成された。要するに活動規模が日本から世界になったわけだな。

「皆さん困惑してましたよ。兄さん、気づいたら敵になってるんですから。S.O.N.G.では大騒ぎでしたよ」

「エルフナインから聞いたのか?」

「はい。でも兄さんの評価が凄く高くて吃驚しました。エルフナインさん、べた褒めでしたし。兄さんのこと、敵なのか味方なのか、判断がつかなくて」

「まだ分からん。適当に言っといてくれ」

「またそういうこと……。あ、でも敵じゃないのなら、お願いがあるんです」

「何か欲しいものでもあるのか?」

「奏さんにアスカロンを用意したのって兄さんですよね。わたしにも何か下さい」

「お前……簡単にねだるようなものじゃないだろ」

「……今S.O.N.G.の雰囲気が暗いんですよ。真面に戦えるのが響さんだけですし、その響さんもなんだか調子が悪いみたいですし」

そういえば、セレナの適合係数はかなり高いんだったな。戦う力はあるのに、戦う手段がないってのがもどかしいんだろう。アガートラームはぶっ壊れてるし、そもそもそれを使うとマリアの戦う手段が無くなるし。

「上手くいく保障はないが、試してみるか?」

「――はいっ!」

そんなにこやかに即答するなよ。

「じゃあ、ほら」

俺は亜空間部屋から拳ほどの大きさの宝玉を取り出した。

「綺麗な光……」

それをゆっくりとセレナに近づける。

「いくぞ」

「お、おねがいします」

宝玉がセレナの体内に納まる。

「少しポカポカしますけど、これといって……」

「セレナ、ほら」

俺はテーブルの上のティッシュ箱を取ると、セレナの前に持っていった。

「鼻血出てるぞ」

「え、あ……」

ようやく気づいたのか、セレナはティッシュを受け取ると鼻血を拭った。

「気分はどうだ?」

「身体が熱くて、なんだか頭が重いです。風邪をひいた時みたいな感じで……」

奏と比べれば、随分と穏やかな様子だ。これも適合係数が関係しているのだろうか。

「そうか。お前とアイアスの親和性は高いはずだからな、しばらくすれば落ち着く」

「アイアス?」

「ああ、完全聖遺物【アイアスの盾】だよ」

 

 

 

セレナの容体が落ち着いて、シャトーに戻ると、いきなりミカが飛びついてきた。

「シオン、チューするゾ。チュー」

こちらの返事を待たずに無理矢理唇を奪われる。

「ミカ、このあいだ補給したばかりじゃないか。出撃したのか?」

「そうだゾ。ガン、えーっと、ガングニールをやっつけてきたゾ」

あー、響ちゃんやられちゃったのか。S.O.N.G.はますます厳しくなってきたな。

「シオンはどこに行ってたんダ?」

「ああ、テコ入れだよテコ入れ。ミカだってもっと強いやつと戦いたいだろ?」

「おおー、アタシ強いヤツと戦うの大好きだゾ」

「つまり、奴らに手を貸したということか? その理由、存分に聞かせてもらおうか」

上段から聞こえてきた声に、俺は無言で頷く。

玉座に座るキャロルは冷笑を浮かべてこちらを見ていた。

 

 

 




三話でチラリと出た伏線の回収。
アイアスの盾って昔は知る人ぞ知るってくらいの知名度だったと思います。
アイギスの盾(イージスの盾)は知ってるけどアイアスの盾は知らない、みたいな。
知名度が上がったのは某贋作者さんの影響ですかね。
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